「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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14章 帝国編

206、感謝

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 ガルムを斬ったライトの手から剣がヌルッと滑り落ちる。
 奥義を使用するために握りしめすぎて滲んだ血が魔剣の柄にべったりと付着し、痛々しい見た目になっている。
 握力もほとんど機能しない今の段階では、かろうじて剣が握れる程度。もう一度奥義を使用するなど不可能。

 対するガルムは胴体を左右から袈裟斬りに交差したバツの形に斬られていた。
 空間ごと抉り取られた様な凄まじい傷口から徐々に崩壊が始まっているのが分かる。細胞が死滅して乾燥した泥人形のようにボロボロ崩れ行く様は控えめに言っても不気味だ。

 誰の目から見ても疑うことがない明確な勝利。

 逃れられぬ終わりを目の当たりにしたブルックたちは、喜びよりも先にどうやってガルムに手傷を負わせたかの方が気になった。
 正体を現したガルムは魔神と呼ぶに相応しい神の如き力を持っていた。誰も勝てるはずがなく、急成長を遂げたライトも例外なく殺されると考えられていた。
 デモンストレーションと称して放った一撃の威力があまりにも強く、対峙した敵は姿形残らず消滅するのが一般的な見解、血の一滴がそこらに散ってるならままあること、肉の一欠片が残ったなら運が良いといった具合にライトの死を予想するのはあまりにも簡単だった。

 だが、ライトには自ら傷つけた掌以外にこれといった怪我や傷痕が見当たらない。それが何よりも不可解である。

 謎が謎を呼ぶ究極の戦い。

 ガルムはゆっくりとライトを見た。石のように硬かった無表情からは考えられないほどに柔和で優しい微笑みだった。

「ありがとうライト。俺を殺してくれて……感謝してもし切れないほどだ」
「……感謝か……殺されたことに感謝なんて、アンデッドでもそんなこと考えないと思うが……」
「……俺の境遇は特殊だからな……。ライト以外では誰も成し遂げられなかったことだ。……いや、もう一つ言えば、剣聖たちも良い働きをしてくれた。俺の記憶の覚醒に一役噛んでくれたからな。あれがあったからこそ今がある」

 ガルムは立ち上がれない剣聖たちを見渡しながら感傷に浸る。ライトも血だらけの手を見ながらギュッと握りしめた。

「俺にとっても良い機会になったよガルム。君のおかげで俺は壁を突破した。この力でさらなる高みを目指すよ」
「シグルス。シグルスと、そう呼んでくれ」
「……魔神になる前の名か?」

 ガルム、もといシグルスはコクリと頷いた。
 ブルックたちに2人の会話の意味など分かるはずもないのだが、2人の関係性が親密であることは何となく理解出来る。支配領域の中で多くのことが起こったのだろうと勝手に想像する。

「……レッドの隣に立つことを目標にしていると聞いたが……そのままでは不十分だ。この刀を持って行くが良い」

 そういうと納刀した二振りの刀を差し出す。
 ガルムの愛刀、太刀『魔天狼まてんろう』と小太刀『神忌狼しんきろう』。
 大魔王マーナガルムから受け継がれし魔剣は今、ライトの手に渡る。

「いや、ちょっと待ってくれ。俺には過ぎた武器だ」
「そんなことは無い。お前ならこの武器に振り回されることなく使用出来る。お前もよく分かっているはずだ。最高の術者は最高の武器を使わねばならない。……違いが分かるかどうかが自らの価値を大きく高める」
「……!?」

 ライトは何かに気付いたように固まる。そしてガルムの刀を差し出されるままに受け取った。
 シグルスは肩の荷が下りたような、そうでもないような複雑な顔をしながらライトをまじまじと見る。

「……本当は俺の編み出した流派も教えたかったが、もう時間がないようだ。最後に一つ俺のお願いを聞いてくれないか?」
「ああ……何でも言ってくれ」
「俺の称号『魔剣帝』を名乗ってくれないか?」
「ま……何?」
「魔剣帝だ。デザイア様と共に異世界を渡り歩き、多くの世界を支配するうちに自然と付けられていた。魔剣術士が崇める最高峰の称号と聞いている。それをライト、お前に名乗って欲しい」

 シグルスの最後のお願いは実にシンプルなものだったが、ライトにとってそれを名乗るにはあまりにリスクが大きいように感じた。

「……このまま行くとガルムの名前まで名乗らされそうな勢いだな」
「いや、そうじゃない。むしろ逆だ。ガルムの名を塗りつぶして欲しいのだ。……数多ある世界で多くの殺戮をしてきた。そして同時に多くの悲しみを生んだ。この名はあってはならない。ライト、お前が塗り替えてくれ」
「……名乗るのは良いにしても、誰が俺を魔剣帝と認めてくれるんだ?」
「……魔剣帝は先に伝えた通り魔剣術士の最高峰の称号。ならば俺を倒した瞬間からお前は魔剣帝だ」
「なるほど。ガルムが倒された事実を広めようということか。……分かった。今日より俺は魔剣帝を名乗ることを誓う」

 その瞬間にシグルスの顔から完全に険が取れ、目を閉じて頭を下げる。

「重ね重ね感謝する。俺の懸念はこれで全部消え去った」

 そのままゆっくりと顔をあげるとシグルスは虚空を見つめて静止する。体がボロボロと崩れていく中、一つの小さな光の玉が寄り添う様にシグルスの視線の先で止まった。恥ずかしそうにハニカミながら目を伏せ、幸せそうにしている。
 ライトはそんなシグルスを見ながら肩を竦めた。

「……後のことは任せろ。2人で仲良くな。シグルス」

 すでに半透明と化していたシグルスはライトに視線を送ると口パクで感謝を告げた。
 そして光の霧となって肉体は消滅し、光の玉もそれと同時に何処かへと消えた。

 ライトは腰のベルトに刀を差し、姿勢に影響がないか体の具合を確かめる。
 その姿を見たブルックたちはライトにガルムの面影を見た。

 帝国はこの日、多くの戦力と尊厳を失ったが、同時に信念と誇りを守り切る。
 魔神の本気を掻い潜り、崩壊を免れた。



 ──パツンッ

 電気が切れる様に唐突に凄まじい気配がパッと切れる。

 この気配を感じたのは知る限りたったの一度。異世界の一つを終焉へと導いたガルムの本気。
 デザイアが興味本位にガルムを焚き付け、絶滅を容認したあの日。

 だからこそすぐに気付けた。この世界にはガルムを本気にさせる化け物が居る。

 それはさっき見送ったレッド=カーマインではない。レッドとグルガンにはきつく伝えたからこそ絶対に帝国に行くはずがないし、船の軌道も聖王国の方角に向かっていた。
 ドラグロスの考えでは、ガルムはヴァイザーを葬った後で自分を含めた3人で倒す算段だった。
 そうでもしないと勝てないと信じていた。

 ドラグロスは頭を抱える。

「は……ははっ……はーっはっはっはっ!! マジかよっ?! こんなのってありなのかよ!! まさかまさかだぜっ!! あの野郎がジジイよりも先に死ぬなんてこの世界はどうなってんだよっ!?」

 ドラグロスは正直ガルムに恐怖していた。
 対一で戦えば勝率は2割とレッドに豪語したが、本当のところは分からないし戦いたくもない。
 世界最高峰の剣技と不死殺しの力を持つガルムとやり合えば、二度目の世界崩壊を招く恐れもある上、自分が犠牲になる恐れもあった。

「これがそうかっ! これが追い風って奴かっ!! こんな感覚初めてだっ!! 行けるぜレッド! 俺たちは勝てるっ!!」

 夢にまで見たデザイアからの解放の時をドラグロスは幻視し、獣王国の大地を転がりながら大いに喜んだ。



 灰色の空が晴れる様な感覚を味わったのはドラグロスだけではない。
 グレゴールもヴァイザーもまるで信じられないといった顔で驚き戸惑った。

 全力のガルムが帝国を滅ぼす。
 当然そうなると思っていたのに、結果はガルムが死んだ唖然とする状況。

 モロクはドスンと座り込む。デザイアの目の前だというのに、ただただ項垂れていた。
 そんな無礼をデザイアは容認する。
 デザイアも気持ちを同じにしていたからこそ。

「……逝ったか……ガルム」

 こうなることを予見していた様にデザイアは遠い目でガルムを思う。

(結局、私はお前の願いを叶えてやれなかったか……今の私がお前にしてやれることはただ一つ。お前が満足に逝けたことを願うのみだ)

 モロクとデザイアはその場で静かに黙祷を捧げた。
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