寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―

雪ノ瞬キ

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11話:灯の巣はあったかい

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「ねね、ダダ様。久しぶりにしよ?」

 道すがら、リリは俺の顔を覗き込み、唐突に言ってくる。

「何をだ?」

「もう、ダダ様忘れちゃった?」

「忘れたも何も俺知らんぞ?」

 ていうか、なんだそれは?

「えー。アタシの中あったかいって言ってたよ?」

「は?」

「アタシの“なか”あったかいって――灯の巣のことだよ。妖精の魔力が集まるところ」

 リリが首を傾げる。

「……そっちの“中”かよ。先に言え」

 額を押さえる。幸い、ミミとレジーネには聞こえていない。
 胸を撫で下ろす。心臓に悪いったらない。
 おいおい、勘違いしそうな言い方はやめようぜ? な? リリさんよ。

「あっ、ダダ様の絵飾ってあるの見よ?」

「はあ、わかったよ」

 なんだか寄り道をしたいらしい。向かった先は教会風の建物だ。
 いやいや、ちょっと待て。
 俺たち界人にとって最も嫌な場所なんだが。

「ねぇ、悠斗。行く場所って」

「リリが寄りたいみたいだな。ここの町なら友好的だから大丈夫だろ。たぶんだけどな」

「だといいんだけど」

 ミミが不安な顔つきになっていく。
 そりゃそうだ。
 奴らから俺たちは、散々な目に遭わされたからな。
 この界人の焼印を入れられたのは彼らだ。
 ひでぇ奴らさ。
 聖なる者はクソもしない、って顔しやがる。――はいはい、便秘だろ。

​​【外結線:距離 1.8m|損失/分 +1秒(維持)】
【外結線:保存域外/接触なし時の損失=+1/分(安定化後)】

 そういや、そろそろ作らないとヤバいな。

【現在】稼働残:約40秒|予備①:11時間32分0秒|予備②:なし

 胸の奥で針がひと目盛り沈む感覚。鼓動が、ひと呼吸遅れて戻ってくる。急がねぇと、落ちる。
 
「さて、コネなきゃだな」

 俺は再び、ロクロを回すような手つきで偽命をこね始める。二度、三度――形にならず、空回り。
 手先が痺れる。熱が指から逃げていくような感覚。……駄目だ、もう、命が乾いている。

【製作】偽命(2時間17分0秒)→ 失敗(界位相差)
【方針】長尺(予備 11時間32分0秒)は非常用として温存/当座は短~中尺を狙う

 まあ、いつものことだ。燃費が悪いのは今に始まったことじゃねぇし。
 慣れたってのが一番タチが悪い。死に慣れるってのは、きっと、生きることを諦める訓練だ。

 ただな。魔石も消費するから無尽蔵に作るとはいかず、数時間単位の物ができる。
 成功率はほんと、かなり低い。

 【製作】偽命(短秒)→ 破棄 ×3(触媒消費なし)

 あれから数分とかからずに辿り着いた寄り道先は、古びた教会だ。
 俺がいた世界にはよくある長い身廊と半円天井の祈り堂を彷彿させる。

 これも偶然の一致というよりは、界人の誰かが持ち込んだ技術なんだろうか。

 扉の上に〈石母(いしはは)の印〉や、ステンドの図柄が鉱脈・歯車で“人間教会じゃない”ことがよくわかった。

 礼拝堂の柱根に小さな銘板があった。――「“ダダ”とは名でなく位。腕に牙を棲まわせ、灯を撚る者」と刻む。

「ここのダダ様より、今いるダダ様の方が暖かい感じ?」

 中に入ると厳かな雰囲気は、まさに俺の知るところと同じだ。
 違いは壁面に巨大な人物画が飾られていることだ。

 【外結線:室内場/損失補正 -11秒/分(微弱安定)】  
 石と灯りの温度が、わずかに持ち時間を延ばす。……助かる。  
 ……けど、逆に“増える”ってのは、どう考えても異常だ。
 時間が伸びる? いや――違う。
 “外の時計”は普通に進む。命の燃え方が、ここじゃ緩い。――だから稼働残が減らねぇってわけか。

【環境反応:祭壇裏 微熱/偽命波 近似(低)】
【識別】“ダダ”=職能位称(家名・個人名ではない)/顎・灯系統との近縁

 リリは嬉しそうに、絵画を指差す。

「ほら、ほら、あそこ。ダダ様」

「うわ、マジかよ」

 少し疲れた感じでどこか物悲しげな俺がそこにいた。
 というか、なんで? 俺なの?
 世にそっくりは三人って言うが、異世界でまで会うかね。世界どころか異世界に現れるってどんだけなんだよ。

 そこに一人だけローブをまといフードを被った。女性がステンドグラスの前にいる神像に向かい祈りを捧げている。

 リリはその女性に飛びついて言った。
 
「ねね、エリサ。ダダ様連れてきたよ」

「何を夢みたいなことを……えっ!」

 リリに向き、振り返り俺を見るなり瞬間移動かと思うほどの速度で、俺を抱きしめてきた。
 
 豊かな双丘が俺を圧迫してくる。
 
【外結線:パーティ距離 0.6~2.0m|損失 小】

【外結線:距離 0.6m|安定化】

「なあ、悪いな。俺、界人だし他人のそら似だと思うぜ」

 そう言うが、抱きしめたまま離れようとしない。
 ミミもレジーネも絵を見るなり、生き写しだと言い出す有様。

 こうなると、そいつが何者でどうなったのか知りたくなってきた。

 あれから数分。
 俺はされるまま硬直していた。
 胸の奥がずっとざらついていた。エリサの体温が重なっているはずなのに、なんで冷たく寒いんだ。
 生きているのか、死んでいるのか、その境目で止まったみたいに。

 無意識に眉間を二度、撫でた。
 エリサの肩がびくりと揺れる。

 ようやく落ち着いたのか、ゆっくりと離れて、言葉を紡ぐ。

「その仕草……“痛いのはここだろ”って、いつも二度だけ触れてくれた。あなたしか知らない癖です」
「もう一つ。合言葉――『灯の巣はあったかい』。あなたはそう言って笑った。だから、私は言える。あなたを愛していた」

 衝撃的な発言を聞いてしまった。
 俺のそっくりさんはどうやら、こんなエルフ美女と何やら色々していたようだ。
 羨ましいじゃねぇか。俺のそっくりさんよお。

「いや、俺も驚いている。ダダと違うところを今見せるからさ」

 そう言って俺は、両方の腕に魔獣の顎を顕現させた。

 そうするとリリもエリサも手を口に当てて涙を流し始めた。

「な? 違うだろ? 違いすぎて悲しませたなら謝る」

「違います。匂いも、その腕にまとわりつく気配も――ダダ様のもの」

 呼吸が浅くなる。誰の人生で息をしているのか、一瞬わからなくなる。

「え?」

「やはりあなたはどこかで記憶を失ったのかもしれません」

「いやいや待ってくれ、確かに曖昧なところはあるが、それほど昔にいたわけじゃないぜ?」

 なんだ、記憶がないとかあるとか新手の詐欺にすら思えてきたぞ。

「ここでは、残った“偽命の波”が視えるの。あなたの手に、まだ絡んでいる。……今も、こねている人ね」

「どうしてそれを」

「やはり、あなたは。ダダだったのですね。私との記憶がなくてもいい。あなたがあなたとして生きているなら、私はそれでいいと思ってしまう」

 なんだ。よく考えるんだ。
 そもそも彼女の言うことを間に受けてどうする。

 整理するんだ。
 事実としては二つしかない。
 一つは、肖像画が似ていること。もう一つは、俺のこねることを知っていること。
 それ以外は口を合わせれば、いくらでも言えるような要素ばかりだ。

 肖像画についても俺たちがこの町に入った瞬間に、異物としてアラートを出して入れば即座に気が付く。
 それを監視魔導具の目玉たちに俺を記憶させて、肖像画にすればいいだけのこと。
 命をこねるのはリリがどこかのタイミングでそれを見聞きし、伝えれば済む。

 後は、今回の言い方で彼女らは何を目的としているかだな。
 ここは一度、撤収して宿に戻ってから作戦会議と、このリリもまだ信用ならないからどうにかしないとな。

「話はわかった。今日はここまでだ。宿で頭を冷やして、改めて聞かせてくれ」

 皮膚の裏で誰の鼓動が鳴ってるのか、わからなくなりそうだった。
 どっちの命がどっちのものかわからなくなる。

 【現在】稼働残:2分30秒 教会内特性で増えたか――帰る。

 まてよ、俺以外のやつらでここにずっといたら、相当な寿命になるんじゃないか。  
 もしや、エリサはそれで長寿なのか?

「ええ、わかったわ。待っているから。いつまでも待っているから」

【消費なし】魔石キューブ/予備(11時間32分0秒)は温存継続

 俺たちは彼女の見送りの中、リリの案内で宿に向かった。
 確か、レジーネが開けてくれた宝物庫にあった『アレ』が使えるかもな。

 俺は、魔法袋の中のリストを眺め、静かにほくそ笑む。

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