辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷

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第3章

最終話 ベルベット記念病院

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 ラースが陛下に進言してから、法整備はすぐに進んで行った。
そして、半年後にはその制度を導入した病院が王都の中心部へと建設された。

 陛下の勅命だったとはいえ、この短期間で全てを用意してしまうとは流石は名君と言われているだけのことはある。

「病院名はどうするんだ。ラースが発案なんだ。君が決めてくれ」

 そう陛下に言われた時、私の心は決まっていた。

「では、ベルベット記念病院でお願いします」
「ラースの名前じゃなくていいのかね?」
「はい、これはお祖父様の夢だったんです。私は、それを受け継いだだけですから」
「分かった」

 こうして、病院名は“ベルベット記念病院“に決まった。
ベルベット記念病院設立のことは、王都の民にすぐに伝わった。

『聞いたか? ベルベット記念病院のこと』
『ええ、なんでもナイゲール家とオーランド家が自費で支援金を出したんですって』

 今までにないその医療制度は多くの民を喜ばせた。

 これで、お金が無くても治療を諦めることは無くなる。
もっと多くの命が救える。

 院長にはベルベットと同じ学校を卒業した後輩医師が就任した。
何でも、その病院運営の理念に共感してくれたそう。

 そして、他の医師や看護師も王国中か集まってくれた。
ベルベットの名前が効いたのだろう。

 ラースは名誉教授としてその病院内に名前を連ねた。

「こんな立派な病院をラースが建ててしまうとはな……」

 父が病院を見上げて感動した様子を浮かべている。

「ラースが病院長じゃなくてよかったのか?」
「はい、私にはオーランドの獣医院がありますから。ここは、志ある医療従事者たちに任せようかと」

 オーランドの獣医院。
あそこから全てが始まった。

 ラースクリニックこそ、ラースが帰るべき場所なのだ。

「私の娘とは思えないほど立派になってしまったな」

 父はどこか寂しそうに言った。

「何言っているんですか。お父様が私のやりたいと言ったことを尊重してくれたから今があるんです」
「自慢の娘だよ。これからも頑張りなさい」
「はい、お父様」

 この世界にはベルベットのように天才が稀に生まれる。
ベルベットは獣医学の基礎を築き上げ、獣医学を10年は進歩させたと言われている。

 その他に医療薬を研究し世界に広めた者。
外科的治療を確立させた者。

 天才、それも稀に見る天才。
稀代の天才は誰にも思いつかなかったようなことをやってのける。

 ラースもそうだ。
一介の医者である彼女の功績は一介の医者で片付けられる者ではない。

 遠い国の言葉にこんな言葉がある。

《天使とは、美しい花を撒き散らす者ではなく、苦悩する者のために戦う者である》

 ラース・ナイゲールの名は確かに医学会に刻まれた。

 そして、亡きベルベットの遺志が繋がれたのだった。
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