「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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8章

86、死

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 死。
 それは抗うことの出来ない誰もが最後に辿り着く終着点。どのような生き物であっても、避けられず、遠ざけられない概念。
 デス
 ミルレースが出現させた死の具現。不定形のスライムが形状を保ちつつ常に流動し続け、不定形ゆえにどんな形にも変幻自在。
 ミルレースがデスの体内に取り込まれ、したり顔でレッドたちを嘲笑っているところからある程度の察しは付く。

「レッド。あれには触れてはならぬ。触れれば即死と心得よ」
「えぇっ!?な、なんでそんなことが……?」
「勘だ。だが我の勘はよく当たる」
「私もあれが怖い。もし触れたら全てを持っていかれそうだ」
「オ、オリーもそんな風に思うのか?確かにかぶれそうではあるけど……」
「俺も2人に賛成だな。あの毒々しい見た目からは危険なことだけがよく伝わってくる。即死ではなかったとしても、永続級の弱体化デバフとか掛かりそうだ。触れないよう立ち回るのは当然として……問題はどう倒すかだが、とにかく少し距離を取ろう」

 ライトの提案でレッドたちはデスに包まれたミルレースから間合いを取る。

「おやおやぁ?そんなに遠くちゃ攻撃出来ませんよ?待ってくださいよぉ~」

 ズルズルと死のスライムはゆっくりと進んでくる。移動は遅いようだ。

「グルガン」

 背後から聞こえた声に肩越しで反応する。

「フィニアス!待っていたぞ!」
「待たせたようだな。これより私も参戦する」
「助かる!」

 グルガンとフィニアスの短い会話が終わり、フィニアスは手を挙げた。

「皇魔貴族よっ!!」

 フィニアスの呼びかけに、先ほどまで戦闘意欲を失っていた男爵バロン子爵バイカウントが彼女の背後に馳せ参じた。

「女神を叩く。手を貸すのだ」
「し、しかしフィニアス様!わ、我々では……!!」
「相手になりませぬ!」
「戦うことすらままなりません!!」

 ひたすら情けなく嘆くも、先の戦いで悪魔ザ・デビルの1体にすら手こずっているのだ。この怯えようも仕方がないと言える。グルガンやオリー、特にライトが戦えていることが異常なのだ。
 ライトに関しては成長率が凄まじい。ブラッド=伯爵アール=ハウザーに手こずっていた彼はもう居ない。ほんの少しの修行でレッドを抜けば人間最強に上り詰めた天才。
 そんな戦力を目の当たりにすれば、自分たちが取るに足らぬものだと解釈しても不思議ではない。

「私がいつ死ねと命じた?手を貸せといったのだ」
「……?」
「支援に回るということだ。魔法で遠距離から攻撃を仕掛けよ」
「「「はっ!!」」」

 皇魔貴族の面々は片膝を付いて頭を下げる。全員が各々の位置に散り、タイミングを図ったように一斉に魔法攻撃が始まった。
 女神復活に萎縮し、自分たちで勝手に行動を制限し、悪魔ザ・デビルにすら煮え湯を飲まされた皇魔貴族。しかしフィニアスの登場で一気に盛り上がる。渾身の魔力を振り絞り、攻撃魔法を休みなく撃ち続ける。

「おおっ!」

 レッドは目がチカチカするほどの攻撃の連鎖に驚く。一見すれば打ち上げ花火のような美しささえ感じるが、その1つ1つは凄まじい威力を有している。
 相手は動きが鈍いためか攻撃が簡単に当たるが、それほどの威力を持ってして、常に流動し続けるスライムの表面はすぐに元通りだ。デスの体内には振動の1つも届いていない。

「雑魚がっ!邪魔なんですよっ!!」

 ビュルルッ

 突如スライムから伸びる触手。遠距離で攻撃している魔族たちに向けて発射した触手は、ノロノロとした移動と打って変わって素早かった。

「ぬぉっ!?」

 ある魔族は回避行動を取り、ある魔族は魔障壁を張って対抗しようとする。
 これは前者が正解だった。回避行動を取った大半は触手に当たることなく事なきを得、魔障壁を張ったものは無意味に終わる。というのも迫り来る触手は魔障壁をすり抜けたのだ。

 ドポンッ

 触手に包まれた魔族はもがくこともなく、糸の切れた人形のように項垂れている。即死としか言いようのない光景。その後、魂を失った肉体は消化されたように瞬時に溶けてしまった。

「あーっはっはっ!!どうです?どうです?勝てますか?!私に勝てますかぁっ?!」

 デスを纏ったミルレースに死角は無かった。

「……前回はどうやって封印にまで漕ぎ着けたんだよ?」

 ライトは素朴な疑問を呟く。魔法が通じず、触れたらお終いのアルカナ。物量が通じない存在を前に戦闘など成り立たない。ミルレースは自慢の聴力でライトの呟きを拾った。

「ああ。昔は絶対勝てると高を括っていた私の敗因です。なんかいつの間にか魔法陣の上に誘導されて……あっ、いや……そんなのどうでもいいじゃ無いですか。今回は失敗しませんし、これで全て終わらせてみせましょう!!」

 ゴポォゴポォッと原油のように溢れ出る死は、空を隠すほど巨大になり、深海のごとき暗黒へと世界を染める。
 威勢よく魔法攻撃を放っていた魔族たちは悲鳴を上げながら一斉に踵を返し、命惜しさに戦線を離脱しようとする。だが判断が遅い。広がった強い粘性の液体は餌を逃がすまいと四方八方から触手を伸ばし、背中を見せた魔族から消滅させていく。
 この世の終わりのような光景に避けられぬ死を覚悟せざるを得ない。
 レッドは現実味もない光景にボケーッと見上げていたが、「レッド!」とオリーに声をかけられた時、ハッとして目の前にやってくるスライムに気付いた。

「へ?……あっやべっ!爪刃っ!!」

 バシュッ

 魔族の攻撃魔法ではどうしようもなかったドロドロの触手は真っ二つに左右に分かれていく。斬撃は何にも阻害されることなくミルレースに辿り着き、当たり前のように頭頂部から下腹部を寸断した後も威力が衰えることなく空に飛んで行った。
 ミルレースは運命の輪ホイール・オブ・フォーチュンで元通りに再生し、何ともなかったかのように振る舞う。
 ここまでは見た光景だが、ミルレースが一度死ねばアルカナは消滅リセットするはずである。だがデスは消えることなくそこにあり続けている。

「え?あれ?」
「うふふっ……残念でしたね」
「ふむ……別のアルカナと重ね掛けしていると見るのが妥当か……簡単には死なないとは面倒な」
「何を言っているのですか?永遠に死なないのですよ!!」

 レッドたちにデスの魔の手が迫る。レッドとライトはグルガンとオリーに抱えられ、飛行魔法で一気に退避する。いつまでも伸び続けるかと思われた触手は捕らえられないと見るや、諦めたようにミルレースの元に帰っていく。
 レッドたちが退避したといっても戦線を離脱するわけではないと考え、ミルレース自ら引っ込めたのだ。
 次に来る時が戦いの終焉であると悟ったのもこのタイミングだった。

「……レッドの攻撃が通用しないなんて予想外だ。このままではミルレースの力で世界が終わるぞ」
「いや、通用はしている。問題は倒した矢先に回復し、奴の能力が消失しないことだ。レッドの攻撃でデスを一旦消し、無防備になった瞬間に一斉攻撃を仕掛けようと考えていたが、考えが浅かったようだ」
「そういうことは先に言え。戦力を無駄に使用したんじゃないか?」
「いや、無駄ではない。ある程度能力を見極められた。それに奴らは我の言葉には耳を貸すまい。なればこそ、放っておいた方が使い道が出来る」
「……」

 魔族たちがグルガンを追い落とそうとしたことは記憶に新しい。それを思えばライトもこれ以上言葉を重ねない。
 そこにフィニアスと付き従う魔族たちもやって来た。ギリギリで生き延びた者たちが荒い呼吸を何とか整えながらそこに居た。

「女神の力は底なしのようだ。私の代で皇魔貴族が潰えることになるとは……不甲斐ない」
「それは違うぞフィニアス。ここからが正念場だ」
「!……策があるというのか?」
「力を結集させることでどうとでもなる。まずは我が本気にならねばなるまい」

 グルガンから語られた策略はかなりの博打だった。だが奇抜でなければミルレースの虚をつけないのもまた事実。終わらぬ戦いに身を投じるくらいならこれしかない。

「えぇ……俺死ぬとこだったのに、また行くのか……」
「ああ、すまない。これしか道はないのだ。熱いかも知れんが、我慢してくれ」

 最後にレッドにそれだけ言い残すとグルガンは魔剣を1本取り出し、瞬間移動するようにあっという間に消えてしまった。

 ──ゴォッ

「……あら?あなたが来ましたか」

 ミルレースは自分の前に現れた獅子頭に意外そうな顔をする。どいつもこいつもレッド頼りのボンクラ揃い。この局面でレッド以外がミルレースの前に立つのはあり得ないと踏んでいた。

「意外だったようだが、貴様を屠るために他を巻き込むのも忍びないでな」
「ふ~ん。それで?あなたの実力は知りませんが、私と踊るに足る器ですかねぇ?」
「ふっ……踊る、か……残念だが貴様の時間は設けていない。我の独断場となることをここに宣言する」
「生意気な口を……あなたの先祖と大違いですね。後ろから指示を出してばかりで鼻持ちならない獣でしたよ」
「ほぅ?ならば良くやったようだ。死ぬこともなく我の代まで貴様を封印することに成功したのだからな」
「……それも今日で終わりです」

 ゾルッ

 触手を這わせながらグルガンを取り囲もうとしている。何もさせずに一気に始末しようという魂胆だ。

「……言ったはずだ。ここは我の独断場だとな」

 グルガンは手に持っている魔剣をかざし、ミルレースに突きつけた。

「目覚めよ”真紅の牙レイジ イグナイト”。……獣牙解放オーバーエンハンス
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