「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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6章

60、真の仲間

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 トルメルンの街から一番近い場所にあるダンジョン、サフィー洞穴。見た目は地獄に通ずる穴のように見えるが、中は思いのほか明るく広い。1階層から3階層まで、暗くじめじめした空間が続き、ゴツゴツとした岩肌と底冷えするような冷気で冒険者たちの体力を削っていく。
 と思えば4階層から8階層までは気温が一気に上昇し、森と湖が出迎えてくれる。太陽のように明るく暖かい光が青く透明な鉱石に反射し、まるで昼間の海辺のような雰囲気だ。ダンジョンでなければ泳ぎだしたいほどのリゾート感溢れる場所だが、魔獣は常に獲物の隙を伺っている。暑いからと鎧を脱いだり、気を抜いて楽しんだりしたら、人食いの魔獣が待ってましたと食らいつく。
 厄介なことに、9階層以降は船で進む必要があり、歴代の冒険者たちはこれ以上進むのは危険と判断してこれ以降の記録は存在しない。一説によれば8階層から9階層への入り口は滝になっており、船で入り口をくぐった途端に落ちて二度と戻ってこられないのではないかとされている。その昔、勇気ある冒険者が入り口付近まで近づいたことがあったそうで、ザーザーと水の流れ落ちる音を耳にしたとのことだ。
 前人未到の9階層以降。地帝ヴォルケンからの情報では、ここのダンジョンの主人が皇魔貴族であることを教えられているので、レッドたちは進まなければならないのだ。
 そんなダンジョンにレッドたちはやってきた。グルガンが背後を確認しつつダンジョンに入ろうとする。

「あれ?グルガンさん、あなたの仲間はどこに……?あ、先に中にいるんですか?」
「……いや。少し前に酷い不運に見舞われてな。我を残して全滅……そう、我だけが助かってしまったのだ」

 ぎゅっと拳を握るグルガン。それにレッドは焦りながら頭を下げた。

「え……あっ、その……すいません。事情も知らず不躾に聞いてしまって……えっとその……ご愁傷様です」
「ありがとう。我も言うのが遅れてしまって申し訳ない」
『悲しいですね。生き物の命は儚く脆い。長生きのエルフや皇魔貴族でさえ死には抗えない……』
「君の言う通りだ。だからこそ今を懸命に生き、そして次の世代へ繋いでいく必要がある。我のすべきことは未来に進むための一助である」

 グルガンは覚悟を決めた顔でダンジョンに入る。レッドたちもそのすぐ後を追うように歩き出す。

「相当なことがあったとうかがい知れる。背負っているものが違う」
「うん、オリーの言う通りだ。仲間が殺されたんだから無理はないけど……」
『しかしどこからの視点なのでしょうか?あれはいち冒険者の視点とは思えません。まるで統治者の発言のような……』

 ミルレースの発言後、ピタリと足を止めるグルガン。その反応から図星だったのかと思った瞬間、グルガンが指を差した。

「見ろ。これがパームン苔だ。3階層と4階層の間より少し手前に生えやすいのだ」
「あ、違った」
「ん?何がだ?」
「い、いえ。こちらのことです」

 レッドはあせあせ慌てながらグルガンが指差した岩を見る。パッと見ではただの苔である。それに生えている場所さえ掴めば野伏レンジャー等の専門職は必要なさそうに見える。

『へ~、意外と簡単なところに生えているんですね。これならレッドでも取れそうです』
「ちょっ……ミルレース」
「生えている位置はな。パームン苔のみを採取しないと意味がない」

 グルガンは屈んで採取用のキットを取り出した。鉛筆ほどの大きさの小さなナイフとピンセット、指サックに革の巾着袋など色々とある。釘ほどの小さなスコップや歯ブラシなどどこで使うのか分からないようなものもある。

「……これほど細かな……グルガン、その苔はかなり繊細なのか?」
「そうだ。パームン苔のすぐ側に自生するオウマ苔はかなり強い毒性を持っている。ここだ。この濃いめの緑がオウマ苔。それよりうっすら薄いのがパームン苔。これを見ても素人でいけると思うかな?」

 グルガンのニヤリと笑った顔にミルレースは言葉を詰まらせ、唇を尖らせながら不貞腐れた。

「まずは境界線を見極め、この小さなナイフで慎重に削り取る。オウマ苔に傷を付ければ毒性がパームン苔に付着してしまうからな。それから、出来るだけ全部採取するのだ。オウマ苔に最も近い場所が回復薬により強い効果をもたらす。この境界線の部分が一番効能が強く、そして高く売れる。ちなみに毒性の強い植物もモノによっては高く買い取ってくれる。ちなみにオウマ苔は麻痺毒だ。小さじの半分くらいなら死ぬことはないが、小さじ1杯であの世行きだ」

 グルガンは淡々と喋りながら手際よく苔を削っていく。ポコポコと虫食いの穴のようになっていくのを見たら、オウマ苔が広大でいやらしい生え方をしているのがよく分かる。専門職のありがたみがよく理解出来た。革袋に入れて手渡される。

「これで任務クエスト終了だ。ダンジョンの奥に潜るなり帰るなり好きにするが良い」
『じゃあ潜りましょうレッド』
「それは良いけど……まだ聞きたいことがあります。あなたは一体何者なのでしょうか?」
「ふむ、どう説明すべきか……いや、まどろっこしいのは無しにしよう。実は我は人間ではない。魔族なのだ」
「魔族?いや、そんなはずはない。この眼をもってしてもお前が人間であると示している」
「我が隠蔽能力に優れていたらどうかな?例えばここに転がっている拳大の石を瑞々しい果物に見せるとか、気配や姿形を視界から完全に消してしまうとか。まぁ実際に見なければ分からんか。我が今ほんの少しだけ術を解き、魔族であることを証明しよう。本当は変身を解く方が良いのだろうが、この場で姿を変えてしまったら他の冒険者に見られる可能性があるからな」

 ベラベラと御託を並べるグルガンにオリーが物申そうと一歩前に出たその瞬間。かつてないほどの力の波動とこの場を包み込むほどのオーラを感じさせた。レッド以外には不遜なオリーも困惑から閉口し、一歩後ずさるほどの衝撃が襲う。

「?……オリー?」
「ほう?口だけではない。しっかりと力を感じ取れる器官を持ち合わせているようだな。前から思っていたが、かなり優秀なゴーレムだ」

 その言葉にレッドも鋭い眼を向けた。

「オリーをゴーレムと見抜いた人間はいない。グリードという魔族が最初だ。となればあなたは魔族で間違い無いのか?」
「そう警戒するなレッド=カーマイン。我は貴君と会話がしたくてここにいるのだ」
「うーん、なるほど。物語の悪役のようなセリフだが、あなたからは敵意を感じない。他の魔族とは違うらしい」
『でも魔族ですよね?じゃあ倒しちゃいましょうよ』
「やめろミルレース。グルガンは敵対的な行動を見せていない。レッドが剣を抜かない以上、戦う必要性は微塵もない」
「合理的だなオリー=ハルコン。血の気の多い女神を持つと苦労が絶えまい?」
「いや、特に」
『ですよね~』
「だな、もう慣れたよな」
『ん?』
「……慣れとは恐ろしいものよ」

 グルガンは腕を組んでひとしきり頷いたあと、レッドたちを見回した。

「我の名はゴライアス=公爵デューク=グルガン。皇魔貴族のひとりである」
「皇魔貴族だって!」

 バッと身構えたがすぐに構えを解いた。名前を開示されただけで攻撃の意思は感じられない。どころか自らの正体まで晒す。まったく腹の中が読めない魔族にどういう対応をすれば正解なのかが分からない。

公爵デュークって上から数えた方が早いですよ?というよりナンバー2くらいの立ち位置では?』
「うむ。現在のナンバー2で間違いなかろう」
「えぇ……そんな大物がなんで俺なんかに……」
「貴君は皇魔貴族の騎士ナイト男爵バロン、そして伯爵アールをそれぞれ撃破している。その強さは賞賛に値するものなのだ。我が夢を叶えるために協力を要請したい」
『魔族が人間に協力の要請?それは何かの冗談でしょうか?』
「冗談などではない。我は人間と魔族が互いに認め合い、手をつないで生きていけるような世界を作りたいのだ」

 グルガンは4階層に向けて歩き出す。レッドたちもつられて歩き、横に並んだ。

「そのために必要なことは双方の妥協。人間に比べ魔族が強すぎるために互いを尊重しあえなくなってしまっている。ここで必要になるのがレッドのような抑止力だ。皇魔貴族を一方的に蹂躙出来るその力。人間に手を出す愚かさを知れば、どんなバカでも理解する。弱者と侮れば逆に食われるとな。そして人間も魔族と共に生活する方法を考えるのだ。一ヶ月も共に過ごせば慣れる」
『そんな勝手な……人間と魔族が一緒に過ごすことなんて出来るわけがないでしょう?そんな前例、ないと思いますが……』
「ふっ……確かに常識的に考えれば無理な話だが、実は前例はある。我が領地ではすでに魔族と人間が共に過ごしているのだ。今度我が領地に案内しよう」

 グルガンは楽しそうに笑って見せた。レッドは煮え切らない顔でグルガンを見る。

「そんな国があるなら見てみたいですが……そんなことより俺が抑止力ですって?グルガンさんも人が悪い。俺なんて一介の冒険者ですよ?そんな最終兵器みたいな……」
「グルガンのレッドの評価は的を射ている。私はレッドが頼られているのを誇らしく感じるぞ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど荷が重すぎるよ。とてもじゃないけどグルガンさんのいう抑止力にはなれませんよ?」
「ふむ。少し聞きたいのだが、貴君は自分の力をどのくらい把握しているのだ?」
「え?だ、だからその……どのくらい?」
「そうだ。ひょっとして自分の力を過小評価しているのではないだろうか?我らからしてみれば貴君は信じられないほど強い。世界一と言って過言ではないだろうな。なにせグリードを手も触れずに倒したのだから」
「グリードって……あの魔族ですか?あー……ははっ、やっぱりそうだ。あいつはただ勝手に自爆しただけです。俺とは関係ないですよ」
「それに至ったのが貴君の力なのだが……まぁ良い。とにかく力を貸してもらえないだろうか?」
「と言っても俺からはなんとも……」

 レッドはミルレースを見る。

「……なるほど、女神の欠片か。貴君は女神ミルレースの復活を目指していたのだったな」
『その通りですよ。ね、レッド。皇魔貴族が私を手放さない限り、この話は平行線を辿るだけですよ。そうだ!あなたもレッドに協力をお願いするなら、レッドにも協力すべきでしょう?あなたの持っている欠片をレッドに渡してください。話はそれからです』
「ふむ。何事もまずは信頼からか……」

 ミルレースが『そうですよ!』と鼻を鳴らして威張る中、グルガンは空中からどこからともなく欠片を出現させた。どうやって出現させたのかと驚いたが、それ以上に驚いたのは欠片の数だ。6つ、空中で踊るように浮かんでいる。

「なっ!?6つも!?」
『え?え?ってことは実は欠片ってひとり複数個持ってたりするのでしょうか?!』
「基本は1つだ。これは貴君と彼女がフレア高山で倒した騎士ナイトたちの欠片だ。皇魔貴族の中で分配して守っている。我の持つ欠片が多めなのは信頼の証。我もそれなりに上手くやっているということであるな」
「その欠片を渡してくれるのか?仲間を裏切ってこちらに着くというのか?」
「内々にな。ただ裏切っては新たな対立を生むだけだ。最高のタイミングで横合いから殴りつけなければ意味がない。直接的な介入は今回のように隙をついて行いたいが、基本的にこうして会うことはない。そういうわけでこの欠片は貴君らに譲るが、我々が今日ここで話したことは秘密にしてほしいのだ」
『んもちろん!私の欠片を渡してくれるなら口を縫い付けてでも話すことはありません!!ねっ!レッド!』
「あ、うん」
「それと、これだけは言っておきたいのだが……我が真に仲間と認めていたのは一刃の風のメンバーである。それをグリードに殺され、我の人間としての冒険は終わりを告げた。皇魔貴族は我にとって枷でしかない。この枷を外すきっかけを与えてくれたレッドには感謝してもし足りない。今後は貴君らを仲間として共に戦っていく。迷惑かも知れんが、我を仲間に入れてくれまいか?」

 レッドは優しく熱い覚悟の眼差しを受けてコクリと頷いた。

「……分かりました。俺たちのチームでよければ……あ、そうだ。あとでギルドに申請しといてもらえます?即承認しときますので」
「ん?いや、そういうことでは……フハハッ!了解した。貴君はそういう男なのだな?あとで必ず申請しておく」
「あ、よろしくお願いします」
「凄いなレッドは。まさか最初のメンバー入りが魔族とは思ってもみなかった。……これもまた前例になるか?ミルレース」
『からかわないでください。それにこれは単なる利害の一致です。敵の敵は味方という奴ですよ』
「そうだな。そういう考え方もありだ女神ミルレースよ。信頼は一朝一夕に得られるものではない。積み上げていくとも、我らの未来は明るいのだから」

 グルガンのメンバー入りを約束した時、いつのまにか8階層の大きな湖の側までやってきていた。

「見えるか?あれが9階層への入り口だ」

 湖の向こう側、地獄へ誘うように縦に割れた大きな空洞がパックリと口を開けて獲物を待っている。

「へ~、あれが」
「前人未到。ここの9階層には誰も立ち入ったものがいない。そういうダンジョンの最奥には皇魔貴族がいる。絶対ではないがな」
「地帝ヴォルケンの言葉が正しければこのダンジョンにはいるはずだ。何も言わずに案内してくれるとは中々スマートな男だ」
「ふっ……ささやかな礼のつもりだ。我はここまでだ。共に戦いたいところだが、魔法の痕跡を辿られたらすぐに裏切ったとバレてしまうからな」
「分かりました。あとは俺とオリーで行きます。お世話になりました」

 レッドは深々とお辞儀をする。グルガンは心穏やかに微笑んでその場を後にした。

 これから先も強力で凶悪な敵が幾度となく待ち構えるだろう。このダンジョンに巣食う魔族を幻視しながらもレッドの心は乱れない。その理由はチームに新メンバーが加わったということ。今すぐ共に旅をすることは出来なくても、向かう方向は一緒だ。
 ベテラン冒険者であり、野伏レンジャーであり、魔族である、遠くて近い初めての仲間。
 すぐにギルド会館でメンバー申請を承認したいところだが、そこをグッと抑え込み、レッドとオリーは9階層の暗闇に視線を移す。

「よしっ!それじゃ行くか!」
『待ってました!』
「そうだなレッド。ところでどうやって行く?」
「……イカダでも作るか」

 まずは移動手段から。コツコツ地道に進んでいく。
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