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第八十七話 登校時間
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「行ってきまーす」
春田は制服に着替えていつもの様に玄関で靴を履く。
ヤシャやポイ子にいつものハグをすると、ナルルが便乗して春田にハグをしてきた。
いつまでも離れようとしないナルルをヤシャとポイ子の二人で引き離していると、アリシアは不思議な顔をしながら玄関先までやって来る。
「え?魔王どこ行くの?」
アリシアは思ったより早起きで一緒にゲームをすることになった。ナルルと三人でゲームをしたのだが、これがアリシアの琴線に触れてしまい、延々ゲームに没頭することに……。
「こんな面白いものを隠すなんて!」と散々言われ、朝のニュース等、番組を一切見せてもらえなかった。毎朝の占いとじゃんけんコーナーを見逃したのは痛かったが、楽しかったので良しとした。
「どこって……学校っていう教育機関だ。つまり勉強しに行くのさ」
それを聞いて驚く。
「えー!?魔王が勉強?!あり得ないんですけど!」
朝から耳がつんざく。「なになに?」と気になったニーナとマレフィアがやって来た。
「っ……だから近所迷惑だろ。もう少し声を落として……」
「いいから!なんで勉強とかしてんの?あんた魔王でしょ?」
携帯を出して時間を確認する。まだまだ余裕だったので諦めて会話する事にした。
「あのなぁ……俺はただの人間だって昨日も言っただろ?だから周りに溶け込むために勉強をしているんだ。この世界で生んでくれた俺の母さんと父さんにこれ以上迷惑かけない様にだな……」
「……そんな殊勝な考えがあったなんて……聖也様、素敵です」
ポイ子にはこの考えは話しているつもりだったが初めての様に感動している。ヤシャもマレフィアも「うんうん」頷いて感心していた。ナルルは「聖也のお母さん……そうか……その手も……」とブツブツ気味悪くつぶやいている。アリシアは「魔王のくせに……」とブスッとしている。
「あら、この世界の教育機関ですって?すごく興味があるわ」
ニーナはウキウキしている。「ちょっと待ってて~」と奥に引っ込み、ニーナは勝手に支度をし始めた。
「……いや、連れて行かないぞ」
「あら?どうして?」
ヒョコッと顔を出して聞き返す。
「関係者以外立ち入り禁止だからな。そういうのは先に連絡して、見学の了承を得ないと出来ないんだよ」
「そうなの?じゃあ連絡しに行きましょう」
「だからついて来ようとすんな。それに個人単位の見学は許可が下りないだろうな。文化祭とかのイベント事とかじゃないと……」
分からない単語が出てきた。
「……ブンカサイ?」
「学校主催のお祭りだな。勉強とかの堅苦しいのは一旦お休みして皆で楽しもうって日だから、その日なら紛れ込んでも大丈夫。ニーナの言う教育現場への見学なんてのがそもそも難しいんだよ」
「もういいか?」と時計を確認しながら催促する。
「なるほど、よく分かったわ。ところであなたのご両親はどちらにいらっしゃるの?」
「県外だが?……っと”県”なんて言っても分かんないよな……遠くだよ。ここまで来るのに早くとも3、4時間はかかるんじゃないか?とにかく遠くだ」
考えなしにスッと答えたが、嫌な予感が湧いてくる。
「まさか会いに行くなんて事……」
「そんなことしませんよ。会っても仕方がないでしょう?」
その通りだ。というかここにいる連中の一人にすら合わせたくはない。元の世界の部下たちと元敵。それを隠して合わせるとしても友達とでも言うのか?全員が女性で、無断で住まわせている現在、どんな爛れた生活をしているのかと思われるのはたまったものではない。
「……じゃあ、何で聞いたんだ?」
「分からない?それじゃ、コホン……さぁ行きましょう聖ちゃん。私がお母さんなら何の文句もないはずよ?」
(そういう事か……)と頭を抱える。それを聞いた部下たちはいきり立つ。その顔は信じられないものを見た驚愕と血管が浮き出るほど頭に来た怒りが綯交ぜになった怖い顔だった。
「何言ってんの母さん!無茶言わないの!!」
またまたつんざくほどの声だがアリシアが正しい。
「そうだぞ、無茶もいい所だ…それに、もしお前を親に見立てるとして、親を連れて学校に行くなんざ恥ずかしさの極みだぜ?中学生の時、同級生が親に忘れ物を届けに来てもらうのを見たが、傍から見てるだけで恥ずかしいって思えたぜ……」
それを聞いてアリシアが一歩前に出て、バシバシ叩いてくる。
「見立てるな!お前のお母さんじゃない!!」
「いった!いたた!お母さんお母さーん!叩くのやめさせてー!」
「だから……!」と言いかけた時、春田は逃げるように廊下を駆け抜け、マンションの階段を駆け下りた。
「あ!コラ!ちょっ……待っ……!!」
廊下まで見送る形になったアリシアは地団太を踏んだ後、腕を組んで「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「たく、何なのよあいつ……」
アリシアは苛立ちで頭から湯気が出ている。そしてそれはアリシアだけではない。
「おいニーナ。お前……調子に乗るなよ?」
ヤシャとナルルはニーナを睨みつける。
「何よ、この世界の教育がどんなのか見たかっただけじゃない。それに単なる偽装だし、本当のお母さんになるわけじゃないんだから別にいいでしょ?」
「いいわけないじゃろ……たく、わらわこそが母にふさわしいんじゃからな」
ヤシャとポイ子が驚く。
「ナ……ナルル様……そんな話ではなかったかと……」
「ん~、ナルちゃんは耳長だから無理でしょ?見た目的にはうちだよね~」
そこにマレフィアが参戦する。面白半分で入ってきていることは確実だが、あわよくばという雰囲気も感じる。ナルルは冗談交じりとは言え聞き捨てならないとキッとした目でマレフィアを睨みつける。
「なんであんたらはあんなののお母さんになりたいのよ……」
アリシアは引き気味で部屋に入る。
「ふ、お子ちゃまには分からんことが多々あるんよ……」
遠い目をしたナルルは滔々と語る。
「我らが魔王が……あの見上げるほどでかかった男が目線の高さになり、力に物を言わせていたのに無力になり、何事にも余裕のあった心はもろくなっておる。死をも恐れぬ最強の生命体が途端に最弱に叩き落とされ、怯えて日々を過ごしとるんじゃぞ?母性と庇護欲をそそられる……どうじゃ?そう思わんか?」
「いや、思わない……」
考えるまでもない。というかナルルは気色悪い。
「若いからやはりわからんよな……」と言って理解されない、しようともしないアリシアに対し呆れるようなため息をつき、ナルルは春田が出て行った玄関を見ている。子供を産んだ事も無いナルルだが、春田に対する思いは本物だ。
(分からなくて良かった)という思いが渦巻き、アリシアはすぐにでもこの女の前から離れたくなった。
「……ゲームしよ」
春田は制服に着替えていつもの様に玄関で靴を履く。
ヤシャやポイ子にいつものハグをすると、ナルルが便乗して春田にハグをしてきた。
いつまでも離れようとしないナルルをヤシャとポイ子の二人で引き離していると、アリシアは不思議な顔をしながら玄関先までやって来る。
「え?魔王どこ行くの?」
アリシアは思ったより早起きで一緒にゲームをすることになった。ナルルと三人でゲームをしたのだが、これがアリシアの琴線に触れてしまい、延々ゲームに没頭することに……。
「こんな面白いものを隠すなんて!」と散々言われ、朝のニュース等、番組を一切見せてもらえなかった。毎朝の占いとじゃんけんコーナーを見逃したのは痛かったが、楽しかったので良しとした。
「どこって……学校っていう教育機関だ。つまり勉強しに行くのさ」
それを聞いて驚く。
「えー!?魔王が勉強?!あり得ないんですけど!」
朝から耳がつんざく。「なになに?」と気になったニーナとマレフィアがやって来た。
「っ……だから近所迷惑だろ。もう少し声を落として……」
「いいから!なんで勉強とかしてんの?あんた魔王でしょ?」
携帯を出して時間を確認する。まだまだ余裕だったので諦めて会話する事にした。
「あのなぁ……俺はただの人間だって昨日も言っただろ?だから周りに溶け込むために勉強をしているんだ。この世界で生んでくれた俺の母さんと父さんにこれ以上迷惑かけない様にだな……」
「……そんな殊勝な考えがあったなんて……聖也様、素敵です」
ポイ子にはこの考えは話しているつもりだったが初めての様に感動している。ヤシャもマレフィアも「うんうん」頷いて感心していた。ナルルは「聖也のお母さん……そうか……その手も……」とブツブツ気味悪くつぶやいている。アリシアは「魔王のくせに……」とブスッとしている。
「あら、この世界の教育機関ですって?すごく興味があるわ」
ニーナはウキウキしている。「ちょっと待ってて~」と奥に引っ込み、ニーナは勝手に支度をし始めた。
「……いや、連れて行かないぞ」
「あら?どうして?」
ヒョコッと顔を出して聞き返す。
「関係者以外立ち入り禁止だからな。そういうのは先に連絡して、見学の了承を得ないと出来ないんだよ」
「そうなの?じゃあ連絡しに行きましょう」
「だからついて来ようとすんな。それに個人単位の見学は許可が下りないだろうな。文化祭とかのイベント事とかじゃないと……」
分からない単語が出てきた。
「……ブンカサイ?」
「学校主催のお祭りだな。勉強とかの堅苦しいのは一旦お休みして皆で楽しもうって日だから、その日なら紛れ込んでも大丈夫。ニーナの言う教育現場への見学なんてのがそもそも難しいんだよ」
「もういいか?」と時計を確認しながら催促する。
「なるほど、よく分かったわ。ところであなたのご両親はどちらにいらっしゃるの?」
「県外だが?……っと”県”なんて言っても分かんないよな……遠くだよ。ここまで来るのに早くとも3、4時間はかかるんじゃないか?とにかく遠くだ」
考えなしにスッと答えたが、嫌な予感が湧いてくる。
「まさか会いに行くなんて事……」
「そんなことしませんよ。会っても仕方がないでしょう?」
その通りだ。というかここにいる連中の一人にすら合わせたくはない。元の世界の部下たちと元敵。それを隠して合わせるとしても友達とでも言うのか?全員が女性で、無断で住まわせている現在、どんな爛れた生活をしているのかと思われるのはたまったものではない。
「……じゃあ、何で聞いたんだ?」
「分からない?それじゃ、コホン……さぁ行きましょう聖ちゃん。私がお母さんなら何の文句もないはずよ?」
(そういう事か……)と頭を抱える。それを聞いた部下たちはいきり立つ。その顔は信じられないものを見た驚愕と血管が浮き出るほど頭に来た怒りが綯交ぜになった怖い顔だった。
「何言ってんの母さん!無茶言わないの!!」
またまたつんざくほどの声だがアリシアが正しい。
「そうだぞ、無茶もいい所だ…それに、もしお前を親に見立てるとして、親を連れて学校に行くなんざ恥ずかしさの極みだぜ?中学生の時、同級生が親に忘れ物を届けに来てもらうのを見たが、傍から見てるだけで恥ずかしいって思えたぜ……」
それを聞いてアリシアが一歩前に出て、バシバシ叩いてくる。
「見立てるな!お前のお母さんじゃない!!」
「いった!いたた!お母さんお母さーん!叩くのやめさせてー!」
「だから……!」と言いかけた時、春田は逃げるように廊下を駆け抜け、マンションの階段を駆け下りた。
「あ!コラ!ちょっ……待っ……!!」
廊下まで見送る形になったアリシアは地団太を踏んだ後、腕を組んで「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「たく、何なのよあいつ……」
アリシアは苛立ちで頭から湯気が出ている。そしてそれはアリシアだけではない。
「おいニーナ。お前……調子に乗るなよ?」
ヤシャとナルルはニーナを睨みつける。
「何よ、この世界の教育がどんなのか見たかっただけじゃない。それに単なる偽装だし、本当のお母さんになるわけじゃないんだから別にいいでしょ?」
「いいわけないじゃろ……たく、わらわこそが母にふさわしいんじゃからな」
ヤシャとポイ子が驚く。
「ナ……ナルル様……そんな話ではなかったかと……」
「ん~、ナルちゃんは耳長だから無理でしょ?見た目的にはうちだよね~」
そこにマレフィアが参戦する。面白半分で入ってきていることは確実だが、あわよくばという雰囲気も感じる。ナルルは冗談交じりとは言え聞き捨てならないとキッとした目でマレフィアを睨みつける。
「なんであんたらはあんなののお母さんになりたいのよ……」
アリシアは引き気味で部屋に入る。
「ふ、お子ちゃまには分からんことが多々あるんよ……」
遠い目をしたナルルは滔々と語る。
「我らが魔王が……あの見上げるほどでかかった男が目線の高さになり、力に物を言わせていたのに無力になり、何事にも余裕のあった心はもろくなっておる。死をも恐れぬ最強の生命体が途端に最弱に叩き落とされ、怯えて日々を過ごしとるんじゃぞ?母性と庇護欲をそそられる……どうじゃ?そう思わんか?」
「いや、思わない……」
考えるまでもない。というかナルルは気色悪い。
「若いからやはりわからんよな……」と言って理解されない、しようともしないアリシアに対し呆れるようなため息をつき、ナルルは春田が出て行った玄関を見ている。子供を産んだ事も無いナルルだが、春田に対する思いは本物だ。
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