「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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9章

93、不穏

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 運送ギルドの倉庫にて不思議な会話があった。

「あれぇ?ギルマスー。ここに貼ってあった任務クエスト取り下げたんですかぁ?」

 目尻の下がったとぼけた顔の男はこれまた惚けたようにギルドマスターに質問する。ギルドマスターは掲示板をチラリと見て男に視線を戻す。

「あ?そりゃお前……ナーヴァスのとこの嬢ちゃんが持ってったぜ」
「えぇっ!?あれを承諾したんですか?!そりゃ不味いんじゃ……」
「おぅ。なんか聞いた話によりゃあトラブル続きで金が今すぐにでもいるんだとよ」
「え……でもあれは……」

 男が言葉を紡ぐ前にギルドマスターは続ける。

「しょうがねぇだろ。エクスルトは上客だ。金を落としてくれるなら、ちぃと便宜を図るくれぇはするさ。たとえそれが受けた奴が一方的に割りを食うひでぇ任務クエストでもよ……」
「それにしたってひど過ぎじゃないですかねぇ?絶対間に合わない期日で届けて欲しいって無茶振りもいいとこっすよ」
「おい……そこんとこなんだけどよ……耳かせや」

 ギルドマスターは周りに目を配りながらコソコソと話し始める。

「……品物ぶつの中身は何かの催事に使う果物とか道具だぜ。んなもん町の周りで調達すりゃ良いってのに、無事に届けることが出来りゃあの凄ぇ額の成功報酬だ。まぁ遅れたら法外な賠償金を取るってんだから両極端っつーか、無茶なことしやがるよなぁ。そこで俺ぁ考えたんだがよ……」

 今一度クルリと周囲を見渡し、耳をそばだてる者が居ないことを確認すると更に声量を落とした。

「……ありゃぁ運ぶ奴を『死の谷』に誘おうとする手口じゃねぇのか?ってな……」
「それは……考えすぎじゃないですかぃ?俺が考えるにエクスルトの人たちは多分信心深いんっすよ。どこどこの果物じゃなきゃ神はお許しにならないとか、催事用の道具はここそこじゃなきゃならないとか……」
「迂回したら確実に遅れる期日を指定して『日程内に持って来い。出来なかったら莫大な賠償を払え』は変だろ」
「あぁ良かった。そこはちゃんと変だと認めてくれて……」
「あぁ?……まぁ聞け。今回だけだ。ナーヴァスの嬢ちゃんが帰ってこなかったら、それこそこれ以降はあの仕事を回さねぇだけだ。犠牲者を出すのはどうかと思うが……」
「そんなんなら掲示板に貼らなきゃ良いんじゃ……」
「貼らねぇ選択なんざねぇよ。ん?もしかしてお前気付かなかったのか?エクスルトの住民が居座ってたのを……」
「へ?」
「ナーヴァスの嬢ちゃんが持ってったのを確認して一緒に出てったんだよ。ヤバいんじゃねぇかって今回は俺から冒険者ギルドに掛け合ってはみたが、野郎どもは規則規則って俺の顔を立てやしねぇ。まぁなんかあった時はナーヴァスの親父には俺から言うよ」

 ギルドマスターは話を切って自分の仕事に戻る。男は背筋に走る悪寒を振り払うように小走りで自分の仕事に戻った。



 緊急任務クエスト。アラムブラドから遠く離れた街であるエクスルトまでの護衛。
 はっきり言ってそこまで難しい任務クエストではない。荷馬車を魔獣や野盗などから守りつつ街までえっちらおっちら旅をするだけだ。もちろん、実力のないものが護衛をするとなったら、距離にもよるが任務クエストの難度は跳ね上がる。あとは通るべき道だ。安全なルートを外れるようなことになれば死へと直結する。
 そして今回の任務クエストはというと、急ぎの上、期日厳守。遅刻厳禁。荷物の破損は全額弁償という無理難題。その分の対価は超高額ではあるものの、誰も受けたがらず、落ち目のステラに話が回ってきた理由は至極簡単。不可能だからである。その理由が、近道となる”死の谷”を行かなければならないということ。
 死の谷という物騒な名前が付いたのは通ろうとした者たちが生きて帰った試しがないことから来ている。冒険者が蛮勇を奮って入ってみたり、学術的好奇心から入って行く者もいたが、この世にはもういない。終いには自殺志願者が入って行くこともあったようだ。そういった多くの事例からギルドは死の谷を立入禁止区域としている。ただし入ってしまったものに対する処罰は考えていない。

 アラムブラドから離れ、死の谷により近い小さな町に立ち寄ったステラ一行は休憩がてらお食事処に立ち寄り、地図とにらめっこしていた。

「迂回すれば最低でも5日は掛かる。でも死の谷を抜ければ2日。この差は大きい」
「でもさ、死の谷を攻略した例がないのに突っ切るのは危ないんじゃ……」
「大変申し訳ないのですが、私にはもう後がないんです。ここで失敗したら廃業になっちゃうから……」

 ステラは自分に言い聞かせるように呟く。

『ふへへっ。あの谷に行くのかえ?よした方がええと思うがのぅ』
「何か知っているのか?フローラ」
(わっ……まただ……)

 ステラは地図から視線を逸らさずにライトに聞き耳を立てる。ここまでの道中、3人とも時より宙空に話しかけることがある。傍から見たら気味が悪い。イケメンというフィルターを掛けても虚空に話しかける姿は怖すぎる。

(やっぱり気が触れたって噂は本当なのかも……)

 順風満帆だったチームをいきなり解散させ、ロングソードに執着し、山籠りの末イマジナリーフレンドに話しかけるという奇行。解散に関しても、チームの女性たちがライトに付いていけずに全員脱退し、実質解散になったという噂もあった。
 最初こそイケメンに対するやっかみだろうと思っていたが、目の前で見せられると納得せざるを得ない。

『教えぬ。女神を倒せる実力があるのならばどうということはない。それにれらがあれにどう対処するのか。れは見てみたいからのぅ』
「おい待て、何を勝手な……」
「それで致命傷でも受ければ面倒なことになりかねない。もしもレッドが怪我でもしたらどうする。勿体ぶらずに教えたらどうなの?」
『んぅ?いやいや、其れは大丈夫じゃないか?何にせよ此れは教えん。諦めることじゃな』

 プイッとフローラは顔を背け、口を閉ざす。しつこく聞いても無駄だと悟り、オリーもへの字に口を閉ざす。

「ふむ……どの道死の谷を抜けないと期日には間に合わない。何が待ち受けているのかは入って確かめてみるしかないか……」
「ちょっ……ほんとに入るんですか?」

 ライトの呟きにレッドは焦りながら質問する。見るからに情けなく、自信なさげな雰囲気にふと気付いた冒険者がじっと目を細めてレッドのことを見ていた。

「あーっ!」

 急に声を上げ、ビシッと指をまっすぐ突き立ててレッドを指すこの冒険者はクラウドサインのリーダー、シルニカ。ズカズカとレッドとの距離を詰める。

「レッドじゃないの!こんなとこで会うとは奇遇ね!」

 偉そうに腕を組みながらも嬉しそうに話し掛けるシルニカ。チームの男性陣が各々「お嬢!」と声を掛けながら追いついて来た。

「え?あ、シルニカさん。こんにちわ」
「こんにちわ~……じゃないわよ。こんなところで何してんのよ」
「えっとその……警護の仕事をしているというか……」
「警護?ってことはアラムブラドから?奇遇ね!私たちも警護の仕事をしているのよ!」
「あ、そ、そうだったんですね」
「そうよ!……で?この子が警護対象?……ふ~ん。そんなことよりも!」

 ズイッとレッドの目と鼻の先まで近寄る。レッドは急な接近にビビり、恥ずかしさも相まって縮こまる。顔を赤くして忙しなく動く目を睨むように見つめるシルニカは、どの目にも合わないようにそっと左に目を逸らし呟いた。

「……あの時はその……助かったわ。あ、あり……ありがとうね」

 ぎこちない感謝の言葉。怒られるのではないかと身構えていたレッドは空気が抜けたように「へっ?」と間抜けな声を出す。

「お……お嬢が!」
「感謝を!?」

 チームメイトは驚きのあまり目を見開く。

「は?なになに?……はぁっ?!何でそんな驚いてんのよ!私だって普通に感謝してるでしょ!いつもっ!!」

 シルニカの主張など誰にも響かない。傍若無人を絵に描いた彼女が自ら感謝を述べるのは珍しいことだ。シルニカが顔を真っ赤にしながら怒っていると、ふと視界に入ったライトとオリーに焦点を当てる。

「ふんっ!一応あんたらにも感謝しとくわ。レッドだけじゃ不公平だからね」
「私には必要ない」
「確かにオリーさんの言う通りだ。困った時はお互い様というか……」
「はっ?!ちょっ……!?好意くらい受け取んなさいよ!!」

 ヒステリックに騒ぐシルニカを仲間たちが宥め、両腕を抱え、引き摺られながら回収されていく。

「今回は引き下がってあげるわ!でも次は無いわよ!次は私があんたらに借りを返すんだから!!覚えてなさい!!絶対に……っ!!~……!!」

 店にも客にも迷惑を掛けながら、連れ出されてなお叫び続けるシルニカ。仲間の1人がレッドたちに向かって軽くお辞儀をしながら出ていった。
 叫んででも伝えたい内容を聞けば、終始命を助けてもらったという大恩からの感謝の言葉。命を助けてもらった時に憑き物が落ちたようだ。レッドをけなしていた頃の彼女はもういない。

「あれって……確かクラウドサインの……」

 ステラは連れて行かれるシルニカを目で追いながら動揺を隠しきれない。風花の翡翠やクラウドサインが認めるたった3人のチームに興味が尽きない。

「あ、あなたたちはいったい……なんなんですか?」
「へ?……どういう意味です?」

 ステラにもどう言ったらいいか言語化出来ず、目をしばたたかせながら地図とのにらめっこに戻った。
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