「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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14章 帝国編

186、警戒レベル2

 ──黒に染め上げよ。

 喜びに満ちて黒に染め上げよ。
 怒りに任せて黒に染め上げよ。
 哀しみに暮れて黒に染め上げよ。
 楽しんで世界を黒に染め上げよ。

 私に喜んで従え。
 抗うものには怒りに任せて潰すのみ。
 無知なものに憐れみを。

 さぁ行こう。私と共に世界を変えるのだ。
 それは凄く、凄く楽しいものだと保証しよう。

 ──不可思議の彼方に消えた故郷に辿り着き、私はようやく夢を実現させる。



 最北端に位置する大国『龍球王国アマツカグラ』。

 石造りの堅牢な建物が一般的な世界で、唯一木造の建築物だけが立ち並ぶ古風な国。
 自然との調和を考え樹木や花を植え、碁盤の目のように配列された街並みは、窮屈さを感じさせると同時に整頓されたような美しさを感じさせられた。

 外敵の侵入を防ぐための外壁の向こうに雪がチラつく。ピンクの花と白い雪のコントラストが風贅を感じさせるここにも一つ、浮遊要塞がやって来ていた。
 龍球王国アマツカグラの防衛担当であるヒビキ=セイリンは軍を率いて即座に戦闘態勢に入り、浮遊要塞から現れるであろう侵略者の魔の手から国を守ろうと待ち構えていた。

「それで……その後動きは?」
「いえ、全くありません」
「了解した。引き続き警戒を解かぬように」
「はっ!」

 部下からの報告を聞いたヒビキは椅子に座って腕を組んだ。何か考え事をしている素振りだが、全身を甲冑で覆い、兜で頭を守るだけでなく特殊な面頬で顔まで隠してしまっているので、表情を読み取ることは不可能。ただ凛とした高い声が彼女を女性であると認識させてくれる。
 周りを固める兵士たちは屈強な男たち。それに負けず劣らずの長身と、この鎧兜とヒビキという中性的な名前も手伝って初見では必ず男と間違われる。

「おーっすヒビキ」

 そこに白髪の青年が音もなくヒビキの眼前に立つ。いきなりすぎて兵士たちは一瞬身じろぎしたが、青年の顔を見てすぐにその身を正した。

「……何度も言わせるなよコジュウロウ。自分の前に現れる時にはちゃんと伝達するようにしろとな。間違って攻撃したらどうするつもりなのだ?」
「そういう心配は俺様に攻撃を与えられるような奴を雇い入れてからにするんだな。って、んなことはどうだって良いんだよ~。俺ハチャメチャに退屈でさぁ。そろそろおっぱじめても良いんじゃないかって思ってさぁ……」

 手足が長く、細見の男コジュウロウ=ビャクガは赤い瞳をらんらんと輝かせながらヒビキを見据える。ヒビキと違って身軽な黒い装束を身にまとい、音も立てず動き回るその姿は忍者のようである。
 だが、今すぐにも戦争を始めたいという好戦的な様子と縦長の瞳孔が、腹を空かせて狂った猛獣を思わせる。
 今にも飛び掛かってきそうなコジュウロウに対し、ヒビキは鼻で笑って一蹴する。

「駄目だ。貴公の退屈など知ったことではない」
「あぁ~冷たいんだぁ。もう少し寄り添ってくれても良いだろうに……」
「先の会議にもまともに参加しないような奴に寄り添ういとまなどない。『四臣創王ししんそうおう』としての自覚を持ってもらいたいものだな」
「そんなぁ。話はちゃんと聞いてたよ? 天井裏で」
「なら分かっているだろう? 現状維持だ。動かないぞ。……そんなことで自分の元に来るはずもないな。何の用だコジュウロウ」
「いやだなぁ。俺そんなに有能に見えちゃう?」

 ヘラヘラとふざけていたコジュウロウはヒビキの隣に立つと耳元で囁いた。

「……なに、ちょっとしたことさ。あの浮島が現れてから『キジン家』の派閥がやけに騒いでてよぉ。都で駄犬どもが走り回ってやがんのさ。もしかしたらこの機に乗じて動くかもって話。『四臣創王ししんそうおう』のよしみで耳に入れといてやろうと思ってなぁ……」

 ──ギリッ

 その音はヒビキの面頬の中から鳴った音だった。相当な怒りで奥歯を噛みしめている。

「やーやー。そんな歯ぎしりしちゃ端正な顔が崩れちまうぜ? ま、安心しろよ。さっきも言ったが『四臣創王ししんそうおう』の好だ。あの間抜けどもの空気の読めなさ加減には流石の俺様も恐れ入ったが、後はシズクとホウヨクに任せて俺たちは現状維持に徹しようぜ」

 言うことを言ったコジュウロウは帰りも消えるようにその場を後にする。残されたヒビキはただ黙って浮遊要塞を睨み付ける。
 先ほどあれだけコジュウロウに言い含めたというのに、今は自分がこの状況を終わらせたいがために戦争を仕掛けたいとすら考えている。
 権力争いに邁進する愚鈍な公家共に嫌気がさしながらも、ヒビキは防衛の要としての役割に徹するため、深呼吸をして気持ちを静めた。



 浮遊要塞は全部で6つ。その全てが国の傍で待機するわけではない。

 『機界大国ジェムクロフト』は遠く離れた鉱山の直上に待機する浮遊要塞を監視しながら情報を収集していた。

「陛下。龍球王国より書状が届いております」
「ああ、そうか」

 機界大国の王アリオスト=ロンズデイは羊皮紙を受け取り目を通す。
 玉座に座る王の姿はヒゲを綺麗に切り揃え、櫛で梳いた髪の毛は光を反射するように艶々。赤いローブや煌びやかな服は完璧なまでに清潔に保たれ、身だしなみにケチのつけようがない。
 だが、体は線が細く、あまり外に出ていないためか肌が不健康そうな白色。目は落ち窪んでいて、加齢と溜まった疲れがシワを刻んで主張する。顔には覇気が感じられず、濁った瞳がぼんやりと活字を追う。
 身だしなみに反して王であるアリオスト自身には魅力がない。

 それもそのはずで、先代の王である父ヴァリアントの三男坊であったアリオストに王の座は無縁と言えた。恐ろしく優秀な兄たちが父王以上の働きを見せてくれると期待されていたのもあって継承権など有って無いようなものと考えていたからだ。
 しかしそれも長男と次男が立て続けに病死してしまったことで潮目が変わり、一転して『願ってもいなかった』玉座が目の前に置かれてしまった。

 程なくして父王も同じ病で他界。同じ症状で苦しむ国民も複数いたことから流行り病として処理され、帝王学も覚悟もそこそこのアリオストだけが残ってしまったがために責任を強いられた。そのため、在位している各国の王の中で比較的若輩であるにもかかわらず、老けて見えてしまうのは気苦労に耐えないことを物語っている。
 気苦労の一端ともいうべき臣下は偉そうな態度で腕を組み、王以上に威厳たっぷりに鼻を鳴らした。

「ふんっ! どうせ協力要請か何かだろう? こんな時にばかり頼りよって……!」

 煌びやかな王室に不釣り合いなほどの仰々しい全身鎧。そしてフルフェイスヘルムで顔まで身を包んだ男が吐き捨てるように口を開く。
 まるで今から戦争にでも直行するのかと思えるほどガチガチのフル装備だが、これが彼の普段着であり、こうしていなければならない理由があるので話題にも上がらない。
 負の感情によって醸し出される雰囲気と暴力的な見た目から言葉以上に威圧的すぎて恐怖に押し潰されそうになる。
 くぐもったその声を聴くたびにアリオストの胃がキリキリと痛むような気がするが、全身鎧の男の向かいに座る男の声で少し和らぐ。

「仕方のなきことじゃろう。今回の件は誰も予期しなかった……あ、いや、予測不可能と言い換えるべき、有ってはならぬ珍事。我が国と魔導大国以外の国はあの浮島に制空権を握られている。まさに悪夢ですなぁ」
「……オーファウス」

 ブシューッとフルフェイスヘルムの隙間から蒸気を吐き出す。オーファウスと呼ばれた男は真っ白で長い髪を束ね、丸メガネを掛けたほっそりとした老人。シミ一つない真っ白な衣装を着込んだ清廉なイメージを感じさせる。
 王であるアリオストが偉そうな男にビクビクする中、オーファウスは全く臆することなくゆっくりと頷いて見せた。

「アンドレイド殿ももう少し視野を広げられてはいかがかな? 龍球王国といえば良質な金属が取れることで有名。確か玉鋼と言いましたかな? 加工技術も素晴らしい。ああっ、そういえばご長男のライオネル殿も下賜された刀を大層気に入っていたと記憶して……」
「そのくらいにしておけよオーファウス。儂の神経を逆撫でするようなことをすればキサマとて容赦はせんぞ」
「まぁまぁ、そう目くじらを立てずに。私が言いたいのは、これを機に龍球王国に恩を売り、平和的に国際協力を結ぶことで他国よりも色々融通してもらおうと伝えたかったのだよ。陛下、いかがでしょうか? ここは一つ龍球王国に手を貸すというのは……?」

 アリオストに判断が委ねられる。聞いた限りでは罵っているだけのアンドレイドよりもオーファウスの建設的な意見の方が良いに決まっている。すぐに肯定しようとするも「話を勝手に進めるなっ!!」という怒号でピタリと動きを止めた。

「派兵に関しては儂の領分。それにあの浮島が儂らの上空に居ないだけで近くの鉱山付近に停滞している。いつ攻めて来てもおかしくない状態で、戦力を分散させるような真似などするわけがなかろう。何が平和的国際協力だっ。何をするでもなく外に頼るとは笑止千万。こちらも手が離せない旨を記載し、まずは自国でことに当たるように促すべきだ。情報を持ち帰った後、その情報を共有するというなら検討も捗るというものよ」
「私はそのような悠長なことをせず、すぐさま手を繋いだ方が信頼関係も構築出来て効果的に思えるがなぁ。瓦礫の上に立ったところで何の得があるというのか……」
「……儂が龍球王国の疲弊を望んでいると?」
「今の話を聞けばそのように想像しても何ら不思議ではあるまい。とはいえ、アンドレイド殿の言っていることもごもっとも。我が国も危機が目の前にある以上、他国の心配をしている場合でもないのは重々承知の上よ。それでもこうして我が国を頼って来たのであれば、多少なりとも答えてやろうと思うのは人情というものではないか。……陛下、ご決断を」

 二人の頼れる臣下の衝突。水と油ともいうべき交われない二人。
 本来ならオーファウスに従って龍球王国にすぐさま派兵したいところだが、自国優先を目指せばアンドレイドに軍配が上がる。
 ということで王という立場も相まって自国優先に舵を切る。
 国民の安全と生活を守らなければ、ただでさえ頼りない王と思われているのが、ロンズデイ家の没落までことが進行するかもしれない。アンドレイドに睨まれるのも嫌だという思いから、結局は自己保身に走ったのだ。
 でもオーファウスはアリオストの決定に文句は言わない。王の決定に従うことこそが臣下の務めと認識してくれているからだ。こういう時は揉めることなく楽で良いのだが、何かあった際に道筋を正してくれないのではないかとの不安要素も浮上する。

 不甲斐ない王であると自戒しながらも、決断を他人に任せてしまうのをやめられないアリオストであった。
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