90 / 338
9章
90、噂
しおりを挟む
噂とは風のようなもの。
風帝フローラはライト=クローラーを探して各地を飛び回る。特に休む必要もなく飛び回る彼女の耳に入ってくるのは女神討伐の噂だ。
「おい、あの奇天烈な異常気象が女神の仕業だって知ってっか?」
「おお、聞いた聞いた。噂になってんべ」
「生きてりゃ凄ぇことに遭遇するもんだなぁ……」
「でもよ、噂を流してんのは女神教って噂もあるべ?となるとよ、神様の威光を騙ったって可能性はねーべか?」
「神様ってのはマジでいると思うぜ?あの現象はそうでもなきゃ説明つかねーもん」
どこへ行っても女神の話で持ちきりだった。神の怒りに触れただの、神の気紛れだの、女神教の頑張りで女神は復活したが何もしてくれず飛び去っただのと様々な噂が飛び交っている。
一般人だとこのくらいの解像度だが、冒険者の間ではだいぶ違ってくる。それというのも天変地異を起こすほどの大災害たる女神を、ある1人の冒険者が討伐したという噂だ。
剣士レッド=カーマイン。
討伐が事実であるかどうか真偽不明のはずだが、今やこの名を口にしない冒険者はこの世界に存在しない。
何よりも問題なのは何故それほどのことを為したとされる男がビフレストという今一番有名なチームから追い出されたのかということ。元々あったレッド最弱説と女神討伐説という両極端の噂が矛盾を生んでいる。これについてビフレストからの声明や回答はなし。噂話は眉唾として片付けられそうになった。
この矛盾を取っ払ったのは魔族に拉致されたルーシー=エイプリルとシルニカである。かなりの功績を持つ人気チームを牽引する2人の女傑。たまたま居合わせたレッドの実力を間近で見てしまった2人は、誰に何と問われても自信を持って答えられた。「レッド=カーマインならあり得る」と。
『ま、当然じゃな』
ふふんっと鼻を鳴らしながらフローラは勝手に得意げになる。フローラが見出したライトが惚れ込む男という間接的に関わっている状況にしたり顔が止まらない。
『……ん?』
なにやら不穏な空気を感じる。数々の噂の中にあるのは懐疑や賞賛、嘲笑や嫉妬といった感情が大半である。しかしフローラが感じた念はもっとドロドロとした暗く淀む憎悪に近い感情。
何故ここまで醜く歪んだ感情を露わにしているのか気になったフローラは、好奇心を刺激されて負の感情の根源を探し出した。
そこは高級と言って差し支えない豪華な宿屋だ。街で一番大きく、泊まっている客はみんな一流であると想像させられる。そんな高級宿の一室で、苛立つ男が居た。冒険者ギルドが保有する最高の冒険者チーム"ビフレスト"。負の感情の根源たる彼の者は、チームに入って1年目の新人剣士リック=タルタニアンだ。
「……チッ」
リックは舌打ちをしてボトルの酒をグラスに注ぐ。やけ酒であることは一目瞭然だが、何をそんなに怒っているのか。気になってしばらく様子を見ているとリックがブツブツと呟き始めた。
「噂が本当なら……俺は何のために……」
昔の仲間を追放してまでチームへの加入を許されたリック。自分は選ばれし存在なのだと当時は相当浮かれていた。
少し前だが、加入1年記念にレッドの追放理由を仲間に聞いて回った。どんな奴だったのか興味が湧いたのはもちろんのこと、ビフレストの足を引っ張りまくったヤバい奴を嘲笑してやろうというゲスい気持ちもあった。
うんざりして話したがらない仲間たちを見ながら、どれほど迷惑していたのかと同情すると同時に心が躍った。しかし、ニールの話してくれた内容はおおよそ自分の考え得る追放理由とは大きく異なっていた。
強すぎるがゆえの追放。何を言っているのか全く理解出来なかった。内心理由になっていないとすら思った。あまりに馬鹿げているではないか。
レッドと話してみて真剣に思ったのは、口下手で要領の得ない底辺野郎である。だから正直レッドが手に負えないレベルで強いなど信じられなかった。実績がなさ過ぎることが大きな要因だろう。
だがルーシーとシルニカの話を聞いた時、冗談の類ではないと悟った。
女神討伐が本当だとして、それなら益々追放の理由が分からない。その力を利用すれば良いだけだし、側に置いておいて損などし得ない。レッドを利用しなかったのはみんなの言葉をまとめると『矜持が邪魔をしたからだ』となる。冒険者として、実力を出せない冒険などお断りだということだ。
「矜持?はっ!吐かせよ……ただ自分たちが劣っていると感じるのが嫌だっただけだろ。……はっ!?えっ?!……つまり俺を加入させたのは……!!」
ビフレストが何故自分を加入させたのかにリックは思い至ってしまった。その瞬間に頭にカッと血が上り、自分を抑えられなくなった。アルコール度数の強い酒を一気に喉に流し込むと、空になったグラスを壁に投げつけ、粉々に砕いた。さらに瓶口に口を付け、喉を鳴らして体内へと流し込む。流石に全部は飲みきれなかったが、許容限界まで摂取したアルコールはいつものリックの思考をもぎ取った。壁に瓶を投げつけ、ガラスと残った酒が飛び散る。
「っざけんな……!俺は恵まれているんだっ!!なのに……何で俺がこんな目に……!!」
嗚咽を漏らしてボロボロとこぼれる涙。その一部始終を見たフローラは哀れみに満ちた目でリックを軽蔑する。
『はんっ、難儀なもんじゃのぅ。人間というのは』
興味関心を失ったフローラはライトを探すためにその場を離れた。
風帝フローラはライト=クローラーを探して各地を飛び回る。特に休む必要もなく飛び回る彼女の耳に入ってくるのは女神討伐の噂だ。
「おい、あの奇天烈な異常気象が女神の仕業だって知ってっか?」
「おお、聞いた聞いた。噂になってんべ」
「生きてりゃ凄ぇことに遭遇するもんだなぁ……」
「でもよ、噂を流してんのは女神教って噂もあるべ?となるとよ、神様の威光を騙ったって可能性はねーべか?」
「神様ってのはマジでいると思うぜ?あの現象はそうでもなきゃ説明つかねーもん」
どこへ行っても女神の話で持ちきりだった。神の怒りに触れただの、神の気紛れだの、女神教の頑張りで女神は復活したが何もしてくれず飛び去っただのと様々な噂が飛び交っている。
一般人だとこのくらいの解像度だが、冒険者の間ではだいぶ違ってくる。それというのも天変地異を起こすほどの大災害たる女神を、ある1人の冒険者が討伐したという噂だ。
剣士レッド=カーマイン。
討伐が事実であるかどうか真偽不明のはずだが、今やこの名を口にしない冒険者はこの世界に存在しない。
何よりも問題なのは何故それほどのことを為したとされる男がビフレストという今一番有名なチームから追い出されたのかということ。元々あったレッド最弱説と女神討伐説という両極端の噂が矛盾を生んでいる。これについてビフレストからの声明や回答はなし。噂話は眉唾として片付けられそうになった。
この矛盾を取っ払ったのは魔族に拉致されたルーシー=エイプリルとシルニカである。かなりの功績を持つ人気チームを牽引する2人の女傑。たまたま居合わせたレッドの実力を間近で見てしまった2人は、誰に何と問われても自信を持って答えられた。「レッド=カーマインならあり得る」と。
『ま、当然じゃな』
ふふんっと鼻を鳴らしながらフローラは勝手に得意げになる。フローラが見出したライトが惚れ込む男という間接的に関わっている状況にしたり顔が止まらない。
『……ん?』
なにやら不穏な空気を感じる。数々の噂の中にあるのは懐疑や賞賛、嘲笑や嫉妬といった感情が大半である。しかしフローラが感じた念はもっとドロドロとした暗く淀む憎悪に近い感情。
何故ここまで醜く歪んだ感情を露わにしているのか気になったフローラは、好奇心を刺激されて負の感情の根源を探し出した。
そこは高級と言って差し支えない豪華な宿屋だ。街で一番大きく、泊まっている客はみんな一流であると想像させられる。そんな高級宿の一室で、苛立つ男が居た。冒険者ギルドが保有する最高の冒険者チーム"ビフレスト"。負の感情の根源たる彼の者は、チームに入って1年目の新人剣士リック=タルタニアンだ。
「……チッ」
リックは舌打ちをしてボトルの酒をグラスに注ぐ。やけ酒であることは一目瞭然だが、何をそんなに怒っているのか。気になってしばらく様子を見ているとリックがブツブツと呟き始めた。
「噂が本当なら……俺は何のために……」
昔の仲間を追放してまでチームへの加入を許されたリック。自分は選ばれし存在なのだと当時は相当浮かれていた。
少し前だが、加入1年記念にレッドの追放理由を仲間に聞いて回った。どんな奴だったのか興味が湧いたのはもちろんのこと、ビフレストの足を引っ張りまくったヤバい奴を嘲笑してやろうというゲスい気持ちもあった。
うんざりして話したがらない仲間たちを見ながら、どれほど迷惑していたのかと同情すると同時に心が躍った。しかし、ニールの話してくれた内容はおおよそ自分の考え得る追放理由とは大きく異なっていた。
強すぎるがゆえの追放。何を言っているのか全く理解出来なかった。内心理由になっていないとすら思った。あまりに馬鹿げているではないか。
レッドと話してみて真剣に思ったのは、口下手で要領の得ない底辺野郎である。だから正直レッドが手に負えないレベルで強いなど信じられなかった。実績がなさ過ぎることが大きな要因だろう。
だがルーシーとシルニカの話を聞いた時、冗談の類ではないと悟った。
女神討伐が本当だとして、それなら益々追放の理由が分からない。その力を利用すれば良いだけだし、側に置いておいて損などし得ない。レッドを利用しなかったのはみんなの言葉をまとめると『矜持が邪魔をしたからだ』となる。冒険者として、実力を出せない冒険などお断りだということだ。
「矜持?はっ!吐かせよ……ただ自分たちが劣っていると感じるのが嫌だっただけだろ。……はっ!?えっ?!……つまり俺を加入させたのは……!!」
ビフレストが何故自分を加入させたのかにリックは思い至ってしまった。その瞬間に頭にカッと血が上り、自分を抑えられなくなった。アルコール度数の強い酒を一気に喉に流し込むと、空になったグラスを壁に投げつけ、粉々に砕いた。さらに瓶口に口を付け、喉を鳴らして体内へと流し込む。流石に全部は飲みきれなかったが、許容限界まで摂取したアルコールはいつものリックの思考をもぎ取った。壁に瓶を投げつけ、ガラスと残った酒が飛び散る。
「っざけんな……!俺は恵まれているんだっ!!なのに……何で俺がこんな目に……!!」
嗚咽を漏らしてボロボロとこぼれる涙。その一部始終を見たフローラは哀れみに満ちた目でリックを軽蔑する。
『はんっ、難儀なもんじゃのぅ。人間というのは』
興味関心を失ったフローラはライトを探すためにその場を離れた。
10
あなたにおすすめの小説
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです
桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。
追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~
軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。
そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。
クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。
一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる