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第十二話 黒翼の暗殺者
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それは黒く怪しく、そして禍々しい羽根。この部屋を埋め尽くしヒラヒラと舞い落ちる。中心には殺意を具現化した存在、No.25”黒翼の暗殺者”が降り立つ。
浅黒い体に犬の頭、黒い翼がこのフロアを覆いつくすほど大きい。細身ではあるがしっかりと筋肉を備え、手にはジャマダハルと呼ばれる鋭い刀剣を装備している。手足が長く獣のように毛で覆われていて、手は人間のようだが足は犬の後ろ脚のように膝のすぐ下に足首があってつま先立ちの要領で立っている。二足歩行をするには不便そうな足の形をしていて、そのシルエットは奇怪そのもの。口は鼻先と顎を布で結んで開かないようにしている。尻尾も大きく長い。
まるでハイイロオオカミを無理やり2m前後まで引き延ばし、人間のように二足歩行に立たせ、前足を人間の手と取り換えて羽が生えたような合体生物。
「「「おおっ!!」」」
この場の全員が歓喜した。待ちわびていた悪魔は閉じていた瞼を開き黄色く発光する目を召喚者に向けた。
「汝が余を召喚したのか。何の用か?」
「おお我が主よ。我々はこの日の為に準備してまいりました。貴方様にこの世界を支配していただきたいのです」
神を目の当たりにした敬虔な信者のように目の前で跪き涙を流して訴える。グラシャラボラスは召喚主を無視して自分の体の具合を確かめる。右手を確認し、手を閉じたり開いたり、足を上げたり下ろしたりしながら全身をチェックする。
それが終わると、舞い落ちてきた羽根を空中で摘まんですぐ傍で同じように跪いていた信者に向かって投げた。その羽根はボッという風を切る音と共に信じられない速度で発射され、いとも簡単に信者を貫いた。
「がはっ……」
肺からわずかな空気が抜ける音が聞こえるとそのまま力なく信者の一人は地に伏した。
「……主よ。お戯れを……」
それを見た召喚主は先程の感動とは一転、恐怖から声が震え目には別の意味の涙が溜まる。
「不完全だ。こんな体で余を顕現させるとは何たる侮辱か。崇拝者の風上にも置けぬわ。恥を知れ」
淡々と言ってのける。それにビクビクしながら頭を垂れる。羽根で撃たれた奴とは逆側に位置する信者が慌てて声を上げた。
「も、申し訳ございません……!貴方様をこの世界に顕現させたい一心で……!!」
グラシャラボラスは左手を振るう。持っていたジャマダハルでは到底届かぬ位置にいる信者が真っ二つに切り裂かれた。「あっ」という声を上げたが、その言葉を最期にこと切れた。
「聞いていない。人間の器もなく、依り代は魂の壺など力が半減するわ。今一度聞こう。汝らは何の用で余を顕現させた?」
もう誰も答える事が出来ない答えた所で死ぬだけだ。これは単なる憂さ晴らし。折角その身をこの世界に顕現させたのに、地獄の半分以下の力しか出すことの出来ない屈辱。もはや倒してくださいと言っているようなものだ。グラシャラボラスの言いたいことに気付いた信者たちは口を紡ぐ。
誰も言えるはずがない。ソロモンの悪魔を入れられるだけの器を持つものなどこの世界にほんの一握りで探しきれなかったことを。リナという少女にそそのかされて魂の壺で良しとしてしまった事を。グラシャラボラスの聞くこの質問の答えは正に「この世界に顕現させたい一心で……」真っ二つにされた信者の残したこのセリフだけなのだ。
パンッ
手を叩いた乾いた音が鳴る。何度も鳴らして拍手に代わると全員の目がそちらに向いた。
「……はっはっは……いいぞ、よくやったウロボロスども。やはりここで間違いなかったようだ……」
機嫌よく笑うのはこの場にもう一人いる最悪の悪魔。
「……汝はなんぞ?」
「凄いわ!ちゃんとグラシャラボラスの臭いがする!ソロモンの悪魔を召喚したって事は間違いなく例の書物を持ってるわね?やっぱりあの女が関わってたわけだ。なんか動きが活発だったしどうりでねぇ……」
「うんうん」と頭の悪魔は勝手に盛り上がっている。完全に無視した形になるが、先程とは違ってグラシャラボラスは冷静に見ている。人間なら既に真っ二つだろうが、同じ悪魔だったから何の悪魔なのか精査したいのだろうか。一拍置いてもう一度聞いた。
「聞こえぬのか?汝はなんぞや?」
気を良くしていつまでも手を叩いていたリョウは急にピタッと手を止めるとグラシャラボラスを睨んだ。
「……うるせぇ黙れ、お前には話を振っていない。今すぐ殺されたくなかったら口を閉じて……おい、何だよ口縛ってんじゃねぇか……どこから声を出してんだ……?」
怒りの口調から一転、呆れた口調で煽り倒す。流石にイラっとしたのか羽根をもう一枚取るとリョウに向かって投げた。その羽根は亜音速で体を貫くべく真っすぐ飛ぶ。
しかし、既にリョウの体はそこに無い。右足を引いて半身になると、羽根の射線から外れ紙一重の所で避けるという凄業を見せた。
「ほう、少しは出来る手合いのようだな。手始めにこやつを殺して、余が顕現した事を世界に知らしめようではないか」
ニヤリと口角が上がり、これからの戦いに思いを馳せる。
「思い上がりも甚だしいわね。伯爵風情が生意気な……リョウ!ぶっ飛ばしましょうよ!!」
「……悪いが立て込んでるんでな……相手してやりてぇが……」
少し考えた素振りを見せるが、「えぇ~……!?」ともの凄い不服そうに声を上げる。後でへそを曲げられるのは流石に面倒というもの。
「いや、まいっか……相手してやるよ。ついて来な駄犬。地上まで競争だ……」
浅黒い体に犬の頭、黒い翼がこのフロアを覆いつくすほど大きい。細身ではあるがしっかりと筋肉を備え、手にはジャマダハルと呼ばれる鋭い刀剣を装備している。手足が長く獣のように毛で覆われていて、手は人間のようだが足は犬の後ろ脚のように膝のすぐ下に足首があってつま先立ちの要領で立っている。二足歩行をするには不便そうな足の形をしていて、そのシルエットは奇怪そのもの。口は鼻先と顎を布で結んで開かないようにしている。尻尾も大きく長い。
まるでハイイロオオカミを無理やり2m前後まで引き延ばし、人間のように二足歩行に立たせ、前足を人間の手と取り換えて羽が生えたような合体生物。
「「「おおっ!!」」」
この場の全員が歓喜した。待ちわびていた悪魔は閉じていた瞼を開き黄色く発光する目を召喚者に向けた。
「汝が余を召喚したのか。何の用か?」
「おお我が主よ。我々はこの日の為に準備してまいりました。貴方様にこの世界を支配していただきたいのです」
神を目の当たりにした敬虔な信者のように目の前で跪き涙を流して訴える。グラシャラボラスは召喚主を無視して自分の体の具合を確かめる。右手を確認し、手を閉じたり開いたり、足を上げたり下ろしたりしながら全身をチェックする。
それが終わると、舞い落ちてきた羽根を空中で摘まんですぐ傍で同じように跪いていた信者に向かって投げた。その羽根はボッという風を切る音と共に信じられない速度で発射され、いとも簡単に信者を貫いた。
「がはっ……」
肺からわずかな空気が抜ける音が聞こえるとそのまま力なく信者の一人は地に伏した。
「……主よ。お戯れを……」
それを見た召喚主は先程の感動とは一転、恐怖から声が震え目には別の意味の涙が溜まる。
「不完全だ。こんな体で余を顕現させるとは何たる侮辱か。崇拝者の風上にも置けぬわ。恥を知れ」
淡々と言ってのける。それにビクビクしながら頭を垂れる。羽根で撃たれた奴とは逆側に位置する信者が慌てて声を上げた。
「も、申し訳ございません……!貴方様をこの世界に顕現させたい一心で……!!」
グラシャラボラスは左手を振るう。持っていたジャマダハルでは到底届かぬ位置にいる信者が真っ二つに切り裂かれた。「あっ」という声を上げたが、その言葉を最期にこと切れた。
「聞いていない。人間の器もなく、依り代は魂の壺など力が半減するわ。今一度聞こう。汝らは何の用で余を顕現させた?」
もう誰も答える事が出来ない答えた所で死ぬだけだ。これは単なる憂さ晴らし。折角その身をこの世界に顕現させたのに、地獄の半分以下の力しか出すことの出来ない屈辱。もはや倒してくださいと言っているようなものだ。グラシャラボラスの言いたいことに気付いた信者たちは口を紡ぐ。
誰も言えるはずがない。ソロモンの悪魔を入れられるだけの器を持つものなどこの世界にほんの一握りで探しきれなかったことを。リナという少女にそそのかされて魂の壺で良しとしてしまった事を。グラシャラボラスの聞くこの質問の答えは正に「この世界に顕現させたい一心で……」真っ二つにされた信者の残したこのセリフだけなのだ。
パンッ
手を叩いた乾いた音が鳴る。何度も鳴らして拍手に代わると全員の目がそちらに向いた。
「……はっはっは……いいぞ、よくやったウロボロスども。やはりここで間違いなかったようだ……」
機嫌よく笑うのはこの場にもう一人いる最悪の悪魔。
「……汝はなんぞ?」
「凄いわ!ちゃんとグラシャラボラスの臭いがする!ソロモンの悪魔を召喚したって事は間違いなく例の書物を持ってるわね?やっぱりあの女が関わってたわけだ。なんか動きが活発だったしどうりでねぇ……」
「うんうん」と頭の悪魔は勝手に盛り上がっている。完全に無視した形になるが、先程とは違ってグラシャラボラスは冷静に見ている。人間なら既に真っ二つだろうが、同じ悪魔だったから何の悪魔なのか精査したいのだろうか。一拍置いてもう一度聞いた。
「聞こえぬのか?汝はなんぞや?」
気を良くしていつまでも手を叩いていたリョウは急にピタッと手を止めるとグラシャラボラスを睨んだ。
「……うるせぇ黙れ、お前には話を振っていない。今すぐ殺されたくなかったら口を閉じて……おい、何だよ口縛ってんじゃねぇか……どこから声を出してんだ……?」
怒りの口調から一転、呆れた口調で煽り倒す。流石にイラっとしたのか羽根をもう一枚取るとリョウに向かって投げた。その羽根は亜音速で体を貫くべく真っすぐ飛ぶ。
しかし、既にリョウの体はそこに無い。右足を引いて半身になると、羽根の射線から外れ紙一重の所で避けるという凄業を見せた。
「ほう、少しは出来る手合いのようだな。手始めにこやつを殺して、余が顕現した事を世界に知らしめようではないか」
ニヤリと口角が上がり、これからの戦いに思いを馳せる。
「思い上がりも甚だしいわね。伯爵風情が生意気な……リョウ!ぶっ飛ばしましょうよ!!」
「……悪いが立て込んでるんでな……相手してやりてぇが……」
少し考えた素振りを見せるが、「えぇ~……!?」ともの凄い不服そうに声を上げる。後でへそを曲げられるのは流石に面倒というもの。
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