70 / 151
第六十九話 こみゅ
しおりを挟む
「春田さぁ……”こみゅ”やってないの?」
竹内がおもむろに聞いてきた。
「”こみゅ”?なんだそりゃ?」
「……やっぱ知らないんだ。無料の通信アプリの事だよ。ほら、こうして分かりやすく文字で会話できる奴……」
携帯画面を見せてもらうと、高橋との会話記録が表示されていた。
学生の中ではやっている、名前そのままのコミュニケーションツール。基本無料だが、アプリ内で課金すれば、文字や画像の加工もできる。「こみゅ」と言えば学生なら知らぬ者がいないアプリだ。
携帯など、基本的に家族とのやり取りしかない春田には無用の長物であった。
竹内の「やっぱ」には春田に対する印象が見え隠れしていた。
「ほーん。高橋が乱用しているこの”w”には何の意味があるんだ?」
「……この”w”は笑いの頭文字を取って、笑っている…すごくおかしい事をイメージしてるの……」
竹内が携帯を手元に戻して、ちょちょっと操作すると、また画面を見せる。
「文字で顔を作る顔文字とかの応用で、大文字の”TT”で泣いているのをイメージさせたり……顔文字の括弧の内部に♯を入れて血管をイメージさせて怒っているのを演出したりね……」
「へぇー……いろいろあんだな」
春田は感心する。竹内は「……おじいちゃんみたい……」と言って机に携帯を置くと、手を突き出した。
「……携帯かして」
春田は逆らう事なく携帯を渡す。パスワードロックもかけていないので、すぐに画面が開き、サイトに飛んでちょちょっと操作する。すると、元々入っていたアプリと違う可愛らしいひらがなで「こみゅ」と表示されたショートカットキーが出現する。
その後すぐに竹内は自分の携帯を起動し、友達申請からの承認を済ませて、アプリ画面の最初の友達に「竹内」が表示されていた。
「……今度から、このアプリで連絡が取れる……あ、電話もアプリ内の通話なら無料だから、文字が煩わしかったら、電話に切り替えられるんで……よろ」
と、携帯を返した。
「マジで?すげぇじゃん。これで通話時間とか気にしなくてもよくなるわけか?サンキュー」
そのアプリを物珍しそうに触っている。竹内は相変わらずの無表情だが、その顔は若干誇らしげだ。それを横目で見ていた虎田は焦りを含んだ目で竹内と春田を交互に見ている。
(ズルい!完全抜け駆けじゃん!)
一体、何に対するズルなのか、何に対する抜け駆けなのか、正直自分でもまだ理解できていないが、これに負けじと虎田も続く。
「竹内さん、春田くんに”こみゅ”入れてあげたの?わ、私も使ってるんだけど、申請出してもいい?」
カバンからすすっと携帯を出す。
「お、虎田さんもやってんだ。というよりもしかしてやってなかったの俺だけだったり?」
休憩中のクラスメイトを見ると、あっちで”ピロン”こっちで”ピロン”と特有のSE音で着信を知らせている。春田はその様子を見て「みたいだな……」とちょっとしょぼくれる。
「いいじゃん、いつ初めても。それよりほら」と虎田が携帯をかざす。
何をしているのか分からず眺めていると、竹内が見ちゃいられないと、声を出す。
「……アプリ起動して、お近づき通信っていう奴を起動すんの……」
「貸して」といって携帯を奪うと、ちょっと複雑な所に例の”お近づき通信”があった。間違って触れて、変な奴と通信しないようにする配慮だが、春田には煩わしいとしか思えなかった。虎田は自分が説明すればよかったと悔しがるが、表情に出さない様、食いしばる。
「……で、こうして委員長の携帯にかざすと……」ピロリンと着信のSEに一つ音を足したような音が鳴る。友達の申請欄に”みゆき”の名前があった。
「あれ?下の名前?」
「ああ……ニックネームを付けれんの…例えば、春田なら”はるぴょん”とかすれば、ユーザー名が今の春田からはるぴょんに変わるよ……」
仕様が分かり、納得する春田。
「いや、はるぴょんはないな」
「こ、ここの承認ボタン押せば、登録できるから」
虎田は自分の携帯画面を見せながら承認をタップする。春田のアイコンが表示され、友達欄に記録された。そこには家族、友達、その他のジャンルがあり、家族の欄には母、父、姉とあり、友達にはみーちゃん他ズラリと並んでいた。その他の欄は空になっている。
春田は一番新しい登録者として、一番下に位置している。
「へー、新しいのが一番下に行くのか……」
「あいうえお順とか、会話数多い順少ない順とか変えられるけどね。順番はいじってないからこうなるの」
虎田も春田にアプリの内容を教える。春田が承認をタップすると、友達欄にみゆきの名前が連なった。竹内の下にみゆきの名前がある事に複雑な心境を覚えつつも、虎田はウキウキしていた。感心しっぱなしの春田はアプリのヘルプ画面を見ながらつぶやく。
「携帯なんてあんまりいじらないから、どんな機能があるのか全然知らないな……」
「……え?もったいなくない?それ、けっこー新しい機種だよね。メモリも要領もそれなりにあるんだから、暇つぶしに気になるアプリ取ればいいじゃん……」
春田は携帯を机に置き、頬杖を突く。
「マンションで一人暮らしだったし、暇になればゲームなりなんなりしてたから、携帯をいじる事は無かったんだよなぁ……」
友達がいないという悲しい話を聞かされた2人はどんな顔をしたらいいか分からず、虎田は正面を向き、竹内は春田の左肩を持つ。「あっ」という顔をはするものの、陽キャ特有の分け隔てなく何かにつけてベタベタ触る感じを見て、柄じゃない事を悟ると虎田は諦めて俯く。
「……春田さぁ、せっかく”こみゅ”入れたし、最近知り合った人たちを誘ったらいいんじゃない?」
「それナイスアイデアじゃない?」
俯きから一転パッと顔を上げて、春田に顔を向ける。
(あ、面倒な事になった)と思ったが時すでに遅しだ。
竹内がおもむろに聞いてきた。
「”こみゅ”?なんだそりゃ?」
「……やっぱ知らないんだ。無料の通信アプリの事だよ。ほら、こうして分かりやすく文字で会話できる奴……」
携帯画面を見せてもらうと、高橋との会話記録が表示されていた。
学生の中ではやっている、名前そのままのコミュニケーションツール。基本無料だが、アプリ内で課金すれば、文字や画像の加工もできる。「こみゅ」と言えば学生なら知らぬ者がいないアプリだ。
携帯など、基本的に家族とのやり取りしかない春田には無用の長物であった。
竹内の「やっぱ」には春田に対する印象が見え隠れしていた。
「ほーん。高橋が乱用しているこの”w”には何の意味があるんだ?」
「……この”w”は笑いの頭文字を取って、笑っている…すごくおかしい事をイメージしてるの……」
竹内が携帯を手元に戻して、ちょちょっと操作すると、また画面を見せる。
「文字で顔を作る顔文字とかの応用で、大文字の”TT”で泣いているのをイメージさせたり……顔文字の括弧の内部に♯を入れて血管をイメージさせて怒っているのを演出したりね……」
「へぇー……いろいろあんだな」
春田は感心する。竹内は「……おじいちゃんみたい……」と言って机に携帯を置くと、手を突き出した。
「……携帯かして」
春田は逆らう事なく携帯を渡す。パスワードロックもかけていないので、すぐに画面が開き、サイトに飛んでちょちょっと操作する。すると、元々入っていたアプリと違う可愛らしいひらがなで「こみゅ」と表示されたショートカットキーが出現する。
その後すぐに竹内は自分の携帯を起動し、友達申請からの承認を済ませて、アプリ画面の最初の友達に「竹内」が表示されていた。
「……今度から、このアプリで連絡が取れる……あ、電話もアプリ内の通話なら無料だから、文字が煩わしかったら、電話に切り替えられるんで……よろ」
と、携帯を返した。
「マジで?すげぇじゃん。これで通話時間とか気にしなくてもよくなるわけか?サンキュー」
そのアプリを物珍しそうに触っている。竹内は相変わらずの無表情だが、その顔は若干誇らしげだ。それを横目で見ていた虎田は焦りを含んだ目で竹内と春田を交互に見ている。
(ズルい!完全抜け駆けじゃん!)
一体、何に対するズルなのか、何に対する抜け駆けなのか、正直自分でもまだ理解できていないが、これに負けじと虎田も続く。
「竹内さん、春田くんに”こみゅ”入れてあげたの?わ、私も使ってるんだけど、申請出してもいい?」
カバンからすすっと携帯を出す。
「お、虎田さんもやってんだ。というよりもしかしてやってなかったの俺だけだったり?」
休憩中のクラスメイトを見ると、あっちで”ピロン”こっちで”ピロン”と特有のSE音で着信を知らせている。春田はその様子を見て「みたいだな……」とちょっとしょぼくれる。
「いいじゃん、いつ初めても。それよりほら」と虎田が携帯をかざす。
何をしているのか分からず眺めていると、竹内が見ちゃいられないと、声を出す。
「……アプリ起動して、お近づき通信っていう奴を起動すんの……」
「貸して」といって携帯を奪うと、ちょっと複雑な所に例の”お近づき通信”があった。間違って触れて、変な奴と通信しないようにする配慮だが、春田には煩わしいとしか思えなかった。虎田は自分が説明すればよかったと悔しがるが、表情に出さない様、食いしばる。
「……で、こうして委員長の携帯にかざすと……」ピロリンと着信のSEに一つ音を足したような音が鳴る。友達の申請欄に”みゆき”の名前があった。
「あれ?下の名前?」
「ああ……ニックネームを付けれんの…例えば、春田なら”はるぴょん”とかすれば、ユーザー名が今の春田からはるぴょんに変わるよ……」
仕様が分かり、納得する春田。
「いや、はるぴょんはないな」
「こ、ここの承認ボタン押せば、登録できるから」
虎田は自分の携帯画面を見せながら承認をタップする。春田のアイコンが表示され、友達欄に記録された。そこには家族、友達、その他のジャンルがあり、家族の欄には母、父、姉とあり、友達にはみーちゃん他ズラリと並んでいた。その他の欄は空になっている。
春田は一番新しい登録者として、一番下に位置している。
「へー、新しいのが一番下に行くのか……」
「あいうえお順とか、会話数多い順少ない順とか変えられるけどね。順番はいじってないからこうなるの」
虎田も春田にアプリの内容を教える。春田が承認をタップすると、友達欄にみゆきの名前が連なった。竹内の下にみゆきの名前がある事に複雑な心境を覚えつつも、虎田はウキウキしていた。感心しっぱなしの春田はアプリのヘルプ画面を見ながらつぶやく。
「携帯なんてあんまりいじらないから、どんな機能があるのか全然知らないな……」
「……え?もったいなくない?それ、けっこー新しい機種だよね。メモリも要領もそれなりにあるんだから、暇つぶしに気になるアプリ取ればいいじゃん……」
春田は携帯を机に置き、頬杖を突く。
「マンションで一人暮らしだったし、暇になればゲームなりなんなりしてたから、携帯をいじる事は無かったんだよなぁ……」
友達がいないという悲しい話を聞かされた2人はどんな顔をしたらいいか分からず、虎田は正面を向き、竹内は春田の左肩を持つ。「あっ」という顔をはするものの、陽キャ特有の分け隔てなく何かにつけてベタベタ触る感じを見て、柄じゃない事を悟ると虎田は諦めて俯く。
「……春田さぁ、せっかく”こみゅ”入れたし、最近知り合った人たちを誘ったらいいんじゃない?」
「それナイスアイデアじゃない?」
俯きから一転パッと顔を上げて、春田に顔を向ける。
(あ、面倒な事になった)と思ったが時すでに遅しだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる