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16話:3-2-2の太鼓、油膜の獣
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「こりゃオモレェー!」
上から下に普通は流れ落ちる感覚だが、下から上に同じ感覚で滑るのは新鮮だ。
と言うより、楽しすぎる。
魔導トンネルと言われる光の管は、どう考えても元いた世界のスライダーでしかない。
二度目でもミミは相変わらず絶叫、レジーネは涼しい顔、リリは俺と同じく上機嫌。
まあこればっかりは人によって得意不得意があるよな。
今度は体感にして十分程度だろうか。
先ほど同じく、降下時に減速していく感じは慣れてくると楽しくなると同時に、これで終わりかと残念な気持ちにもなる。
そろそろ、こねた方がいいな。俺の稼働残高は現在予備2がない。
【稼働残 11時間47分3秒|予備① 3時間0分0秒|予備② なし】
【レジーネ稼働残 2日2時間47分32秒】
俺の予備がそのままレジーネに回せはするが、失敗のリスクがでかい。
それを考えると、本当はもう一つの予備を使いたいけどな。
錨で武器の固定もいざという時に必要だし、外せないからな、困ったぞ。
やはり、この予備二個でやりくりするしかないか。
それでも確率が上がるリリの『灯の巣』であれば、長い物の成功率は上がるが。
原資となる魔石や魔導キューブが足りない。
戦闘で負傷すれば残存破棄で新たに入れ替える戦術になる分、消費が異常に激しい。
これからも難題すぎる。
どうにもならない状況に頭を抱えながら、神殿に向かって一本道を歩いていた。
現れたのは今までのイメージとは全く異なる代物だった。
丘の麓がまるごとえぐられ、白石の壁面が内側から口を開けたみたいに露出していた。
「誰も、いないわね……」
レジーネは、ありのままの事実を述べたにすぎないが、心なしか寂しさが混じる。
彼女は慣れた場所でもあるのか。平然としていた。
俺たちはそういうわけにもいかず、リリとミミと俺は、警戒心剥き出しで歩みを進める。
前の古代地下道探索では突然魔獣が現れたものだから、慎重でちょうどいいはずだ。
中に突き進むが、白い壁面に神話を表す絵画。そして彫像など神々を讃える場所としてはいかにもそれっぽい。
なんか胡散クセェな。
俺はどうにも異質さを感じていた。
彼らにとっては讃えているつもりなのかもしれないが、数々の神秘的な事象を象徴する物の配置がわざとらしく感じていた。
神像や絵画の視線の向きが全部、地下の階段口へ向いている。――露骨だ。
とはいえ、これらの置き物を見学しにきたわけではないし、そのままレジーネの後に続いて地下に続く階段をおりていく。
「ダダさま。なんかここ、変な感じがする」
「変? 具体的になんだ?」
「うーん。なんていうか、誰かの視線を感じる?かな?」
「罠ということか?」
「そこまでわからないよー」
「わかった。ミミ、レジーネ。リリの感覚もあるし、変化を見逃さず行こぜ」
「はい。そうですね。私も別の意味で違和感があります」
「言ってくれ」
レジーネが指を弾く。小さな火花が一瞬で痩せて消えた。
「……薄いわ、魔力。高山で息が続かない感じに似てる」
「なるほどな。ミミは?」
「私の場合は、通常の星導が使いづらい感じかな。式神は触媒があるから大丈夫だけど」
「そうか。俺の場合はまったく変化がないから、ゴダードのいう通りなんだろうな。
魔力と異なるヴォイドというのは」
俺たちは意見交換しながら、直角に曲がっていく階段をひたすらおりていく。
踊り場は誰も通った形跡がないのかうっすら埃が積み重なっている。
降りられるだけ降り切ると、扉自体はなく幅の広い通路がまっすぐ伸びていた。
嫌な予感しかない。
あの時と同じだ。
古代通路の調査で地下ギルドから魔石回収を請けた時と同じだ。
あの時は、出鱈目なほど鶏頭の人型魔獣がワラワラと沸いてでてきた。
「ん?」
俺は強烈な皮膚に当たる感覚が押し迫った。
風圧なのか気圧の変化なのか、とにかく肌を押し当てる強い感覚が通路に入る前のこの入り口で感じる。
手を突っ込むとその感じがする。
「なあ、レジーネこの肌にかかる圧は、他も同じなのか?」
「浄化膜よ。出入りのたびに双方を洗って、内部環境を保つ仕組み」
「なるほどな」
だが、俺にはもうひとつおかしな音が耳の奥から聞こえてくる。
ズン・ドン・ドン|ズン・ドン|ズン・ドン
――三拍、二拍、二拍。一定の“3-2-2”で繰り返している。
和太鼓の腹に響く低音だ。
「お前ら、これが聞こえないのか?」
ミミもリリも不思議そうな顔をしている。
ところがレジーネは様子が違った。
「悠斗様、それは本当ですか? いえ、疑うわけじゃなく、そのリズムで聞こえたのか確認の意味です」
「ああ、俺だけってのも変だけどな」
「それは、聞こえる者だけが受け取れるメッセージがあると聞いたことがあります」
「メッセージ?」
「ええ、残念ながらそれ以上は私も聞きおよんでおりません」
「気にするな。そうした変化があるなら、発見したら楽しいじゃねぇか。どっちにしろ俺たちは進む以外に選択肢なんて端からねぇしよ」
「それもそうですね。ある意味それは、誘いの合図とも言えるらしいです」
「ああ、理屈じゃない。ただ追わなきゃならないと直感もしている」
「ですよね」
「白兎に誘われる話、ってやつだ」
「童話?」
「ああ。続きは、生きて戻ったらな」
「ええ、ぜひ聞かせてください」
「私もー聞きたいー」
リリは俺の頭上をぐるぐる回りだす。
「へぇー、悠斗って案外博識?」
ミミはまるで俺を脳筋かのように思っていたのか?
膜の向こうは天井が高い。幅四間(約7m)ほどの通路がまっすぐ、闇に伸びていた。
目で合図し、静かに境界をまたいだ。
この瞬間俺たちは、このまま普通に深層までいくものだと思っていた。
何の疑いもなく踏み入れた先で俺は思いもよらぬ出来事が起きた。
「グハッ!」
境界の内側、闇から黒い影――細身の剣が音もなく伸びていた。
【致命傷:発生】息が詰まり、熱く苦しい。
俺の体は何かで貫かれていた。
苦しさと熱さが全身を襲う。
「逃げろ!」
その一言の後視界が暗転した。
絶命し、その直前あいつらを後退させるので精一杯だった。
【結線:即時復帰/前稼働 11時間37分3秒 破棄|消費:予備①→本稼働化】
【稼働残 2時間59分59秒|予備①: なし|予備②:なし】
――死の瞬間、最後の予備が“本体スプール”に繋ぎ替わった。十一時間は丸ごと失われた。
時間そのものは消えても、あの痛みだけは皮膚の裏にまだ残っている。
即時復活した。
レジーネが瞬きも忘れて固まっている。伸ばしかけた手が宙で震えていた。
床に散った俺の血は、まだ温い。
「思考加速!」
ヤバイ。レジーネが奴の一撃を受ける寸前だった。
レジーネの体を抱き上げ、安全圏に移動させる。
同時に俺は、黒牙と白牙を顕現させ食らいつくも、滑って食らいつけない。
おいおい。なんだよこれは。
まるでオイルでも塗りたくった表皮だ。
よく見れば、シャチの頭をもち体表は滑らかな弾力性のある皮膚で歯が滑る。
表皮は油膜みたいな微細層で覆われ、外力は切断も打撃も“ずらされる”。
光を受けた皮膚が、油の虹みたいにぬめっていた。
黒牙も白牙も同様で、掴み切れない。
「チッ! 相性が悪すぎるぜ」
この二足歩行の人型の魔獣は、今は一体だけだ。
再び、食らいつくが、滑りすぎて力が入らない。
どうする。どうすればいい。
このまま思考加速を長時間はできない。
いつもより長かったため、鼻から血がたれだし、耳と目からも血を垂れ流し始めた。
限界に近い。
一度戻るしかない。
「解除」
「悠斗様!」
レジーネの声が背後から響く。
「式神、釘!」
ミミは咄嗟に繰り出す。だが、俺と同じ結果で滑ってしまう。
「悠斗様! 時間稼ぎをお願いします」
「任せろ!」
俺はその声だけ聞くと、黒光する奴に突っ込んだ。
鉄棍を取り出し、ガムシャラに叩き込んだ。
膂力は人族を超えるはずだが、滑りまくる。
だが、奴が背中に背負っていた剣で振り抜かれると、最も簡単に鉄棍が真っ二つになる。
今はこいつを放り投げる。横から白牙で体当たりをくらわす。
よろめき、壁に激突して剣を手放す。
それを抜け目なく白牙に拾わせ、スロットの鉄棍を解除し、こいつを登録。
一度飲み込んだ。
うまくいきゃこの剣は修復されて、俺の帰属になる。
ミミの星導魔術が一瞬光る。
「悠斗、見つけたよ。あそこ!」
シャチ頭の魔獣の弱点は口蓋だった。
「助かるが、結構難易度たけぇな」
とその時だ、大きく口を開いたかと思うと、口腔の奥が白く瞬き、刃みたいな光が奔る。
――以前の石盤で見た閃光と同じ質だ。
俺の頬をかすめた程度でかわしたのは奇跡に近い。
なんだ! 再び口を大きく開けやがった。
しまった!
この時背後で声が聞こえた。
「永凍領域!」
レジーネの強力な氷結魔法だ。
一瞬にして周囲も凍結し真っ白になる。
「悠斗様! 今!」
「思考加速」
凍結で油膜がガラスみたいに脆化した。今なら“滑り”が殺せる。
奴の口蓋に何をぶち込むんだ。
黒牙でいくか。いや、奴の剣だ。
俺はスロットから取り出すと、刃にそって禍々しいほどの灼熱の赤に染まる剣が現れた。
「やってやるぜ!」
思考加速の世界の中で、大きく開けた口腔目がけて剣を縦に突き刺しそのまま振り上げた。
真っ二つに切り裂かれ、頭部も割れた。
そのまま胴体も横一文字に、最も簡単に切り裂けて真っ二つとなる。
「解除」
血飛沫が吹き上がり、そのまま仰向けに倒れ動かなくなる。
……太鼓の3-2-2が、ぱたりと止んだ。静寂だけが残る。
凍えた空気に、鼻先で血の鉄臭が戻ってきた。
「やったな」
俺は黒牙に遺体を食わせると、魔石を二つ獲得した。
【討伐:ジャラァ×1/戦利品:魔石×中格2/】
――ジャラァ、とでも呼ぶ。
にしても、マジでキチィーよな。今回は一体のみ。……しんどいぜ。
上から下に普通は流れ落ちる感覚だが、下から上に同じ感覚で滑るのは新鮮だ。
と言うより、楽しすぎる。
魔導トンネルと言われる光の管は、どう考えても元いた世界のスライダーでしかない。
二度目でもミミは相変わらず絶叫、レジーネは涼しい顔、リリは俺と同じく上機嫌。
まあこればっかりは人によって得意不得意があるよな。
今度は体感にして十分程度だろうか。
先ほど同じく、降下時に減速していく感じは慣れてくると楽しくなると同時に、これで終わりかと残念な気持ちにもなる。
そろそろ、こねた方がいいな。俺の稼働残高は現在予備2がない。
【稼働残 11時間47分3秒|予備① 3時間0分0秒|予備② なし】
【レジーネ稼働残 2日2時間47分32秒】
俺の予備がそのままレジーネに回せはするが、失敗のリスクがでかい。
それを考えると、本当はもう一つの予備を使いたいけどな。
錨で武器の固定もいざという時に必要だし、外せないからな、困ったぞ。
やはり、この予備二個でやりくりするしかないか。
それでも確率が上がるリリの『灯の巣』であれば、長い物の成功率は上がるが。
原資となる魔石や魔導キューブが足りない。
戦闘で負傷すれば残存破棄で新たに入れ替える戦術になる分、消費が異常に激しい。
これからも難題すぎる。
どうにもならない状況に頭を抱えながら、神殿に向かって一本道を歩いていた。
現れたのは今までのイメージとは全く異なる代物だった。
丘の麓がまるごとえぐられ、白石の壁面が内側から口を開けたみたいに露出していた。
「誰も、いないわね……」
レジーネは、ありのままの事実を述べたにすぎないが、心なしか寂しさが混じる。
彼女は慣れた場所でもあるのか。平然としていた。
俺たちはそういうわけにもいかず、リリとミミと俺は、警戒心剥き出しで歩みを進める。
前の古代地下道探索では突然魔獣が現れたものだから、慎重でちょうどいいはずだ。
中に突き進むが、白い壁面に神話を表す絵画。そして彫像など神々を讃える場所としてはいかにもそれっぽい。
なんか胡散クセェな。
俺はどうにも異質さを感じていた。
彼らにとっては讃えているつもりなのかもしれないが、数々の神秘的な事象を象徴する物の配置がわざとらしく感じていた。
神像や絵画の視線の向きが全部、地下の階段口へ向いている。――露骨だ。
とはいえ、これらの置き物を見学しにきたわけではないし、そのままレジーネの後に続いて地下に続く階段をおりていく。
「ダダさま。なんかここ、変な感じがする」
「変? 具体的になんだ?」
「うーん。なんていうか、誰かの視線を感じる?かな?」
「罠ということか?」
「そこまでわからないよー」
「わかった。ミミ、レジーネ。リリの感覚もあるし、変化を見逃さず行こぜ」
「はい。そうですね。私も別の意味で違和感があります」
「言ってくれ」
レジーネが指を弾く。小さな火花が一瞬で痩せて消えた。
「……薄いわ、魔力。高山で息が続かない感じに似てる」
「なるほどな。ミミは?」
「私の場合は、通常の星導が使いづらい感じかな。式神は触媒があるから大丈夫だけど」
「そうか。俺の場合はまったく変化がないから、ゴダードのいう通りなんだろうな。
魔力と異なるヴォイドというのは」
俺たちは意見交換しながら、直角に曲がっていく階段をひたすらおりていく。
踊り場は誰も通った形跡がないのかうっすら埃が積み重なっている。
降りられるだけ降り切ると、扉自体はなく幅の広い通路がまっすぐ伸びていた。
嫌な予感しかない。
あの時と同じだ。
古代通路の調査で地下ギルドから魔石回収を請けた時と同じだ。
あの時は、出鱈目なほど鶏頭の人型魔獣がワラワラと沸いてでてきた。
「ん?」
俺は強烈な皮膚に当たる感覚が押し迫った。
風圧なのか気圧の変化なのか、とにかく肌を押し当てる強い感覚が通路に入る前のこの入り口で感じる。
手を突っ込むとその感じがする。
「なあ、レジーネこの肌にかかる圧は、他も同じなのか?」
「浄化膜よ。出入りのたびに双方を洗って、内部環境を保つ仕組み」
「なるほどな」
だが、俺にはもうひとつおかしな音が耳の奥から聞こえてくる。
ズン・ドン・ドン|ズン・ドン|ズン・ドン
――三拍、二拍、二拍。一定の“3-2-2”で繰り返している。
和太鼓の腹に響く低音だ。
「お前ら、これが聞こえないのか?」
ミミもリリも不思議そうな顔をしている。
ところがレジーネは様子が違った。
「悠斗様、それは本当ですか? いえ、疑うわけじゃなく、そのリズムで聞こえたのか確認の意味です」
「ああ、俺だけってのも変だけどな」
「それは、聞こえる者だけが受け取れるメッセージがあると聞いたことがあります」
「メッセージ?」
「ええ、残念ながらそれ以上は私も聞きおよんでおりません」
「気にするな。そうした変化があるなら、発見したら楽しいじゃねぇか。どっちにしろ俺たちは進む以外に選択肢なんて端からねぇしよ」
「それもそうですね。ある意味それは、誘いの合図とも言えるらしいです」
「ああ、理屈じゃない。ただ追わなきゃならないと直感もしている」
「ですよね」
「白兎に誘われる話、ってやつだ」
「童話?」
「ああ。続きは、生きて戻ったらな」
「ええ、ぜひ聞かせてください」
「私もー聞きたいー」
リリは俺の頭上をぐるぐる回りだす。
「へぇー、悠斗って案外博識?」
ミミはまるで俺を脳筋かのように思っていたのか?
膜の向こうは天井が高い。幅四間(約7m)ほどの通路がまっすぐ、闇に伸びていた。
目で合図し、静かに境界をまたいだ。
この瞬間俺たちは、このまま普通に深層までいくものだと思っていた。
何の疑いもなく踏み入れた先で俺は思いもよらぬ出来事が起きた。
「グハッ!」
境界の内側、闇から黒い影――細身の剣が音もなく伸びていた。
【致命傷:発生】息が詰まり、熱く苦しい。
俺の体は何かで貫かれていた。
苦しさと熱さが全身を襲う。
「逃げろ!」
その一言の後視界が暗転した。
絶命し、その直前あいつらを後退させるので精一杯だった。
【結線:即時復帰/前稼働 11時間37分3秒 破棄|消費:予備①→本稼働化】
【稼働残 2時間59分59秒|予備①: なし|予備②:なし】
――死の瞬間、最後の予備が“本体スプール”に繋ぎ替わった。十一時間は丸ごと失われた。
時間そのものは消えても、あの痛みだけは皮膚の裏にまだ残っている。
即時復活した。
レジーネが瞬きも忘れて固まっている。伸ばしかけた手が宙で震えていた。
床に散った俺の血は、まだ温い。
「思考加速!」
ヤバイ。レジーネが奴の一撃を受ける寸前だった。
レジーネの体を抱き上げ、安全圏に移動させる。
同時に俺は、黒牙と白牙を顕現させ食らいつくも、滑って食らいつけない。
おいおい。なんだよこれは。
まるでオイルでも塗りたくった表皮だ。
よく見れば、シャチの頭をもち体表は滑らかな弾力性のある皮膚で歯が滑る。
表皮は油膜みたいな微細層で覆われ、外力は切断も打撃も“ずらされる”。
光を受けた皮膚が、油の虹みたいにぬめっていた。
黒牙も白牙も同様で、掴み切れない。
「チッ! 相性が悪すぎるぜ」
この二足歩行の人型の魔獣は、今は一体だけだ。
再び、食らいつくが、滑りすぎて力が入らない。
どうする。どうすればいい。
このまま思考加速を長時間はできない。
いつもより長かったため、鼻から血がたれだし、耳と目からも血を垂れ流し始めた。
限界に近い。
一度戻るしかない。
「解除」
「悠斗様!」
レジーネの声が背後から響く。
「式神、釘!」
ミミは咄嗟に繰り出す。だが、俺と同じ結果で滑ってしまう。
「悠斗様! 時間稼ぎをお願いします」
「任せろ!」
俺はその声だけ聞くと、黒光する奴に突っ込んだ。
鉄棍を取り出し、ガムシャラに叩き込んだ。
膂力は人族を超えるはずだが、滑りまくる。
だが、奴が背中に背負っていた剣で振り抜かれると、最も簡単に鉄棍が真っ二つになる。
今はこいつを放り投げる。横から白牙で体当たりをくらわす。
よろめき、壁に激突して剣を手放す。
それを抜け目なく白牙に拾わせ、スロットの鉄棍を解除し、こいつを登録。
一度飲み込んだ。
うまくいきゃこの剣は修復されて、俺の帰属になる。
ミミの星導魔術が一瞬光る。
「悠斗、見つけたよ。あそこ!」
シャチ頭の魔獣の弱点は口蓋だった。
「助かるが、結構難易度たけぇな」
とその時だ、大きく口を開いたかと思うと、口腔の奥が白く瞬き、刃みたいな光が奔る。
――以前の石盤で見た閃光と同じ質だ。
俺の頬をかすめた程度でかわしたのは奇跡に近い。
なんだ! 再び口を大きく開けやがった。
しまった!
この時背後で声が聞こえた。
「永凍領域!」
レジーネの強力な氷結魔法だ。
一瞬にして周囲も凍結し真っ白になる。
「悠斗様! 今!」
「思考加速」
凍結で油膜がガラスみたいに脆化した。今なら“滑り”が殺せる。
奴の口蓋に何をぶち込むんだ。
黒牙でいくか。いや、奴の剣だ。
俺はスロットから取り出すと、刃にそって禍々しいほどの灼熱の赤に染まる剣が現れた。
「やってやるぜ!」
思考加速の世界の中で、大きく開けた口腔目がけて剣を縦に突き刺しそのまま振り上げた。
真っ二つに切り裂かれ、頭部も割れた。
そのまま胴体も横一文字に、最も簡単に切り裂けて真っ二つとなる。
「解除」
血飛沫が吹き上がり、そのまま仰向けに倒れ動かなくなる。
……太鼓の3-2-2が、ぱたりと止んだ。静寂だけが残る。
凍えた空気に、鼻先で血の鉄臭が戻ってきた。
「やったな」
俺は黒牙に遺体を食わせると、魔石を二つ獲得した。
【討伐:ジャラァ×1/戦利品:魔石×中格2/】
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