魔王復活!

大好き丸

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第八十五話 昨日の敵は……

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一通り風呂から上がり、リビングでまったりしていた時、アリシアが唐突に口を開く。

「誰か何か面白い話しとかないの?」

それはいわゆる無茶ぶりという奴である。

「お前は突然何を言い出すんだ?」

困惑する春田。

「だってつまんないんだもん。このテレビとか言うのも何言ってるか分かんないし、外にも出られないから体がなまるしさ……」

元気一杯な若いアリシアがまったりした空気を楽しめるのはまだまだ先だ。

「では、どんなお話がよろしいのでしょうか?」

ポイ子が横から声をかける。というか、部下の内で声をかけるとしたらポイ子だけだろう。ヤシャは関心こそあるがどうでもよさげだ。ナルルは春田の側で瞑想していて、マレフィアに至っては眠そうにうつらうつらしている。

「そうだな~……大戦当時の様子でも聞こうかな。魔族サイドの話を聞けるなんてまず無いことだし、戦争って負けた側の話の方が面白かったりするよね」

大変失礼な物言いである。まさに傲慢の塊。

「お前には倫理とか良心とかそういうのがないのか?ニーナよぅ、お前の娘だろ?なんでこんな子に育っちゃったんだ?」

「人間絶対主義を掲げる教育機関の賜物でしょうね。勇者の血筋で大いなる力を授かったことも起因してると考えているわ。私自身放任主義だし、のびのびと育ってくれた結果でもあると思うの」

同い年くらいの感覚で話す春田とニーナ。憎み合っていた大戦も過去の事。井戸端会議的なノリで語り合う。

「ちょっとお母さん!何話してんの!?そういうのはやめてよ恥ずかしいから!」

アリシアは焦って声を荒げる。クスクス楽し気にニーナは笑っている。

「もう!」

バシンッと春田の背中を叩く。

「痛っ!!……俺かよ……!」

「おいおい、本当に少しは加減しろ。春田は普通の人間だぞ」

ヤシャは痛がる春田を手で囲う様に守る。

「こんなので死ぬわけないでしょ。バッカじゃない?」

顔を赤くしながらプイッとそっぽを向く。

「……いや、死なんけど……痛ぁい……」

春田は身をよじって痛みを我慢する。

「そんなに痛いのかい?どれ、わらわが擦ってやろう」

ナルルが春田の背中を撫でまわす。女に囲まれ、挙句甲斐甲斐しくされている春田を見て、侮蔑の視線を向ける。

「ダッサ……」

「待て待て。人に迷惑かけといてそれはないだろう…ちょっとマジでお母さーん。アリシアをちゃんと教育してください。まだ間に合うから」

ニーナにとにかく振る。

「お母さんは関係ないでしょ!そういうのがダサいって言ってんのよ!」

ベシベシ叩く。しかしさっきの一撃に比べたら多少は力加減をしている。

「いててっ!お母さーんお母さーん!」

「あんたのお母さんじゃないでしょ!!お母さんを呼ぶな!!」

そんな漫才を繰り広げていると、いつの間にか夜も更けてきた。うつらうつらしていたマレフィアはリビングで転んでだらしなく寝ている。

「マレフィアー。自分の部屋で寝ろよ」

春田がマレフィアの肩を揺らす。リビングで寝られると春田の寝る場所がない。

「起こす事は無い。私が運ぶ」

ヤシャが立ち上がり、マレフィアを抱きかかえる。

「俺も明日の用意して寝なきゃな」

春田が立ち上がる。ナルルも一緒に立ち上がりすすすっと背後に控える。「ん?」と思ってナルルを見る。

「なんだ?カバンを持って来るだけだぞ?」

「わらわのことは気にせず好きに動くが良い」

多少面倒だと思ったが、本人も気にするなと言っているし「あっそ」と放っておく事にした。

「じゃあ私ももう寝ようかしら」

ニーナも立ち上がる。三人で部屋に行く形だ。こう来れば後ろからピヨピヨついて来そうだが、アリシアはぽけーっとテレビを見ている。

「アーちゃんまだ寝ないの?」

「あたしはまだいい。おやすみお母さん」

座って一瞥もせず手を振って応える。春田は内心(いいじゃねぇよ、寝ろ)と思ったが、恐いので指摘できず、何も言わずに黙って部屋に向かう。

カバンを手に取ると中身を確認する。明日の用意が整うと、カバンを持って部屋を出る。

律儀に部屋の前に待っていたニーナに「おやすみ」といってリビングに向かう。ニーナはその後ろ姿を見てニコリと笑うと、「おやすみなさい」と返答した。

昨日の敵は今日の友。争いあった日々しか覚えていないが、あれも今となっては大切な思い出である。マレフィアとニーナがそれぞれ部屋に入った。春田がリビングに戻ると、アリシアが流し目でチラリと見てきた。

「……なんだよ?」

「別に~……てゆーかあんた本当に魔王なの?」

「ん?ああ、魔王だよ。魂はな」

春田は定位置に座ると一息つく。

「つーか何だよその質問は……気配で分かるだろ?」

「違うわよ。なんでそんなに穏やかなわけ?魔王ならたとえ人間になっても当時の事を思い出して苛烈になるものじゃないの?」

「あ、なるほどね。そうだな……その時はもう過ぎたのさ。10歳の夏にな……」

春田は転生後のあの時を思い出して感慨に浸る。

「なにそれ?じゃあ恨みとかないわけ?もう魔族とは関係ないっていうの?」

「ガンガン聞くなぁ……別に関係ないとまでは言わないけど、今の俺には何もできないわけだし、長い間、何の力もない人として過ごしたせいで……なんていうか、こう……諦め癖みたいなのが付いたって言うか……」

どんどん自信がなくなって行く春田。

「……そういうこと……つまり魔力や腕力がなきゃ何もできない奴だったわけだ。やっぱダサいじゃん」

「勇者の娘。そろそろ黙らんか?いい加減にせんと……」

「いい加減にしないとどうすんの?やる?」

アリシアはウキウキしながら肩を回しニヤニヤしている。

「やらせねぇよ。明日になったら帰ってもらうんだから全員大人しくしてもらう」

「まぁ待て、いい加減にせんと勇者本人に来てもらうしかなくなるのぅ……」

アリシアはそれを聞いて口の端を引くつかせる。

「なんで父さんが出てくる!だから父さんは関係ないでしょ!」

明らかに動揺して声も大きくなる。春田は慌てて自分の口許に人差し指を持って行く。

「しーっ!静かに……!もう遅い時間なんだから考えてくれよ……」

これだから連れてくるのを渋っていたのに案の定遅い時間に騒がれてしまった。苦情がなければいいが…。

「アリシアはなんで勇者が出てくるとそんな慌てるんだ?関係ないなら反応しなければいいだろうに」

ヤシャはセンシティブな所にズカズカと無知を盾に踏み込む。空気を読もう。

「うるさいなぁ、別にいいでしょ。ほっといて!」

プッと頬を膨らませてそっぽを向く。

「?……当然の疑問だろう?」

「まったくヤシャ様は……少し考えれば分かるかと思います。わざわざここまで聖也様を亡き者にしに来たんですよ?それも勇者には内緒で。聖也様が箔付けの為に来たと看破しましたよね。つまりお父さんラブだと言う事ですよ。自分のやった事をお父さんに自慢したくて黙ってやって来たんです。当てが外れ、悔しいという気持ちの問題で元の世界に帰られないから一晩泊めてあげる事になったのです。これこそ単純な話です」

ポイ子はヤシャに懇切丁寧に解説している。春田自身も「へー」と感心していた。アリシアはそっぽを向いて何気ないふりをしていたが耳と頬が真っ赤に染まり、心なしか体もプルプル震えている。ポイ子に心の内を見透かされて恥ずかしさのあまり半泣き状態となっていた。

「……もう寝る!」

顔を見せない様に立ち上がったアリシアは肩を怒らせてズンズン歩いて部屋に入っていった。下の住人さんたちごめんなさい。

「……明日も早いし……俺らも寝るか……」

この時、春田は重要なことに気付いた。

「ポイ子。ナルルはそっちに寝るスペースはあるか?」

「多少広いので行けると思いますが……」

「何を言うておる?わらわと一緒にここで寝るのじゃろ?」

それを聞いてヤシャも口をへの字に曲げる。

「そんな事許されるはずがないだろう。それなら私とここで寝よう。ナルルは一時的に私の部屋を貸す」

「部屋があるならそこで寝るがいい。わらわはまだ部屋が決まっとらんし、魔王……聖也は部屋を貸したからここで寝るしかない。これは仕様の無い事だと思うがの?」

ここに来てナルルとヤシャの唐突な春田の取り合いが始まった。

「ポイ子。お前ここで寝ろ。今日はお前の部屋で寝る」
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