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第三十七話 調査
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「春田?暗い奴だよ。話しかけても反応悪いし」
「誰それ、いたっけ?」
「影薄い奴だな。病気みてーな顔が不気味だよな」
「知り合い?見た事ないよ。基本なんか冷たいし……」
菊池は聞いたことをメモに書いていく。だが、有力と呼べる情報が出て来ない。誰に聞いてもこんな調子だ。
何より驚いたのは、1年生の時、菊池と春田はクラスメイトだったと言う事。存在が希薄過ぎて、認識すらしていなかったのだろう。それより滝澤から害虫を追い払うのに夢中で、知ろうともしなかったのが原因ともいえるかもしれない。
自分の人への興味の無さを恥じ、滝澤からの依頼を真摯にこなす。興味深かったのは、元はこの辺の人ではなく、他県からわざわざ出てきたとの事。知る人がいないのも納得の状態だ。
現国の三國から聞いた話だと、家族を離れ、一人暮らしをしている事まで聞いた。
だとしたら、ここに来てから友達を作らず粛々と孤独に生活を送っている事になる。
とてもじゃないが正気の沙汰ではない。いや、逆に気楽な生活を送っているのかも知れない。多感な時期に親元を離れると言う事は自由を満喫できると言う事。生活費の工面さえ誤らなければ、バイトをしなくてもダラダラ生活できる。
しかし彼の場合、そこが他者と異なる。無遅刻無欠席。成績は優秀という程ではないが、中より上。宿題も遅れずに出し、授業中に寝た所を見たことがないとの事。教師からの印象は良好で、真面目な生徒であるらしい。
目の下の隈のせいで病気がちに見えるが、本人は至って健康。特筆すべき部分がない。真面目を形にした存在である。調べれば調べるほど、ただの真面目という印象から外れず脱線せず真面目。
変だと思えるのは、それ以外が印象に残らない。好きや嫌い、得意や苦手、テンションの変動など、人としてあるべきものが誰の心にも残らない、徹底した他人とのコミュニケーションの拒絶。単なるコミュ障ということで答えが出た。
大体、滝澤の事を知りもしないのにあれだけ馴れ馴れしく関わって来たのだ。人との距離感が図れない事は明白。
メモ帳に「コミュ障」と書いたところでメモ帳を閉じた。
滝澤にこの事を知らせるべく、移動を開始した時、春田を見かけた。見ると、金髪とだらしない女に囲まれている春田の姿だった。
柱の陰に隠れると、そっと見る。
「あれは……不良ではないか?」
先の「真面目」という概念が崩れる。普通に喋っているし、なんなら金髪はすごく楽しそうに春田と喋っている。
(コミュ障ではない?)
それを考えた時、滝澤に馴れ馴れしく話していた昨日の事を考慮すると、ある恐ろしい結論に至る。
(春田は詩織様という事を知りながら馴れ馴れしく近付いた……。もしや強引に距離を詰め、詩織様を襲おうと……?)
春田が滝澤を押し倒し、服を強引に引き千切るイメージが出てくる。菊池があそこで春田を止めなかったら今頃どうなっていたのか。いや、体育館に二人でやって来た事を思えば既に何らかの状況に陥っている可能性もあるのかもしれない。たくさんの「もし」が頭から噴き出す。
春田は真面目コミュ障を装った不良であり、ガワだけは立派に仕立て、一人暮らしをしているのも、女を連れ込むためにあえてそうしているのだ。
背中にひやりとした物を感じながら、春田たちを確認する。菊池はメモ帳を取り出すと「ケダモノ」の一文字を書き加えた。多分、あの二人も春田の女なのだろう。そうでなければちぐはぐが過ぎる。
すぐに滝澤に報告しなければならない。菊池は踵を返して廊下を走る。
その慌ただしい音が春田にまで届く。短めの茶っ気の髪と、スカートから覗くスパッツが、後ろ姿であっても春田に誰だか教えてくれる。
「あれは……菊池か?」
廊下の先に消えていく菊池を目で追ってしまう。
「ええ?誰っすか?知り合いっすか?」
「まぁ、昨日会った変な奴だ。武道を習ってる感じだったな」
春田の口から「昨日」という言葉が出ると、高橋は一瞬身構えた。竹内と春田を交互に見た後、チラリと菊池が走り去った廊下を見る。
「……竹さんとも昨日の出会いっすよね?なんか怖くなってきたっす……」
「何がよ……」
「だって!竹さんが昨日今日で籠絡されてるんっすよ?菊池とかいうのがめぐたちを見て走り去ったとしたら、明日は我が身……」
ボスッと竹内は高橋の腹を殴る。「うっ」といって腹を抑えた。
「おい竹内……腹はヤバいって」
春田が注意すると、竹内は春田の右肩をドンッと叩く。比喩ではなくドンッという音が鳴った。結構力が入っている。春田も「うっ」といって右肩を抑える。
二人で意外に強かった一撃の痛みを耐えていると。「……眠いから5限サボるわ」と歩き去った。
その顔は心なしか赤くなっていたような気がした。
「も、もう時間もないし……教室に戻ろうぜ…」
「……うっす」
三人はそこで解散した。
「誰それ、いたっけ?」
「影薄い奴だな。病気みてーな顔が不気味だよな」
「知り合い?見た事ないよ。基本なんか冷たいし……」
菊池は聞いたことをメモに書いていく。だが、有力と呼べる情報が出て来ない。誰に聞いてもこんな調子だ。
何より驚いたのは、1年生の時、菊池と春田はクラスメイトだったと言う事。存在が希薄過ぎて、認識すらしていなかったのだろう。それより滝澤から害虫を追い払うのに夢中で、知ろうともしなかったのが原因ともいえるかもしれない。
自分の人への興味の無さを恥じ、滝澤からの依頼を真摯にこなす。興味深かったのは、元はこの辺の人ではなく、他県からわざわざ出てきたとの事。知る人がいないのも納得の状態だ。
現国の三國から聞いた話だと、家族を離れ、一人暮らしをしている事まで聞いた。
だとしたら、ここに来てから友達を作らず粛々と孤独に生活を送っている事になる。
とてもじゃないが正気の沙汰ではない。いや、逆に気楽な生活を送っているのかも知れない。多感な時期に親元を離れると言う事は自由を満喫できると言う事。生活費の工面さえ誤らなければ、バイトをしなくてもダラダラ生活できる。
しかし彼の場合、そこが他者と異なる。無遅刻無欠席。成績は優秀という程ではないが、中より上。宿題も遅れずに出し、授業中に寝た所を見たことがないとの事。教師からの印象は良好で、真面目な生徒であるらしい。
目の下の隈のせいで病気がちに見えるが、本人は至って健康。特筆すべき部分がない。真面目を形にした存在である。調べれば調べるほど、ただの真面目という印象から外れず脱線せず真面目。
変だと思えるのは、それ以外が印象に残らない。好きや嫌い、得意や苦手、テンションの変動など、人としてあるべきものが誰の心にも残らない、徹底した他人とのコミュニケーションの拒絶。単なるコミュ障ということで答えが出た。
大体、滝澤の事を知りもしないのにあれだけ馴れ馴れしく関わって来たのだ。人との距離感が図れない事は明白。
メモ帳に「コミュ障」と書いたところでメモ帳を閉じた。
滝澤にこの事を知らせるべく、移動を開始した時、春田を見かけた。見ると、金髪とだらしない女に囲まれている春田の姿だった。
柱の陰に隠れると、そっと見る。
「あれは……不良ではないか?」
先の「真面目」という概念が崩れる。普通に喋っているし、なんなら金髪はすごく楽しそうに春田と喋っている。
(コミュ障ではない?)
それを考えた時、滝澤に馴れ馴れしく話していた昨日の事を考慮すると、ある恐ろしい結論に至る。
(春田は詩織様という事を知りながら馴れ馴れしく近付いた……。もしや強引に距離を詰め、詩織様を襲おうと……?)
春田が滝澤を押し倒し、服を強引に引き千切るイメージが出てくる。菊池があそこで春田を止めなかったら今頃どうなっていたのか。いや、体育館に二人でやって来た事を思えば既に何らかの状況に陥っている可能性もあるのかもしれない。たくさんの「もし」が頭から噴き出す。
春田は真面目コミュ障を装った不良であり、ガワだけは立派に仕立て、一人暮らしをしているのも、女を連れ込むためにあえてそうしているのだ。
背中にひやりとした物を感じながら、春田たちを確認する。菊池はメモ帳を取り出すと「ケダモノ」の一文字を書き加えた。多分、あの二人も春田の女なのだろう。そうでなければちぐはぐが過ぎる。
すぐに滝澤に報告しなければならない。菊池は踵を返して廊下を走る。
その慌ただしい音が春田にまで届く。短めの茶っ気の髪と、スカートから覗くスパッツが、後ろ姿であっても春田に誰だか教えてくれる。
「あれは……菊池か?」
廊下の先に消えていく菊池を目で追ってしまう。
「ええ?誰っすか?知り合いっすか?」
「まぁ、昨日会った変な奴だ。武道を習ってる感じだったな」
春田の口から「昨日」という言葉が出ると、高橋は一瞬身構えた。竹内と春田を交互に見た後、チラリと菊池が走り去った廊下を見る。
「……竹さんとも昨日の出会いっすよね?なんか怖くなってきたっす……」
「何がよ……」
「だって!竹さんが昨日今日で籠絡されてるんっすよ?菊池とかいうのがめぐたちを見て走り去ったとしたら、明日は我が身……」
ボスッと竹内は高橋の腹を殴る。「うっ」といって腹を抑えた。
「おい竹内……腹はヤバいって」
春田が注意すると、竹内は春田の右肩をドンッと叩く。比喩ではなくドンッという音が鳴った。結構力が入っている。春田も「うっ」といって右肩を抑える。
二人で意外に強かった一撃の痛みを耐えていると。「……眠いから5限サボるわ」と歩き去った。
その顔は心なしか赤くなっていたような気がした。
「も、もう時間もないし……教室に戻ろうぜ…」
「……うっす」
三人はそこで解散した。
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