魔王復活!

大好き丸

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第二十四話 ポイ子とヤシャ

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一人では持て余していたマンションの一室は、本日やって来た巨女の体躯に圧倒されていた。

赤い肌を露出させたセクシーな鬼は正座して魔王の帰りを待っていた。ポイ子は勝手知ったる我が家の様に台所でコップを用意していた。

「ポイ子……何をしている」

ヤシャはポイ子の当然といった行動を不審がった。

「?見てわかりませんか?魔王様の為にお茶をご用意させていただいてます」

コンロを器用に使ってお湯を沸かしていた。ヤシャはスッと立ち上がり、台所に入る。

「……何か御用ですか?」

火がかかったままのヤカンをおもむろに持ち上げると、シンクにまだ茹っていない水を捨て始めた。

「なっ!?ヤシャ様、何を!?」

「何じゃない。魔王は今やただの人。お前如きに、みすみす殺させはせん」

それはポイ子にとって聞き捨てならない言葉であった。

「お待ちください。私は魔王様にとって常に最善であろうと……」

ヤシャは蛇口を優しく捻り、水を入れ直す。ある程度溜まったところで少しずつ水を止める。破壊は望んでいないからだ。蓋をして、火がかけっぱなしになっていたコンロにヤカンを置く。

「なら、口に入るものに関しては触れるな。奴に触れてわかったが、本当に全く力がなかった……あれじゃせいぜい生きて50年くらいだな……」

ヤシャはポイ子に向き直り、見下した態度で目の前に立つ。

「この私が何故、魔王様を殺すのですか?私は魔王様の為ならこの身を捧げられます」

「天然でそんな事しているなら……尚更、近くに置いておけないな」

視線が交差する。今にもバチバチやり合いそうな雰囲気すら感じる。最下級魔物のポイ子対、最上級魔物でありその頭目でもあるヤシャ。その力の差は歴然であり、正直ポイ子に勝ち目などない。

だが、引かない。これはいわば魔王への”思い”の戦い。ヤシャなど自分の足元にも及ばないという自負。その”思い”が勝ち目のない戦いを五分にまで持ち込む。

「何やってんだお前ら……」

そこに丁度、春田が帰ってきた。リビングに上がるまで気づけなかったことに若干困惑しながら二人は春田を見る。

「お……おかえりなさいませ。魔王様」

「フン……時間がかかったな」

春田は絨毯の上に鞄を放り、自身も体を投げ出す。

「実際はあと一時間くらい帰れなかったんだが、今日は特別だよ……」

「それは幸運だったな」

ヤカンの中身を確認し、まだお湯が沸いていない事を確認すると蓋を閉じる。

「それ笛付きのヤカンだから、お湯沸いたら音が鳴るんだよ。火かけっぱなしでいいからこっち来いよ」

寝転んで、面倒臭そうに台所に立つ二人を見る。

「ですって……ヤシャ様」

「ポイ子……私の話を聞いてなかったのか?」

またバチバチやりそうだ。ここはヤシャに加勢する。

「ポイ子―ー」

「あ、はーい!魔王様ぁー!」

ハートが付きそうなほどの猫なで声で寝転ぶ春田の元へやって来る。ヤシャは「うわぁ……」って顔でその様子を見ていた。

お茶を出されて、一息ついた後、経緯を聞いて愕然としていた。

「ヤシャが正しい」

「ええ~……そんなぁ」

毒に対し耐性の無い体をあれほどアピールしたのに通じない。ポイ子は世話を焼きたくて仕方がないのだ。

「大体、俺がまだ魔王の時も、給仕はダークエルフに任せていただろ?」

「わ、私だって!魔王様の最期の時までは給仕してましたよ?」

ダークエルフの里からの侵攻を止める為、人質を取っていたが、それどころではなくなったから、給仕係に任命していたダークエルフを里に返し、その後、戦闘が激化した一ケ月間だ。

「揚げ足を取るな。それこそ毒に耐性があったから誰でも良かったんだ……」

「だ、誰でも……」

ヤシャもその言葉には引っかかった。

「ヴァルタゼア……それは言い過ぎというもの」

「って、俺が言いたいのはその頃の給仕に関してだ。ポイ子は俺の傍にいるだけでいいんだからな」

その言葉に感銘を受けるポイ子。

「ま、魔王様ぁ……」

すぐにでも泣きそうな顔をこちらに向けてくる。それについてもヤシャは不満を示す。

「ふんっ!まぁそうでなければポイ子なんぞに四天王の地位はないだろうしな……」

「え?喧嘩売ってます?」

なんでか仲が悪い。魔王時代から思ってきたことだが、第三者の視点からでもなんでこんなにいがみ合っているのか分からなかった。魔王時代はヤシャに一方的に我慢させてきたものの、今はどうしたらいいか分からない。

放っといてテレビをつける。テレビのニュースで、ヤシャが華々しく現代デビューを飾っていた。

「あ~あ。こんな事してたんですか?無茶しますねぇ~」

「ふんっ!脆弱な奴らよ」

車を壊し、アスファルトを破壊し、警官を恫喝する。一応、ポイ子は映っていなかったが、周りには見られていただろう。ヤシャを相手にひるむことなく立ち向かった女性の姿を。

「え?どうすんのこれ?」

春田は呆然とニュースに流れるものを見るしかなかった。
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