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第八十四話 お風呂
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結局マンションに移動する事になり春田を含めた7人が部屋にどやどやと入っていった。
広い部屋とはいえ、ナルルたちが来る以前から既に埋まっていたので、どうしたものかと考えながらリビングに集まる。
「3人はどこで寝てもらうかな……」
元々使える個室は3部屋。春田の部屋と空き部屋が2つ。ポイ子とマレフィアが一緒の部屋でヤシャが1人部屋だ。ヤシャは他と比べても段違いで体がデカい。1部屋丸々使ってようやく満足いく広さだ。
つまりヤシャのところで寝るのは厳しい。だとしてもポイ子たちのところも2人で一部屋。もはやリビング以外に寝るところは考えられなかった。
「この机を片付ければギリギリ三人いけるか?」
春田は少し悩んだ末に、ちゃぶ台をガタガタ動かす。
「今日はそれでいいだろうが、明日以降ナルルはどこで過ごせばいいんだ?」
ヤシャが当然の疑問を提唱する。今はそれについて考えたくなかったが、聞かれたからには答えなければならないだろう。
「……後で考える……」
自信無さげにポツリと呟いた。
「ええ~!?ベッドが良い~!」
アリシアはここに来ても文句を言う。
「……アーちゃん」
その一言には「泊めさせてもらうんだから」というのが含まれている。ポイ子も面倒な顔をしている。顔を崩さないこともできただろうが、わざわざ顔を崩してまで気持ちを露わにする。
「そうか。まぁそうだよな」
前回同じような場面でヤシャにベッドを譲ろうとしたが断られていたので、無意識に断られることを前提にしていた。1日だけだし別に良いという気持ちが出る。
「仕方ない。俺の部屋を使え」
春田は自分の部屋に行く。
「魔王の部屋?どんなのどんなの?」
アリシアは春田の後ろにピヨピヨついていく。ニーナも確認に動く。扉を開けると思春期の部屋としては簡素な部屋が目の前にひろがる。勉強机、漫画と参考書が入った本棚、ベッド、目覚まし時計、目につく家具はこれだけ。クローゼットは締め切られているが多分着替えが入っていると思われる。
「何ここ、魔王の寝室じゃ無いでしょ?」
「ああ、そりゃ今は魔王じゃ無いしな。俺は人間だぞ?」
乱れた掛け布団を直して枕のシワを伸ばす。
「ベッドはここだけだ。一人用だから少し小さいけどニーナと二人で寝られないこともないし好きに使え。ただし荒らしたり壊したりするなよ」
「ふ~ん」
アリシアとニーナはそれぞれ部屋に入っていってキョロキョロしている。アリシアはピカピカした鎧をおもむろに脱ぎ始め、春田も見ているのに気にせず肌を晒し、鎧を床に置いていく。下から現れたのはまだ成長期であろう起伏のない体。黒スパッツと黒いシームレスブラで大事なところは隠してはいるが無用心という他ない。
「お風呂貸して」
「ええ~……そうだなぁ……」
春田は風呂に関しては逡巡する。
「は?何で考えんの?汗かいてんだから汗拭いたいのは当たり前じゃん」
「いやぁ……元の世界とこっちの世界では水事情が全く違うしな、こっちの常識が分かっていない奴に使われると節水とかできなさそうだし……」
ただでさえ住んでいる人数が増えて水道代が嵩んでいるのに、ここに来て水出しっぱとかされることを考えると気持ちが落ち着かない。ヤシャの仕事の件、真面目に明日聞こうと心に決める。
「あ~じゃあ~、うちが面倒見ようか~?」
マレフィアが声を掛ける。そうしてくれるのはありがたいが、腕力のないマレフィアではもしもの時が怖い。ヤシャならその点をクリアしているが体が大きすぎて一人で入るのが限界である。ポイ子は弱すぎるし、毒持ちを一緒に入れるのは新たな火種を生む。
「……ここはナルルに頼もう。マレフィア、ナルルに基本知識を魔法で叩き込んでくれ」
「あ?わらわが何で勇者の娘を……」
「お前にしか頼めないんだ。頼むよ」
ナルルは春田の懇願する目に絆されて渋々了承した。マレフィアが頭に手をかざすとナルルの頭に常識が叩き込まれていく。それを見て感心していると、ニーナが春田の横に並ぶ。
「……ダークエルフの暗殺者を差し向けるなんて、私たちを殺す気?」
ギリギリ春田に聞こえる声でポツリと声を出す。そのセリフにドキッとして固まってしまう。そういえばすっかり忘れていたが、ナルルは暗殺者であって単なる侍女ではない。言い訳をしようと頭をこねていると、
「冗談冗談。貴方とは当時一度しか会いませんでしたが、あの頃とは全く違うから正直驚いたのよ?本当に魔王なのかって……」
それを聞いて急に肩の力が抜ける。ニーナをチラリと見て視線を戻す。
「……そうだな……誰しも信じていた力がなくなれば自分の運命を呪う。それが今回は俺だっただけ、単純な話だよ」
ニーナもチラリと春田を見る。春田の顔はおおよそこの歳の男の子から見られないような疲れ切った表情をしていた。その顔を見たニーナも頭の片隅にあったあるか無いかの緊張が解ける。ニーナは顔の険が取れ、顔に張り付いた作り笑いをやめて穏やかな笑顔になる。
「……今日は特別ね」
「そう……だな、そうなる」
程なくナルルの教育が終わり、ナルルは目を開けた。
「なるほど、面白い世界よ……」
ナルルがククッと笑って内容を噛みしめているとアリシアが声をかけた。
「ねぇまだ?お風呂入りたいんだけど」
広い部屋とはいえ、ナルルたちが来る以前から既に埋まっていたので、どうしたものかと考えながらリビングに集まる。
「3人はどこで寝てもらうかな……」
元々使える個室は3部屋。春田の部屋と空き部屋が2つ。ポイ子とマレフィアが一緒の部屋でヤシャが1人部屋だ。ヤシャは他と比べても段違いで体がデカい。1部屋丸々使ってようやく満足いく広さだ。
つまりヤシャのところで寝るのは厳しい。だとしてもポイ子たちのところも2人で一部屋。もはやリビング以外に寝るところは考えられなかった。
「この机を片付ければギリギリ三人いけるか?」
春田は少し悩んだ末に、ちゃぶ台をガタガタ動かす。
「今日はそれでいいだろうが、明日以降ナルルはどこで過ごせばいいんだ?」
ヤシャが当然の疑問を提唱する。今はそれについて考えたくなかったが、聞かれたからには答えなければならないだろう。
「……後で考える……」
自信無さげにポツリと呟いた。
「ええ~!?ベッドが良い~!」
アリシアはここに来ても文句を言う。
「……アーちゃん」
その一言には「泊めさせてもらうんだから」というのが含まれている。ポイ子も面倒な顔をしている。顔を崩さないこともできただろうが、わざわざ顔を崩してまで気持ちを露わにする。
「そうか。まぁそうだよな」
前回同じような場面でヤシャにベッドを譲ろうとしたが断られていたので、無意識に断られることを前提にしていた。1日だけだし別に良いという気持ちが出る。
「仕方ない。俺の部屋を使え」
春田は自分の部屋に行く。
「魔王の部屋?どんなのどんなの?」
アリシアは春田の後ろにピヨピヨついていく。ニーナも確認に動く。扉を開けると思春期の部屋としては簡素な部屋が目の前にひろがる。勉強机、漫画と参考書が入った本棚、ベッド、目覚まし時計、目につく家具はこれだけ。クローゼットは締め切られているが多分着替えが入っていると思われる。
「何ここ、魔王の寝室じゃ無いでしょ?」
「ああ、そりゃ今は魔王じゃ無いしな。俺は人間だぞ?」
乱れた掛け布団を直して枕のシワを伸ばす。
「ベッドはここだけだ。一人用だから少し小さいけどニーナと二人で寝られないこともないし好きに使え。ただし荒らしたり壊したりするなよ」
「ふ~ん」
アリシアとニーナはそれぞれ部屋に入っていってキョロキョロしている。アリシアはピカピカした鎧をおもむろに脱ぎ始め、春田も見ているのに気にせず肌を晒し、鎧を床に置いていく。下から現れたのはまだ成長期であろう起伏のない体。黒スパッツと黒いシームレスブラで大事なところは隠してはいるが無用心という他ない。
「お風呂貸して」
「ええ~……そうだなぁ……」
春田は風呂に関しては逡巡する。
「は?何で考えんの?汗かいてんだから汗拭いたいのは当たり前じゃん」
「いやぁ……元の世界とこっちの世界では水事情が全く違うしな、こっちの常識が分かっていない奴に使われると節水とかできなさそうだし……」
ただでさえ住んでいる人数が増えて水道代が嵩んでいるのに、ここに来て水出しっぱとかされることを考えると気持ちが落ち着かない。ヤシャの仕事の件、真面目に明日聞こうと心に決める。
「あ~じゃあ~、うちが面倒見ようか~?」
マレフィアが声を掛ける。そうしてくれるのはありがたいが、腕力のないマレフィアではもしもの時が怖い。ヤシャならその点をクリアしているが体が大きすぎて一人で入るのが限界である。ポイ子は弱すぎるし、毒持ちを一緒に入れるのは新たな火種を生む。
「……ここはナルルに頼もう。マレフィア、ナルルに基本知識を魔法で叩き込んでくれ」
「あ?わらわが何で勇者の娘を……」
「お前にしか頼めないんだ。頼むよ」
ナルルは春田の懇願する目に絆されて渋々了承した。マレフィアが頭に手をかざすとナルルの頭に常識が叩き込まれていく。それを見て感心していると、ニーナが春田の横に並ぶ。
「……ダークエルフの暗殺者を差し向けるなんて、私たちを殺す気?」
ギリギリ春田に聞こえる声でポツリと声を出す。そのセリフにドキッとして固まってしまう。そういえばすっかり忘れていたが、ナルルは暗殺者であって単なる侍女ではない。言い訳をしようと頭をこねていると、
「冗談冗談。貴方とは当時一度しか会いませんでしたが、あの頃とは全く違うから正直驚いたのよ?本当に魔王なのかって……」
それを聞いて急に肩の力が抜ける。ニーナをチラリと見て視線を戻す。
「……そうだな……誰しも信じていた力がなくなれば自分の運命を呪う。それが今回は俺だっただけ、単純な話だよ」
ニーナもチラリと春田を見る。春田の顔はおおよそこの歳の男の子から見られないような疲れ切った表情をしていた。その顔を見たニーナも頭の片隅にあったあるか無いかの緊張が解ける。ニーナは顔の険が取れ、顔に張り付いた作り笑いをやめて穏やかな笑顔になる。
「……今日は特別ね」
「そう……だな、そうなる」
程なくナルルの教育が終わり、ナルルは目を開けた。
「なるほど、面白い世界よ……」
ナルルがククッと笑って内容を噛みしめているとアリシアが声をかけた。
「ねぇまだ?お風呂入りたいんだけど」
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