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7章
67、合流
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魔導国ロードオブ・ザ・ケインが森の影からチラリと見える。
「お、おお……もう見えた……」
レッドはトルメルン出立から半日と経たずに魔導国が見えたことに感動していた。そんなに距離がないことを踏まえ、何故ここまで感動するのかと考えたライトはレッドに意外そうな顔をする。
「ひょっとしてレッドは方向音痴なのか?」
「えっ!?……まぁ、はい……」
「恥ずかしがることはない。冒険者には得手不得手がある。それを補うのがチームの役目というものだ。レッドが道に迷うなら俺が先導するさ」
「うぅ……頼もしい……」
『レッドは戦闘面以外ではからっきしなので凄く助かります。これで何日も森の中で過ごすなんてことはなくなりそうですね』
「うぅ……面目無い……」
「ミルレース。レッドをあまり責めるんじゃない」
『とはいえ言いたくなる気持ちも分かろう?この距離を迷うとはのぅ。此れとて信じられんことじゃ』
「お、お恥ずかしい限りで……」
「ふふっ、俺としてはレッドが完璧でなくてホッとしているよ。ハウザーをその剣で倒したと聞いた時は少々焦ったが、何故か凄く納得させられた。オリーさんがレッドについて行く理由も何となくだけど分かる気がする」
ライトは優しい顔でレッドを見ている。そんなライトに面白くなさそうに唇を尖らせるフローラだったが、前方に目を向けた途端にキッと鋭い視線を送った。
『止まれ。何か居るぞ?』
レッドたちはその声に立ち止まり、すぐさま前方を注視する。そこに人影がポツンと立っていた。
「……ただの人に見えるが?」
『どうかのぅ?此れには今し方そこに出現したように見えたが……』
フローラの言葉に「まさかそんな」と冗談めかして鼻で笑ってしまうが、その人影がこちらに近づいてくるのに気づくと、半信半疑に警戒してしまう。見た目は間違いなく人間だ。というより、レッドたちはこの人物を知っていた。
「おお、到着したか。待っていたぞレッド」
「あ、グルガンさんだ」
そこには野伏のグルガンが立っていた。特に誰といるわけでもなく1人ここに佇んでいたのだろうか。
「グルガン?あ、そういえば最近……」
「ん?ライト=クローラーだと?……そうか!チームを解散させたのはこれが狙いか。いや、しかしここに来るとは……とてつもない選択をしたようだな」
「そちらこそ辛い目にあったようで……ギルド会館で話は聞いている。御愁傷様だ」
「……すまない、気を使わせたようだ。感謝するライト=クローラー」
「いや、俺は気にしないでくれ。そんなことよりもレッドに用があるのだろう?」
「ああ、そうだった。迎えに来たぞレッド。早速”花の宮”に行こうじゃないか。早いところ話し合いを済ませてしまおう」
「え?あ、でも……」
グルガンは気さくに身振り手振りでレッドを手招く。レッドはオリーやミルレースをチラチラ見ながら困惑気味だ。これにはライトもフローラも怪訝な顔となった。
『はぁ?何を言うておる?これから魔導国なる国で集合するのではなかったのか?』
「そうだ。ニールから話があると思うから先にギルド会館を目指すべきだ。そのために待ち伏せていたのではなかったのか?」
「あ、その……えーっと……」
レッドは説明したくても、どう言葉にすれば良いか分からずあたふたする。それを見かねたグルガンは決心したように1つ頷いた。
「ふむ……ライト=クローラー。そして、そこな精霊よ。正直に言おう。我はゴライアス=公爵=グルガンという魔族であり、今回の話し合いを企画した張本人なのだ」
それを聞いた直後にライトは剣を抜いた。切っ先が目と鼻の先に向けられたグルガンは目を剥いて驚いた。グルガンの知っている人族の速度を遥かに凌駕していたからだ。
「あ、ちょっ……ちょっと待ってくださいライトさん!グルガンさんは敵じゃないですよ!」
「魔族ということだけでも攻撃に値する。人質まで取って話し合いを主張するとはどういう了見だ?こちら側に要求を飲ませるためとしか言いようがない。嘘だというなら、今この時に白状しろ。今なら冗談で片付けよう……」
「冗談ではないし、人質に関しては皇魔貴族の暴走を止められなかった我の責任である。申し訳なかった。すぐに人質は解放することを約束しよう」
『はぁ~?それを信じろというのかい?本当に解放せねば吐いた唾に過ぎんがのぅ』
「我だけではない、誰もが必死になっているのだ。自分が死なないための行動だったり、変革を求めることだったり、誰かを守りたいと考えていたりな。こうなったのはつまり必死にさせた者が居るということよ」
グルガンの目はレッドに向く。ライトは敵意の無いグルガンの目を追ってレッドに視線を移した。
「レッドは確かに強い。しかしそれだけでこの騒動に発展するものなのか?ハウザーを倒したことと何か関係が?」
「ほう?ハウザーの件を知っているのか。ならば話は早い。何を隠そう、レッドが今まで倒した皇魔貴族の数は人類史上最多だ。騎士11体、男爵1体、子爵1体、伯爵1体。それぞれ苦もなく撃破している。見ろあの体を。五体満足どころか、傷ひとつなく健康そのものだ」
「あ、そんな……健康だけが俺の取り柄だからさ」
「そしてこの謙虚な姿勢。まさに追い求めていた存在がここにいるのだ」
「貴様……レッドに何をさせるつもりなんだ?まさか部下になれとでも?」
「いや、何も。全く何もする必要などない。レッドは存在するだけで良いのだ」
『ん?意味が分かりませんよ?』
「私も分からなかった。レッドが存在することは当たり前として……それがなんだ?教えろグルガン」
その言葉に瞬時にライトがオリーを凝視するように振り返り、遅れてグルガンがひとつ頷いた。
「我が目的はひとつ、人類と魔族の共存だ。殺し合うことなどしないように手と手を取り合って仲良く生活していく未来。それを望んでいる」
「それは聞いた話だぞ?」
「オリーってば早いって。ライトさんたちは聞いてないから……」
『ふひひっ!夢物語じゃな。そんな未来訪れるはずもない。魔族は戦いを求め、人類は資源を求める。資源場の先に住まう魔族の強さに今更ながら慌てておるマヌケどもと共存することなど出来ん。それでも争いのない平和を求めるのなら、いっそ魔族が人類を支配するのが良いと考えるがのぅ』
『あら。それは一理ありますね』
『そうじゃろ?』
「我以外の魔族は人類を雑草程度にしか考えていない。無駄と思えば刈る、邪魔と思えば潰す。人類の隷属は死と同意義だ。これは平和とは呼べぬ。断じてあり得んことだ」
フローラとミルレースの意見をバッサリ切る。むくれる2人を無視して言葉を続ける。
「魔族と人が当たり前に助け合える世の中こそが理想の世界だ。レッドたちには話したが、我の統治する国ではすでに魔族と人が共存している。そしてそれを叶えるものこそが他ならぬ武力だ」
「武力で平和を?」
「抑止力という奴だ。我という武力がデーモンたちを萎縮させて爪と牙を削ぎ、人と仲良くなるように仕向けた。我が最初のアプローチとして行ったのはデーモンたちを国民とし、人と会話をさせることであった。人に傷1つでもつければ死罪であることを言い含めてからな。そこで魔族と人の性格や考え方などをすり合わせ、徐々に、しかし確実に国民としての意識を刷り込んでいった。少々長かったが、結果からすれば共存は叶う」
「つまりレッドを最終兵器として魔族どもを脅そうというのか?」
「端的に言えばその通りだ。デーモンとは違い皇魔貴族はそれぞれが個として強大で、今我らをまとめ上げている女王を筆頭に強さに迎合する者がほとんどだ。脅かす存在が現れなかったために自分が死ぬなど考えてもいなかった連中だ。天敵が現れて右往左往する今が絶好の機会といって良い」
『そうかのぅ?この際どちらかが絶滅するまで戦っても良いのではないか?そうすれば憂いなく生き残った方が世界を支配出来るというものよ』
フローラは馬鹿にするようにニヤニヤと笑いながらグルガンを煽っていく。グルガンは肩を落として小さく首を横に振った。
「……精霊は話を聞かんのか……もしくは理解出来ぬのか……」
『グルガンさんが呆れてますよフローラ。私はレッドを抑止力に使いたいグルガンさんの考えは理屈では分かりますが、レッドでよろしいのでしょうか?レッドは何というか、引っ込み思案で口下手で方向音痴の……あ、料理もいまいちな強さだけの男の子です。最近はオリーが心の支えになってくれているから何とか立ってますけど、いなかったら今頃どうなっていたことかと不安になります。何も今でなくとも、もう少し簡単な時にこの話を回してはいかがでしょうか?』
「ひ、酷いな……俺のことそんな風に思ってたんだ……」
しれっと言い放ったミルレースにレッドは傷つく。オリーはミルレースをキッと睨みつけたがその程度ではどこ吹く風である。
「それではダメだ。我が意思を先々に紡ぐことは出来るだろうが、レッドは今世限りなのだ。今後レッドと同じほど強い存在が現れたとて、それはレッドではない。レッドは自己を主張せず、名声を気にせず、支配欲もなければ力を誇示することもない。それが女神の復活というある種の人助けで皇魔貴族を滅ぼそうとしているのだ。奇跡が服を着て歩いているのと同じことなのだ。だからこそ我はレッドをこの世界で一番必要としている」
「グ、グルガンさん……」
レッドは目を輝かせる。自分がこれほど必要とされたことなどなかった。どちらかといえば無下にされてきたことを思い出して少しだけ落ち込んだが、それ以上の高揚感が湧き上がってくる。オリーがレッドと共に戦うと宣言してくれたあの時と同じくらいの感動があった。そのレッドの表情にライトはムッとする。
「気に入らないな……気に入らないが、その話がどこまで真実となるのか興味が湧いた。レッド、グルガンと共に花の宮に行こう」
「え?でも……」
「大丈夫だ。ニールには事後報告で問題ない。俺たちが人質を魔導国に連れ帰れば万事解決なのだからな。彼の話から察するに今回の人質に関してどうすべきか、さぞ扱いに難儀したに違いないからな」
「ふっ……なかなかに察しが良い。察しが良いついでに申し訳ないが、我は皇魔貴族の事実上のナンバー2。表向きは魔族の側だ。話し合いの間、我は魔族側に立って議論していく。もちろんどうあっても我が貴君らの味方であることは変わらん。同じチームメンバーとして共に戦おう」
「ん?同じチームメンバー?」
「ああ。あまりレッドを困惑させないように頼むぞグルガン」
「っ!?……オ、オリーさん?い、今グルガンって……」
「ん?どうしたライト=クローラー?私が何か変なことをいったか?」
「さっきからグルガンは呼び捨てなのに、俺をフルネームで……」
「ああ、グルガンはフルネームが呼びにくいからな。それに冒険者名簿にもグルガンだけだからそのまま呼んでいる。ライト=クローラーは言いやすいからそう呼んでいるに過ぎない」
「そうなのか。呼びやすい俺の名が憎い……それからチームメンバーとはどういう……」
「どうってそのままですよ?グルガンさんはメンバー申請してもらってて、この前承認したので正式に俺たちのメンバーになってます」
「し、しまった!メンバー申請をしていなかった!!……え?そんなことよりも彼が一番乗りなのか?俺じゃなくて?……くそっ!早く申請しておくべきだったのかっ……!!」
地面に崩れ落ち、後悔するライト。レッドは慌てて「あっ!だ、大丈夫ですか?!」と手を差し伸べる。レッドの手を借りて何とか立ち上がるのを確認し、グルガンは踵を返した。
「さぁこっちだ。我についてきてくれ」
「ま、待ってくれ!先ずはやはりギルド会館に行こう!!」
「メンバー申請なら後で出来る。慌てずとも貴君が次であることには変わりない。今も立派なメンバーじゃないか。気にすることなどないだろう?」
「うごごっ!?き、貴様ぁっ……!!」
盛大に悔しがるライトを尻目にグルガンは首を傾げつつ歩き出した。
「お、おお……もう見えた……」
レッドはトルメルン出立から半日と経たずに魔導国が見えたことに感動していた。そんなに距離がないことを踏まえ、何故ここまで感動するのかと考えたライトはレッドに意外そうな顔をする。
「ひょっとしてレッドは方向音痴なのか?」
「えっ!?……まぁ、はい……」
「恥ずかしがることはない。冒険者には得手不得手がある。それを補うのがチームの役目というものだ。レッドが道に迷うなら俺が先導するさ」
「うぅ……頼もしい……」
『レッドは戦闘面以外ではからっきしなので凄く助かります。これで何日も森の中で過ごすなんてことはなくなりそうですね』
「うぅ……面目無い……」
「ミルレース。レッドをあまり責めるんじゃない」
『とはいえ言いたくなる気持ちも分かろう?この距離を迷うとはのぅ。此れとて信じられんことじゃ』
「お、お恥ずかしい限りで……」
「ふふっ、俺としてはレッドが完璧でなくてホッとしているよ。ハウザーをその剣で倒したと聞いた時は少々焦ったが、何故か凄く納得させられた。オリーさんがレッドについて行く理由も何となくだけど分かる気がする」
ライトは優しい顔でレッドを見ている。そんなライトに面白くなさそうに唇を尖らせるフローラだったが、前方に目を向けた途端にキッと鋭い視線を送った。
『止まれ。何か居るぞ?』
レッドたちはその声に立ち止まり、すぐさま前方を注視する。そこに人影がポツンと立っていた。
「……ただの人に見えるが?」
『どうかのぅ?此れには今し方そこに出現したように見えたが……』
フローラの言葉に「まさかそんな」と冗談めかして鼻で笑ってしまうが、その人影がこちらに近づいてくるのに気づくと、半信半疑に警戒してしまう。見た目は間違いなく人間だ。というより、レッドたちはこの人物を知っていた。
「おお、到着したか。待っていたぞレッド」
「あ、グルガンさんだ」
そこには野伏のグルガンが立っていた。特に誰といるわけでもなく1人ここに佇んでいたのだろうか。
「グルガン?あ、そういえば最近……」
「ん?ライト=クローラーだと?……そうか!チームを解散させたのはこれが狙いか。いや、しかしここに来るとは……とてつもない選択をしたようだな」
「そちらこそ辛い目にあったようで……ギルド会館で話は聞いている。御愁傷様だ」
「……すまない、気を使わせたようだ。感謝するライト=クローラー」
「いや、俺は気にしないでくれ。そんなことよりもレッドに用があるのだろう?」
「ああ、そうだった。迎えに来たぞレッド。早速”花の宮”に行こうじゃないか。早いところ話し合いを済ませてしまおう」
「え?あ、でも……」
グルガンは気さくに身振り手振りでレッドを手招く。レッドはオリーやミルレースをチラチラ見ながら困惑気味だ。これにはライトもフローラも怪訝な顔となった。
『はぁ?何を言うておる?これから魔導国なる国で集合するのではなかったのか?』
「そうだ。ニールから話があると思うから先にギルド会館を目指すべきだ。そのために待ち伏せていたのではなかったのか?」
「あ、その……えーっと……」
レッドは説明したくても、どう言葉にすれば良いか分からずあたふたする。それを見かねたグルガンは決心したように1つ頷いた。
「ふむ……ライト=クローラー。そして、そこな精霊よ。正直に言おう。我はゴライアス=公爵=グルガンという魔族であり、今回の話し合いを企画した張本人なのだ」
それを聞いた直後にライトは剣を抜いた。切っ先が目と鼻の先に向けられたグルガンは目を剥いて驚いた。グルガンの知っている人族の速度を遥かに凌駕していたからだ。
「あ、ちょっ……ちょっと待ってくださいライトさん!グルガンさんは敵じゃないですよ!」
「魔族ということだけでも攻撃に値する。人質まで取って話し合いを主張するとはどういう了見だ?こちら側に要求を飲ませるためとしか言いようがない。嘘だというなら、今この時に白状しろ。今なら冗談で片付けよう……」
「冗談ではないし、人質に関しては皇魔貴族の暴走を止められなかった我の責任である。申し訳なかった。すぐに人質は解放することを約束しよう」
『はぁ~?それを信じろというのかい?本当に解放せねば吐いた唾に過ぎんがのぅ』
「我だけではない、誰もが必死になっているのだ。自分が死なないための行動だったり、変革を求めることだったり、誰かを守りたいと考えていたりな。こうなったのはつまり必死にさせた者が居るということよ」
グルガンの目はレッドに向く。ライトは敵意の無いグルガンの目を追ってレッドに視線を移した。
「レッドは確かに強い。しかしそれだけでこの騒動に発展するものなのか?ハウザーを倒したことと何か関係が?」
「ほう?ハウザーの件を知っているのか。ならば話は早い。何を隠そう、レッドが今まで倒した皇魔貴族の数は人類史上最多だ。騎士11体、男爵1体、子爵1体、伯爵1体。それぞれ苦もなく撃破している。見ろあの体を。五体満足どころか、傷ひとつなく健康そのものだ」
「あ、そんな……健康だけが俺の取り柄だからさ」
「そしてこの謙虚な姿勢。まさに追い求めていた存在がここにいるのだ」
「貴様……レッドに何をさせるつもりなんだ?まさか部下になれとでも?」
「いや、何も。全く何もする必要などない。レッドは存在するだけで良いのだ」
『ん?意味が分かりませんよ?』
「私も分からなかった。レッドが存在することは当たり前として……それがなんだ?教えろグルガン」
その言葉に瞬時にライトがオリーを凝視するように振り返り、遅れてグルガンがひとつ頷いた。
「我が目的はひとつ、人類と魔族の共存だ。殺し合うことなどしないように手と手を取り合って仲良く生活していく未来。それを望んでいる」
「それは聞いた話だぞ?」
「オリーってば早いって。ライトさんたちは聞いてないから……」
『ふひひっ!夢物語じゃな。そんな未来訪れるはずもない。魔族は戦いを求め、人類は資源を求める。資源場の先に住まう魔族の強さに今更ながら慌てておるマヌケどもと共存することなど出来ん。それでも争いのない平和を求めるのなら、いっそ魔族が人類を支配するのが良いと考えるがのぅ』
『あら。それは一理ありますね』
『そうじゃろ?』
「我以外の魔族は人類を雑草程度にしか考えていない。無駄と思えば刈る、邪魔と思えば潰す。人類の隷属は死と同意義だ。これは平和とは呼べぬ。断じてあり得んことだ」
フローラとミルレースの意見をバッサリ切る。むくれる2人を無視して言葉を続ける。
「魔族と人が当たり前に助け合える世の中こそが理想の世界だ。レッドたちには話したが、我の統治する国ではすでに魔族と人が共存している。そしてそれを叶えるものこそが他ならぬ武力だ」
「武力で平和を?」
「抑止力という奴だ。我という武力がデーモンたちを萎縮させて爪と牙を削ぎ、人と仲良くなるように仕向けた。我が最初のアプローチとして行ったのはデーモンたちを国民とし、人と会話をさせることであった。人に傷1つでもつければ死罪であることを言い含めてからな。そこで魔族と人の性格や考え方などをすり合わせ、徐々に、しかし確実に国民としての意識を刷り込んでいった。少々長かったが、結果からすれば共存は叶う」
「つまりレッドを最終兵器として魔族どもを脅そうというのか?」
「端的に言えばその通りだ。デーモンとは違い皇魔貴族はそれぞれが個として強大で、今我らをまとめ上げている女王を筆頭に強さに迎合する者がほとんどだ。脅かす存在が現れなかったために自分が死ぬなど考えてもいなかった連中だ。天敵が現れて右往左往する今が絶好の機会といって良い」
『そうかのぅ?この際どちらかが絶滅するまで戦っても良いのではないか?そうすれば憂いなく生き残った方が世界を支配出来るというものよ』
フローラは馬鹿にするようにニヤニヤと笑いながらグルガンを煽っていく。グルガンは肩を落として小さく首を横に振った。
「……精霊は話を聞かんのか……もしくは理解出来ぬのか……」
『グルガンさんが呆れてますよフローラ。私はレッドを抑止力に使いたいグルガンさんの考えは理屈では分かりますが、レッドでよろしいのでしょうか?レッドは何というか、引っ込み思案で口下手で方向音痴の……あ、料理もいまいちな強さだけの男の子です。最近はオリーが心の支えになってくれているから何とか立ってますけど、いなかったら今頃どうなっていたことかと不安になります。何も今でなくとも、もう少し簡単な時にこの話を回してはいかがでしょうか?』
「ひ、酷いな……俺のことそんな風に思ってたんだ……」
しれっと言い放ったミルレースにレッドは傷つく。オリーはミルレースをキッと睨みつけたがその程度ではどこ吹く風である。
「それではダメだ。我が意思を先々に紡ぐことは出来るだろうが、レッドは今世限りなのだ。今後レッドと同じほど強い存在が現れたとて、それはレッドではない。レッドは自己を主張せず、名声を気にせず、支配欲もなければ力を誇示することもない。それが女神の復活というある種の人助けで皇魔貴族を滅ぼそうとしているのだ。奇跡が服を着て歩いているのと同じことなのだ。だからこそ我はレッドをこの世界で一番必要としている」
「グ、グルガンさん……」
レッドは目を輝かせる。自分がこれほど必要とされたことなどなかった。どちらかといえば無下にされてきたことを思い出して少しだけ落ち込んだが、それ以上の高揚感が湧き上がってくる。オリーがレッドと共に戦うと宣言してくれたあの時と同じくらいの感動があった。そのレッドの表情にライトはムッとする。
「気に入らないな……気に入らないが、その話がどこまで真実となるのか興味が湧いた。レッド、グルガンと共に花の宮に行こう」
「え?でも……」
「大丈夫だ。ニールには事後報告で問題ない。俺たちが人質を魔導国に連れ帰れば万事解決なのだからな。彼の話から察するに今回の人質に関してどうすべきか、さぞ扱いに難儀したに違いないからな」
「ふっ……なかなかに察しが良い。察しが良いついでに申し訳ないが、我は皇魔貴族の事実上のナンバー2。表向きは魔族の側だ。話し合いの間、我は魔族側に立って議論していく。もちろんどうあっても我が貴君らの味方であることは変わらん。同じチームメンバーとして共に戦おう」
「ん?同じチームメンバー?」
「ああ。あまりレッドを困惑させないように頼むぞグルガン」
「っ!?……オ、オリーさん?い、今グルガンって……」
「ん?どうしたライト=クローラー?私が何か変なことをいったか?」
「さっきからグルガンは呼び捨てなのに、俺をフルネームで……」
「ああ、グルガンはフルネームが呼びにくいからな。それに冒険者名簿にもグルガンだけだからそのまま呼んでいる。ライト=クローラーは言いやすいからそう呼んでいるに過ぎない」
「そうなのか。呼びやすい俺の名が憎い……それからチームメンバーとはどういう……」
「どうってそのままですよ?グルガンさんはメンバー申請してもらってて、この前承認したので正式に俺たちのメンバーになってます」
「し、しまった!メンバー申請をしていなかった!!……え?そんなことよりも彼が一番乗りなのか?俺じゃなくて?……くそっ!早く申請しておくべきだったのかっ……!!」
地面に崩れ落ち、後悔するライト。レッドは慌てて「あっ!だ、大丈夫ですか?!」と手を差し伸べる。レッドの手を借りて何とか立ち上がるのを確認し、グルガンは踵を返した。
「さぁこっちだ。我についてきてくれ」
「ま、待ってくれ!先ずはやはりギルド会館に行こう!!」
「メンバー申請なら後で出来る。慌てずとも貴君が次であることには変わりない。今も立派なメンバーじゃないか。気にすることなどないだろう?」
「うごごっ!?き、貴様ぁっ……!!」
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