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第六十三話 あいつ
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「そういえばあいつは元気にやってんのかな……」
風呂に入った後、リビングでくつろいでいた時、春田は3人をボヤっと見てふと思い出した。
「あいつ……と申しますと?」
「ほら、いたろ?俺が四天王とか言って困らせてたあいつ。名前はなんつったっけ?」
うーんと悩む春田。マレフィアは冷蔵庫から発泡酒を取り出してくる。カシュッという小気味いい音を出して缶を開けた。
「それって~ナルちゃんの事?」
「そいつそいつ。確か、ナルル=エンプレスだったか?」
やんちゃだった魔王時代。ポイ子とヤシャ、そしてマレフィアを含めた大幹部たちを四天王と名付けたかったヴァルタゼアは、もう一人部下を欲しがった。そんな折、手に入れたダークエルフを仮の四天王と位置づけ侍らせていたのだ。
「彼女なら勇者との激突1ケ月前に魔王様が里に帰しましたよね」
「あの不敬な女か。ダークエルフの人質として預かってたような記憶があるが、お前はお前で悪趣味な事をしていたんだな」
今考えてみれば可哀そうな事をしていたと心底思うが、当時は面白がっていた印象しかない。
「最初の内はずっと暗殺を企んでたんだぜ?毒も刃物も鈍器も…魔獣をけしかけてきた事があったな。当時、勇者に殺されるまで無敵だったから全部相手してやってたけどよ。里の長から仰せつかったのか知らないが、けなげに敵意を向てきたのを思い出すぜ……」
「な……彼女が?今度会ったら死ぬ一歩手前まで追い詰めてやりましょう……」
ポイ子の目が暗い影を落とす。
「まぁ待て、ナルルは都合のいい暇つぶしだったから、それなりに満足している。今あったら確実に殺されるからここにいなくて良かったと安堵しているくらいだ」
「それは知りませんでした……彼女とはよく話していたし、親しい間柄だと思っていたのに……」
思った人ではなかったとガッカリしているが、他人とはそんなものである。
「ちょっと聞いてもい~い?都合のいい女って~すっごくエロい響きなんだけど~、何したの~?」
マレフィアはニヤニヤ聞いてくる。丁度いい酒の肴と取ったようだ。
「当然、気になるな」
ヤシャは眉間にちょっと皺が寄っている。
「期待するようなことは何もしてないよ。ただ敵意を向けてくるもんだから、テキトーにあしらったりして気持ちをくじかない様に、大切に大切に、卵を割らない様に接してやったのさ。あいつも頭が良かったから、すぐに皮肉だと分かって、沸騰してたけど、途中から暗殺を諦めちゃったな…俺の死に様が見たかったのか最後まで城に残りたがってたが、面倒だったから里に帰したんだ」
「覚えてます覚えてます。最後は号泣してまで聖也様に縋ってましたね」
「あの時は自爆でもされるんじゃないかと内心ワクワクしたが、別にそんな事も無かったな」
当時の事を思い出し、しみじみ語る。
「つまんな~い」
マレフィアはブーたれる。
「まぁこんなもんだろ。想定の範囲内だな」
ヤシャは何故だか安堵している。
「私は意外でしたね。ヤシャ様の方が逆に危険だと思ってましたし」
「はぁ?何故だ?」
「種族ですかね。力こそすべてと豪語するオーガ族の女王様がただの人間と相対したら、目に見えてますよ。しかもそれが御自身を負かした魔王様の現在の姿とくれば、それはもう危険でしょう」
それを聞いた時、納得する。ヤシャも昔の自分を思えばポイ子の言いたいことが分かる。”逢魔”に追いやられた当初イラついて物に当たり散らすのが日常だった。万が一、魔王の黄泉がえりが目の前で起こり、ここまで雑魚だったら捻り潰していた可能性すらある。
これだけ長いクールタイムがあったからこそ見直す事ができたのだ。
ヤシャは腕を組んで押し黙る。
「だから私的には聖也様に危害を加えないのは、マレフィア様とナルル様のお二人だと思っていました。しかし、その話を聞く限りではナルル様は厳しいですね……」
「二度と会う事はないだろうけどな」
ハハッと軽く笑ってテレビに顔を向ける。バラエティ番組の司会者含め、ひな壇の面子も同じように笑っているのが見える。
「そいつはどうかな~……」
マレフィアは不穏なセリフを吐きながら、発泡酒を傾ける。
聞いていないわけではなかったが、あえて無視をして、お笑い芸人のネタに笑っていた。
風呂に入った後、リビングでくつろいでいた時、春田は3人をボヤっと見てふと思い出した。
「あいつ……と申しますと?」
「ほら、いたろ?俺が四天王とか言って困らせてたあいつ。名前はなんつったっけ?」
うーんと悩む春田。マレフィアは冷蔵庫から発泡酒を取り出してくる。カシュッという小気味いい音を出して缶を開けた。
「それって~ナルちゃんの事?」
「そいつそいつ。確か、ナルル=エンプレスだったか?」
やんちゃだった魔王時代。ポイ子とヤシャ、そしてマレフィアを含めた大幹部たちを四天王と名付けたかったヴァルタゼアは、もう一人部下を欲しがった。そんな折、手に入れたダークエルフを仮の四天王と位置づけ侍らせていたのだ。
「彼女なら勇者との激突1ケ月前に魔王様が里に帰しましたよね」
「あの不敬な女か。ダークエルフの人質として預かってたような記憶があるが、お前はお前で悪趣味な事をしていたんだな」
今考えてみれば可哀そうな事をしていたと心底思うが、当時は面白がっていた印象しかない。
「最初の内はずっと暗殺を企んでたんだぜ?毒も刃物も鈍器も…魔獣をけしかけてきた事があったな。当時、勇者に殺されるまで無敵だったから全部相手してやってたけどよ。里の長から仰せつかったのか知らないが、けなげに敵意を向てきたのを思い出すぜ……」
「な……彼女が?今度会ったら死ぬ一歩手前まで追い詰めてやりましょう……」
ポイ子の目が暗い影を落とす。
「まぁ待て、ナルルは都合のいい暇つぶしだったから、それなりに満足している。今あったら確実に殺されるからここにいなくて良かったと安堵しているくらいだ」
「それは知りませんでした……彼女とはよく話していたし、親しい間柄だと思っていたのに……」
思った人ではなかったとガッカリしているが、他人とはそんなものである。
「ちょっと聞いてもい~い?都合のいい女って~すっごくエロい響きなんだけど~、何したの~?」
マレフィアはニヤニヤ聞いてくる。丁度いい酒の肴と取ったようだ。
「当然、気になるな」
ヤシャは眉間にちょっと皺が寄っている。
「期待するようなことは何もしてないよ。ただ敵意を向けてくるもんだから、テキトーにあしらったりして気持ちをくじかない様に、大切に大切に、卵を割らない様に接してやったのさ。あいつも頭が良かったから、すぐに皮肉だと分かって、沸騰してたけど、途中から暗殺を諦めちゃったな…俺の死に様が見たかったのか最後まで城に残りたがってたが、面倒だったから里に帰したんだ」
「覚えてます覚えてます。最後は号泣してまで聖也様に縋ってましたね」
「あの時は自爆でもされるんじゃないかと内心ワクワクしたが、別にそんな事も無かったな」
当時の事を思い出し、しみじみ語る。
「つまんな~い」
マレフィアはブーたれる。
「まぁこんなもんだろ。想定の範囲内だな」
ヤシャは何故だか安堵している。
「私は意外でしたね。ヤシャ様の方が逆に危険だと思ってましたし」
「はぁ?何故だ?」
「種族ですかね。力こそすべてと豪語するオーガ族の女王様がただの人間と相対したら、目に見えてますよ。しかもそれが御自身を負かした魔王様の現在の姿とくれば、それはもう危険でしょう」
それを聞いた時、納得する。ヤシャも昔の自分を思えばポイ子の言いたいことが分かる。”逢魔”に追いやられた当初イラついて物に当たり散らすのが日常だった。万が一、魔王の黄泉がえりが目の前で起こり、ここまで雑魚だったら捻り潰していた可能性すらある。
これだけ長いクールタイムがあったからこそ見直す事ができたのだ。
ヤシャは腕を組んで押し黙る。
「だから私的には聖也様に危害を加えないのは、マレフィア様とナルル様のお二人だと思っていました。しかし、その話を聞く限りではナルル様は厳しいですね……」
「二度と会う事はないだろうけどな」
ハハッと軽く笑ってテレビに顔を向ける。バラエティ番組の司会者含め、ひな壇の面子も同じように笑っているのが見える。
「そいつはどうかな~……」
マレフィアは不穏なセリフを吐きながら、発泡酒を傾ける。
聞いていないわけではなかったが、あえて無視をして、お笑い芸人のネタに笑っていた。
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