魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
18 / 151

第十七話 鬼

しおりを挟む
「何なのだ?この世界は……」

この世界に転移した際、既に廃れた寺が目の前に現れた。それが何を意味しているのかヤシャは知らない。小高い山の上にあるここは、別世界との境界線があいまいであり、転移の場所に丁度いい。廃れた寺と言う事もあり、人眼からも遠ざけられる。

小高い山の上から見た町は、自分の想像をはるかに超えた世界であり、この近代的な世界に困惑せざる負えない。一瞬めまいがする。転移により三半規管に少々ダメージが入ったようだ。次元を超えるほどに遠い転移は経験が無かった為、そのせいであると推測する。

よろよろと木に寄りかかる。

「……ここに魔王が?」

バギィッという音と共に寄りかかった木を握りつぶす。

「魔王……ヴァルタゼアァ!」

太股の筋肉が盛り上がり、血管が浮く。力が入っているのが見て取れる。ドォンという音が立っていた地面を掘り返し、その勢いと共にヤシャの巨躯は宙を舞う。山の入り口付近に着地し、着地の衝撃はアスファルトを砕き、ガードレールを曲げる。

ガードレールを足で退けて、道路に出る。走ってくる車を見て、「ん?」という顔で不思議に眺める。

キキィッと急ブレーキで迫ってきた車が止まる。

「何やってんだ!どけろ!!」

乗っているのが人間だと見て、イラっとする。

「誰に物を言っている?ヒューマンごときが……!」

「はぁ?あんたにだよ!何でもいいからどいてくれ!」

ミシィという音が聞こえる。その音はヤシャが歯を食いしばった音だ。手を振り上げてボンネットをたたく。メシィッというかメシャというか、とにかく金属がひしゃげる様な無茶苦茶な音がその車を破壊する。騒いでいた運転手の顔にエアバックが膨らみ視界を遮る。

「ぶわっ!!な……なんだぁ!!」

エアバックから顔を出すと、運転席側にヤシャが立っている。空いた窓におもむろに手を突っ込み、胸ぐらをつかんで運転手の男を引き摺り出す。ヤシャの顔は憤怒に彩られ、決して許しはしないと物語っている。

「誰に、物を言っている?」

「ひっ……す……すいません!すいませーん!!」

相手は160前後の小柄な男故、首が閉まり、足が浮くほど持ち上がっている。

「お前の乗っていたこれはなんだ?」

「え?く……車ぁ……」

「なるほど、これが車か…。マレフィアから聞いたが、速い乗り物らしいな…」

胸ぐらから手を放し、壊した車の後ろに並ぶ列を見る。様々な色と形が目に入る。クラクションが鳴り響き、耳にうるさい。

「なぜ大きな音を出す?耳障りだ」

「ゴホゴホ!な……何故ってあんたが俺の車を壊して進めないから……」

「?……横から通り過ぎるとか、そういう事は出来ないのだな?仕方ない……」

ヤシャは壊したセダンタイプの車を下から凄まじい力で持ち上げる。まるで重機のように簡単に持ち上げるその力は正に化け物。小柄な運転手はその様子にビビッて小便を漏らす。

人のいない山の麓に投げ捨てる。ガシャァアンという無茶苦茶な音が鳴り響き、既に廃車となっていた車がさらに破壊される。

それを見ていた運転手たちはこの世のものとは思えない光景に唖然として見ているしかなかった。

「これでよし。ヒューマン、すぐに降参するくらいなら喧嘩を売る相手は考えろ。自分の力をきちんと知る事から始めるのだな……とはいえ私も非常識だったようだ。とっとと退けるとしよう」

山の向かい側の歩道に悠々と歩いていく鬼。
へたり込んだ小男はしばらく動けなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...