魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
24 / 151

第二十三話 勘違い

しおりを挟む
今日最後はLHR(ロングホームルーム)。

しかし先の件もあり、一限繰り上げで全生徒は今日に限っては早めの下校を促された。

既に町でヤシャが暴れた一件はニュースになっていて、今日は部活もせず、まっすぐ帰るよう校内放送がかかる。

春田には理想的な事だった。

「お前ら、寄り道するんじゃないぞ!」

黒峰は腕を組んで威圧しながら下校する生徒を見る。春田は、はやる気持ちを抑えて、いつも通り教室から出て行く。

とりあえず学校から出られたら走って帰る。それ位で考えながらも、足は急いて動く。早足で校門に着くと、ポイ子が待っていた。

「……お待ちしておりました」

ぺこりと頭を下げて春田を迎えた。「なっ!!」家に帰ったはず。何でまた学生服に身を包んでここにいるのか?ヤシャをマンションに送った後、また来たにしては早すぎるんじゃないだろうか?

「?どうかいたしましたか?」

「どうもこうもないだろう……まぁ、話は後だ。とっとと帰ろうか」

と言って、ポイ子の肩に手を置く。その手を横からガシッと掴まれた。「!?」突然の事に驚いて掴んだ奴を見る。そこに立っていたのは、こちらも女子高生。

茶っ気の髪を肩口で切りそろえ、清潔感を醸し出す。細く、キリッとした目と太い眉が個性的な顔。身長は少し低めだが、体幹がしっかりとした武道を習っている感じがある。教師の黒峰ほどではないが、喧嘩が強そうだと一目で分かる。
シャツのボタンをきっちり上まで留めて、真面目な印象を見せるが、スカートは短めに折り込み、黒のスパッツが太股を被うのが見える。

いつでも戦えるよう準備万端といったところだろう。

「馴れ馴れしい奴め……何者だ貴様!!」

不思議な話だ。ポイ子は既にこの学園で友達を作ったのか?自分には友達の「と」の字もないのに…。

「……春田っていうんだ。あんたは?」

「私は菊池。滝澤さんの警護をしている」

(たきざわ?)聞き覚えの無い名前を聞き、困惑が隠せない。

「……誰?」

「は?ふざけているのか?この方の事だ。ま、まさか貴様……知らないのか?」

そこまで聞けば事態は把握できる。とどのつまりは人違いだ。何時から勘違いをしていたのか、ポイ子だと信じてやまなかったこの女性は、実は、滝澤という元からこの学校で共に勉学に努める生徒だったと言う事。

「なるほど……菊池さんに滝澤さん……ね。あの……今更こういうのもどうかと思うのですが……どうか気を悪くされないでいただきたい。人違いでした。大変失礼しました」

ぺこりと頭を下げて、素直に謝る。

「わたくしと同じ方がこの学園に?ぜひ会ってみたいものですね」

「ああ、お気にされず。俺は何というかその……人付き合いが苦手で……どうも勘違いが多いんですよ。可哀そうな奴に当たったと思って、許してください」

菊地はその態度に掴んだ手を圧迫する。

「痛てててっ……ちょっ!なに?!」

「そうして滝澤さんに近付き、狼藉ろうぜきを働こうとしたわけか?」

「ろ……ってあんたいつの人だよ!痛いんで手を放してくれないか?!」

時代劇のような物言いに、困惑しつつも手を振りほどこうとする。

「まぁ菊池、その辺にしといてください」

「いえ、東グループの御令嬢、詩織しおり様に迷惑をかけた罪はこの程度ではすみません!腕の一本や二本は……」

東グループ。滝澤 剛蔵ごうぞう会長が取りまとめる最大手企業グループ。食品、自動車、医療、銀行等。海外にも支社があり、ネット販売と通信事業にも手を出している。このグループだけで完結していると言われている。

この学園はその会長の出身校であり、OBと言う事で学校運営も賄っている。そんな高校だからこそ一つの義務教育程度に通っているのだろう。

小市民の春田にとっては迷惑な話だ。箔付けに名門校にでも通ってくれればいいのに。滝澤の空気がスッと変わる。

「……菊池」

さっきまでのにやけ面が消えて、菊池を冷たい目で見る。タレ目だというのに鋭利な刃物のようだ。菊池は先程までのキリッとした目が嘘のように怯えた目に代わり、春田から手を離した。滝澤の後ろに隠れるように移動する。まるでよく躾けられた犬だ。

「菊池が失礼いたしました。私の事となるとこの子はすぐ暴走して……」

滝澤は頭を下げて、飼い犬の無礼を詫びる。

「いや、そもそも俺の勘違いのせいでこうなったんだし、謝るのはこっちだ。ごめん」

頭を下げて謝るが「ごめん」という言葉に菊池は脊髄反射の様に瞬時に苛立ちの顔を見せる。

「春田……さん。でしたね。下の名前をお伺いしても?」

「あ、聖なると書いて也と書く、聖也です。”さん”とか別に良いですよ。春田って呼び捨てにしてもらえば……」

「春田 聖也、春田 聖也、春田 聖也……」と3回とブツブツつぶやいて、一回頷くと、笑顔に戻る。

「わたくしは滝澤 詩織と申します。以後、お見知りおきを」

にこりと笑って春田を見る。

「はい!本当に失礼しました!それでは、また機会があれば!」

と言って走って逃げる。

「よろしかったのでしょうか?詩織様……。あのような下賤な輩……」

「口が悪いわ、菊池。そんな事より、彼の詳細な情報が欲しいから、情報を集めなさい」

「なっ!」菊池は驚きのあまり声が出てしまう。

「問題でも?」

「いえ……差し支えなければ、理由をお聞きしても?」

滝澤は春田が走り去った方角を眺めて、ふっと笑う。

「興味が……出ましたからね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...