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18章 龍球王国 後編
346、追憶の彼方
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仲間集めの道中で突如始まった戦い。それだけならそれほど珍しいことでもないかもしれないが、思ってもみなかったところから謹慎中の武将が現れ、殺し合いに発展するというのは珍事件と言って相違ない。
匿っていた張本人であるサコンとその部下たちも混乱するトガノジョウの言い分に目を瞑り、気合を入れ直してレッドたちを亡き者にしようと筋肉に力を込める。
「おいテメーらっ! 女は生かしとけよっ! 良い慰みものになるし、人質に取れば姉の方も食えるっ! タイジョウ家をお上に献上出来れば地位は安泰だっ!」
一味の顔は皆一様にイヤらしく歪む。姉妹を抱いていることを想像して俄然やる気が湧いてきたようだ。モミジに向けられた肢体を舐めるような視線に嫌悪感を抱きながらも怒りが先行した。
「──絶対にぶっ飛ばすっ!!」
ポキポキと指を鳴らしながら戦意を向上させている。
威嚇とも取れるモミジの行動だが、十代の少女が大人の男を威嚇する行為など、生意気を通り越して愛らしさがある。見た目は元より肉体が違い過ぎるので、本来勝てるわけがない。
部下たちの目はレッドとモミジに向いている。それもそのはずで、モリシゲやナガヨシの強さはよく知っているからだ。
絶対に強い2人は主人であるサコンや腕っぷしに自信のあるトガノジョウに任せて、筋肉に物を言わせれば倒せそうな残りの2人を相手取るのは理に適っていると無い頭で考えた。
だからこそ下卑た笑みで見下すことは当然の権利と考えている。
「あの剣士を先に取り押さえてお嬢ちゃんを頂くとしようぜ」
「いや、我慢出来ねぇっ! 速攻で捕まえて剥いちまおうっ!」
「いいねいいねっ! とりあえず取り押さえて大人しくさせるってのはどうだ?」
「男はぶっ殺せっ!」
「手足をもいでダルマにしちまおうぜっ!」
口々に苛烈な言葉を浴びせかける。
レッドは人の悪意には弱い。ゴールデンビートルを筆頭に他の冒険者たちに煽られたり、無視されたり、罵詈雑言を浴びせかけられることで落ち込んで殻にこもっていた時期が長かったのが影響している。悪意しかない言葉の数々と視線に対し、レッドは恐ろしさからさぞ震えていると推察される状況。
しかし今のレッドの心は平坦だった。むしろこの悪意ある視線に既視感を覚え、頭は冷え切っていた。
(……あれだ。ベルク遺跡の20階層の時の奴だ)
田舎町プリナードの近くにあったダンジョン『ベルク遺跡』。チームを追い出されてから無許可のソロ探索で出会った、今尚自身最大の難関だと考えている戦闘。
階層ボス『魔樹トレント』との一戦。
部下っぽく現れたアルラウネたちが丁度こんな感じで悪意を向けて来たのをふと思い出していた。
(うーん。でもあれは魔物だったからなぁ……)
悩むレッド。剣を抜いたはいいが斬るわけにはいかないだろう。でも試合とは違うので剣を突き付けるだけでは負けは認めないと思われる。2、3人は倒す必要がありそうだ。
「……しょうがない。鞘で叩けば良いか」
レッドは剣を鞘に仕舞って構える。紐や布で鞘が飛んでいかないように固定したかったが、それらしい物は無かったので注意して叩こうと誓う。
「ケッ……そいつで死ななきゃいいけどよ」
さっきまでレッドの背中にくっついて寝ていたオディウムはようやく目を覚ましてシュタッと地面に着地した。
「あ、起きた? てか、そんなにやわじゃないでしょ……」
「お前に比べりゃ全員が昨日食った湯豆腐みてぇなもんだ」
「あれ美味かったなぁ……今日は何食わしてくれるかな?」
「それよりも俺は昼飯だぜ。朝昼兼用のな」
「あ、さっきこの屋敷に来る道中で団子食べちゃったからお昼は無しなんだけど……」
「は? ざけんな」
オディウムの機嫌は一気に悪くなった。
「何が出てくるかと思えば喋る仔牛かよっ! ぶっ殺して食っちまおうぜっ!」
「待て待て、キジン家の家紋は確か牛だろ? 牛車引く牛の奴」
「え? ってことは公家に売れば大儲け出来そうだなっ! あれも生かして捕まえようぜっ!」
サコンの部下たちは脇目も振らずに走り出す。とりあえず邪魔なレッドを取り押さえるか殺した後で2つの宝を手に入れるのが良いと考えたのだ。
どの部下も暴力に慣れ、レッドよりも一回り大きい大男が誰より先にレッドを取り押さえようと飛び込んでくる。
──バスッ
レッドに覆いかぶさろうとした大男は消える。その瞬間突風が吹き荒れ、思わず目を瞑ってしまった。いったい何が起こったのか部下たちには一瞬理解出来なかったが、レッドは鞘に入った剣を振り抜いていたのだけは分かった。
「……え?」
部下たちは風が通り過ぎた後を目で追う。サコンが逃がさないために成長させた草木の壁に人の形をした穴が開いていることに気付いた。ゆっくりとレッドに視線を戻すとレッドも驚いていた。
「あ……思ったよりも飛んだなぁ……」
一見何が起こったのかはよく分からなかったものの、サコンの持つ刀同様に剣に何か細工しているのだろうという結論で部下たちの頭の中は一致した。
「……やっちまえぇっ!!」
サコンの号令が戦いの合図となり、乱闘戦が始まる。
匿っていた張本人であるサコンとその部下たちも混乱するトガノジョウの言い分に目を瞑り、気合を入れ直してレッドたちを亡き者にしようと筋肉に力を込める。
「おいテメーらっ! 女は生かしとけよっ! 良い慰みものになるし、人質に取れば姉の方も食えるっ! タイジョウ家をお上に献上出来れば地位は安泰だっ!」
一味の顔は皆一様にイヤらしく歪む。姉妹を抱いていることを想像して俄然やる気が湧いてきたようだ。モミジに向けられた肢体を舐めるような視線に嫌悪感を抱きながらも怒りが先行した。
「──絶対にぶっ飛ばすっ!!」
ポキポキと指を鳴らしながら戦意を向上させている。
威嚇とも取れるモミジの行動だが、十代の少女が大人の男を威嚇する行為など、生意気を通り越して愛らしさがある。見た目は元より肉体が違い過ぎるので、本来勝てるわけがない。
部下たちの目はレッドとモミジに向いている。それもそのはずで、モリシゲやナガヨシの強さはよく知っているからだ。
絶対に強い2人は主人であるサコンや腕っぷしに自信のあるトガノジョウに任せて、筋肉に物を言わせれば倒せそうな残りの2人を相手取るのは理に適っていると無い頭で考えた。
だからこそ下卑た笑みで見下すことは当然の権利と考えている。
「あの剣士を先に取り押さえてお嬢ちゃんを頂くとしようぜ」
「いや、我慢出来ねぇっ! 速攻で捕まえて剥いちまおうっ!」
「いいねいいねっ! とりあえず取り押さえて大人しくさせるってのはどうだ?」
「男はぶっ殺せっ!」
「手足をもいでダルマにしちまおうぜっ!」
口々に苛烈な言葉を浴びせかける。
レッドは人の悪意には弱い。ゴールデンビートルを筆頭に他の冒険者たちに煽られたり、無視されたり、罵詈雑言を浴びせかけられることで落ち込んで殻にこもっていた時期が長かったのが影響している。悪意しかない言葉の数々と視線に対し、レッドは恐ろしさからさぞ震えていると推察される状況。
しかし今のレッドの心は平坦だった。むしろこの悪意ある視線に既視感を覚え、頭は冷え切っていた。
(……あれだ。ベルク遺跡の20階層の時の奴だ)
田舎町プリナードの近くにあったダンジョン『ベルク遺跡』。チームを追い出されてから無許可のソロ探索で出会った、今尚自身最大の難関だと考えている戦闘。
階層ボス『魔樹トレント』との一戦。
部下っぽく現れたアルラウネたちが丁度こんな感じで悪意を向けて来たのをふと思い出していた。
(うーん。でもあれは魔物だったからなぁ……)
悩むレッド。剣を抜いたはいいが斬るわけにはいかないだろう。でも試合とは違うので剣を突き付けるだけでは負けは認めないと思われる。2、3人は倒す必要がありそうだ。
「……しょうがない。鞘で叩けば良いか」
レッドは剣を鞘に仕舞って構える。紐や布で鞘が飛んでいかないように固定したかったが、それらしい物は無かったので注意して叩こうと誓う。
「ケッ……そいつで死ななきゃいいけどよ」
さっきまでレッドの背中にくっついて寝ていたオディウムはようやく目を覚ましてシュタッと地面に着地した。
「あ、起きた? てか、そんなにやわじゃないでしょ……」
「お前に比べりゃ全員が昨日食った湯豆腐みてぇなもんだ」
「あれ美味かったなぁ……今日は何食わしてくれるかな?」
「それよりも俺は昼飯だぜ。朝昼兼用のな」
「あ、さっきこの屋敷に来る道中で団子食べちゃったからお昼は無しなんだけど……」
「は? ざけんな」
オディウムの機嫌は一気に悪くなった。
「何が出てくるかと思えば喋る仔牛かよっ! ぶっ殺して食っちまおうぜっ!」
「待て待て、キジン家の家紋は確か牛だろ? 牛車引く牛の奴」
「え? ってことは公家に売れば大儲け出来そうだなっ! あれも生かして捕まえようぜっ!」
サコンの部下たちは脇目も振らずに走り出す。とりあえず邪魔なレッドを取り押さえるか殺した後で2つの宝を手に入れるのが良いと考えたのだ。
どの部下も暴力に慣れ、レッドよりも一回り大きい大男が誰より先にレッドを取り押さえようと飛び込んでくる。
──バスッ
レッドに覆いかぶさろうとした大男は消える。その瞬間突風が吹き荒れ、思わず目を瞑ってしまった。いったい何が起こったのか部下たちには一瞬理解出来なかったが、レッドは鞘に入った剣を振り抜いていたのだけは分かった。
「……え?」
部下たちは風が通り過ぎた後を目で追う。サコンが逃がさないために成長させた草木の壁に人の形をした穴が開いていることに気付いた。ゆっくりとレッドに視線を戻すとレッドも驚いていた。
「あ……思ったよりも飛んだなぁ……」
一見何が起こったのかはよく分からなかったものの、サコンの持つ刀同様に剣に何か細工しているのだろうという結論で部下たちの頭の中は一致した。
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サコンの号令が戦いの合図となり、乱闘戦が始まる。
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