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第七十五話 密談
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自分はなんでこんなにも変な状況になってしまうのか考えてみる。
素行か?比較的真面目に生きてきた以上素行は良かったはず。
ポイ子との出会いから全てが変わったといって過言ではないが、では一体何がどう変わったかと言えば、結局のところ、それが切っ掛けであると言うだけで何も変わっていない。
虎田との出会いも滝澤や菊池との出会いも自分が勝手にやったことだ。
ヤシャがやってきてパニックを起こしたのは事実だが、竹内との出会いは単なる偶然である。スーパーに行く機会が無いわけではないので、いつか出会っていただろうし、それが早まっただけだ。
竹内に目をつけられたのは万引きを注意し、捕まらないように諭したからだ。
高橋は竹内のおまけとして見れば良いのだろう。それ以上でもそれ以下でもない。
となれば、木島は虎田のおまけか?いや、冷静になって色々考えれば、別のコミュニティと喋っているのが気に食わないだけのイチャモンと取れる。
春田個人の悪いことを聞き出そうとしても「それとこれとは……」といった感じではぐらかすし……実際は言うことが無いのに絡んでくる迷惑な奴だと捉えざる終えない。百歩譲って、彼女の考えを取り入れるなら、春田が虎田を奪った事が原因と言えよう。
いずれにしても春田自身のせいだという答えに行き着く。
(もう何度同じ事を考えたか……)
なぜまたこんな考えに至っているのか?理由は簡単だ。
放課後、ポイ子を待つために教室に残った春田は、竹内と虎田を見送った後、普段決して喋ることの無いギャルに絡まれる事になった。
窓際の席でボーッと外を眺めていると、肩をトトトンと叩かれた。振り返ると目と鼻の先に館川が顔を覗き込んでくる。
「や~」
と右手を挙げて気さくに挨拶して来るが(近い近い……)陰キャの春田には刺激が強い。5限目の視聴覚室から思っていたのだが、彼女は妙に馴れ馴れしい。
「お、おう……」
どうも慣れない相手にはどもってしまう。他人とよく会話していなかったが為の弊害だ。
「ねぇ~、教えて欲しいんだけど~。みゆきとはどんな関係なの~」
「え?どんなって……」
虎田は5限目以降から相変わらずの様子で、さっさと帰ったので、他がそれを追う形になった。館川は春田と虎田の関係が気になって木島たちと別行動をとったようだ。木島同様、何か勘違いしているのか、ただ気に食わないのか…いずれにしても良い風には見られていないだろう。
「そりゃ友達だ」
「うっそだぁ~、みゆきのあの反応は完全にBくらいは余裕でやってるでしょ~?」
「は?B?」
突然のアルファベット。何のことか分からず聞き返す。既に死語にすらなっている恋愛ABCという奴だ。春田にはピンとこないが、今でも通じるところでは通じる。
「あ、ふ~ん。とぼけるんだ、なるほどね~……そういえば竹内さんも春田に同じ反応してたよね~。無害そうな顔して随分罪作りなんだ~……滝澤さんにも粉かけてるみたいだし?むこうさんもまんざらじゃないみたいだし?もしかして凄いテクを持ってるとか~そんなん?」
何かを察した館川は矢継ぎ早に質問を飛ばす。しかし、会話にならなければ独り言であるように、質問も質問と捉えられなければ、ただの独り言である。
(こいつは何を言っているんだ?)Bだの粉だのテクだのと、春田の頭はこんがらがって答えなど出ようはずもない。とりあえず鼻先数cmの近い顔を両肩をガッと持って、だが、痛くないように前に押し、距離を開ける。
館川は「あぁん」と鼻にかかったような声を出す。
「ちょちょ……近いって。一旦離れて、落ち着いて話をしようぜ?な?ほら、そこに座って……」
と自分のペースを取り戻すため、自分にも言い聞かせるように館川に指示する。不服そうな顔をしつつも虎田の席に腰かける。いつもやっていた十八番の「詰め寄り」が効果なく終わったことに春田に対する認識が変わる。
大抵の知り合いはこの詰め寄りに弱い。同い年の異性なら98%恋にオトせる自信がある。それほど自分の容姿に自信があるからだ。
この方法で入手した情報は多く、一度口を滑らせれば、聞きたくないことまで流れ出る。
彼女はこの学園の情報通であり、木島たちの話題係なのだ。
春田は恥ずかしがってはいるものの、心はまったく緩んでいない。
(ふ~ん……やるじゃん……)
彼女はギャルに見合った見た目通り、町で遊んだり、合コン行ったり、彼氏作ったり、バイトと称してパパ活を行うなど大変アグレッシブな行動派である。虎田のグループ内では一番トラブルの多い子でもあり、虎田たちに出会う前は別のグループで幅を利かせていたが、あるきっかけでハブられ、木島と虎田に救われて以来友達である。
ここで言いたいのはその培われた経験値。
中学生の時から本格始動したアグレッシブな彼女の行動は、心身の成長を促し、年相応とは呼べないハッキリとした自我を持つに至る。
情報を収集するのにある程度の危険は侵しても、主導権を握られるようなことは避ける。このクラス内で最も人心掌握に長けているのは間違いなく彼女だろう。
成績はぶっちゃけ下の方だが、生活における頭は良い。春田に詰め寄ったのも、そういった経験則から危険はないと判断したからだ。こうして強引に引き剥がされるとは思わなかった。
(みゆきの事……あり得ないと思ったけど、これは裏がありそうな感じ?)
木島が真剣に相談して来た時はどうしようかと思ったのだが、喋ってみるとあながち間違いではないのかもしれない。しかし、そう決めつけるのも早計だ。こういう恥ずかしがり方の可能性もある。館川は話し方を変える事にした。
「ごめ~ん。私って興奮するとこうなっちゃうんだ~。だって~、友達があんなに夢中になる奴がどんななのか知りたいって思うのは普通だよね~」
一歩引いて様子を窺う。質問自体はどれもストレートなものだが、これは何より効果的に働く。下手に隠すより、最初から腹を割って話す事で、疑念を払しょくさせるのだ。木島とは逆のアプローチである。
あと、館川という存在がさらに効果的に働く。遊んでそうな見た目の為、噂を聞きつけてきました!とか、なんか気になって……とか、「野次馬根性で聞きに来た」感が出て、聞かれた相手は真実と異なる歪曲された嘘を解消しようと、ついつい口が軽くなる。
「……は?」
そんな思惑とは裏腹に春田は聞いたことが頭に入らず間抜けに聞き返す。
「え?だから~みゆきが春ちんのことを~すっごく気にしてるって言ってるの~、ぶっちゃけ好きなんじゃないかな~って……」
(なるほど……こいつは何を言っているんだ?)まだ出会って…いや認識して3、4日程度の関係である。好き嫌いなんてよく分からないが、そういう感情に成るには、あと一週間は時間がいるだろう。映画じゃあるまいし、2、3日でどうにかなるはずがない。
「飛躍しすぎじゃないか?俺なんかに興味があるわけがないだろ……」
自分で言ってて寂しいが、虎田は同じ雰囲気の春田に癒しを求めているだけであって、それ以上の特別な感情など抱いていないはずだ。
「え~?あんなに分かりやすいのに~?今日のアレ、観たでしょ~?あの時のみゆきは確実にアレだったでしょ~?」
比喩表現が多すぎる。最初のアレは映画の事、強調したアレは顔を真っ赤にした奴だろう。そういえば虎田に対して木島を中心に詮索するような真似をしていたのを思い出した。あのことについては何を考えているのだろうか?
「……俺からも聞きたいんだが、虎田さんの事をどう思っているんだ?」
「……質問してるのは私なんだけど~……ていうか~分かるくない?私らずっと友達だったし~、教室でも~、騒ぎまくったし~。遠くから見てたんでしょ~?」
虎田との関係を指折り数えながら春田に伝える。
「つまり、仲の良い友人だと?」
「?そう言ってんじゃんさ~」
「……なんの……問題もない?」
春田の館川の反応を窺う姿勢に、段々イラっとしてくる。
「ちょっと~、何が言いたいわけ~?」
その雰囲気を感じつつも聞かずにはいられない。
「最近避けられてるとかないのか?」
「……それは……まぁ……」
虎田は明らかに木島たちを避けている。ここ2日ばかりは碌に話していない。でもたった数日ばかり喋る事がなくても、別に普通だろうと判断する。木島は滅茶苦茶気にしているが、席替えのせいで席自体が遠くなったし、すぐに慣れてこっちに来るだろうと考えていたが、今回の件で木島のお願いがあったから春田に接近したに過ぎない。
「でも~、気にするほどでもないって言うか~……」
「そうか……館川さんの質問に戻るけど、そういうのは本人に直接聞いてみるのが良いんじゃないか?俺にはそういうのよく分かんないしさ」
館川は一瞬スッと真顔に戻ったあと、いつものポワンとした柔らかい顔になる。
「つ~ま~ん~な~い~」
聞きたいのがこういうことじゃないのは重々承知だが、自分がとやかく口を出せる事でもない。要は逃げの一手だ。一瞬の真顔が気になるが、ソロッと教室の出入り口から顔を覗かせたポイ子を視認して、帰る時間になったと考える。
「帰る」とどう切り出そうか迷ったが(いやいや、何を考える?)と自分に言い聞かせ「おーっす」と景気よく手を上げる。
「?」館川は不思議そうに後ろを向くと、そっと顔を覗かせる女の子が目に入った。
「待ち人も来たし、帰るわ」
「え?待ち人って……あれは……」
誰?と言いたそうな顔でキョロキョロしている。しかし、それには答えず「じゃ、また明日」と言ってさっさと教室から出る。ポカンとする間に物事が進み、教室には館川以外生徒は残っていなかった。
「新しい女って……春ちん……いったい何者なの?」
その声は教室内に小さく響いた。
結局、何の進展もないまま、木島に言われたお願いを達成することもなく、謎が増えたまま、この密談はお流れとなった。
素行か?比較的真面目に生きてきた以上素行は良かったはず。
ポイ子との出会いから全てが変わったといって過言ではないが、では一体何がどう変わったかと言えば、結局のところ、それが切っ掛けであると言うだけで何も変わっていない。
虎田との出会いも滝澤や菊池との出会いも自分が勝手にやったことだ。
ヤシャがやってきてパニックを起こしたのは事実だが、竹内との出会いは単なる偶然である。スーパーに行く機会が無いわけではないので、いつか出会っていただろうし、それが早まっただけだ。
竹内に目をつけられたのは万引きを注意し、捕まらないように諭したからだ。
高橋は竹内のおまけとして見れば良いのだろう。それ以上でもそれ以下でもない。
となれば、木島は虎田のおまけか?いや、冷静になって色々考えれば、別のコミュニティと喋っているのが気に食わないだけのイチャモンと取れる。
春田個人の悪いことを聞き出そうとしても「それとこれとは……」といった感じではぐらかすし……実際は言うことが無いのに絡んでくる迷惑な奴だと捉えざる終えない。百歩譲って、彼女の考えを取り入れるなら、春田が虎田を奪った事が原因と言えよう。
いずれにしても春田自身のせいだという答えに行き着く。
(もう何度同じ事を考えたか……)
なぜまたこんな考えに至っているのか?理由は簡単だ。
放課後、ポイ子を待つために教室に残った春田は、竹内と虎田を見送った後、普段決して喋ることの無いギャルに絡まれる事になった。
窓際の席でボーッと外を眺めていると、肩をトトトンと叩かれた。振り返ると目と鼻の先に館川が顔を覗き込んでくる。
「や~」
と右手を挙げて気さくに挨拶して来るが(近い近い……)陰キャの春田には刺激が強い。5限目の視聴覚室から思っていたのだが、彼女は妙に馴れ馴れしい。
「お、おう……」
どうも慣れない相手にはどもってしまう。他人とよく会話していなかったが為の弊害だ。
「ねぇ~、教えて欲しいんだけど~。みゆきとはどんな関係なの~」
「え?どんなって……」
虎田は5限目以降から相変わらずの様子で、さっさと帰ったので、他がそれを追う形になった。館川は春田と虎田の関係が気になって木島たちと別行動をとったようだ。木島同様、何か勘違いしているのか、ただ気に食わないのか…いずれにしても良い風には見られていないだろう。
「そりゃ友達だ」
「うっそだぁ~、みゆきのあの反応は完全にBくらいは余裕でやってるでしょ~?」
「は?B?」
突然のアルファベット。何のことか分からず聞き返す。既に死語にすらなっている恋愛ABCという奴だ。春田にはピンとこないが、今でも通じるところでは通じる。
「あ、ふ~ん。とぼけるんだ、なるほどね~……そういえば竹内さんも春田に同じ反応してたよね~。無害そうな顔して随分罪作りなんだ~……滝澤さんにも粉かけてるみたいだし?むこうさんもまんざらじゃないみたいだし?もしかして凄いテクを持ってるとか~そんなん?」
何かを察した館川は矢継ぎ早に質問を飛ばす。しかし、会話にならなければ独り言であるように、質問も質問と捉えられなければ、ただの独り言である。
(こいつは何を言っているんだ?)Bだの粉だのテクだのと、春田の頭はこんがらがって答えなど出ようはずもない。とりあえず鼻先数cmの近い顔を両肩をガッと持って、だが、痛くないように前に押し、距離を開ける。
館川は「あぁん」と鼻にかかったような声を出す。
「ちょちょ……近いって。一旦離れて、落ち着いて話をしようぜ?な?ほら、そこに座って……」
と自分のペースを取り戻すため、自分にも言い聞かせるように館川に指示する。不服そうな顔をしつつも虎田の席に腰かける。いつもやっていた十八番の「詰め寄り」が効果なく終わったことに春田に対する認識が変わる。
大抵の知り合いはこの詰め寄りに弱い。同い年の異性なら98%恋にオトせる自信がある。それほど自分の容姿に自信があるからだ。
この方法で入手した情報は多く、一度口を滑らせれば、聞きたくないことまで流れ出る。
彼女はこの学園の情報通であり、木島たちの話題係なのだ。
春田は恥ずかしがってはいるものの、心はまったく緩んでいない。
(ふ~ん……やるじゃん……)
彼女はギャルに見合った見た目通り、町で遊んだり、合コン行ったり、彼氏作ったり、バイトと称してパパ活を行うなど大変アグレッシブな行動派である。虎田のグループ内では一番トラブルの多い子でもあり、虎田たちに出会う前は別のグループで幅を利かせていたが、あるきっかけでハブられ、木島と虎田に救われて以来友達である。
ここで言いたいのはその培われた経験値。
中学生の時から本格始動したアグレッシブな彼女の行動は、心身の成長を促し、年相応とは呼べないハッキリとした自我を持つに至る。
情報を収集するのにある程度の危険は侵しても、主導権を握られるようなことは避ける。このクラス内で最も人心掌握に長けているのは間違いなく彼女だろう。
成績はぶっちゃけ下の方だが、生活における頭は良い。春田に詰め寄ったのも、そういった経験則から危険はないと判断したからだ。こうして強引に引き剥がされるとは思わなかった。
(みゆきの事……あり得ないと思ったけど、これは裏がありそうな感じ?)
木島が真剣に相談して来た時はどうしようかと思ったのだが、喋ってみるとあながち間違いではないのかもしれない。しかし、そう決めつけるのも早計だ。こういう恥ずかしがり方の可能性もある。館川は話し方を変える事にした。
「ごめ~ん。私って興奮するとこうなっちゃうんだ~。だって~、友達があんなに夢中になる奴がどんななのか知りたいって思うのは普通だよね~」
一歩引いて様子を窺う。質問自体はどれもストレートなものだが、これは何より効果的に働く。下手に隠すより、最初から腹を割って話す事で、疑念を払しょくさせるのだ。木島とは逆のアプローチである。
あと、館川という存在がさらに効果的に働く。遊んでそうな見た目の為、噂を聞きつけてきました!とか、なんか気になって……とか、「野次馬根性で聞きに来た」感が出て、聞かれた相手は真実と異なる歪曲された嘘を解消しようと、ついつい口が軽くなる。
「……は?」
そんな思惑とは裏腹に春田は聞いたことが頭に入らず間抜けに聞き返す。
「え?だから~みゆきが春ちんのことを~すっごく気にしてるって言ってるの~、ぶっちゃけ好きなんじゃないかな~って……」
(なるほど……こいつは何を言っているんだ?)まだ出会って…いや認識して3、4日程度の関係である。好き嫌いなんてよく分からないが、そういう感情に成るには、あと一週間は時間がいるだろう。映画じゃあるまいし、2、3日でどうにかなるはずがない。
「飛躍しすぎじゃないか?俺なんかに興味があるわけがないだろ……」
自分で言ってて寂しいが、虎田は同じ雰囲気の春田に癒しを求めているだけであって、それ以上の特別な感情など抱いていないはずだ。
「え~?あんなに分かりやすいのに~?今日のアレ、観たでしょ~?あの時のみゆきは確実にアレだったでしょ~?」
比喩表現が多すぎる。最初のアレは映画の事、強調したアレは顔を真っ赤にした奴だろう。そういえば虎田に対して木島を中心に詮索するような真似をしていたのを思い出した。あのことについては何を考えているのだろうか?
「……俺からも聞きたいんだが、虎田さんの事をどう思っているんだ?」
「……質問してるのは私なんだけど~……ていうか~分かるくない?私らずっと友達だったし~、教室でも~、騒ぎまくったし~。遠くから見てたんでしょ~?」
虎田との関係を指折り数えながら春田に伝える。
「つまり、仲の良い友人だと?」
「?そう言ってんじゃんさ~」
「……なんの……問題もない?」
春田の館川の反応を窺う姿勢に、段々イラっとしてくる。
「ちょっと~、何が言いたいわけ~?」
その雰囲気を感じつつも聞かずにはいられない。
「最近避けられてるとかないのか?」
「……それは……まぁ……」
虎田は明らかに木島たちを避けている。ここ2日ばかりは碌に話していない。でもたった数日ばかり喋る事がなくても、別に普通だろうと判断する。木島は滅茶苦茶気にしているが、席替えのせいで席自体が遠くなったし、すぐに慣れてこっちに来るだろうと考えていたが、今回の件で木島のお願いがあったから春田に接近したに過ぎない。
「でも~、気にするほどでもないって言うか~……」
「そうか……館川さんの質問に戻るけど、そういうのは本人に直接聞いてみるのが良いんじゃないか?俺にはそういうのよく分かんないしさ」
館川は一瞬スッと真顔に戻ったあと、いつものポワンとした柔らかい顔になる。
「つ~ま~ん~な~い~」
聞きたいのがこういうことじゃないのは重々承知だが、自分がとやかく口を出せる事でもない。要は逃げの一手だ。一瞬の真顔が気になるが、ソロッと教室の出入り口から顔を覗かせたポイ子を視認して、帰る時間になったと考える。
「帰る」とどう切り出そうか迷ったが(いやいや、何を考える?)と自分に言い聞かせ「おーっす」と景気よく手を上げる。
「?」館川は不思議そうに後ろを向くと、そっと顔を覗かせる女の子が目に入った。
「待ち人も来たし、帰るわ」
「え?待ち人って……あれは……」
誰?と言いたそうな顔でキョロキョロしている。しかし、それには答えず「じゃ、また明日」と言ってさっさと教室から出る。ポカンとする間に物事が進み、教室には館川以外生徒は残っていなかった。
「新しい女って……春ちん……いったい何者なの?」
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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