魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
85 / 151

第八十四話 お風呂

しおりを挟む
結局マンションに移動する事になり春田を含めた7人が部屋にどやどやと入っていった。

広い部屋とはいえ、ナルルたちが来る以前から既に埋まっていたので、どうしたものかと考えながらリビングに集まる。

「3人はどこで寝てもらうかな……」

元々使える個室は3部屋。春田の部屋と空き部屋が2つ。ポイ子とマレフィアが一緒の部屋でヤシャが1人部屋だ。ヤシャは他と比べても段違いで体がデカい。1部屋丸々使ってようやく満足いく広さだ。

つまりヤシャのところで寝るのは厳しい。だとしてもポイ子たちのところも2人で一部屋。もはやリビング以外に寝るところは考えられなかった。

「この机を片付ければギリギリ三人いけるか?」

春田は少し悩んだ末に、ちゃぶ台をガタガタ動かす。

「今日はそれでいいだろうが、明日以降ナルルはどこで過ごせばいいんだ?」

ヤシャが当然の疑問を提唱する。今はそれについて考えたくなかったが、聞かれたからには答えなければならないだろう。

「……後で考える……」

自信無さげにポツリと呟いた。

「ええ~!?ベッドが良い~!」

アリシアはここに来ても文句を言う。

「……アーちゃん」

その一言には「泊めさせてもらうんだから」というのが含まれている。ポイ子も面倒な顔をしている。顔を崩さないこともできただろうが、わざわざ顔を崩してまで気持ちを露わにする。

「そうか。まぁそうだよな」

前回同じような場面でヤシャにベッドを譲ろうとしたが断られていたので、無意識に断られることを前提にしていた。1日だけだし別に良いという気持ちが出る。

「仕方ない。俺の部屋を使え」

春田は自分の部屋に行く。

「魔王の部屋?どんなのどんなの?」

アリシアは春田の後ろにピヨピヨついていく。ニーナも確認に動く。扉を開けると思春期の部屋としては簡素な部屋が目の前にひろがる。勉強机、漫画と参考書が入った本棚、ベッド、目覚まし時計、目につく家具はこれだけ。クローゼットは締め切られているが多分着替えが入っていると思われる。

「何ここ、魔王の寝室じゃ無いでしょ?」

「ああ、そりゃ今は魔王じゃ無いしな。俺は人間だぞ?」

乱れた掛け布団を直して枕のシワを伸ばす。

「ベッドはここだけだ。一人用だから少し小さいけどニーナと二人で寝られないこともないし好きに使え。ただし荒らしたり壊したりするなよ」

「ふ~ん」

アリシアとニーナはそれぞれ部屋に入っていってキョロキョロしている。アリシアはピカピカした鎧をおもむろに脱ぎ始め、春田も見ているのに気にせず肌を晒し、鎧を床に置いていく。下から現れたのはまだ成長期であろう起伏のない体。黒スパッツと黒いシームレスブラで大事なところは隠してはいるが無用心という他ない。

「お風呂貸して」

「ええ~……そうだなぁ……」

春田は風呂に関しては逡巡する。

「は?何で考えんの?汗かいてんだから汗拭いたいのは当たり前じゃん」

「いやぁ……元の世界とこっちの世界では水事情が全く違うしな、こっちの常識が分かっていない奴に使われると節水とかできなさそうだし……」

ただでさえ住んでいる人数が増えて水道代が嵩んでいるのに、ここに来て水出しっぱとかされることを考えると気持ちが落ち着かない。ヤシャの仕事の件、真面目に明日聞こうと心に決める。

「あ~じゃあ~、うちが面倒見ようか~?」

マレフィアが声を掛ける。そうしてくれるのはありがたいが、腕力のないマレフィアではもしもの時が怖い。ヤシャならその点をクリアしているが体が大きすぎて一人で入るのが限界である。ポイ子は弱すぎるし、毒持ちを一緒に入れるのは新たな火種を生む。

「……ここはナルルに頼もう。マレフィア、ナルルに基本知識を魔法で叩き込んでくれ」

「あ?わらわが何で勇者の娘を……」

「お前にしか頼めないんだ。頼むよ」

ナルルは春田の懇願する目に絆されて渋々了承した。マレフィアが頭に手をかざすとナルルの頭に常識が叩き込まれていく。それを見て感心していると、ニーナが春田の横に並ぶ。

「……ダークエルフの暗殺者を差し向けるなんて、私たちを殺す気?」

ギリギリ春田に聞こえる声でポツリと声を出す。そのセリフにドキッとして固まってしまう。そういえばすっかり忘れていたが、ナルルは暗殺者であって単なる侍女ではない。言い訳をしようと頭をこねていると、

「冗談冗談。貴方とは当時一度しか会いませんでしたが、あの頃とは全く違うから正直驚いたのよ?本当に魔王なのかって……」

それを聞いて急に肩の力が抜ける。ニーナをチラリと見て視線を戻す。

「……そうだな……誰しも信じていた力がなくなれば自分の運命を呪う。それが今回は俺だっただけ、単純な話だよ」

ニーナもチラリと春田を見る。春田の顔はおおよそこの歳の男の子から見られないような疲れ切った表情をしていた。その顔を見たニーナも頭の片隅にあったあるか無いかの緊張が解ける。ニーナは顔の険が取れ、顔に張り付いた作り笑いをやめて穏やかな笑顔になる。

「……今日は特別ね」

「そう……だな、そうなる」

程なくナルルの教育が終わり、ナルルは目を開けた。

「なるほど、面白い世界よ……」

ナルルがククッと笑って内容を噛みしめているとアリシアが声をかけた。

「ねぇまだ?お風呂入りたいんだけど」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...