「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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12章 災厄再来

153、親子

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 ──ゾワッ

 それは一部を除く強者と呼ばれるものたち全員が感じ取った。

 喉元に触れただけで切れる刃物を突きつけられた様な錯覚。
 氷の手で撫でられ、心臓を握られるのではないかと思うほどに鳥肌が止まらず動くこともままならない。
 自分がこうあって欲しくないトラウマの怪物が像を成して闇から這い出てくる様な、目を閉じ耳を塞いでしまいたくなる想像。
 名状し難い恐怖の渦に飲まれていく様な感じたことのない感覚にブワッと脂汗が噴き出す。

 しかしこの感覚を知っているものがこの世にただ一人だけ存在した。

「……お父さん?」

 フッと顔を上げ、いつもは歩くことも億劫にしているスロウは自らの意思でベッドから出て、自らの足で家から出ていこうとする。スロウの魔道具『極戒双縄きょっかいそうじょう』は慌てて口を開く。

「ちょちょっ……!? ひ、姫様!行っちゃダメだ!!」
「不味いよ姫様っ!ここ、殺されちゃうよ!」
「いいの。私はお父さんに会いたいから。もし私に恨みを持っているなら殺されても構わないよ。それだけのことをしたんだから……」

 スロウはドアノブに手をかけ、その手で回す。ガチャリと音を立てて開け放たれたその先に、巨大な影がズラリと並んで立っていた。真ん中に立つ黒い鎧の騎士の様な風貌こそ、もうこの世界で会うことはないだろうと確信していたデザイアだった。
 スロウの記憶の中の父親と寸分違わぬ見た目に一瞬夢の中にいる様な気になって呆けてしまう。しかしすぐにその宝石の様な目から涙がこぼれ落ちた。

「……お父さん」
「久方振りだなスロウ。息災の様で何よりだ」

 その声にたまらず駆け出した。何の躊躇もなく飛び付いてくるスロウを華麗にキャッチし、わんわん泣きじゃくるスロウの頭を撫でてやる。

「おいおい……鎧に抱きついて痛くねぇのかよ……」
「はぁ……分かってないわねドラグロスちゃん。そんなの分かんなくなるくらい愛おしさが爆発しちゃってるのよ。ぐすっ……私感動しちゃう!」

 グレゴールは涙を目いっぱいに溜め、どこから取り出したのか白いハンカチを噛んで悲しみに耐えていた。

「ふざけるでないわ。こんなことをしとる間に周りも儂らを奇異の目で見ておる。不快で不敬な輩どもめが……」

 ヴァイザーは苛立ちからスロウの家以外を消し炭に変えてやろうと考える。だが行動に起こす前にスッとガルムが視界を遮った。

「ぬぅっ……儂の邪魔をするか?」
「……動くな……命令がまだだ」
「ふんっ!そなたはいつもそれじゃな。そうやってポイント稼ぐのがそなたの世界のやり方かのぅ?自分を気持ち良くさせたものだけが美味しい思いが出来るとか……」

 ガルムはヴァイザーの言葉に揺らぐことなく目を閉じる。思った様な反応を得られず、逆にヴァイザーがもどかしく怒りをあらわにすると、デザイアがギロリとヴァイザーを睨んだ。

「おぅ……」

 言葉に詰まって萎縮する。せっかくの再会に水を差すなと目で訴えられている様な気がして。
 そうこうしているとスロウはようやく泣くのをやめてデザイアの顔を見た。

「ごめんねお父さん。私……」
「良いのだスロウ。お前は力を利用されただけだ。言ってみれば騙されたに近い」
「で、でも……」
「お前に関わらず私も悪い。アレクサンドロスの心を見抜けなかったのも、フィニアスごときに遅れを取ったのも、弱かった私が全ての元凶だ。だが今は違う。私は強くなった。だからスロウ、お前の全てを許そう」

 その言葉にジワッと涙が溜まる。またデザイアの胸で泣き始めるのかと思ったが、スロウはサッと踵を返して背中を向けた。

「……ダメだよお父さん。私を許さないで……お父さんを犠牲にグリードを助けようとした私を……なのに結局グリードを助けられなかった私を……」
「……何? グリードが?」

 デザイアは目を丸くして悲しむスロウの背中を眺める。デザイア自身も思った以上の喪失感を感じてギュッと手を握る。

「……グリードが死んだことは予定外であったが、あれは私の力の半分も使いこなせていなかった。あの調子ではいずれ来たる強者に倒されていただろう。私としてはスロウ、お前だけでも生き残っていたのは僥倖と言える。1人で抱え込んでいたのだな。寂しい思いをさせたな」

 スロウに手を差し伸べる様にデザイアは手を伸ばしたが、スロウは首を振りながら振り返った。

「んーん。実はそんなこともなかったんだぁ。お父さん私ね、家族が出来たんだよ」
「ん? 家族……だと?」
「そうっ!家族っ!」

 その言葉にデザイアは無邪気に笑うスロウの顔を見ながら全身に変な力が入るのを感じる。その昔、忠臣アレクサンドロスに心臓をもぎ取られたせいで感情が希薄になったはずのデザイアは、長い時を経て心の底から湧き上がる感情に気付いた。

「……極戒双縄」
「「は、はいっ!」」
「どこのどいつだ? 私のスロウを傷物にした奴は……?」
「い、いえ!そんなことは決してありません!レッドはチームに入ったことを家族になったとそう言って……!」
「そ、そうそう!レッドの様な間抜けにはそんな度胸ありませんし、僕らがそんなことをさせません!」
「むーっ。レッドは間抜けじゃないもん。チームに入れてくれたもん」

 スロウの純粋な目を見てデザイアはホッと胸を撫で下ろす。

(……っ!この私が一端の親の様に……。ふっ……変われば変わるものよ)

 デザイアは腕を組んで感情を制御する。

「レッド……か。何者なのだ? 極戒双縄」
「はいっ!あ、えっと……本名はレッド=カーマインです。冒険者をしていてですね……」
(冒険者? ということは人間がスロウを?)
「あ!最近皇魔貴族から爵位もらったんだよ!確か男爵バロンだったっけ?」
「姫様。今説明中だから横から口を挟まないで……」
(爵位を? では魔族か? だが何故冒険者など……いや、そんなことはどうでも良い)

 ある程度落ち着いて来たデザイアは湧いて来る疑問に蓋をして一つ頷いた。

「ふむ、なるほど。もう良い。その者はスロウの境遇を汲み、1人にしない様に気を使ってくれた様だな。感謝の一つもせねばなるまい。それはそうとスロウ、私と共に来い。この世界に戻って来たのはお前を迎え入れるためだ。さぁ私の手を取れスロウ」

 今度こそデザイアはスロウに手を差し伸べた。スロウは必ずこの手を取る。何故なら唯一の肉親だからだ。先に飛びついて来た様にデザイアのことを少なからず思っているのは明らか。周りの魔神たちも当然そうなるだろうと何の疑いもない。

「あー……えっと……それはそのー……無理かなぁ……って」

 思った様にいかなかったことでここにいた全員が目を剥いた。

「……何故だ?」
「ひ、姫様?!」
「だってだって、私はレッドのチームだから離れるわけにはいかないし……せっかく受け入れてもらえたのに用済みみたいに抜けるなんて、そんなの薄情っていうか……私には出来ないっていうか……」
「……この私よりもレッド=カーマインを選ぶというのか?」
「いや、そうじゃなくて……えぇ……これ難しい……」

 スロウはデザイアの手を取ろうとはしない。それどころか一歩下がって遠ざかる。混乱しているスロウの顔を見てこれ以上の進展はないと見切る。

「ふむ、そうか……急な再会に急な提案だったな。そう焦ることはない。もう少しゆっくり考えれば、お前の気持ちも変わって来るだろう。また来る」
「あ、うんっ!いつでも待ってるからっ!」

 デザイアはその言葉に返事することなく踵を返して去っていく。すぐに黒い門の様な魔法を使用して入っていった。
 魔神たちもすぐ後を追い、異空間へと姿を消す。ドラグロスは後ろ髪を引かれる思いでデザイアの判断に疑問を呈した。

「こんなあっさり引き下がっちまうなんて思っても見なかったぜ。やっぱデザイア──様も娘にゃ甘いのかねぇ?」

 月並みの感想を口にしたつもりだったが、その言葉はデザイアの逆鱗に触れた。目にも止まらぬ速さでドラグロスの首筋を鷲付かむと引き摺り回す様に力を入れた。

「ぎゃああぁっ!!痛ぇっ!痛ぇってぇっ!!」

 ブンブン振り回して投げる様に手を離す。たたらを踏んで態勢を立て直すドラグロスだったが、デザイアはもう興味がなさそうに黒い通路を進んでいく。

「ったくよぉ……子供みてぇなことしやがって……」
「懲りない奴じゃのぅ。デザイア様を怒らせるのが悪い」
「丁度良いストレス解消法よねぇ。ドラグロスちゃんを振り回すのって」
「舐めんなよオカマ野郎」
「もぉー、私は女よぉ? まったくデリカシーが無いったら……」
「あぁ? 股にデケェもんぶら下げといて女はねぇだろ。嘘は100回言っても真実にはならねぇよ。……てかどうすんだ? 浮遊要塞到着まではまだ時間があるぜ。一旦帰んのか?」
「それは主君の決定に委ねるべきこと。うぬが提案すべきことではない。さっさと進め。モタモタするなドラグロス」

 モロクに急かされ、イライラしながら異空間を進むドラグロス。デザイアが開けた出口から顔を覗かせると、そこには玉座に座る女の姿があった。
 現在、皇魔貴族を率いる皇魔貴族の頂点アルルート=女王クイーン=フィニアスだ。ドラグロスが辿り着くほんの少し前にデザイアと会話を交わしたのか、顔を苦々しく歪めて睨み付けている。
 デザイアは心胆を震わせる様な野太い声でフィニアスに語りかけた。

「……レッド=カーマインは何処にいる?」
「何? レッドだと? 来て早々、私を殺しに来たのかと思えば……あれとお前は関係ないはずだ。何故レッドを狙う?」
「説明など不要。教えるつもりがないのなら、望み通りお前を殺してくれよう」
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