魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
7 / 151

第六話 驚愕

しおりを挟む
ドリンクバーで飲み物を入れたポイ子が春田の分まで持って帰ってくる。

「え?魔王様、それ何をしているんですか?」

春田は目の前にノートと教科書を出してノートにペンを走らせている。

「宿題」

「!魔王様が宿題!?」

驚愕のあまり開いた口が塞がらない。持っていたドリンクを震えてちょっと零すくらいだ。

「そんなに驚く事か?人になじむには仕方ない事だろ。17年もいたんだ。生きていく知恵だよ、文字通りな」

教科書を持ち上げて、ペラペラ捲ってみる。

「環境が変われば変わるものですね……昔は書類を見ようともせず消し炭にしてたのに……」

昔の情景を思い出し、感慨に浸るポイ子。そして小学時代を思い出し、感慨に浸る春田。

(夏休みの宿題を燃やしたかったが、出来なかったんだよなぁ……道具に頼りたくなくて諦めたっけ……)

コップを春田の前に置いて、ポイ子も向かいに座る。

「しかし魔王様。それはご自宅でもよいのでは?」

「まあな。でも、集中できないし、何よりたった一人で黙々とするのは寂しいからな……」

それだけを言うと後は集中して黙々とやり始める。

静かにその様子を眺めていたポイ子は、春田が言ったセリフを頭の中で反芻していた。そしてその意味の真意に気付くと嬉しくなってニコニコし始めた。

その視線と変化が気になって顔を上げる。

「……なんだよ?」

「今は寂しくないんだなーって思いまして」

「え?おう、そうだな」

言った言葉をそのまま返しているだけのポイ子に違和感を感じつつ、ノートに視線を落とすが、ハッとなってポイ子を見る。

「え!?いやっ違うぞ?俺は一人暮らしだし、どちらかと言えば広い室内の方が集中できるだけで……」

苦しい言い訳みたいになっている。ポイ子が来た事によって寂しくなくなったと言われている事に気付き、恥ずかしくなったが、間違いじゃないので、何が違うのかは明言できない。

それを知りながらニコニコされる。これ以上は無駄だと判断し、放っといて続きを始める。

しばらくして宿題を終了した春田は、体を伸ばし、それを知らせる。

「ふーっ……終わり終わり……終わりぃ」

固まった体がポキポキ鳴ってほぐれる。

「お疲れさまでしたーー」

飽きもせずに向かいで眺めていたポイ子は春田を労う。

「そろそろ帰るか……」

ポイ子のせいで食事も取れてはいないが、長居するのも気が引けたので、席を空ける事にした。

「はい!」

元気よく返答するポイ子。鞄に私物を詰めている現状で、またも疑問が生まれる。

「お前はこっちに住処とかあるのか?」

「いいえ、こっちには無いですね」

元の世界からやってきているので、当然あるわけがない。

「じゃあどこに?」

「それは勿論、元の世界ですよ」

それを聞いて当然という思いと共に、驚愕が心を満たす。

「も、もももももも……元の世界だって……?」

(帰れるのか!?)

幼少期、元の世界に帰る方法を探し、小説という創作物で心砕かれた過去のある春田は動揺を隠せない。

「いや……そうか。ポイ子が来てるもんな……あり得ない事はないんだよな……」

「?」

ポイ子は首をかしげてコップの中の氷を頬張る。

「それじゃあれか?マレフィアに何らかの合図をして向こうに召喚してもらう感じなのか?」

「端的に言えばそうですね」

色々と優秀だった彼の魔導士を思い出す。

「マレフィアなー……」

ぼんやりとつぶやくと、ポイ子はハッとなって春田に詰め寄るように机に乗り出す。

「そうだ!魔王様も一緒に帰りましょうよ!私はそのために来たんですし」

幼少期の春田なら願ってもない事だろう。あの野心と不屈を持った頑固者ならだ。だが、今の春田は既にいろいろと挫けている。

「いいかポイ子、もう一回言うぞ。以前の力を持たず、おまけに人間ときたらポイ子みたく受け入れられる奴がいると思うか?」

「え?2、3人は……」

「その2、3人が味方であるとしても、いつ何時、命を狙われて死ぬかも分からないんだぞ?」

暗殺の危険性があるなら、そもそも帰りたくないし何に転生するか分からない現状、簡単に死にたくない。せめて、転生先が選べるようになってからそれを確立してなら、元の世界に戻るのもやぶさかではない。

「確かな確証はございませんけど、殺されませんって。確かな確証はないけど、大丈夫ですよ」

「その確かな確証が欲しいんだよ!」

あいまいな答え方で一瞬憤慨するも、ポイ子の気持ちになれば分からない事はない。こんな別世界まで探してようやく目的の主に出会ったのだ。わがままも言いたいだろう。だが、分かると言って、そうは問屋が卸さない。

「ふふっ……実は私も何もしてないわけではないですよ。魔界に帰っても何とかなるかもしれない方法を探しました。その答えは、実はこの世界にこそ存在したのです!」

その言葉は春田を激震させた。

「な……!なんだと!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...