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第三十六話 昼食
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春田は購買にパンを買いに行く。
購買のパンで競争率が高いのが1位、カツサンド。2位、カレーパン。3位、チョコクロワッサン。その順に無くなって行く。だから、1位のパンなど人気のパンを食べたい場合、スタートダッシュが肝心となる。春田には全く関係ない話だ。
今から走ったところで買えるわけがないからだ。
虎田との会話のせいで遅れたからというわけではなく、別に、その人気のパンが売り切れようがどうなろうが知ったこっちゃない。春田にとって購買のどのパンも美味しくいただける自信がある。事実、美味しいから文句も言わずに買って食べる。
のんびり行って買えるものを買う。
購買に着くと、ずらっと並んで目当てのモノを買う学生たちの姿があった。
一人で並ぶ奴、友達で固まってワイワイ言いながら並ぶ奴ら、ダべったり、イヤホンで音楽を聴いたり、みんな思い思いの待ち方がある。最後尾に並ぼうと歩き出した時、肩をポンッと叩かれた。
「……あんたもパン?」
そこに立っていたのは竹内だった。
「おう、竹内。も、って……お前も?」
「そ」
竹内は携帯を出す。指でササッとパスコードを入れてロックを開く。すぐに動く気配がなかったので、ため息交じりに急かす。
「……どうする?一緒に並ぶか?」
「……それも良いけど。今更並んだって良いのはないさ」
携帯を操作し、連絡先を探している。
「……えっと……?それじゃー……」
「どうする」という言葉が出る前に、竹内が春田の目の前に手を出す。携帯を耳に当て、電話をし始めた。
「はい?なんすか?」
その声を辿ると、金髪をツインテールに結った、よく目立つ女子生徒に目が行った。
150cm後半くらいの小柄な女性。上着に学校指定の臙脂の冬用ジャージを着て、下は短めのスカート。靴下を履いていない素足にクロックスといういかにもな不良。胸の所についているネームには「高橋」と書いてある。
「追加お願い」
「うぃーっす。何にします?」
「待って」
と言って耳から携帯を離す。
「何が良い?」
「は?良いのかよ?そんな方法……」
「いいから早く……」
ちょっと苛立ち気味に聞いてくる。こうなると待たせるのも不味い。春田はわずかな逡巡の後、答える。
「サンドウィッチ、ホットドック、あと菓子パン」
「ん……了解」
竹内は「高橋」にそのまま伝える。
「気が合いますねぇ!めぐのラインナップと一緒っす!」
並んでいる列から手を振ってアピールする。
「高橋」のいる位置は二番手くらいだ。これなら待たなくてもすぐにパンが手に入る。竹内は電話を切って春田を見る。
「……それで?どこで食べる?」
………
階段を上り最上階までやって来る。突き当りの扉を開けるとそこは屋上だ。
転落防止用のフェンスは3m弱。フェンスの上はネズミ返しの要領で内側に向いている。登るのも一苦労なので、転落の可能性は極めて低いと予想される。なので、屋上は一応解放されていた。
生徒もチラホラ見える。屋上はまあまあ広いので、他の連中からは離れて座れる。
「こことかいいんじゃないっすか?」
入り口から入ってすぐの角に腰かけた。
「んで、竹さん。誰っすかこの人?」
「高橋」は遠慮なく春田に指をさす。失礼な奴だと訝しんでると、竹内が一言
「……ダチ」
それだけ喋ると、買ってきたカレーパンを黙々と食べ始めた。(雑だな)と思いつつ、金髪ジャージに向き直る。
「俺は春田だ。お前は?」
「高橋」は胸のネームに書かれた名前を指さし、「高橋っす」と言ってニカッと笑った。
「俺と竹内は同じクラスなんだが、高橋はどこのクラスだ?」
「1年B組っす、春田先輩」
後輩だった。同級の不良仲間かと思っていたが、高橋は竹内にこき使われている下っ端という所だろうか?チラリと竹内を見るが、気にせずパンを食べていた。
「こいつらが春田先輩の分っす。どぞ」
といってパンを差し出す。屋上に上がる前にお金は高橋に支払済みなので、「ありがとう」と感謝して受け取る。
「なんか~、春田先輩超まじめって感じっすけど……。お二人の出会いってなんすか?」
「ん?クラスメイトだぞ?出会いなんざいくらでもあんだろ……」
その答えに一瞬、竹内が反応するが、また他のパンに手を出す。今度はピザパンだった。春田はサンドウィッチに手をかける。たまごとハムレタス、どちらから食べるか迷ったが、春田はたまごから食べ始めた。
「たかがクラスメイトってだけで竹さんが仲良くすると?あり得ないっすわ」
ケタケタ笑いながら手を振る。ジロッと竹内が高橋を見るが、また視線を戻して黙って食べる。
見るからに不良の二人だが、全然タイプが違う。竹内が陰キャに対して、高橋は陽キャ。こいつらこそどうやって出会ったのか聞きたいが、あえて無視する事を選んだ。
「そういえば竹さん聞いて下さいよ。あの橋の下に誰かが犬捨ててやがったんですよ。段ボールの中に子犬が二匹。今日ご飯やりに行くんすけど、竹さんもどっすか?」
「……アタシ猫派」
「もったいなー!派閥で行かないとか人生損しますってー!」
きゃいきゃい一人で大はしゃぎだ。軽いBGMと思って聞き流していると、
「っと、春田先輩。口にたまご付けてますよ」
と、予期せぬ所に言葉のボールが飛んできた。ドキッとしてむせそうになるのを抑えて、慌てて答える。
「……マジ?」
口許を確認しようと手を伸ばした時、竹内が「逆……」と言って頬のたまごペーストを指の腹で掬い取る。「……取れた」とそのまま竹内が食べてしまった。その様子を見ていた高橋は、唖然として春田と竹内を交互に見る。
春田も同様に困惑していた。
「……本当に、ただの友達っすか?」
「……悪い?」
「いや……悪くなんてないっすけど……春田先輩とはいつからの仲で?お、幼馴染とか?若しくは意気投合して毎日遊んでたりとか……」
竹内は春田をチラリと見て、高橋に視線を戻す。
「……昨日から」
「は?え?き…えーーーーーーーーっ!!?」
春田は竹内の行動に冷静さを取り戻し、こう考える。(そりゃそうなるわ……)と。「めぐ……うっさい……」と本人は至って普通に受け答えしている。竹内の真意が分からないまま、騒がしい昼は過ぎて行った。
購買のパンで競争率が高いのが1位、カツサンド。2位、カレーパン。3位、チョコクロワッサン。その順に無くなって行く。だから、1位のパンなど人気のパンを食べたい場合、スタートダッシュが肝心となる。春田には全く関係ない話だ。
今から走ったところで買えるわけがないからだ。
虎田との会話のせいで遅れたからというわけではなく、別に、その人気のパンが売り切れようがどうなろうが知ったこっちゃない。春田にとって購買のどのパンも美味しくいただける自信がある。事実、美味しいから文句も言わずに買って食べる。
のんびり行って買えるものを買う。
購買に着くと、ずらっと並んで目当てのモノを買う学生たちの姿があった。
一人で並ぶ奴、友達で固まってワイワイ言いながら並ぶ奴ら、ダべったり、イヤホンで音楽を聴いたり、みんな思い思いの待ち方がある。最後尾に並ぼうと歩き出した時、肩をポンッと叩かれた。
「……あんたもパン?」
そこに立っていたのは竹内だった。
「おう、竹内。も、って……お前も?」
「そ」
竹内は携帯を出す。指でササッとパスコードを入れてロックを開く。すぐに動く気配がなかったので、ため息交じりに急かす。
「……どうする?一緒に並ぶか?」
「……それも良いけど。今更並んだって良いのはないさ」
携帯を操作し、連絡先を探している。
「……えっと……?それじゃー……」
「どうする」という言葉が出る前に、竹内が春田の目の前に手を出す。携帯を耳に当て、電話をし始めた。
「はい?なんすか?」
その声を辿ると、金髪をツインテールに結った、よく目立つ女子生徒に目が行った。
150cm後半くらいの小柄な女性。上着に学校指定の臙脂の冬用ジャージを着て、下は短めのスカート。靴下を履いていない素足にクロックスといういかにもな不良。胸の所についているネームには「高橋」と書いてある。
「追加お願い」
「うぃーっす。何にします?」
「待って」
と言って耳から携帯を離す。
「何が良い?」
「は?良いのかよ?そんな方法……」
「いいから早く……」
ちょっと苛立ち気味に聞いてくる。こうなると待たせるのも不味い。春田はわずかな逡巡の後、答える。
「サンドウィッチ、ホットドック、あと菓子パン」
「ん……了解」
竹内は「高橋」にそのまま伝える。
「気が合いますねぇ!めぐのラインナップと一緒っす!」
並んでいる列から手を振ってアピールする。
「高橋」のいる位置は二番手くらいだ。これなら待たなくてもすぐにパンが手に入る。竹内は電話を切って春田を見る。
「……それで?どこで食べる?」
………
階段を上り最上階までやって来る。突き当りの扉を開けるとそこは屋上だ。
転落防止用のフェンスは3m弱。フェンスの上はネズミ返しの要領で内側に向いている。登るのも一苦労なので、転落の可能性は極めて低いと予想される。なので、屋上は一応解放されていた。
生徒もチラホラ見える。屋上はまあまあ広いので、他の連中からは離れて座れる。
「こことかいいんじゃないっすか?」
入り口から入ってすぐの角に腰かけた。
「んで、竹さん。誰っすかこの人?」
「高橋」は遠慮なく春田に指をさす。失礼な奴だと訝しんでると、竹内が一言
「……ダチ」
それだけ喋ると、買ってきたカレーパンを黙々と食べ始めた。(雑だな)と思いつつ、金髪ジャージに向き直る。
「俺は春田だ。お前は?」
「高橋」は胸のネームに書かれた名前を指さし、「高橋っす」と言ってニカッと笑った。
「俺と竹内は同じクラスなんだが、高橋はどこのクラスだ?」
「1年B組っす、春田先輩」
後輩だった。同級の不良仲間かと思っていたが、高橋は竹内にこき使われている下っ端という所だろうか?チラリと竹内を見るが、気にせずパンを食べていた。
「こいつらが春田先輩の分っす。どぞ」
といってパンを差し出す。屋上に上がる前にお金は高橋に支払済みなので、「ありがとう」と感謝して受け取る。
「なんか~、春田先輩超まじめって感じっすけど……。お二人の出会いってなんすか?」
「ん?クラスメイトだぞ?出会いなんざいくらでもあんだろ……」
その答えに一瞬、竹内が反応するが、また他のパンに手を出す。今度はピザパンだった。春田はサンドウィッチに手をかける。たまごとハムレタス、どちらから食べるか迷ったが、春田はたまごから食べ始めた。
「たかがクラスメイトってだけで竹さんが仲良くすると?あり得ないっすわ」
ケタケタ笑いながら手を振る。ジロッと竹内が高橋を見るが、また視線を戻して黙って食べる。
見るからに不良の二人だが、全然タイプが違う。竹内が陰キャに対して、高橋は陽キャ。こいつらこそどうやって出会ったのか聞きたいが、あえて無視する事を選んだ。
「そういえば竹さん聞いて下さいよ。あの橋の下に誰かが犬捨ててやがったんですよ。段ボールの中に子犬が二匹。今日ご飯やりに行くんすけど、竹さんもどっすか?」
「……アタシ猫派」
「もったいなー!派閥で行かないとか人生損しますってー!」
きゃいきゃい一人で大はしゃぎだ。軽いBGMと思って聞き流していると、
「っと、春田先輩。口にたまご付けてますよ」
と、予期せぬ所に言葉のボールが飛んできた。ドキッとしてむせそうになるのを抑えて、慌てて答える。
「……マジ?」
口許を確認しようと手を伸ばした時、竹内が「逆……」と言って頬のたまごペーストを指の腹で掬い取る。「……取れた」とそのまま竹内が食べてしまった。その様子を見ていた高橋は、唖然として春田と竹内を交互に見る。
春田も同様に困惑していた。
「……本当に、ただの友達っすか?」
「……悪い?」
「いや……悪くなんてないっすけど……春田先輩とはいつからの仲で?お、幼馴染とか?若しくは意気投合して毎日遊んでたりとか……」
竹内は春田をチラリと見て、高橋に視線を戻す。
「……昨日から」
「は?え?き…えーーーーーーーーっ!!?」
春田は竹内の行動に冷静さを取り戻し、こう考える。(そりゃそうなるわ……)と。「めぐ……うっさい……」と本人は至って普通に受け答えしている。竹内の真意が分からないまま、騒がしい昼は過ぎて行った。
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