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第六十四話 圧倒的感謝
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何故力を持って生まれなかったのか。
前世の自分がやりすぎたからか。
それとも他に原因があるからなのか。
魔力も腕力もそして、元の世界ですらない。
前世の記憶だけが鮮明に残り、過去の栄光に縋れるよう、みじめに変えられてしまった。
一度は自分を失いかける程追い込まれたこともあったが、「こんなこともあったな」というぼんやりとした思いに変えて、精神を守る方向にシフトしたからこそ自分がいる。
自分をおかしい人間として考え、徐々に刷り込ませる時間を作り、人格形成をしてきたからこそ、春田聖也という人間がいて、周囲に溶け込めるまでなった。
おかしいのは自分で周りではない。
そして、この考えこそが正しい。
高校に進学し、一人暮らしを始めた時、そのことに確信を得た。
周囲の人間は普通一般を求めていて、変わったやつを求めていない。
高校生という多感な時期だからこそ移ろいやすく、刺激を求めているが、それは生まれた時から秀でた人間に求めているのであって、凡人には求めていない。
だからこそ目立つことなく生きて来れた。
春田聖也という人物がいないように振舞えた。
その内、自分が誰で何だったのかという意識すら薄れ、消えてなくなりそうな、もの悲しさを帯びるようになる。
「魔力が使えたら……」それは昔の万能感であり、人間とは明らかに異なるものへの一種の憧れでもある。
自分を失いかけていたあの日、ポイ子に出会った。
ポイ子はいつまでも変わらぬ精神で春田の心を包み込み、春田の為にやって来た。
昔、元の世界で絶滅しかけていたポイズンスライムを助けた事があった。
生存圏の拡大。
誰もが目指し志す者だ。
それは人間だけじゃない。
だからその自然淘汰の果てに滅びるならそこまでの存在なのだ。
その生存競争に巻き込まれ絶体絶命だったポイ子。
あの時、たまたま通りかかり、人間を殺した。
魔王の時に助けた最弱の個体は、生きている事が恥ずかしいほどみみっちく弱い存在だった。
一丁前に毒に侵してくる厄介な存在だからこそ、危険視され淘汰されかけた。
助けたのは気まぐれであり、決してポイ子を思っての事ではない。
難癖付けて暇つぶしに使ったに過ぎない。
そんな魔王にポイ子は神を崇めるかのような心酔を見せ、当時、力を振るう事に飽いていた魔王は、その目に惹かれ、崇め奉られる存在になりたくて世界征服に乗り出した。
その時の記憶は今も鮮明に覚えていて、死して尚、忘れる事はなかった。
ポイ子は知らず知らずに魔王に恩返しをしたことになる。
完全に逆の立場となった自分を優しく包み込み、どんな態度で接しても崇め奉る。
こんな自分に対し、今もまだ「様」を付けて呼んでいる。
ポイ子があの日、見つけなければ春田は魔王であったことを否定し、ただの人間になった事だろう。
それが良かったのか悪かったのか定かではないが今になって思う事があるとするなら、ポイ子に感謝をしている。
あの時助けたからとか、やったことがまわりまわって等、関係ない。
言葉にして伝えるには臭すぎるから、真面目に言えないが、ポイ子がいたから今も生きている。
ヤシャに会い、マレフィアに会えたのもポイ子のおかげだ。
ベッドの上、夢うつつの中で、春田はしきりに感謝していた。
見知った仲間が楽しそうにふるまい、いつまでも変わらない存在としてあり続けてくれたことに、
自分が救われたことに、諦めず探し続けてくれたことに、そして、見つけてくれたことに。
みみっちく弱い存在となった自分はこれからも他者に迷惑をかけて生きていく。
何でもできたあのころと違い、何もできない自分になったから。
だから今日も思う、”この現実よ永遠に……”。
そして次の日の朝、目覚めてベッドから這い出る。
リビングの騒がしい様子を聞いて、挨拶をする。
ヤシャは変わらず正面裸エプロンだ。マレフィアは頭ぼさぼさで寝ぐせだらけ、ポイ子は優雅にコーヒータイム。今日も変わらずそこにみんながいる。この当たり前を噛み締めてヤシャ特性の朝ご飯を食べる。
「つーかマレフィアはもっと長い事、寝ている印象があったけど、そんな事ないんだな。俺より早起きじゃねぇか」
「うちはこれから寝るんだよ~。二度寝って最高だよねぇ~」
ぽわぽわした口調でそれこそ夢うつつだ。
「朝飯喰ってそのまま寝ると太るぞ。まったく……」
ヤシャはマレフィアの生活のリズムに文句をつける。
「マレフィア様は少し肉を付けた方がよろしいのではと考えない事も無いですけどね」
「お~ナイスアシスト。じゃあおやすみ~」
といってふらふら毛玉の妖怪の様な後ろ姿で部屋に戻っていく。
「ポイ子はマレフィアに甘い」
「かもしれませんが、ああしてマレフィア様が外に出てくるのは珍しいんですよ?」
それを聞いて「うん?」となる。
「どういう意味だ?」
よく分からなかった春田はポイ子に訊ねる。
「マレフィア様は聖也様に会うために起きてきているんです。マレフィア様も聖也様に会えないと不安なんじゃないでしょうか?」
それを聞くと途端に恥ずかしくなった。口にパンをねじ込み、牛乳で流し込むと、「ごちそーさま」と言って皿を流しに置いた。
「じゃあ俺学校行くから、留守番よろしく」
最近は鍵を持たずに出る。ポイ子たちがいるから、好きな時に出て行けるように鍵を置いて行っているのだ。鍵っ子はヤシャの役目だ。ポイ子はドアの隙間から出入り可能だし、マレフィアも魔法を使えば出入り自由だから。
ヤシャはまたドスドス玄関までやってきてハグしてくる。
「私も私もー」と言ってポイ子も真似してやってくる。これを日課にするつもりだろうか……。
「気を付けて行ってこい。帰りを待っているぞ」
前世の自分がやりすぎたからか。
それとも他に原因があるからなのか。
魔力も腕力もそして、元の世界ですらない。
前世の記憶だけが鮮明に残り、過去の栄光に縋れるよう、みじめに変えられてしまった。
一度は自分を失いかける程追い込まれたこともあったが、「こんなこともあったな」というぼんやりとした思いに変えて、精神を守る方向にシフトしたからこそ自分がいる。
自分をおかしい人間として考え、徐々に刷り込ませる時間を作り、人格形成をしてきたからこそ、春田聖也という人間がいて、周囲に溶け込めるまでなった。
おかしいのは自分で周りではない。
そして、この考えこそが正しい。
高校に進学し、一人暮らしを始めた時、そのことに確信を得た。
周囲の人間は普通一般を求めていて、変わったやつを求めていない。
高校生という多感な時期だからこそ移ろいやすく、刺激を求めているが、それは生まれた時から秀でた人間に求めているのであって、凡人には求めていない。
だからこそ目立つことなく生きて来れた。
春田聖也という人物がいないように振舞えた。
その内、自分が誰で何だったのかという意識すら薄れ、消えてなくなりそうな、もの悲しさを帯びるようになる。
「魔力が使えたら……」それは昔の万能感であり、人間とは明らかに異なるものへの一種の憧れでもある。
自分を失いかけていたあの日、ポイ子に出会った。
ポイ子はいつまでも変わらぬ精神で春田の心を包み込み、春田の為にやって来た。
昔、元の世界で絶滅しかけていたポイズンスライムを助けた事があった。
生存圏の拡大。
誰もが目指し志す者だ。
それは人間だけじゃない。
だからその自然淘汰の果てに滅びるならそこまでの存在なのだ。
その生存競争に巻き込まれ絶体絶命だったポイ子。
あの時、たまたま通りかかり、人間を殺した。
魔王の時に助けた最弱の個体は、生きている事が恥ずかしいほどみみっちく弱い存在だった。
一丁前に毒に侵してくる厄介な存在だからこそ、危険視され淘汰されかけた。
助けたのは気まぐれであり、決してポイ子を思っての事ではない。
難癖付けて暇つぶしに使ったに過ぎない。
そんな魔王にポイ子は神を崇めるかのような心酔を見せ、当時、力を振るう事に飽いていた魔王は、その目に惹かれ、崇め奉られる存在になりたくて世界征服に乗り出した。
その時の記憶は今も鮮明に覚えていて、死して尚、忘れる事はなかった。
ポイ子は知らず知らずに魔王に恩返しをしたことになる。
完全に逆の立場となった自分を優しく包み込み、どんな態度で接しても崇め奉る。
こんな自分に対し、今もまだ「様」を付けて呼んでいる。
ポイ子があの日、見つけなければ春田は魔王であったことを否定し、ただの人間になった事だろう。
それが良かったのか悪かったのか定かではないが今になって思う事があるとするなら、ポイ子に感謝をしている。
あの時助けたからとか、やったことがまわりまわって等、関係ない。
言葉にして伝えるには臭すぎるから、真面目に言えないが、ポイ子がいたから今も生きている。
ヤシャに会い、マレフィアに会えたのもポイ子のおかげだ。
ベッドの上、夢うつつの中で、春田はしきりに感謝していた。
見知った仲間が楽しそうにふるまい、いつまでも変わらない存在としてあり続けてくれたことに、
自分が救われたことに、諦めず探し続けてくれたことに、そして、見つけてくれたことに。
みみっちく弱い存在となった自分はこれからも他者に迷惑をかけて生きていく。
何でもできたあのころと違い、何もできない自分になったから。
だから今日も思う、”この現実よ永遠に……”。
そして次の日の朝、目覚めてベッドから這い出る。
リビングの騒がしい様子を聞いて、挨拶をする。
ヤシャは変わらず正面裸エプロンだ。マレフィアは頭ぼさぼさで寝ぐせだらけ、ポイ子は優雅にコーヒータイム。今日も変わらずそこにみんながいる。この当たり前を噛み締めてヤシャ特性の朝ご飯を食べる。
「つーかマレフィアはもっと長い事、寝ている印象があったけど、そんな事ないんだな。俺より早起きじゃねぇか」
「うちはこれから寝るんだよ~。二度寝って最高だよねぇ~」
ぽわぽわした口調でそれこそ夢うつつだ。
「朝飯喰ってそのまま寝ると太るぞ。まったく……」
ヤシャはマレフィアの生活のリズムに文句をつける。
「マレフィア様は少し肉を付けた方がよろしいのではと考えない事も無いですけどね」
「お~ナイスアシスト。じゃあおやすみ~」
といってふらふら毛玉の妖怪の様な後ろ姿で部屋に戻っていく。
「ポイ子はマレフィアに甘い」
「かもしれませんが、ああしてマレフィア様が外に出てくるのは珍しいんですよ?」
それを聞いて「うん?」となる。
「どういう意味だ?」
よく分からなかった春田はポイ子に訊ねる。
「マレフィア様は聖也様に会うために起きてきているんです。マレフィア様も聖也様に会えないと不安なんじゃないでしょうか?」
それを聞くと途端に恥ずかしくなった。口にパンをねじ込み、牛乳で流し込むと、「ごちそーさま」と言って皿を流しに置いた。
「じゃあ俺学校行くから、留守番よろしく」
最近は鍵を持たずに出る。ポイ子たちがいるから、好きな時に出て行けるように鍵を置いて行っているのだ。鍵っ子はヤシャの役目だ。ポイ子はドアの隙間から出入り可能だし、マレフィアも魔法を使えば出入り自由だから。
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