「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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7章

69、交渉

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 フィニアスが名乗った直後、いの一番に声を上げたのは何故かベルギルツだった。

「おや?おやおやおやぁ?これは一体どうしたことでしょう?指定した人数になっていないように感じます。どうも人質の命が惜しくないように感じますが、いかがでしょうかフィニアス様?」

 大袈裟にリアクションして見せながら場を掌握しようと目論むベルギルツ。のっぺらぼうの発言にレッドたちが一瞬困惑の顔を見せたが、すぐにグルガンが割り込む。

「黙らんかベルギルツ!貴公の破綻した策略という勘違いを振りかざすのはやめよ!みっともない悪あがきであると分からんのか?!……失礼した。我はゴライアス=公爵デューク=グルガン。ここからの進行は我が行う。おい、そこのデーモン。すぐに人質をここに連れてこい。丁重にな」
「はっ!!」

 デーモンは頭を下げてすぐさま踵を返した。部屋を出ていくのを見計らってグルガンは口を開く。

「さてレッド=カーマイン。貴公、我ら皇魔貴族に何か恨みでもあるのか?我らの居城を荒らし、苦も無く同胞を撃破する様はまるで悪夢のようである。貴公の目的は何か、今ここで説明せよ」
「え?あ、はい。女神ミルレースを復活させるために女神の欠片を集めています。皇魔貴族が持っているから、取り返す名目で戦っているっていうか……」

 レッドは先ほど話していたグルガンとはまるで違った冷たい態度に感動しながら返答する。演技であることを踏まえるとニヤけてしまいそうだが、それだけは不味いのではないかと顔に力を入れる。
 そんなレッドに怪訝な顔を向けるのは魔族全員だった。

「バカな……あの男は女神の存在を本当に理解しているのか?」
「人間は昔の戦いを知らないんだよ」
「救いようのない奴だ」

 こそこそと子爵バイカウント男爵バロンの面々がヤジを飛ばす。しかしそれもグルガンの咳払いひとつでピタッと止んだ。

「女神ミルレースは昔の皇魔貴族がなんとか封印した最強の破壊神だ。その女神を復活させることは世界の終焉を意味する。我らが保有する欠片を渡すことは出来ん。断固拒否する」
『ちょっと!?それでは戦うほかありませんよ!ねぇレッド!!』
「う、うん。ミルレースは決して破壊神なんかじゃない。ちょっと口の悪い女神様なんだ。きっと人と魔族の隔たりを取っ払ってくれる架け橋になると、俺はその……思いますけど」
『口の悪いは余計ですが、おおむねその通りです。私が復活した暁にはレッドが言うように2種族の隔たりなど取っ払っちゃいますよ!』
「その発言に興味こそ湧くが、信用には値しない」
「そ、そんな……」
「待て。1つ聞きたいことがある」

 レッドの横に並ぶようにライトがずいっと前に出た。

「貴公は?」
「俺の名はライト=クローラー。レッドの仲間だ」

 レッドの目がキラリと輝いた。グルガンは鼻を鳴らして冷たい目でライトを見据えた。

「そうかライト=クローラー。発言を許そう。何が聞きたい?」
「貴様さっき昔の皇魔貴族と言ったな。となれば今誰が破壊神たるミルレースを知っているんだ?その脅威をどうやって知った?」
「我らの歴史書だ。事細かに記録している」
「歴史書か。歴史書は勝者の言い分でしかない。ミルレースを悪しざまに書くことも出来るわけだが、それはすべて真実だと言えるのか?」
「……小賢しい人間め……」

 苦々しく呟くロータスをグルガンはチラッと見る。

「うむ……確かにその通りだ。貴公の言う通り歴史書とは勝者の歴史よ。我らとて疑問に思わなかったことはない。しかし女神の力の一端を知ればその手のひらも返る。フィニアス。よろしく頼む」

 グルガンの視線がフィニアスに移り、フィニアスもコクリと頷いた。そのやり取りに驚いたのは魔族たち。「まさかあれを!?」と狼狽え、ギュッと奥歯を噛み締めて堪えるように気を張る者や、あたふたする者で場が乱れる。
 そんなにも混乱することがあるのかと疑問に思っていると、フィニアスがスッと手を上にかざした。

「感じよ。これが女神の力だ」

 ギュバッ

 空間が歪み、卵のような形をした青い結晶が天井より顔を出した。その瞬間に訪れる重圧。その重圧を感じたすべての生き物は萎縮し、押し潰されそうなほどの全身の重みから膝を地面に付けたくなる。
 跪けば楽になれる。そう心の底から思わされる圧倒的なまでの強力な力。それが青い結晶から放たれていることに気付くのに然程の時間もかからない。
 デーモンはもちろん、ライトやオリー、皇魔貴族の全員が恐怖に煽られながらも何とか堪えている。
 結晶を仕舞う間の10秒。たったそれだけの時間が1時間にも2時間にも感じられるほどの脅威。すでに知っていた魔族はもちろんのこと、ライトやオリー、フローラまでもミルレースのことを怪訝な顔つきで見つめる。さっきまであった仲間意識も吹き飛ぶレベルだった。

「え?え?な、なに?なんでそんな目で見てるんだよ?」

 しかしこの異常事態に困惑で返す異常者が居た。

「今のを……レッドは感じなかったのか?」
『いやいやいや、あり得ぬわ』
「き、君は……鈍感が過ぎるぞ?あれは……一度感じたことがある。そうだ、貴様らがアヴァンティアに攻めてきた時に感じたあれと似ている」
「む?アヴァンティア?」
「ハウザーを向かわせた都市の名前だな。貴公はあの時の力の出どころを知らんのか?」
「ん?どういうことだ」
「あの時の力の発生源は先の石ではない。あの石よりももっと強大な力の波動。それは何を隠そう、レッド=カーマインから出ていたのだ」
「な、なに……?まさかそんな……」

 ライトはレッドに困惑の眼差しを向ける。レッドは自分が何を言われているのか理解出来ず、逆にライトに困惑の眼差しを向け返した。フローラも驚愕する。

『あぁ?あの重圧をこの男が?そんなの……まったく感じぬが?』
「それは我らとて同じこと。一瞬だけ感じた凄まじいまでの力はまさしく女神を凌駕する」
『ちょっと待ってください!あの石が何故私の力を持っていると言えるのですか?!デタラメです!擬似的に誇張された力に怯えるなど愚かすぎます!!』

 ミルレースの必死さに気圧されたライトは「一理あるが……」と勢いに飲まれる。レッドは目をしばたたかせながら懐から女神の欠片を取り出した。

「え?でも封印されたよね?」
『ちょっ……!余計なことを言わないでくださいよ!』
「いや、レッドが言わずとも俺が言おうとしていた。嫌がらせにしては手が込みすぎているとな。魔族が封印し、わざわざ砕いてまで隠したのは、封印した結晶を消滅させることが出来なかったからだと推測する。あれほどの力を隠したのも、力を分散し切れなかったためと考えれば説明は付く。状況だけならミルレースがいかに危険か、嫌でも理解してしまう」
『何ひとつとして理解出来ていませんよ!これは私を排除しようとする流れです!レッド!!レッドは私を見捨てませんよね!?』
「う~ん……ミルレースを復活させたい気持ちは今も変わらないよ。約束は守りたいからさ」
『レッド!信じていましたよ!!』
「レッドがそう言うなら私もレッドに賛成だが……」
「さすがオリー!」
「待てミルレース。私の発言を最後まで聞いてほしい。……グルガン。もしだ。もしこちらが女神復活を諦めた場合、そちらは私たちに何をするのかハッキリさせてくれないか?こちらが一方的に女神復活を諦め、後は通常通りというのは割に合わない。レッドの目的を諦めさせるだけの利点があればそれを教えてほしい」
『何をバカな!そんなこと……!!』
『ミルレースよ、静かにせい。あくまで”もし”の話じゃて』

 グルガンは顎に手を当てて数秒思案する。そこでベルギルツが急に前に出た。

「当・然っ!人質の解放です!あなたが女神復活を諦めることで2人の命が助かるのです!!ここであなたの品位が問われるのですよおぉぉおっ!!」

 どうだと言わんばかりに胸を張って堂々とぶち上げたベルギルツの考えるレッドたちの利点。人質を取ったのはこのためだったと言いたげな雰囲気に、皇魔貴族はもちろんデーモンたちをも失笑させるのに十分な道化具合だった。

「……ならば今後人族に対し、我ら魔族が一切手を出さないことを約束するのはどうか?休戦協定……いやこの際、人と我々が和平を結ぶのが良いかもしれん。貴公らも魔族と2度と戦わなくてよくなるのは良いことであろう?」

 グルガンはベルギルツの言葉を完全スルーし、話し合いを和平に持っていった。オリーのアシストありきだが、ライトはグルガンの組み立てに関心する。

(……そうか、ここで出すのか。しかし……)

 女神の脅威を伝えることでレッドに女神復活を諦めさせ、魔族側にもレッドに『納得』させるためだからと譲歩を引き出そうと言う魂胆だったようだ。だがこの作戦は完全に失敗している。何故なら肝心のレッドに女神の力が一切響いていないのだから。

「う~ん……」
『絶対にあり得ません!!こんなの話が違いますよねぇ!?ねぇレッド!無視してください!こんな話っ!!』
「うん……いや、えっと……そもそも俺は冒険者だ。魔族が俺個人を襲ってくる分には別にいいと思ってる。そういうのも冒険の一環っていうか……あ、街や村のことを思えば襲ってこないに越したことはないと思っているんだ。でも襲って来たら来たで特別任務クエストが出るからお金稼げるし、危険はあるけどそればっかりじゃないっていうか……とにかく俺は冒険者の視点でしか話を広げられない。和平とかそういうのはもっと上の人と話してくれよ。王様とかさ」
「ああ、レッドらしい答えだ」
『ぬぅ……らしいのかも知らんが、それじゃ何にもならないんじゃないかえ?』
(……いや、レッドは女神がどうのこうのではない。自分が話の中心にいることにも気づいていないのでは?)

 ライトは考える。レッドが話の中心に自分を置かなければグルガンの策は空回りだ。階段の上で未だ胸を張って手を広げているベルギルツと大差ない。軌道修正すべきかどうかを思案しているとグルガンが口を開いた。

「実は……もうひとつ案がある。貴公のその反応でこうせざるを得ないと我も決心がついた」

 グルガンは諦めたような、それでいて晴れ晴れとした顔で言葉を紡ぐ。

「貴公の目的を叶えよう。女神を……復活させる」

 場内に激震が走った。
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