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第四十五話 マレフィア
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「え?何でだ?」
ヤシャは突然の事に困惑している。せっかくヴァルタゼアに会って、鬱屈した心、ささくれた心から解放されたというのに、何故帰れというのか。
ポイ子を見る。ポイ子は何も言われていないようだ。ヴァルタゼアと同じ視点で物事を見ている姿勢を感じる。
「……私は邪魔なのか……?」
ヤシャは見たこともないような悲しい表情をする。この世界で出会った時から今まで、と言っても昨日今日だが、どんなに叩かれてもめげない強い女だと思っていたが、それは自分を守るための盾だったのだと実感した。
「俺はお前の事が大好きだ。でもハッキリ言うと、俺の今の財力でお前を食わせてやることはできないし、ましてこの世界はお前には小さすぎる。この下の惨状を見ればわかるだろうが、ヤシャの力はこの世界では規格外だ……」
ヤシャがアスファルトに着地した時、ガードレールやアスファルトを掘っくり返し、今も修復中の現場を見れば一目瞭然。だが、これ自体はヤシャが力加減を誤らなければ、何と言う事はない。現に春田のマンションでは、特に壊したものなどない。だから、角さえどうにかできれば住めない事はない。
だが、それはあくまで食べ物がどうにかできればいいという前提であり、住む場所と、本人の意思を尊重できても、経済力はどうにもできない。
「……私が稼ごう」ヤシャは決心した顔で春田を見る。
「無理だ。お前には戸籍が存在しない。戸籍の存在しないお前に、仕事を与える企業なんて今の世の中ない。この世界で金を稼ぐことは不可能だ……」
そういうものが必要ない半グレの世界になら無い事も無いかもしれないが、この世界の闇に足を突っ込めなんて口が裂けても言えない。ヤシャなら多分こういう返しになるだろうと思っていたから、その答えは既に準備してきている。
だが、その答えに対する解決策を持った存在が、ここに存在する事は春田の予想外の事だったが……。
「戸籍ならうちが何とでもできるけどねーん」
マレフィアが声を上げる。
「なっ!」マレフィア以外の全員が驚く。魔法。それは何でも叶う魅惑の言葉。
「おお……それは本当かマレフィア!」
ヤシャにとっては願ってもない。
「ちょ……ちょっと待て、ヤシャ……お前はそれで本当に良いのか?あっちの世界でやる事とか、ほっぽり出して来た事があるんじゃないのか?魔族復興とか、オーガ族の天下取りとか…そういうのが終わってからとかでも全然いいんだぞ?別に今すぐでなくとも……」
「お前のいない世界に価値はない。一緒に戻るか?ヴァルタゼアとして……。あの世界に今、戻る気がないなら、戻るまで一緒にいるよ……聖也」
春田と共に過ごすにあたって、経済の面でどうにもできないというなら自分が働けばよい。「面倒」などという言葉はこれっぽっちも存在していなかった。
ポイ子はいい考えを思いついたというマレフィアの言葉を思い出す。ヤシャに選択肢を与えてやると言う事だ。
もし「じゃあ帰る」となれば、一緒に帰っただろうが、元魔王の為にどこまで自分を殺す事が出来るのか、その覚悟があるのか、そう言うものをすべてクリアするなら、無理に戻してやることはない。
ポイ子は春田を見る。ヤシャの未練を聞いている事を思えば、春田にもこうなることが予測出来ていたのではないかと推察する。ヤシャが無理してここにいるのではないかと言う事に対する答えを求めたのだと。
「マレフィア様……私にもその戸籍とやらをください」
ポイ子もヤシャの覚悟を見て決心する。
「私も魔王様……聖也様に尽くしたく思います」
「ポイ子ンは要らなくない?変身してなんにでもなれるんだし、その辺の草でも食ってたら大丈夫じゃん」
その返答を聞いて肩をガクッと落とす。
「マレフィア様ぁ~……そこは私の意を組んでくださいよ~……」
「いや、マレフィアの言う通りだ。お前に戸籍は要らない。無い方が身軽だし、変身能力をフルに使えばどうとでもなるからな」
マレフィアの言葉を補強する言葉が春田から飛んでくる。もうポイ子から何か言う事は出来ない。
しかし気持ちの上では同意できず「そんな~……」と未練たらたらな言葉が出る。
「本当に……良いんだなヤシャ」
「……聖也は嫌か?」
「まさか、大歓迎だよ」
良い空気が流れる。マレフィアもポイ子も、そしてヤシャもみんな笑顔だ。笑顔こそ貼り付けているが、春田は動揺していた。
(やっべぇ……マレフィアがそんなことまでできるだなんて思ってもみなかった……もしこれからもこういう事がまかり通るなら、この世界はこの場所から魔族の世界侵攻すらあるじゃねぇか……)
ヤシャに関する経済的な問題は仕事が見つかるまでは続くだろうが、もはや解決済みと言って差し支えない。
「そういえばあれはどうするかな……」
「あれ」とはヤシャがやった事件の事である。警察を敵に回した以上、避けられない事があるのは事実。このまま戸籍を取得すれば、逮捕されてしまう。
「何言ってんの聖ちゃん?うちがいるじゃない!」
「お、そうだな」
もう適当である。こいつがいれば何でもできる。流石は四天王最強。「まほうってすげぇ……」
結局、あの事件の内容はガス爆発とかに設定され、ヤシャはこの日、戸籍を取得した。
ヤシャは突然の事に困惑している。せっかくヴァルタゼアに会って、鬱屈した心、ささくれた心から解放されたというのに、何故帰れというのか。
ポイ子を見る。ポイ子は何も言われていないようだ。ヴァルタゼアと同じ視点で物事を見ている姿勢を感じる。
「……私は邪魔なのか……?」
ヤシャは見たこともないような悲しい表情をする。この世界で出会った時から今まで、と言っても昨日今日だが、どんなに叩かれてもめげない強い女だと思っていたが、それは自分を守るための盾だったのだと実感した。
「俺はお前の事が大好きだ。でもハッキリ言うと、俺の今の財力でお前を食わせてやることはできないし、ましてこの世界はお前には小さすぎる。この下の惨状を見ればわかるだろうが、ヤシャの力はこの世界では規格外だ……」
ヤシャがアスファルトに着地した時、ガードレールやアスファルトを掘っくり返し、今も修復中の現場を見れば一目瞭然。だが、これ自体はヤシャが力加減を誤らなければ、何と言う事はない。現に春田のマンションでは、特に壊したものなどない。だから、角さえどうにかできれば住めない事はない。
だが、それはあくまで食べ物がどうにかできればいいという前提であり、住む場所と、本人の意思を尊重できても、経済力はどうにもできない。
「……私が稼ごう」ヤシャは決心した顔で春田を見る。
「無理だ。お前には戸籍が存在しない。戸籍の存在しないお前に、仕事を与える企業なんて今の世の中ない。この世界で金を稼ぐことは不可能だ……」
そういうものが必要ない半グレの世界になら無い事も無いかもしれないが、この世界の闇に足を突っ込めなんて口が裂けても言えない。ヤシャなら多分こういう返しになるだろうと思っていたから、その答えは既に準備してきている。
だが、その答えに対する解決策を持った存在が、ここに存在する事は春田の予想外の事だったが……。
「戸籍ならうちが何とでもできるけどねーん」
マレフィアが声を上げる。
「なっ!」マレフィア以外の全員が驚く。魔法。それは何でも叶う魅惑の言葉。
「おお……それは本当かマレフィア!」
ヤシャにとっては願ってもない。
「ちょ……ちょっと待て、ヤシャ……お前はそれで本当に良いのか?あっちの世界でやる事とか、ほっぽり出して来た事があるんじゃないのか?魔族復興とか、オーガ族の天下取りとか…そういうのが終わってからとかでも全然いいんだぞ?別に今すぐでなくとも……」
「お前のいない世界に価値はない。一緒に戻るか?ヴァルタゼアとして……。あの世界に今、戻る気がないなら、戻るまで一緒にいるよ……聖也」
春田と共に過ごすにあたって、経済の面でどうにもできないというなら自分が働けばよい。「面倒」などという言葉はこれっぽっちも存在していなかった。
ポイ子はいい考えを思いついたというマレフィアの言葉を思い出す。ヤシャに選択肢を与えてやると言う事だ。
もし「じゃあ帰る」となれば、一緒に帰っただろうが、元魔王の為にどこまで自分を殺す事が出来るのか、その覚悟があるのか、そう言うものをすべてクリアするなら、無理に戻してやることはない。
ポイ子は春田を見る。ヤシャの未練を聞いている事を思えば、春田にもこうなることが予測出来ていたのではないかと推察する。ヤシャが無理してここにいるのではないかと言う事に対する答えを求めたのだと。
「マレフィア様……私にもその戸籍とやらをください」
ポイ子もヤシャの覚悟を見て決心する。
「私も魔王様……聖也様に尽くしたく思います」
「ポイ子ンは要らなくない?変身してなんにでもなれるんだし、その辺の草でも食ってたら大丈夫じゃん」
その返答を聞いて肩をガクッと落とす。
「マレフィア様ぁ~……そこは私の意を組んでくださいよ~……」
「いや、マレフィアの言う通りだ。お前に戸籍は要らない。無い方が身軽だし、変身能力をフルに使えばどうとでもなるからな」
マレフィアの言葉を補強する言葉が春田から飛んでくる。もうポイ子から何か言う事は出来ない。
しかし気持ちの上では同意できず「そんな~……」と未練たらたらな言葉が出る。
「本当に……良いんだなヤシャ」
「……聖也は嫌か?」
「まさか、大歓迎だよ」
良い空気が流れる。マレフィアもポイ子も、そしてヤシャもみんな笑顔だ。笑顔こそ貼り付けているが、春田は動揺していた。
(やっべぇ……マレフィアがそんなことまでできるだなんて思ってもみなかった……もしこれからもこういう事がまかり通るなら、この世界はこの場所から魔族の世界侵攻すらあるじゃねぇか……)
ヤシャに関する経済的な問題は仕事が見つかるまでは続くだろうが、もはや解決済みと言って差し支えない。
「そういえばあれはどうするかな……」
「あれ」とはヤシャがやった事件の事である。警察を敵に回した以上、避けられない事があるのは事実。このまま戸籍を取得すれば、逮捕されてしまう。
「何言ってんの聖ちゃん?うちがいるじゃない!」
「お、そうだな」
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結局、あの事件の内容はガス爆発とかに設定され、ヤシャはこの日、戸籍を取得した。
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