「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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7章

64、強襲

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 魔導国ロードオブ・ザ・ケインの割と近場にあるダンジョンにて、ニール=ロンブルスの声援が響き渡った。

「いいぞ!その調子だ!」

 バッと走り出す剣士セイバー槍士ランサー格闘士ファイター、そして戦士ウォリアー。大型の肉食魔獣ギガコングを前に一歩も引かない戦いを見せる。3階建ての家屋に匹敵する大きさのギガコングはゴリラの体にチンパンジーの頭を付け、王冠のようにツノを頭頂部にズラッと6本生やした姿をしている。そんな怪物に臆せず戦える冒険者もまた怪物なのだろう。
 ホープ・アライアンス。冒険者チームが徒党を組んでダンジョン攻略に力を入れる第2のギルド。初期のチームで既に9組と大所帯だが、まだ足りないとニールは見ている。

(魔族に対してこちらの力が弱すぎる。何とかしないと……)

 その原因は単純に実力不足である。使えるチームはビフレスト、シルバーバレットで、大目に見てクラウドサインがギリギリ入るくらいである。
 ニールたちリーダーは弱いチームを使えるようにするために能力の高い冒険者を師とし、ローテーションを組んで練度を高めることにした。
 しかしこの提案はビフレストのメンバーを筆頭に仲間たちは不満と不安をつのらせた。
 12階層の奥。次の階層に降りる手前にある大きな穴と言うべきくぼみ。その崖の上でビフレストの面々はボケーっと観戦していた。

「はぁ……おいおい、こんなこと続けてて何になるんだよ。さっさとダンジョン攻略するのかと思や、トレーニングとはなぁ……ゴールデンビートルや風花の翡翠が羨ましいぜまったくよぉ……」
「うっさいわねぇ。そんなこと言ったってしょうがないでしょ?実力なんててんで無いんだから」
「ジン。いい加減に諦めなさい。何度この話を蒸し返すつもりですか?文句を言う間にニールを手伝ってきてはいかがです?ほら、ニールと共に頑張るワンやリックの姿を御覧なさい。あれこそチームプレイというものです」
「やなこった。俺は支援タイプだぜ?戦士ウォリアー諸君のお仕事とは勝手が違うっつの」

 ジンは後頭部に両手を回して自分には関係ないとアピールする。側でこのやり取りを見ていたアルマもダンジョン攻略に関してはジンと同じ意見だったが、共に戦うべき人材が役立たずとあっては命の保証は出来ない。強行した結果、ビフレストだけが生き残っては立つ瀬がなくなってしまう。つまりプリシラとローランドのある程度許容すべきとの考えにも賛成の口だ。アルマはどちらの味方をするでもなくただ黙って成り行きを見守る。

「あらあら?これはこれは、ビフレストの方々ではありませんか?」

 背後からの呼び掛けに振り返ると、そこには風花の翡翠が立っていた。

「他の方々を鍛えているのですか?ふふ……今日も精が出ることで」
「噂をすれば影……ってか?チッ、話しかけんじゃねーよエイプリルの嬢ちゃん。こっちゃ忙しいんだ」
「まぁ!そうでしたの?わたくしったらそういうのに疎くて、おヒマそうに見えたからつい……」
「はぁ?そういうあんたらはどうなのよ。ニールの提案を蹴っといて随分な挨拶じゃないの」
「うふふ、わたくしたち今日はこのダンジョンの攻略に着手しようかと思いまして一気にこの階層まで降りてきたのですが、先客がいらっしゃったので先に進めませんの。ふぅ……大猿程度に時間を取られているようでは、あなた方も気が思いやられますわね?」
「違うよ~だ!今あの猿でチーム戦を想定した戦いを練習中だし~!」
「だとするならもっと悪いかと……前回ルーシーお嬢様と共に参加させていただいたヴォーツマス墳墓の特別部隊。全員が同じ水準だったからこそ、息の合ったコンビネーションを繰り出すことが出来ました。2……いや、3段階は下のチームと組んでいては本来のあなた方の強みを発揮することは難しいのではないでしょうか?」
「これはその3段階下のチームが死なないための訓練に近い。外からの口出しは無用」
「そうだそうだ!どっか行けよ!シッシッ!」
「いや、あのさぁ……あんたらが邪魔なんでしょ!各階層で『トレーニングだ邪魔するな』って毎日毎日……!ここはあんたらの私有地か?!あーめんどくさ!もう先に行こうよルーシー!!あんな猿ごとき僕1人で……!」
「おいおーい!横取りは御法度だろうよオカマくぅん!」

 ギャーギャーと騒ぎ出すジンたちと風花の翡翠。くぼみの下でギガゴングを倒し、勝利に浸る仲間たちを尻目にニールは上を向いて呆れた。

「……何をやっているんだ?まったく……」

 頭を抱えそうになるのを必死で抑えながら、戦った仲間たちに声を掛ける。

「よし、それじゃギガコング討伐の証はツノ、牙、指の3種だ。各自好きな部位を切り取って……」

 そこまで口にしたところで次の階層に下りる出入り口に誰か立っているのが目の端に映った。一瞬見間違いかとも思ったが、二度見しても消えないハッキリとした人影は意味深にこちらを見ていた。

(女性?に見えるな……ここで戦っていたし、誰も戦闘の合間を縫うような真似はしていない。風花の翡翠も上にいる。他にあそこに立つ経路は……下の階層から出て来たとしか……)

 あり得ないことだ。このダンジョンのクリア階層は14階層。まだまだ下がありそうだが、それより先に行って帰ってきた者はいない。
 今はチームの強化のために12階層を使用してはいるが、上澄みのチーム以外はここまでがギリギリのライン。これより先は命の保証は無い。つまり13階層に行ける冒険者なんてほんの一握り。
 もし、そんな一握りの1人がそこに立っているのなら、即勧誘からのホープ・アライアンス強化に繋げるのだが、どうも様子がおかしい。何故なら眼の前に居る女性と思しき人物の肌が青色だったから。『人間ではない』と心が警鐘を鳴らす。

「ニール!取らないアルカ?」
「ワン。見ろよあれ」
「ん~?……女じゃないカ?」

 リックもワンも気付く。一緒に戦っていた仲間たちもその視線の先を追い、全員が女を視認する。その瞬間にニールの怒号が飛ぶ。

「みんな下がれぇっ!!」

 ニールは地面を強く蹴って仲間たちの前に出た。ギガコングの死体を土台がわりに飛び上がり、上段から女を斬りつける。女は少し足を下げて体を横に反らし、最小の動きでニールの剣を避けた。太刀筋を見破られたことに若干驚き、反撃が来る前に飛びのく。ニールは女の姿を間近で見て確信した。

「お前がこのダンジョンの主か?!」
「……いかにも」

 女はつやつやの長い黒髪をたなびかせ、青い肌に赤い亀裂の入った腕を伸ばした。

「……あの髪の無い男がこう言ったな?ニールと……貴様がニール=ロンブルスで間違いないか?」
「ああそうだ。僕がニール=ロンブルスだ。そう言う君の名前は?」
「……レイラ……レイラ=伯爵アール=ロータス……」
「アールだと?2番目の名前がハウザーに似ている?」
「……奴と私は階級が一緒だったからな……」
「階級……?」

 レイラ=伯爵アール=ロータス。皇魔貴族で女王クイーンを除けばナンバー3に位置する実力者。ここは彼女が支配するダンジョンであり、最奥の25階層で侵入者を待ち構える最強の魔族である。普段絶対に人前に現れることのない彼女が姿を見せたのは、暴れまわるニールたちを止めるためでは断じてない。

「……戦うつもりはない。2、3人貴様らの内の誰かを貸してほしい……悪いようにはしない」
「……一応聞いておくが何のためにだ?」
「……人質だ……念のために……」
「ふっ……豪胆だな。僕を前にそんなことを言うなんて……」

 ボッ

 ニールはロータスに向けて剣を横薙ぎに払う。ロータスは残像を残しながら2歩下がる。ニールの攻撃がかすりもしない。そのことからリックはようやく気付いた。

「魔族だ……あいつ魔族だ!!」

 その瞬間に全員が武器を取り出し、臨戦態勢を取った。

「……戦うつもりはない……っと言ったのだがな……」

 ロータスはスッと手を挙げる。それに合わせて背後の暗い穴からデーモンがワッと大挙する。

「……ニール=ロンブルスは私が相手をする。他の連中から良さそうなのを連れて来い。1人か2人で良い」

 羽音で掻き消えそうな声だったが、デーモンたちは迷うことなくニールを避けてこのフロアの冒険者を襲い始める。

「卑怯なっ!」
「……ふんっ……なんとでも言うが良い……」

 ロータスは諦めたような目でニールを見据える。その目に一瞬悲哀を感じ、何か訳ありなのだろうと受け取ったが、仲間をさらわれるわけにはいかない。ニールは心を鎮めてゆっくりとロータスの戦力を見極めようとする。
 ハウザーの時にも感じた凄まじい力がニールに推し寄せる。当時は絶望を感じたが、今は違う。ニールが魔剣によって底上げされた力は元の能力の10倍以上。ハウザーと対峙した時とは桁違いの強さを持ったニールは、ロータスを前にして物怖じすることはない。

(……多くの戦績で確認したこの魔剣の威力。この魔族に通用するなら、すべての生物に勝てると言っても過言ではない)

 剣をかざしてロータスを牽制する。ロータスは表情1つ変えようとしない。ジリジリとにじり寄るニールにスッと人差し指と中指を立てた。一見すると単なるピースサインだが、その指をゆっくりとロータスの両目に近付けると途端に意味が変わってくる。その様子は『私の目を見ろ』だ。
 それに気付いた時、勝負は決まっていた。

 ドクンッ

(……しまった)

 ニールは膝を折る。剣を握り締めたまま虚空を見つめてニールは気絶してしまった。
 邪眼。彼女の操る異能力。その能力は麻痺、昏睡、精神汚染、感情操作、即死など多岐に渡る。

「……ダンベルクが危険視するだけはある……だが貴様と私の実力にはまだまだ開きがあるようだな……正直言って安心したよ……ニール=ロンブルス……」

 ロータスはサッと翻って奥に引っ込んでいった。デーモンたちの大攻勢は冒険者に打撃を与えた後、戦いの跡だけを残して引き上げていった。
 昏睡状態から目が覚めた時、ボロボロの仲間たちがニールを覗き込んでいた。想定しているレベルを遥かに超えていた仲間たちの顔はお通夜ムード。そしてさらなる追い打ちが待っていた。

「居ないんだよ……お嬢が……」
「な、何だって?!」

 連れ去られたのはクラウドサインのシルニカ。

「お嬢様!?お嬢様!お嬢様ぁっ!!」

 そして風花の翡翠のルーシー=エイプリル。侍女のジューンの呼びかけだけが虚しく響いていた。



「きゃあっ!」
「うっ……!」

 デーモンに床に投げられたシルニカとルーシーは、落ちた箇所が悪かったのか悶絶しながら身をよじる。縛り上げられた手足のせいでろくに受け身を取ることが出来なかったためだ。そんな連れてこられた2人にゴミを見るような視線を向けるロータス。

「痛ぁっ……何すんのよっ!?」

 痛みから早く回復したシルニカが大声を出したその時、パチパチと拍手が鳴り響いた。

「さっすがロータス様!生きの良い人質を五体無事に連れてくるとは!それも無傷でのご帰還!いやぁ怖れ入りました!」

 突然現れた魔族に目を移すシルニカとルーシーは真っ白でツルッとした顔にギョッとした。闇からぬっと現れた姿は無貌の怪物。だがよく見るとそれが仮面であることに気付いた。

「……ベルギルツ」
「私なら人質の腕の1本や2本は千切っているかもしれません。あの獅子頭なら殺していたでしょうねぇ。ガサツそうですし」
「……ふんっ……私はあまり関係ない。人質はデーモンたちに任せたからな……」
「ご謙遜を。あなたの邪眼の力があったればこそ、こうして容易に連れてくることが出来たのでしょう。ニール=ロンブルスはどうでしたか?」
「……我らの敵ではない。子爵バイカウントならば返り討ちにあっていたかもしれないが……」
「ほぅ?なるほど。やはり私の目に狂いは無かった!能力に差があれば絶大な効力を発揮する邪眼。はぁ~、私にもそういった格下専用の技があればこうも苦労しないのですが……」
「……おい、聞き捨てならないな……この私を馬鹿にするつもりか?」
「ええ?!どこがです?私は羨んでいるのですよ?格下専用とは侮蔑的な意味ではありません。私の先代……いや先々代のお爺様からあなたの家系にのみ伝わる邪眼に興味を示しておりました。素晴らしい能力であるとねぇ」

 ベルギルツの飄々とした言い回しはロータスの癪に障る。苛立ちで右目の下瞼がピクピク動くのを誤魔化すためにそっと目を閉じた。

「……黙れ。そんなことよりも本当にこれで良かったんだろうな?フィニアスに黙ってこんなこと……」
「ええ、当然です。全て私におまかせください。何の心配もいりませんとも」

 視界を確保するためのない仮面の顔をシルニカとルーシーに向ける。

「わ……わたくしたちをどうするつもりなの?」
「食べても美味しくないんだから!!」
「おや?我々の会話を聞いていなかったのですか?あなた方は人質。安易に傷をつけては人質の価値が下がりますゆえ、丁重に取り扱うつもりですとも。ただし、あなた方が暴れなければね?」
「人質?なんのための?!」

 ベルギルツは首を傾げて顎を撫でた。

「交渉のための人質に決まっているでしょう?まったく、お間抜けと喋ると自分までお間抜けになったかと心配になりますねぇ」
「……わたくしたちであった理由は?」
「ん?基本誰でも良かったのですが、単にあなた方が目立っていただけでしょうね。奇抜な格好は目を引くので今後はやめた方がよろしいのでは?デーモン、早く人質を幽閉してください。目障りです」

 デーモンは首を垂れてすぐに2人を担ぎ上げた。

「ちょっ!まっ……!やめてこんな格好!お嫁に行けなくなっちゃうじゃない!!」
「幽閉って……!どうするつもりですか!!まさかわたくしたちにい、いやらしことを……!?」
「お間抜け!そんなことはしないと言っているでしょう?!だいたい人間と魔族でどうこうなどあるわけがないでしょう!まったくど変態が。さっさと連れて行きなさい!!」

 シルニカとルーシーは尚もギャーギャー騒ぎながらデーモンに連れて行かれた。ベルギルツは深く息を吐くと精神を正常に保ちながらほくそ笑んだ。

「ふふふっ……すべては私の手のひらの上ですよ」

 終始不安を感じるロータスを余所に、ベルギルツは腹の底から笑っていた。
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