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第七十一話 思い
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昼休憩で一段落した春田は、虎田以下全員の顔を見渡す。
(考えてみれば俺一人だけ男なんだな……)
別に悪い気はしないが、周りから見たら相当浮いていることは間違いない。自分を抜いた周りの女子同士で会話が弾んでいるのを見ると、そんな場違い感が大きく膨らんでいく。
春田はおもむろに立ち上がる。突然の事に「ん?」と疑問符を浮かべながら春田を見る。
「どうかしたっすか?先輩?」
高橋が我先に声をかけてくる。
「喉乾いたし、購買で飲み物買って教室戻るわ。時間もあれだし、ここらで解散と行こうぜ」
春田の一方的な意見だが、概ねその通りである。昼ご飯をつつきつつ駄弁っていれば休み時間などすぐに尽きる。
滝澤と虎田が腕時計を見て、竹内と高橋が携帯で時間を確認する。みんな納得した顔を見せると、「じゃな」と言って春田は屋上から出て行った。
「……じゃあ、私たちも……」と虎田が立ち上がりそうになったところで滝澤が口を開いた。
「虎田さん。お聞きしたいのですが、貴女は春田さんの事をどのように思っていますか?」
その質問に空気が冷える。この大富豪のお嬢様が何を聞きたいのか、少し考えてみるが、年頃の女性が常に口にするあのネタだろうことはすぐに分かった。
「ど、どうって……それは……」
答えに行き詰まる虎田。その動揺を確認した滝澤は納得したようにうなずいた。
「竹内さんは?」
「……ダチ」
「高橋さんは?」
「竹さんのダチで、めぐの先輩っす」
ほぼ即答の二人に対し、虎田は固まる。恥ずかしそうに顔を真っ赤にして半泣きに俯く。「う~」と低い唸り声をだす。しかし、動物の威嚇のようなものではなく、恥ずかしい気持ちが綯交ぜになり、肺から空気が漏れ出たに過ぎない。
「そう恥ずかしがることはないですよ。傍から見てもお似合いの二人だと思います?」
大きなお世話である。だが、こんなことを聞き、どちらかと言えば応援しているような物言いは、滝澤は春田に気がないのでは?と思わせる。自分の中にあったストッパーを考える。
もし、春田にアタックしているのがここにいる全員なら、間違いなく虎田はこの闘争に参加する事は無い。この気持ちを押しとどめて次の男性を待つ。しかし、誰も春田を狙っていないなら話は変わってくる。
(……って何考えてんの私は―!!?)
春田は最近お互いの存在を認識しあったばかりのクラスメイトだ。名前すら曖昧で、影のように徹してきた春田が突然、通学中に自分を見ただけである。どちらかと言えば真面目な彼だが、先生から良いように使われている感じしかしなかったから、日頃の鬱憤も込めてついでに吐き出しについてきてもらった。本当にそのくらいだ。
後は、通学路が一緒なだけの関係でしかない。
ストッパーも何も自分で思い返してみても、別にただのクラスメイトだし、好意を感じる等、あり得ないのではないだろうかと不思議に思い始めた。しかし、そんな時、通学路で名前を初めて呼んでもらった時を思い返すと、また変わってくる。あの一瞬の距離感は忘れ慣れない瞬間だった。
「……重症じゃん……」
竹内は分かりやすすぎる虎田の顔の変わりように若干引きつつ、でも普段より面白がっている。
「いいっすねー。マジ青春って感じで」
竹内に合わせてその情景に浸る高橋。
見ているこっちまで恥ずかしくなってくるような顔の変化は時に誰かの気持ちを動かす。
虎田本人は全く気付いていないが……。
「本当に素晴らしい事です。わたくしもうかうかしていられませんね」
「ちょちょ……お、おおお、お待ちを!何をおっしゃるんですか!?詩織様まで、よりにもよってあの男を?!」
菊池は滝澤の言葉にビックリして、どもってしまう。
「菊池。落ち着きなさい。驚きすぎよ」
至って冷静に返す滝澤。
「し、しかし、あの男は詩織様とは釣り合いが取れません。あのような平凡な男では……」
「だから落ち着くのです。何も今すぐどうこうという話ではないでしょう?」
(それはつまりこれからあると言う事では?)竹内と高橋は思う。
「いいですか?まだ分からない事がたくさんあります。殿方とお付き合いするならば相手の好みに合わせるという行動原理を身につけねばなりません。春田さんという未知数を相手にどれだけ立ち回る事が出来るのか、という経験にもなると確信しているのです」
要は練習台と言う事。菊池はそのことに気付くとちょっとホッとした。何のために自分が悪い虫を遠ざけてきたのか、全てが破綻するのではないかと恐怖してしまったせいでもある。
虎田も内心、胸をなでおろす反面、そのような感情で弄ぶのは如何なものかと一瞬軽蔑してしまう。人が何を考えようが、それはその人の勝手だが、口に出してしまうと、隠れていた悪い部分が露呈する。やはり自分たちとは違う世界の人間なのだと気持ちが乖離した瞬間だ。
「恋のライバルとしてがんばっていきましょうね。虎田さん」
にこりと笑って虎田を牽制する。お金を持ってて美人で大人びている。
平凡でお世辞にも性格が良いとは言えない自分が、敵うはずがないと思いつつ、敵対心はうんと上がる。
「は、はぁ……」という生返事しか出ないが、(春田くんは私が守らなければ……)という使命感にも似た気持ちが湧き上がった。
(考えてみれば俺一人だけ男なんだな……)
別に悪い気はしないが、周りから見たら相当浮いていることは間違いない。自分を抜いた周りの女子同士で会話が弾んでいるのを見ると、そんな場違い感が大きく膨らんでいく。
春田はおもむろに立ち上がる。突然の事に「ん?」と疑問符を浮かべながら春田を見る。
「どうかしたっすか?先輩?」
高橋が我先に声をかけてくる。
「喉乾いたし、購買で飲み物買って教室戻るわ。時間もあれだし、ここらで解散と行こうぜ」
春田の一方的な意見だが、概ねその通りである。昼ご飯をつつきつつ駄弁っていれば休み時間などすぐに尽きる。
滝澤と虎田が腕時計を見て、竹内と高橋が携帯で時間を確認する。みんな納得した顔を見せると、「じゃな」と言って春田は屋上から出て行った。
「……じゃあ、私たちも……」と虎田が立ち上がりそうになったところで滝澤が口を開いた。
「虎田さん。お聞きしたいのですが、貴女は春田さんの事をどのように思っていますか?」
その質問に空気が冷える。この大富豪のお嬢様が何を聞きたいのか、少し考えてみるが、年頃の女性が常に口にするあのネタだろうことはすぐに分かった。
「ど、どうって……それは……」
答えに行き詰まる虎田。その動揺を確認した滝澤は納得したようにうなずいた。
「竹内さんは?」
「……ダチ」
「高橋さんは?」
「竹さんのダチで、めぐの先輩っす」
ほぼ即答の二人に対し、虎田は固まる。恥ずかしそうに顔を真っ赤にして半泣きに俯く。「う~」と低い唸り声をだす。しかし、動物の威嚇のようなものではなく、恥ずかしい気持ちが綯交ぜになり、肺から空気が漏れ出たに過ぎない。
「そう恥ずかしがることはないですよ。傍から見てもお似合いの二人だと思います?」
大きなお世話である。だが、こんなことを聞き、どちらかと言えば応援しているような物言いは、滝澤は春田に気がないのでは?と思わせる。自分の中にあったストッパーを考える。
もし、春田にアタックしているのがここにいる全員なら、間違いなく虎田はこの闘争に参加する事は無い。この気持ちを押しとどめて次の男性を待つ。しかし、誰も春田を狙っていないなら話は変わってくる。
(……って何考えてんの私は―!!?)
春田は最近お互いの存在を認識しあったばかりのクラスメイトだ。名前すら曖昧で、影のように徹してきた春田が突然、通学中に自分を見ただけである。どちらかと言えば真面目な彼だが、先生から良いように使われている感じしかしなかったから、日頃の鬱憤も込めてついでに吐き出しについてきてもらった。本当にそのくらいだ。
後は、通学路が一緒なだけの関係でしかない。
ストッパーも何も自分で思い返してみても、別にただのクラスメイトだし、好意を感じる等、あり得ないのではないだろうかと不思議に思い始めた。しかし、そんな時、通学路で名前を初めて呼んでもらった時を思い返すと、また変わってくる。あの一瞬の距離感は忘れ慣れない瞬間だった。
「……重症じゃん……」
竹内は分かりやすすぎる虎田の顔の変わりように若干引きつつ、でも普段より面白がっている。
「いいっすねー。マジ青春って感じで」
竹内に合わせてその情景に浸る高橋。
見ているこっちまで恥ずかしくなってくるような顔の変化は時に誰かの気持ちを動かす。
虎田本人は全く気付いていないが……。
「本当に素晴らしい事です。わたくしもうかうかしていられませんね」
「ちょちょ……お、おおお、お待ちを!何をおっしゃるんですか!?詩織様まで、よりにもよってあの男を?!」
菊池は滝澤の言葉にビックリして、どもってしまう。
「菊池。落ち着きなさい。驚きすぎよ」
至って冷静に返す滝澤。
「し、しかし、あの男は詩織様とは釣り合いが取れません。あのような平凡な男では……」
「だから落ち着くのです。何も今すぐどうこうという話ではないでしょう?」
(それはつまりこれからあると言う事では?)竹内と高橋は思う。
「いいですか?まだ分からない事がたくさんあります。殿方とお付き合いするならば相手の好みに合わせるという行動原理を身につけねばなりません。春田さんという未知数を相手にどれだけ立ち回る事が出来るのか、という経験にもなると確信しているのです」
要は練習台と言う事。菊池はそのことに気付くとちょっとホッとした。何のために自分が悪い虫を遠ざけてきたのか、全てが破綻するのではないかと恐怖してしまったせいでもある。
虎田も内心、胸をなでおろす反面、そのような感情で弄ぶのは如何なものかと一瞬軽蔑してしまう。人が何を考えようが、それはその人の勝手だが、口に出してしまうと、隠れていた悪い部分が露呈する。やはり自分たちとは違う世界の人間なのだと気持ちが乖離した瞬間だ。
「恋のライバルとしてがんばっていきましょうね。虎田さん」
にこりと笑って虎田を牽制する。お金を持ってて美人で大人びている。
平凡でお世辞にも性格が良いとは言えない自分が、敵うはずがないと思いつつ、敵対心はうんと上がる。
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