「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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11章 新たなる敵

146、海の深淵

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 海の奥深く。深淵と呼ばれるほど深い場所に存在する水竜王の住処。
 深海ゆえに陸の生き物の手が届かず、海の魔物最強種の領海であるため侵されることのない聖域。
 そんな平和な場所にズカズカと異世界からの侵略者『ヴォジャノーイ=アルタベルジュ』が侵攻してきた。

 歴代でも類の見ない最悪の侵略劇。不干渉を決め込む魔物たちも総出で戦いに挑むも、ヴォジャノーイのあまりの強さに為す術もなく叩きのめされ、一緒に戦ってくれた水帝と共に水竜王は牢獄に閉じ込められてしまう。
 ヴォジャノーイの目的は世界征服。水竜王の住処たる深海の美しい神殿は、侵略者の拠点として使用されることとなった。

 そんな時にやって来たレッド=カーマイン。仲間たちと共に辿り着いた海中の神殿に心打たれていると、ヴォジャノーイが因縁をつけてくる。
 会話の末、名前を間違えられたことでいきり立ったヴォジャノーイと壮絶な戦いを繰り広げる──はずだった。

 レッドと対峙したヴォジャノーイは手を床について頭を下げていた。一見すると大きな2本の角を活かした攻撃を仕掛けてきそうな姿勢。しかしレッドに攻撃することなく、そのまま床を破壊する勢いで額をゴリゴリと擦り付けた。

「たた、大変申し訳ございませんでおじゃるぅっ!!い、命ばかりは……命ばかりはどうかご勘弁をっ!!」

 必死に許しを乞うヴォジャノーイの周りには泡となって消えていく召喚獣『超生物ハイパーセル』の残骸が転がっていた。
 ただの人間と侮って攻撃を仕掛けたまでは良かったが、自慢の召喚獣は瞬殺され、自身最強の攻撃だと考えていた技も軽く弾かれた時にヴォジャノーイの内に秘めたトラウマが刺激されてしまった。彼にとってこの光景は初めてでは無い。何もかも封殺された先に服従か死かの選択を迫られたことがあるのだ。
 そんなことなど知る由もないレッドは剣を構えながら困惑を隠せない。

「えぇ……そんなこと言われても……」

 ここにいる誰もがヴォジャノーイの変わり身の早さに驚きを隠せない。命乞いなどされたことがないレッドはどうしたら良いか分からずにキョロキョロと周りを見た。

「殺せぇっ!!今がチャンスだっ!!」

 その声はヴォジャノーイが製作した水の牢獄の中から聞こえてきた。
 中に入れられていた水竜王が拳を振り上げてヴォジャノーイの死を望んでいる。隅っこの方で縮こまっていた水帝も、水の牢獄が解除されるだろうと見込んで立ち上がっている。
 レッドが瞬時に召喚獣をバラバラに切り裂いた時は何かの冗談かと我が目を疑った2人だったが、レッドの戦いを見ている内に段々と慣れてき始め、今ではすっかり立ち直っている。そんな2人の目には明確な殺意があり、レッドが介錯するのを心待ちにしているようだった。
 水竜王の言葉にヴォジャノーイは情けなく「ひぃぃっ!」と悲鳴を上げた。絶対強者のレッドがこの意見を聞き入れれば助かる事はない。

 殺すのか殺さないのか。
 どうすれば良いのか迷っているレッドはヴォジャノーイの悲鳴でさらに躊躇した。魔物相手に一方的な戦いは何度も経験してきたが、ここまで情けなく命乞いをされた経験は皆無。

「レッドレッド~。私もう見てられないよ~。おじゃのーい君を助けてあげてよ。可哀想だよ~」
「おじゃっ!?」

 ヴォジャノーイはバッと顔を上げてレッドに近付くスロウを見る。ふわふわした雰囲気を纏う彼女は慈愛に満ちた目で許しを願う。女神。そう呼ぶにふさわしい存在の気品を感じた。名前は間違えられたが訂正するような状況でもないので黙っておく。

「ス、スロウさん? でも……」
「ちょっとちょっと姫様。敵に情けは無用だよ。せっかく今やっつけられるのに、ここを逃すなんて……」
「そうだよ姫様!こんな奴ぶっ殺しちまおうよ!」
「こ~らっ。ひーちゃん口が悪いよ~」
「だって姫様……おい!お前なんでこっち見てんだ!頭下げてろ!」
「おじゃじゃっ!!」

 極戒双縄の指摘に急いで頭を下げる。

「な、なんだか気の毒になってきたな……」
「ならばスロウの言う通り生かそう。手足を拘束していれば今ここでやらなくても大丈夫だろう」
「……私もこの従者に賛成だ。こいつを生け捕りにすれば多くの情報が得られる。どうせこいつ以外の2体はまだ倒せていないだろうし、まずは情報を聞き出してから……」
「そ、そんな殺生なっ!? 聞きたい事は何でも話すでおじゃるから朕を助けてたもれっ!」
「……情報次第だ」
「うぅ……」

 ロータスの言葉により一先ずは首の皮が繋がったヴォジャノーイ。しかしこの判断を水帝と水竜王が許すはずもない。

「おい待てっ!そっちで勝手にやってるなよっ!妾たちをどうにかしてからにしろっ!」
「とにかく、こなたたちをここから出してほしいんだけども……?」

 レッドはヴォジャノーイに命令し、水牢を解除させた。氷柱の如く見事に作成されていた水の牢獄はバシャバシャッと音を立てて崩れ、2人は自由となった。すぐさま水竜王が走り出してヴォジャノーイに蹴りを入れる。

「このっ!!よくもやってくれたなっ!!」
「あ痛っ!やめるでおじゃっ!やめるでおじゃっ!」

 足を執拗に蹴り続ける水竜王に口だけで抵抗する。反撃すればせっかく繋いだここまでの軌跡を切ってしまいそうだったから動かないように努めているのだ。
 ある程度蹴って満足したのかヴォジャノーイから離れてレッドの元へと歩み寄る。

「助かったぞ人間。いや、レッド=カーマイン。あのまま捕まっていたら妾の体はこの豚に汚されていた事だろう」
「そ、そんな事はしないでおじゃる」
「黙れ豚っ!!……妾は水竜王ウルリヴァイス。そしてこっちが……」
「水帝ジュールよ。そなたがレッド=カーマインなのね。炎帝ノヴァが倒されたと聞いた時は別にどうでも良かったのだけれども、そんなそなたにこんな形で出会えるなんて……敵対する事自体が間違っていたのね。天の光が届かぬ深淵にいても天はこなたらを見放さなかった。感謝いたしますレッド=カーマイン」
「いやそんな……たまたまですよ。たまたま」
「それでも助かったことは事実。本当はこの豚をくびり殺してやりたいところだが、連れていくそうだから妾も命までは取らないで置いてやろう」
「それよ。情報収集のためと言っていたけれど、何か大事が起こりそうな感じなのね。精霊王の一人としてこの事態は置いておけないわ。こなたもついて行っていいかしら?」
「……良かろう。戦力は多いに越した事はない」

 ロータスの言葉によって水帝ジュールが同行することになった。

「しかしどうやってこれを拘束するつもりなの? こなたの能力でも勝てなかったというのに……」
「精霊王でも無理ならここにいる魔法使いではどうしようもないな。レッド、手足を切り落として首と胴体だけ持っていくのも手だぞ」
「えぇ……そんな怖い方法は願い下げだなぁ……」
「む? よく見れば貴様ウルレイシアではないか? 人間の姿で何をしている?」
「よく言われる。私の名はオリー=ハルコン。火竜王ウルレイシアが作り出したゴーレムだ」
「は? ゴーレム?」
「いや、まぁ他人の空似ということで一つ」
「何やら事情があるようだな。今度ウルレイシアに聞いてみるとしよう。拘束の方法だが、こういうのはどうだろうか? 力業になるが、レッドが常にこの豚の両手を締め上げれば……」
「それはレッドが大変なだけだ。もっといい方法があるはず」

 様々な提案が出てくるもコレといった案が出ない。

「あ、こういうのはどうかなぁ?おじゃ君さぁ、こうやって両手首をくっ付けてよ」
「お、おじゃくん……?」

 スロウが拳を握って手首を返す。そのまま両手首をくっ付け、これから縄で縛るようなポーズを取らせる。

「こ、こうで良いでおじゃるか?」
「そうそう。それじゃ──えいっ」

 スロウはヴォジャノーイのくっ付いた両手に向かって手をかざした。一見何もないように見えたが、スロウは満足そうに胸を張って見せた。

「ほぉら、その両手を離して見せてよ」
「え? う、うむ……あれ? 何でおじゃるかこれはっ!? 全然離れな……いや? 凄く遅いでおじゃるっ!!」
「そうなの~。私の能力は時間を遅くする能力。早くすることは出来ないけれども遅く出来るの~。これなら拘束出来るよね」
「す、すごい……」
「よし、それでは帰るとしよう」
「あ、あれ? 申し訳ないでおじゃるが、ここからも動けないでおじゃるよ? 朕空間ごと固定されてるでおじゃるよ?」
「あれ~。ミスっちゃった? もう面倒臭い~」

 結局スロウの能力を解除することになり、巨体を引っ張っていくのも大変なのでヴォジャノーイの背中に乗って海を出るということで話がまとまった。

(えぇ……こんなことになるとは思いもよらなかったでおじゃる……)
「それではウルリヴァイスさん。俺たちはこれで」
「ああ。何か手伝えるようなことがあったら言ってくれ。妾も出来る限り対応しよう。おい豚っ!絶対に変なことをするなよっ!」
「し、しないでおじゃる。……朕に負けたくせに一番偉そうでおじゃるなぁ……」
「なんか言ったか豚ぁっ!!」
「空耳でおじゃるよっ」

 レッドたちは水竜王ウルリヴァイスに別れを告げて海から出た。
 有益な情報源を手に入れて。
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