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第二十話 崩壊
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春田は走る。
誰の為でもない、ただ自分の為に走る。
だが、これは単純に逃げているわけではない。ヤシャをおびき寄せ、犠牲を減らすためでもある。
(だってそうだろ?あいつは俺を探しに来たんだ!)
自分がいるこの場所は……学校という居場所を破壊してはいけない。もし何かあれば全てに申し訳が立たない。
ただでさえ親族に迷惑をかけているこの状況で、さらに重荷を背負わせるわけにはいかない。学校の関係者に死体を片付けさせるわけにもいかない。
ポイ子は魔王の魂の気配を便りに見つけたと言っていた。つまり、元部下たちにかくれんぼは通用しない。故に、ここ以外の場所で対峙することが必須である。
もし気配を消す方法があるなら教えてほしいくらいだ。
死ななくて済むから。
出来れば転生方法を確立してから煮るなり焼くなり好きにしろと言いたいが、こうなってはそうもいかないだろう。
それというのも、全く力の無い今の自分は、肉体が凶器であるヤシャの力に抗う術はない。
腕力をもっとも重視するオーガ族の頭目を務める彼女を、魔王時代に腕力で屈服させ、辱しめたことがあり、
そのことを長年に渡り、根に持っていた。何かある度にそれを持ち出されて辟易したものだ。
それを前提にヤシャが世界を跨いでまで来る理由を考える。正直、復讐以外考えられなかった。
渡り廊下を越えて校門から遠くへ、ヤシャからとにかく離れる春田。現在授業中であり、廊下には誰もいない。好都合だ。
グラウンドから離れて校舎裏の壁をよじ登り、壁の向こう側へ。結構高い壁ではあるが、意外と簡単に乗り越えられた。普段の自分からは考えられない程に力が出ている。余程、必死なのだろうと客観的な自分がつぶやく。
そこに、ヒュウゥゥッという空気を切り裂く音が聞こえる。どこから?決まってる、上からだ。
これは所謂、落ちてくる音。その音の方に顔を上げると、いた。
赤い鬼。ヤシャ。
目の前20m付近に着地する。ドギャッという豪快な音が鳴り響き、アスファルトを破壊する。直径5mのちょっとしたクレーターを作り、長い髪を振り上げると、こちらを凝視する。目の前に着弾した190cmの赤い弾丸を確認し、キョロキョロと逃げ場を探すが、そんなところあるわけがない。諦めて自ら近寄っていく。
もう少し遠くに行けると思ったが無理だった。春田がどれ程、距離を取ろうとヤシャにとっては大股一歩である。
近くなるにつれて、その異様な姿を目に焼き付ける。相変わらずな見た目は懐かしさを覚え、目頭も胸も熱くなる。ついでに思春期故、ヤシャの恰好に股間も熱くなる。だが、恐怖からその気持ちはすぐに失せ、代わりに縮こまる。
ヤシャは魔王の気配が近くなるにつれ、春田の存在が魔王である事を認識する。しかし、その異様な姿に目を丸くする。(これが…魔王ヴァルタゼア?)
そう思うしかない。聞いて来てはいたものの、目の前にすれば驚愕という他ない。魔王時代は自分が見上げていた3mを超える巨人。自分をはるかに上回る筋力と魔力。化け物であり、怪物であり、超越者。
それが元の印象だ。
だがこれでは、まるで逆。自分が見下ろし、はるかに下回る筋力。魔力は皆無な、ただの非力な人間。しかし、気配は魔王そのもの。
ちぐはぐだ。
転生した魔王は魔王ではなくなっていた。
「よう……ヤシャ……久しぶりだな」
名乗っていないのに自分の存在を知っている。記憶を持っているのか話し方も一緒だ。声こそ若く、違うが、懐かしい気持ちが去来する。
「ヴァルタ……ゼア?」
普段、目が吊り上がってきつい印象を見せるヤシャは、いつまでも目を丸くして春田を足の先から髪の先までまじまじと見ている。
「……ここじゃ目立つな……ちょっとこっちに……」
ヤシャの手を取って、引っ張る。だが、ビクともしない。
「おいヤシャ?俺を困らせ……」
と言った所でヤシャは春田の上に覆いかぶさっていた。
というより包み込んでいた。春田の顔がヤシャの胸に埋もれた時、自分が抱きしめられたことに気付いた。
(ベアハッグ!?)形は違うが絞殺されるイメージが湧き、冷汗が流れ落ちる。このままヤシャがキュッと絞めればボキッといく。春田の生死は一瞬にしてヤシャにゆだねられた。いや、間合いに入った時から既にゆだねていた。
だが、いつまで経ってもキュッが来ない。段々、顔が胸の谷間にある事で息苦しくなり、常人より温いオーガの体温が春田の新陳代謝を良くして、冷汗とは別の汗が流れ始めた頃ヤシャが口を開いた。
「お前……なんで、いつまでも帰ってこないんだ……ずっと……待ってたんだぞ……?」
その言葉は悲しみを堪えている様に震えている。ポイ子の言う元魔王を慕う奴の中には、春田の中でさえヤシャは入っていなかったが、間違いだったと認識した。ヤシャはポイ子同様、待ってくれていた。
固定観念が崩れていくような清々しい気持ちになりながら一言発する。
「……ごめん、ヤシャ……」
誰の為でもない、ただ自分の為に走る。
だが、これは単純に逃げているわけではない。ヤシャをおびき寄せ、犠牲を減らすためでもある。
(だってそうだろ?あいつは俺を探しに来たんだ!)
自分がいるこの場所は……学校という居場所を破壊してはいけない。もし何かあれば全てに申し訳が立たない。
ただでさえ親族に迷惑をかけているこの状況で、さらに重荷を背負わせるわけにはいかない。学校の関係者に死体を片付けさせるわけにもいかない。
ポイ子は魔王の魂の気配を便りに見つけたと言っていた。つまり、元部下たちにかくれんぼは通用しない。故に、ここ以外の場所で対峙することが必須である。
もし気配を消す方法があるなら教えてほしいくらいだ。
死ななくて済むから。
出来れば転生方法を確立してから煮るなり焼くなり好きにしろと言いたいが、こうなってはそうもいかないだろう。
それというのも、全く力の無い今の自分は、肉体が凶器であるヤシャの力に抗う術はない。
腕力をもっとも重視するオーガ族の頭目を務める彼女を、魔王時代に腕力で屈服させ、辱しめたことがあり、
そのことを長年に渡り、根に持っていた。何かある度にそれを持ち出されて辟易したものだ。
それを前提にヤシャが世界を跨いでまで来る理由を考える。正直、復讐以外考えられなかった。
渡り廊下を越えて校門から遠くへ、ヤシャからとにかく離れる春田。現在授業中であり、廊下には誰もいない。好都合だ。
グラウンドから離れて校舎裏の壁をよじ登り、壁の向こう側へ。結構高い壁ではあるが、意外と簡単に乗り越えられた。普段の自分からは考えられない程に力が出ている。余程、必死なのだろうと客観的な自分がつぶやく。
そこに、ヒュウゥゥッという空気を切り裂く音が聞こえる。どこから?決まってる、上からだ。
これは所謂、落ちてくる音。その音の方に顔を上げると、いた。
赤い鬼。ヤシャ。
目の前20m付近に着地する。ドギャッという豪快な音が鳴り響き、アスファルトを破壊する。直径5mのちょっとしたクレーターを作り、長い髪を振り上げると、こちらを凝視する。目の前に着弾した190cmの赤い弾丸を確認し、キョロキョロと逃げ場を探すが、そんなところあるわけがない。諦めて自ら近寄っていく。
もう少し遠くに行けると思ったが無理だった。春田がどれ程、距離を取ろうとヤシャにとっては大股一歩である。
近くなるにつれて、その異様な姿を目に焼き付ける。相変わらずな見た目は懐かしさを覚え、目頭も胸も熱くなる。ついでに思春期故、ヤシャの恰好に股間も熱くなる。だが、恐怖からその気持ちはすぐに失せ、代わりに縮こまる。
ヤシャは魔王の気配が近くなるにつれ、春田の存在が魔王である事を認識する。しかし、その異様な姿に目を丸くする。(これが…魔王ヴァルタゼア?)
そう思うしかない。聞いて来てはいたものの、目の前にすれば驚愕という他ない。魔王時代は自分が見上げていた3mを超える巨人。自分をはるかに上回る筋力と魔力。化け物であり、怪物であり、超越者。
それが元の印象だ。
だがこれでは、まるで逆。自分が見下ろし、はるかに下回る筋力。魔力は皆無な、ただの非力な人間。しかし、気配は魔王そのもの。
ちぐはぐだ。
転生した魔王は魔王ではなくなっていた。
「よう……ヤシャ……久しぶりだな」
名乗っていないのに自分の存在を知っている。記憶を持っているのか話し方も一緒だ。声こそ若く、違うが、懐かしい気持ちが去来する。
「ヴァルタ……ゼア?」
普段、目が吊り上がってきつい印象を見せるヤシャは、いつまでも目を丸くして春田を足の先から髪の先までまじまじと見ている。
「……ここじゃ目立つな……ちょっとこっちに……」
ヤシャの手を取って、引っ張る。だが、ビクともしない。
「おいヤシャ?俺を困らせ……」
と言った所でヤシャは春田の上に覆いかぶさっていた。
というより包み込んでいた。春田の顔がヤシャの胸に埋もれた時、自分が抱きしめられたことに気付いた。
(ベアハッグ!?)形は違うが絞殺されるイメージが湧き、冷汗が流れ落ちる。このままヤシャがキュッと絞めればボキッといく。春田の生死は一瞬にしてヤシャにゆだねられた。いや、間合いに入った時から既にゆだねていた。
だが、いつまで経ってもキュッが来ない。段々、顔が胸の谷間にある事で息苦しくなり、常人より温いオーガの体温が春田の新陳代謝を良くして、冷汗とは別の汗が流れ始めた頃ヤシャが口を開いた。
「お前……なんで、いつまでも帰ってこないんだ……ずっと……待ってたんだぞ……?」
その言葉は悲しみを堪えている様に震えている。ポイ子の言う元魔王を慕う奴の中には、春田の中でさえヤシャは入っていなかったが、間違いだったと認識した。ヤシャはポイ子同様、待ってくれていた。
固定観念が崩れていくような清々しい気持ちになりながら一言発する。
「……ごめん、ヤシャ……」
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