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第八十三話 勇者?
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「納得いかない!!」
勇者はアイスクリームを口の端につけて大声で吠える。
「しーっ!……静かにしろよ。また店員が来ちゃうだろ?」
ナルルは結局、春田が引き取る事で話は決着した。彼女は当時自分が蔑ろにされたこと、勇者に倒され勝手に死んで、自分を置いてどこぞの世界でよろしくやっている事実が許せなかった。自分にとって納得のいく答えが出なければ殺す事も視野に入れていたが、何とか丸く収まったようだ。
ナルルは欲しかった物を手に入れた子供のようにホクホクとした顔で春田の後ろに控えている。
「ナルルさん。貴女は魔王を殺しに来たのでしょう?これでは話と違うのですが……」
「はて?2、3質問をして納得がいかぬならあるいわ…と説明していたはずじゃが何か問題でも?」
赤毛は微笑で答えるが目は笑っていない。
「はぁ……もういいよ。ダークエルフは元々裏切り者だったんだし、ここで魔王もろともつぶしちゃえばさぁ……」
勇者は空になったパフェのコップを傾けたり長いスプーンを弄ぶ。これが勇者の姿だ。人間に味方をしない奴は敵。話し合いも何も無い内から潰そうとする絶滅主義者。
「全くお前は昔から変わってないな……」
春田は頭を掻きつつポツリと苦言を呈す。その言葉に空気が変わる。
「……今、なんて言った?」
勇者の周りが歪み始める。机の上にあった調味料や食器類がカタカタと動き出す。
「え?何々?なんか気に障った?」
殺された側からすれば機嫌が悪くなるのは被害者の春田であるはずだが、何故か勇者がキレている。
「誰と重ねたのかと聞いているんだ!」
ポニーテールが浮き上がり、春田を睨みつける。その目は殺意に彩られ今にも飛びかかってきそうだ。背筋が凍る。春田には力がない。今ここで勇者がひと薙ぎ、手を振るうだけで春田の頭は吹き飛ぶ。流石に言い過ぎかもしれないがそれだけの実力差があるのだ。
周りの部下たちもその殺意に当てられ浮き足立つ。ポイ子は防御を、ヤシャは腰を浮かせ、マレフィアは表情が険しくなる。そしてナルルも春田の背後で人知れずナイフを抜いていた。赤毛はこれ以上逆撫でしないよう黙って成り行きを見る。
そして勇者とは違う位置にもう一つ脅威が潜んでいた。春田の足を子鹿のように震えさせたのは勇者の殺意と視界の端に映ったウェイトレスの存在だ。いつもそうだ。彼女はいつの間にかそこにいる。気配を消し、まるで幽霊のように唐突に現れる。春田は震える声で、だがはっきりと口を開いた。
「……場所を……変えようか」
………
ファミレスを後にして、異世界の出入り口である廃寺にやってきた。マンションに連れて行くこともできたが集合住宅で騒ぐと近隣住民にそれこそ迷惑がかかるため、少しくらい騒いでも大丈夫なここに移動したのだ。
「……ここがお前の墓場か?随分しみったれたお墓だな」
勇者はザッザッと地面を掘るように蹴る。赤毛も周りを見渡すようにキョロキョロしている。
「ふぅむ、ここに連れてきたという事は強制的に元の世界に送り返すことも出来るわけね」
そのセリフを聞いてギロリと睨みつける。
「姑息な奴。魂は不滅とかもほんと姑息!何度でも蘇るなんてバカみたい!」
腰に下げた剣を抜いて臨戦態勢に入る。このままではなす術なく死ぬ。
「すぐ殺そうとするな!少しくらい話し合ってもいいだろ?」
「ウンザリなの!何かにつけてピーピーピーピー!とっとと決着をつけよう!!」
「嫌だね!」
春田が拒絶すると周りがいきり立ち、殺意増し増しで対立する。小高い山の頂上は魔力で空間がねじ曲がり、いつ吹き飛ぶかわからない状況だ。
「……落ち着け!これじゃ戦闘が始まっちまうだろ!!」
春田は手を振って闘争の空気を鎮めようとする。それに従ってヤシャは拳を下ろし、ナルルはナイフを仕舞う。
「あーっもう!!何でどいつもこいつも戦おうとしない!お前かあたし、どちらかの命で決着だ!単純な事じゃないか!!」
「いや、事はそんな単純じゃ……って”あたし”?」
勇者の一人称に疑問を覚える。
「待った。……お前男だよな?」
恐る恐る聞く春田。その質問をした瞬間、突風が吹き荒れる。目が開けられなくなり腕を顔の前に出す。
「うわっ!?」
「ぬっ!?危ない!!」
同時にヤシャのゴツい手が春田の肩を両側から挟み込み春田から見て少し右に体ごとズラされる。目を開けると勇者が剣を突きつけていた。そして目の前に春田を庇うようにして真っ二つとなった何かがそこにあった。
「ポイ子!!」
勇者は質問に答える代わりに剣を振るい、振った場所にあった全てを切り裂いた。前に出たポイ子も硬い土も空間でさえも、剣の刀身以上に裂けている。ヤシャが機転を利かせて横にズラさなければ春田はこの一撃で死んでいた。
「さ、さすが勇者ですね……こうも簡単に真っ二つにされる……とは……」
形状を保てず崩れそうになる。マレフィアは「回復」と言ってポイ子に魔力を注ぐ。見る間にポイ子は切られた箇所を再生させ、崩れかけたポイ子は元の擬態の姿に戻る。
「すいませんマレフィア様。死ぬところでした……」
「ん~?いいっていいって~」
マレフィアは手を振って返答する。
何の交渉も脅しもなく手を出した。これはもう開戦である。しかし、春田はそれに反するようにポイ子を後ろに下げる。
「いい度胸だな……武器もなくあたしの前に立つなんてさ」
「……お前……何者だ?」
赤毛と勇者を交互に見る。最初から違和感だった。赤毛と勇者は同い年だったはずだ。だがここにいるのは成長しきった赤毛と当時のままの勇者、時間の経過がチグハグだ。そこでふと気づく、
「……子孫か?」
「うん。ご名答ー」
赤毛はパチパチしながら勇者(仮)のところに近づく。
「この子はアリシア。勇者ヴェインと私、ニーナの一人娘。旅行がてらサクッと魔王を殺せたらと思って来ました」
ニーナと名乗った赤毛は娘のアリシアと並ぶと、「よろしくー」と遅すぎる自己紹介をしてきた。
「何がよろしくだ、何が!でもまぁ、なるほどね。なんか違和感があると思ったけど、血縁なら納得」
「!……何を納得しているんだ!?」
正直、瓜二つである。父親と比べられるのが嫌なのかちょいちょいキレる。髪の色や髪形、目の色まで同じなら勘違いもする。その上、伝説の鎧まで着こまれたら意識云々以前に狙ってやっているとしか思えない。
外見では判断しづらいが性別が正反対なので、そこにキレ散らかしている可能性がある。自分は女の子なのだから母親似でありたいのに、父親に似ている事実。それを受け止めきれず、男だと勘違いする奴には制裁をしているのだろう。
実に思春期特有の行動だ。
「それならもっと可愛らしい恰好とかすればいいのに~」
背後から覗き込むようにマレフィアが声をかける。アリシアはマレフィアに剣を向ける。
「お前みたいなのがいるから、装備を整えたんだよ!この装備が一番強いからこれにしたんだ。強くてかわいいなら最初からその装備で来る」
「わざわざ来るな。大体、元の世界には被害を及ぼしてないだろ。旅行気分で殺しに来るんじゃない」
ヤシャも腕を組んで呆れている。
「ふん!いつ何時魔王が元の世界に戻って来るかわからないだろう?早めに潰しておくのが賢い戦法だ」
言いたい事はわからないでないが、やはり迷惑な話だ。
「というか勇者……お父さんはどうしたんだ?何でお母さんと二人で来たんだ?」
春田は精一杯の優しい声であやすように声を掛ける。
「何だ?気持ち悪いな……父さんは関係ない。これはあたしの判断だ!」
ニーナをちらりと見るとコクリと頷いた。
「なるほど……箔付けか。でも今の俺なんかを殺しても何にもならないぞ?」
「ん?何故だ?」
アリシアは頭に疑問符を浮かべながら首をかしげる。
「今まで黙っていたが、俺は記憶だけをこの体に継承した力が全く無いただの人間だ。お前らはすでに気づいていたかもしれないが半信半疑だったと思う…」
なんだかそうじゃ無いかと思っていたナルルとニーナは多少の驚きこそあるが納得している。しかしアリシアは驚きを隠せない。
「え?え?嘘だぁ……どうせ隠れてるんでしょ?この体は擬態なんでしょ?」
壮絶な戦いがこの世界で待っていると思っていた為か、かなり狼狽している。
「いや、嘘じゃ無い。本体だから切れば死ぬ。だから帰ってくれないか?」
「出来ないよ!意気込んで来たのに何もせずに帰りましたなんてかっこ悪すぎるもん!!」
人の命よりプライドを優先する独善性。実に救い難いその性格は勇者からきっちり受け継がれている。
「何もせずって……いいじゃんパフェ食ったじゃん。いい旅だったじゃん」
「やーだー!魔王倒すー!」
駄々をこね始めるアリシア。完全に闘争の空気では無くなったこの場に子供の駄々だけが響き渡る。
「おい、どうにかしろよ。娘だろ?」
「こうなったアーちゃんは人の言うこと聞かないからしばらくこのままにしておきましょう」
母親にすら匙を投げられるわがままっぷり。瓜二つの勇者の奴もこんなだったのかと思うとニーナの苦労が見て取れるようだった。ここに来た理由もこれだったんじゃ無いかと邪推するほどに面倒だ。
「ヤダヤダ」と言って話を聞かず、地面で転がり回るアリシアを見て春田はポツリと呟く。
「……もういいから帰ってくれー」
勇者はアイスクリームを口の端につけて大声で吠える。
「しーっ!……静かにしろよ。また店員が来ちゃうだろ?」
ナルルは結局、春田が引き取る事で話は決着した。彼女は当時自分が蔑ろにされたこと、勇者に倒され勝手に死んで、自分を置いてどこぞの世界でよろしくやっている事実が許せなかった。自分にとって納得のいく答えが出なければ殺す事も視野に入れていたが、何とか丸く収まったようだ。
ナルルは欲しかった物を手に入れた子供のようにホクホクとした顔で春田の後ろに控えている。
「ナルルさん。貴女は魔王を殺しに来たのでしょう?これでは話と違うのですが……」
「はて?2、3質問をして納得がいかぬならあるいわ…と説明していたはずじゃが何か問題でも?」
赤毛は微笑で答えるが目は笑っていない。
「はぁ……もういいよ。ダークエルフは元々裏切り者だったんだし、ここで魔王もろともつぶしちゃえばさぁ……」
勇者は空になったパフェのコップを傾けたり長いスプーンを弄ぶ。これが勇者の姿だ。人間に味方をしない奴は敵。話し合いも何も無い内から潰そうとする絶滅主義者。
「全くお前は昔から変わってないな……」
春田は頭を掻きつつポツリと苦言を呈す。その言葉に空気が変わる。
「……今、なんて言った?」
勇者の周りが歪み始める。机の上にあった調味料や食器類がカタカタと動き出す。
「え?何々?なんか気に障った?」
殺された側からすれば機嫌が悪くなるのは被害者の春田であるはずだが、何故か勇者がキレている。
「誰と重ねたのかと聞いているんだ!」
ポニーテールが浮き上がり、春田を睨みつける。その目は殺意に彩られ今にも飛びかかってきそうだ。背筋が凍る。春田には力がない。今ここで勇者がひと薙ぎ、手を振るうだけで春田の頭は吹き飛ぶ。流石に言い過ぎかもしれないがそれだけの実力差があるのだ。
周りの部下たちもその殺意に当てられ浮き足立つ。ポイ子は防御を、ヤシャは腰を浮かせ、マレフィアは表情が険しくなる。そしてナルルも春田の背後で人知れずナイフを抜いていた。赤毛はこれ以上逆撫でしないよう黙って成り行きを見る。
そして勇者とは違う位置にもう一つ脅威が潜んでいた。春田の足を子鹿のように震えさせたのは勇者の殺意と視界の端に映ったウェイトレスの存在だ。いつもそうだ。彼女はいつの間にかそこにいる。気配を消し、まるで幽霊のように唐突に現れる。春田は震える声で、だがはっきりと口を開いた。
「……場所を……変えようか」
………
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「……ここがお前の墓場か?随分しみったれたお墓だな」
勇者はザッザッと地面を掘るように蹴る。赤毛も周りを見渡すようにキョロキョロしている。
「ふぅむ、ここに連れてきたという事は強制的に元の世界に送り返すことも出来るわけね」
そのセリフを聞いてギロリと睨みつける。
「姑息な奴。魂は不滅とかもほんと姑息!何度でも蘇るなんてバカみたい!」
腰に下げた剣を抜いて臨戦態勢に入る。このままではなす術なく死ぬ。
「すぐ殺そうとするな!少しくらい話し合ってもいいだろ?」
「ウンザリなの!何かにつけてピーピーピーピー!とっとと決着をつけよう!!」
「嫌だね!」
春田が拒絶すると周りがいきり立ち、殺意増し増しで対立する。小高い山の頂上は魔力で空間がねじ曲がり、いつ吹き飛ぶかわからない状況だ。
「……落ち着け!これじゃ戦闘が始まっちまうだろ!!」
春田は手を振って闘争の空気を鎮めようとする。それに従ってヤシャは拳を下ろし、ナルルはナイフを仕舞う。
「あーっもう!!何でどいつもこいつも戦おうとしない!お前かあたし、どちらかの命で決着だ!単純な事じゃないか!!」
「いや、事はそんな単純じゃ……って”あたし”?」
勇者の一人称に疑問を覚える。
「待った。……お前男だよな?」
恐る恐る聞く春田。その質問をした瞬間、突風が吹き荒れる。目が開けられなくなり腕を顔の前に出す。
「うわっ!?」
「ぬっ!?危ない!!」
同時にヤシャのゴツい手が春田の肩を両側から挟み込み春田から見て少し右に体ごとズラされる。目を開けると勇者が剣を突きつけていた。そして目の前に春田を庇うようにして真っ二つとなった何かがそこにあった。
「ポイ子!!」
勇者は質問に答える代わりに剣を振るい、振った場所にあった全てを切り裂いた。前に出たポイ子も硬い土も空間でさえも、剣の刀身以上に裂けている。ヤシャが機転を利かせて横にズラさなければ春田はこの一撃で死んでいた。
「さ、さすが勇者ですね……こうも簡単に真っ二つにされる……とは……」
形状を保てず崩れそうになる。マレフィアは「回復」と言ってポイ子に魔力を注ぐ。見る間にポイ子は切られた箇所を再生させ、崩れかけたポイ子は元の擬態の姿に戻る。
「すいませんマレフィア様。死ぬところでした……」
「ん~?いいっていいって~」
マレフィアは手を振って返答する。
何の交渉も脅しもなく手を出した。これはもう開戦である。しかし、春田はそれに反するようにポイ子を後ろに下げる。
「いい度胸だな……武器もなくあたしの前に立つなんてさ」
「……お前……何者だ?」
赤毛と勇者を交互に見る。最初から違和感だった。赤毛と勇者は同い年だったはずだ。だがここにいるのは成長しきった赤毛と当時のままの勇者、時間の経過がチグハグだ。そこでふと気づく、
「……子孫か?」
「うん。ご名答ー」
赤毛はパチパチしながら勇者(仮)のところに近づく。
「この子はアリシア。勇者ヴェインと私、ニーナの一人娘。旅行がてらサクッと魔王を殺せたらと思って来ました」
ニーナと名乗った赤毛は娘のアリシアと並ぶと、「よろしくー」と遅すぎる自己紹介をしてきた。
「何がよろしくだ、何が!でもまぁ、なるほどね。なんか違和感があると思ったけど、血縁なら納得」
「!……何を納得しているんだ!?」
正直、瓜二つである。父親と比べられるのが嫌なのかちょいちょいキレる。髪の色や髪形、目の色まで同じなら勘違いもする。その上、伝説の鎧まで着こまれたら意識云々以前に狙ってやっているとしか思えない。
外見では判断しづらいが性別が正反対なので、そこにキレ散らかしている可能性がある。自分は女の子なのだから母親似でありたいのに、父親に似ている事実。それを受け止めきれず、男だと勘違いする奴には制裁をしているのだろう。
実に思春期特有の行動だ。
「それならもっと可愛らしい恰好とかすればいいのに~」
背後から覗き込むようにマレフィアが声をかける。アリシアはマレフィアに剣を向ける。
「お前みたいなのがいるから、装備を整えたんだよ!この装備が一番強いからこれにしたんだ。強くてかわいいなら最初からその装備で来る」
「わざわざ来るな。大体、元の世界には被害を及ぼしてないだろ。旅行気分で殺しに来るんじゃない」
ヤシャも腕を組んで呆れている。
「ふん!いつ何時魔王が元の世界に戻って来るかわからないだろう?早めに潰しておくのが賢い戦法だ」
言いたい事はわからないでないが、やはり迷惑な話だ。
「というか勇者……お父さんはどうしたんだ?何でお母さんと二人で来たんだ?」
春田は精一杯の優しい声であやすように声を掛ける。
「何だ?気持ち悪いな……父さんは関係ない。これはあたしの判断だ!」
ニーナをちらりと見るとコクリと頷いた。
「なるほど……箔付けか。でも今の俺なんかを殺しても何にもならないぞ?」
「ん?何故だ?」
アリシアは頭に疑問符を浮かべながら首をかしげる。
「今まで黙っていたが、俺は記憶だけをこの体に継承した力が全く無いただの人間だ。お前らはすでに気づいていたかもしれないが半信半疑だったと思う…」
なんだかそうじゃ無いかと思っていたナルルとニーナは多少の驚きこそあるが納得している。しかしアリシアは驚きを隠せない。
「え?え?嘘だぁ……どうせ隠れてるんでしょ?この体は擬態なんでしょ?」
壮絶な戦いがこの世界で待っていると思っていた為か、かなり狼狽している。
「いや、嘘じゃ無い。本体だから切れば死ぬ。だから帰ってくれないか?」
「出来ないよ!意気込んで来たのに何もせずに帰りましたなんてかっこ悪すぎるもん!!」
人の命よりプライドを優先する独善性。実に救い難いその性格は勇者からきっちり受け継がれている。
「何もせずって……いいじゃんパフェ食ったじゃん。いい旅だったじゃん」
「やーだー!魔王倒すー!」
駄々をこね始めるアリシア。完全に闘争の空気では無くなったこの場に子供の駄々だけが響き渡る。
「おい、どうにかしろよ。娘だろ?」
「こうなったアーちゃんは人の言うこと聞かないからしばらくこのままにしておきましょう」
母親にすら匙を投げられるわがままっぷり。瓜二つの勇者の奴もこんなだったのかと思うとニーナの苦労が見て取れるようだった。ここに来た理由もこれだったんじゃ無いかと邪推するほどに面倒だ。
「ヤダヤダ」と言って話を聞かず、地面で転がり回るアリシアを見て春田はポツリと呟く。
「……もういいから帰ってくれー」
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