魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
83 / 151

第八十二話 過去とこれから……

しおりを挟む
無駄なことかもしれない。だが、単純に滅茶苦茶にはしたくない。それが願いだ。

ここはファミリーレストラン”ボスト”。

3人の部下が来る前に春田が何度もお世話になったファミレスだ。いつもなら1人で来るところだが、今回は7人という大所帯。とりあえず話し合いのために3人と4人に分けて離れて座る。ここはこの時間になると本当に人が居なくなる。完全に独占状態だ。

全員分のドリンクバーを頼んで、ドリンクの注ぎ方をレクチャーする。

「おぉ~!凄い凄い!!」

勇者は店内に入ってからはしゃぎっぱなしだ。元の世界とは一線を画す店構えに楽しくなってきたようだ。綺麗な店内、ウェイトレスの恰好やボタンを押してジュース等が出てくる飲料の機械、色とりどりのメニュー表、ふかふかのソファ。赤毛も勇者のそのはしゃぎように母親の目線で嬉しそうに微笑んでいる。好奇心旺盛な育ちざかりが新鮮な景色を見るとこんな感じなのかなとふと思う。

結構騒いでいたものの、前回と違いコスプレ衣装の外国人の子供がいたのでウェイトレスに注意される事も無く、許された。

そんなことはさておいて、端っこの席でナルルとポイ子と春田の3人で座る。テーブル席2席空けて座っている4人と違って緊張感あふれる雰囲気を感じさせる。

目の前には春田にならったオレンジジュースを置いて、ポイ子は緊張の面持ちと怒りで、春田は窺うようにナルルを見ている。ナルルは背もたれに寄りかからない様に高貴な雰囲気を保ちつつ春田を微笑で見つめる。

「ねぇ魔王さぁ」

ちょっと大きめの声で勇者が訊ねる。空気を読んでもらいたいものだが、元から空気の読めない奴なのでそこは諦める。

「なんだよ」

「ケーキ頼んで良い?」

その為に来たと言っても過言ではない。甘いものでも食わせとけば黙るだろうと思っていたので了解する。

「……一個だけにしとけよ。というかケーキ以外にもパフェなんかもあるから好きなの選びな」

「え?なに?パフェって……」メニュー表で絵柄だけで決めていた勇者は字が読めず困惑している。マレフィアが「これこれ」といって指をさす。大きなコップに入った色とりどりのデザートを見て「わ~っ!」と感動している。

「いいのか聖也?結構するぞ?」

料金を見てヤシャは困惑しながら聞く。それに手を振って答える。その返事を見てヤシャは腕を組んで目を閉じ、黙認する事にした。勇者は元気よく「すいませ~ん」とウェイトレスを呼ぶ。ウェイトレスがやって来たところでナルルに視線を移す。

ナルルは変わらず春田を見つめている。そのブレなささは獲物を狙う猛獣の様である。

「……お前は本当に魔王なのか?」

その質問は何故出たのか。

「なんだよその質問は……」

春田自身も困惑するその質問。魔王の部下である連中には魔王であったころの気配が常に感じられるという。勇者と赤毛ならこの質問は分からない事も無い。しかしナルルは一度は魔王の配下になった経緯があり、聞くまでもなく春田が魔王であることは分かるはずである。何となくナルルが聞きたい事は違うのだろうと分かるが、何が聞きたいのかは春田にはちんぷんかんぷんだった。

しかしポイ子は彼女の真意を見抜いていた。

「聖也様はこの世界に転生されて変わられたのです。もうあの頃の魔王様ではございません」

つまりナルルが聞きたかったのは魔王の素行の変化である。気配りができるのは違和感でしかない。

「ふむ……もう一つ聞かせてくれ……お前から魔力を感じないのだが、隠蔽できる何かを使用しているのか?それとも……」

どうも本物かどうか測りかねている。無理もない。気配は当時のままでも力はない。単純に弱すぎる。だがその問いに答えるわけにはいかない。安全だと完璧にわかるまでは……。

「ナルル……ここに何しにきた?俺を殺しに来たのか?」

核心に触れる春田。その問いに沈黙を貫くナルル。

「……お答えくださいナルル様」

「……口を出すな粘液」

ナルルはポイ子に対する苛立ちを隠せない。元からポイ子を交えての話し合いなど考慮にすら入れていないからだ。春田が同席をお願いしたとはいえ、勝手に話し合いの中間に立つような真似をして図に乗っているように見えても仕方がない。しかし粘液は言い過ぎだ。ポイ子も眉がつり上がる。

「よせ。ここでやり合うつもりか?ポイ子、確かにお前は少し出しゃばりすぎだ。ちょっと反省しろ。それからナルルは言い過ぎだ。一回ポイ子に謝れ。それで公平に話し合いができるってもんだ。そうだろ?」

喧嘩両成敗。どちらかの味方をすれば均衡が崩れ戦闘に発展する。これが正しい。ポイ子はショボーンとしているが、ナルルは傲岸不遜といった態度でさっきより踏ん反り返る。

「ふん、誰が謝まるものか……」

その態度は誰の目にも面倒な女。

「……そうか、なら話は終わりだ」

席を立とうとする春田。ポイ子も俯き加減で離れようとするが

「待て……分かった。ポイ子。わらわも少し調子に乗りすぎたようだ。謝ろう」

姿勢こそ変わらないが、少し眼を伏せて神妙にしている。

「……すまなかった」

しゃなりとした感じでお辞儀をする。ハシゴは外されたくないらしい。プライドこそ高い上、いつにも増して横柄だが、ナルルはあの時と変わらない。春田がポイ子を見るとポイ子も視線を向ける。目が合ったところで肩を竦めて席に着く。

「私も出すぎた真似をして申し訳ございませんでした。黙っときます」

ポイ子は口を真一文字に結び、眼を伏せて座る。春田も座り直して対面のナルルを見据える。

店内はしんと静まりかえり、あの空気の読めない勇者も黙ってこちらを見ている。不自然に静まりかえった店内にウェイトレスがパフェを持ってやってきた。

「失礼致します。苺パフェはどなたでしょうか?」

「あ!ハイハイ!!あたしあたし!!」

「抹茶がそっちで~ドルチェがうちね~」

「それではごゆっくりー」

全く気にする様子もなく勇者、赤毛、マレフィアの前にそれぞれのデザートを置いてキッチンに戻っていった。

メニュー表にあった物と現物は少し違うものの、おおよそのキラキラとしたパフェがやってきてまたはしゃぎ出した勇者。マレフィアは段々と勇者のノリに合わせているのかさっきより赤毛を含めた3人がキャイキャイ黄色い声を出している。それを尻目にジュースを口にするヤシャ。

さらにそれを尻目にジュースを口にする春田の席3人。3人が示し合わせたようにコトッとコップを置くと、ナルルは口を開いた。

「……何故なにゆえわらわを里に戻した?」

突然の本題に頭がついていかない。「ん?」今一度聞くために聞き直す。

「な・に・ゆ・え、わらわを里に戻したんじゃと言うておる」

ちょっと乗り出すように春田を睨みつける。まだ大戦中で魔王存命中、ナルルを城から追い出し、里に帰したことを質問している。

「何でって、そりゃ人質だったし巻き込んじゃマズイだろ……」

当時、ダークエルフの里からの侵入を防ぐ目的で人質を要求した。その際にやってきたのがナルルだった。

「わらわは四天王の一人だったはずじゃろ?何故わらわは外されたんじゃ?わらわはヴァルタゼアお前のためなら死ぬことだって出来たんじゃ……それなのに……!」

だんだん語尾に力が入る。

「落ち着こう。俺はお前を殺すわけにはいかなかったから里に戻したんだ。というかお前さ、俺を何度も殺そうとしてたよね?なに?お前のためなら死ねるって、よくわかんないんだけど」

「わらわも仕事だったんじゃ。当時はおさから暗殺を依頼されとったし、その技術があった。じゃがお前はわらわに対し一切咎めることもなく女中として常に侍らせ、ついには人質であり暗殺者でもあるわらわを部下の一員どころか四天王にまでした。名前だけではなくその地位は保障され、わらわの軍まで……ここまでされて忠誠を誓わぬ奴などおらんわ」

その目には固い意志があり、その決意とも取れる熱い思いは怖いくらいだった。その思いは例えるならストーカーのような病んでいるタイプの心酔の仕方だった。

「そこまでして……じゃ。わらわはお前の死に目にも会えず、里でヘルキャッスルの崩壊とお前の死を聞いたんじゃ…お前にとってわらわとは何だったのか、聞かせろ」

ナルルを返却した際、ポイ子の助言で長に彼女を里から出さないように云いつけていた。勇者との戦いを楽しみにしていた身としてはそういう邪魔が入らないようにしたかったと言うのもある。それにこういっては何だが、暗殺に燃えていた頃のナルルが面白かったのであって牙の抜け落ちたナルルに飽きたせいでもあったのだが、ここは正直に言うと死ぬ気がするのでそれっぽい事情を話す。

「お、俺なんかにそこまで思ってくれたのは嬉しいが、俺は部下が死ぬことを良しとしてはいない。あの時調子に乗っていた俺は勇者と一騎打ちで戦って勝つつもりだったし、全部終わったら部下を呼び戻すつもりでだな……」

という言い訳を並べているとナルルはおもむろに右手を机の上に置いた。直後、ゴトッという鈍い音が鳴り、黒刃のナイフが姿を現した。春田はドキッとして口をつぐむ。横で黙っていたポイ子にも緊張が走る。

「ポイ子はどうして死の間際にそこにいたのじゃ?」

ポイ子だけが例外として魔王といた事実に苛立ちを禁じ得ないナルル。

「いや、えぇ……その……さぁ。あっポイ子はあれだ……最後の一体だからね。人間の奴らに絶滅させられる直前のポイ子には、ほら……本人の前で言うのも何だが、未来がないだろ?ナルル、お前には未来がある。俺が死ぬことなんて考えていなかったが、万が一巻き込まれても……な?」

ポイ子をちらりと見て、表情を確認する。”未来がない”には流石のポイ子は微妙な表情だったが、自分だけが死に目に会えたその事実に少しばかりの優越感を持つ。表情には出さないものの小躍りしたいほど内心喜んでいた。

「わらわだって……わらわだって一緒にりたかったのに……!!」

泣きそうな顔で席を立ち、その手にはナイフが握られている。ポイ子は腰を浮かして守備態勢に入る。テーブル席を跨いだ先のヤシャは立ち上がって臨戦態勢で牽制している。

「待った待った!よく考えてみろ!俺とこうしてもう一度会えたのは生きていたからだろ?そうじゃないか?ね?ね?」

フゥフゥ言いながら落ち着きのないナルルはナイフを握った手をちょっと振りながら春田に恐怖を与える。

「そそそ、そうだ!ここ、これから一緒にいれば丸く収まらないか?だよなぁみんな??」

焦って舌が回っていない。目が泳いでポイ子、ヤシャ、マレフィアの順に見る。もはや関係のない勇者一行まで見渡している。ポイ子とヤシャは唖然としている。勇者と赤毛とマレフィアはデザートに舌鼓を打ってこっちには目もくれていない。

「……一緒に?」

そこでナルルの手から力が抜ける。それを見た春田は「今だ!」と言わんばかりにまくし立てる。

「そ、そうそう!あの時のように一緒にな!みんな血を流すことは無い!そうじゃ無いか?」

ナルルの目を見つめていると少しずつ冷静さが戻ってきたのがわかる。敵意の塊だった愛憎の目は柔らかさを取り戻し、口元は微笑みが戻ってきていた。ポイ子もヤシャもその顔を見てほっと胸をなでおろした。ナルルの癇癪は去った。だが、春田にはまだまだ予断を許さぬ状況だった。危機は去っていないのだ。

ナルルの後ろに立つウェイトレスがそれを物語っていた。春田は射出されたように席を立ち、次の瞬間にはウェイトレスの前で腰が90度曲がっていた。その様は美しく、芸術すら感じる謝罪だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...