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第六十五話 深淵
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登校中の交差点。
毎度捉まる赤信号をぼんやり見ながら今日の授業を考えていた。
(あ、そういえば明日は休みか……)本来なら一人寝休日としゃれこんでいる所だが、あの三人がいるから、そういうわけにはいかないだろう。この世界での役割分担だとか、後回しにしてきたことを一気にやるにも都合がいい。
(せっかくだから、パソコンや携帯の触り方なんかも覚えさせるといいかもしれない)と休日の過ごし方にシフトしていると、「おはよう」と声をかけられた。
(この声は虎田か……)毎度の事ながら律儀なものだと声のする方を向くと、いつもの朝に見慣れない顔がある。
昨日放課後に突っかかってきた木島だ。「ちょ……みゆき!」と焦り気味に動いている。
「お、おはよう。いつも一人で登校してるのに珍しいな」
「うん。今日はみーちゃんが玄関前で待っててくれてて……」と嬉しそうに喋っている。委員長だからか虎田はいつも早い。本人には決して言えないが、木島は性格的にも登校時間ギリギリまで寝ているような、ずぼらな感じがする。化粧はバッチリなので、実際はそんな事も無いのだろうが、イメージ的にそんな感じ。
「なに?なんか文句あんの?」
今日も変わらず突っかかってくる。何がしたいのか、何が言いたいのかは分からないが、印象は最悪だ。
「別に、さっきも言ったが珍しいなって思っただけ」
そこで丁度信号が青に変わったので横断歩道を渡る。そのぶっきらぼうな態度に木島はムカッと来た。
(こうやってみゆきを待ち伏せしているのね…きっと後ろ姿を見たら必ず挨拶するように言ってるんだ…もしかして世に聞く調教だなんてこと……)
と妄想を膨らませる。荒唐無稽だとは自分でも思うが、知っていた友人が変えられていくような、ある種の恐ろしさもある。
少し歩いたところで木島が意を決して聞く。
「つかあんたこそなんでこんなに早くに登校してんの?部活とかしてないんでしょ?」
「……習慣だな。俺一人暮らしだったから二度寝すると起きられないんだよなぁ」
「へー」と虎田はさも興味ありげに頷いている。
「だったってなによ。今誰かと住んでるとでもいうわけ?」
「最近な。えっと……親族が訪ねてきて居座っちゃってさ。おっと、喋りすぎたか?」
「他人の事情なんて聴いても面白くないよな」なんて誤魔化しながら目を合わせようとしない。(嘘をついてる……)木島はそう判断する。「そ、そうなんだー」と虎田が顔を伏せている所から、虎田を連れ込んでいる可能性が出てきた。一瞬言い淀んだ箇所が「親族」というワードから考えて、知り合いではあるが、血縁関係は薄い。
「訪ねてきて居座った」からの「おっと、喋りすぎたか」は会話相手の事を考えているふりをしつつ、思考に靄をかけようとしている。真実に嘘を交える事で、さもすべてが本当であるかのように応える。自分がやってることを面に出して喋りたいが、それをすればどうなるか分かっているからこそ、あえて散りばめる。典型的サイコパスの思考だ。
木島の推理は、春田が虎田に対し、決定的な何かを握る。
それこそ黒峰の時にあった盗撮事件のような卑劣な行為。
黒峰ほど強くない虎田は消去を求めるが、春田は条件を付ける。
言う事を聞けば消去という約束をもとに一人暮らしの部屋に連れ込んで……。
ここまで読めれば、あとは虎田がどういう思考で、この男に接しているかを紐解けば、状況証拠で犯人認定からの現場を押さえて警察突き出しで一発御用。
「そんなんうざくない?何で住まわせてんの?実家帰らせれば?」
(木島がうざいんだよ…やっぱ喋り過ぎたな……)と後悔しつつ、返答する。
「うざくないよ。むしろ、俺は歓迎してる」
(そりゃあんたはそうだろうけど、みゆきは迷惑してんだよ!)段々イライラしてきて、表情に出てくる。
「……みゆきはどう思う?」
ビクッとなって目を逸らす。木島の顔は今、般若の様に怖い。この顔をまともに見られない虎田は考えるようなそぶりを見せて、「春田くんが歓迎してるなら、私はいいと思うけど?」とテキトーに答えた。
(なんてこと……これ絶対言わされてるでしょ……)木島は愕然とする。一言「いない方が良い」とか「みーちゃんに賛成」とか、今の質問で逃げる手はいくらでもあるのにそれを言わない。しかも露骨に目を逸らしてまでなんて、思った以上に闇が深い。
どこかで見た心理分析系ドラマの影響で、深みにはまる木島。
結局答えが出ぬまま、気付けば学校の前だった。
今日も空が青い。
毎度捉まる赤信号をぼんやり見ながら今日の授業を考えていた。
(あ、そういえば明日は休みか……)本来なら一人寝休日としゃれこんでいる所だが、あの三人がいるから、そういうわけにはいかないだろう。この世界での役割分担だとか、後回しにしてきたことを一気にやるにも都合がいい。
(せっかくだから、パソコンや携帯の触り方なんかも覚えさせるといいかもしれない)と休日の過ごし方にシフトしていると、「おはよう」と声をかけられた。
(この声は虎田か……)毎度の事ながら律儀なものだと声のする方を向くと、いつもの朝に見慣れない顔がある。
昨日放課後に突っかかってきた木島だ。「ちょ……みゆき!」と焦り気味に動いている。
「お、おはよう。いつも一人で登校してるのに珍しいな」
「うん。今日はみーちゃんが玄関前で待っててくれてて……」と嬉しそうに喋っている。委員長だからか虎田はいつも早い。本人には決して言えないが、木島は性格的にも登校時間ギリギリまで寝ているような、ずぼらな感じがする。化粧はバッチリなので、実際はそんな事も無いのだろうが、イメージ的にそんな感じ。
「なに?なんか文句あんの?」
今日も変わらず突っかかってくる。何がしたいのか、何が言いたいのかは分からないが、印象は最悪だ。
「別に、さっきも言ったが珍しいなって思っただけ」
そこで丁度信号が青に変わったので横断歩道を渡る。そのぶっきらぼうな態度に木島はムカッと来た。
(こうやってみゆきを待ち伏せしているのね…きっと後ろ姿を見たら必ず挨拶するように言ってるんだ…もしかして世に聞く調教だなんてこと……)
と妄想を膨らませる。荒唐無稽だとは自分でも思うが、知っていた友人が変えられていくような、ある種の恐ろしさもある。
少し歩いたところで木島が意を決して聞く。
「つかあんたこそなんでこんなに早くに登校してんの?部活とかしてないんでしょ?」
「……習慣だな。俺一人暮らしだったから二度寝すると起きられないんだよなぁ」
「へー」と虎田はさも興味ありげに頷いている。
「だったってなによ。今誰かと住んでるとでもいうわけ?」
「最近な。えっと……親族が訪ねてきて居座っちゃってさ。おっと、喋りすぎたか?」
「他人の事情なんて聴いても面白くないよな」なんて誤魔化しながら目を合わせようとしない。(嘘をついてる……)木島はそう判断する。「そ、そうなんだー」と虎田が顔を伏せている所から、虎田を連れ込んでいる可能性が出てきた。一瞬言い淀んだ箇所が「親族」というワードから考えて、知り合いではあるが、血縁関係は薄い。
「訪ねてきて居座った」からの「おっと、喋りすぎたか」は会話相手の事を考えているふりをしつつ、思考に靄をかけようとしている。真実に嘘を交える事で、さもすべてが本当であるかのように応える。自分がやってることを面に出して喋りたいが、それをすればどうなるか分かっているからこそ、あえて散りばめる。典型的サイコパスの思考だ。
木島の推理は、春田が虎田に対し、決定的な何かを握る。
それこそ黒峰の時にあった盗撮事件のような卑劣な行為。
黒峰ほど強くない虎田は消去を求めるが、春田は条件を付ける。
言う事を聞けば消去という約束をもとに一人暮らしの部屋に連れ込んで……。
ここまで読めれば、あとは虎田がどういう思考で、この男に接しているかを紐解けば、状況証拠で犯人認定からの現場を押さえて警察突き出しで一発御用。
「そんなんうざくない?何で住まわせてんの?実家帰らせれば?」
(木島がうざいんだよ…やっぱ喋り過ぎたな……)と後悔しつつ、返答する。
「うざくないよ。むしろ、俺は歓迎してる」
(そりゃあんたはそうだろうけど、みゆきは迷惑してんだよ!)段々イライラしてきて、表情に出てくる。
「……みゆきはどう思う?」
ビクッとなって目を逸らす。木島の顔は今、般若の様に怖い。この顔をまともに見られない虎田は考えるようなそぶりを見せて、「春田くんが歓迎してるなら、私はいいと思うけど?」とテキトーに答えた。
(なんてこと……これ絶対言わされてるでしょ……)木島は愕然とする。一言「いない方が良い」とか「みーちゃんに賛成」とか、今の質問で逃げる手はいくらでもあるのにそれを言わない。しかも露骨に目を逸らしてまでなんて、思った以上に闇が深い。
どこかで見た心理分析系ドラマの影響で、深みにはまる木島。
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今日も空が青い。
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