魔王復活!

大好き丸

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第九十六話 休日

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補習を終えた竹内は荷物をまとめて一息ついていた。

「た・け・う・ち・さん!」

そこに竹内にとって目に痛いゆるふわギャルが声をかけてきた。目に映った瞬間に視線をそらしたくなったが我慢する。何か見たことある人物だと思ったら、木島のグループの一人であることに気付いたからだ。

「おー……えーっと……たておか?だっけ?」

クラスメイトではあるし、昨日春田に絡んでいたのを覚えている。が、名前が出てこない。

「ちょっと~、た・て・か・わ・だよ。ちゃんと覚えてね~」

甘ったるい猫なで声で竹内に絡んでくる。

「……たてかわ……ね。何か用?」

「ちょっとお喋りしたいと思って~」

鞄を引っ提げて目の前の席に座る。

「……アタシと喋りたい?それはまたどうして……?」

館川は机に両肘をついて頬杖をつく。

「最近~竹内さんの事が超気になってるんだよね~。この際お友達になってくれないかなって思って~」

竹内はフンッと鼻を鳴らして窓側に視線を移す。

「それはまた奇特な事で……」

「んふふ、ありがと~」

褒めたつもりはなかったが、館川は嬉しそうにニコニコしている。しばらく竹内の顔を眺めた後で口を開いた。

「竹内さんって~最近真面目に登校してるよね~。授業もガンガンサボってたのに、ガッツリ出てるし~……。なんか理由とかってあるの?」

「理由ねぇ……そんなの聞いてどうすんの?」

「だって~……クラスでも有名なサボり魔の竹内さんが突然真面目って、そりゃ誰だって気になるじゃ~ん」

竹内は視線を合わすことなく廊下側に目をやる。

「……気まぐれ……」

館川は目を合わせようと覗き込むが、完全に流し目で視線を外されるので目が合わない。

「ふ~ん……ところで春田くんとはどういう関係なの?」

竹内は一瞬、館川の目を見る。その後すぐ視線を外し、ため息を吐いて俯く。

「……ダチ」

「ただの友達?」

「……文句……ある?」

顔を上げて館川を見据える。館川は頭を左右に振る。それを見て竹内は目を瞑る。

「でも、ほんとにそれだけかなって思うのよ」

それを聞くなり静かに目を開けた。

「……どういう意味?」

ふふっと笑って、館川は自分の爪を見る。綺麗にマニキュアを塗った爪の出来をマジマジと見ながら一拍置いてまた口を開く。

「話は変わるけど~、今日春田くん来てたよ~。何でだろうね?」

質問に答える気がないと悟った竹内は外に目を逸らす。

「……今日を平日だと間違えて来たんだって……間抜けだよね」

竹内は有るか無いかのほほえみをふっと見せる。それも一瞬の事ですぐに元の無表情に戻る。

「それは確かに間抜けだね~。なんか~春田くんにしては珍しい失敗だよね~」

「……そうかな?……そうかも」

竹内はぼんやりした返答をする。

「思ったんだけど最近存在感が増したって言うか~、何か目で追っちゃうことがあるような気がするんだよね~。今日も姿を見ていなかったのにいるような気がして……てか、マジでいたし」

「それは……確かに……教室の前に立たれた時、すぐにあいつだって分かった……こんな事ってあり得ないはずなのに……」

その時の事を思い出して考え込むようになる。それに対し我が意を得たりの表情で竹内の顔を覗き込む。

「ねぇ、やっぱ意識してるんじゃないの~?」

眉毛がピクッと動く。気に食わないといった感じでへの字に口を結び、ズイッと前に乗り出す。

「……あんたはどうなの?さっきから春田春田ってさ……」

「だって~、竹内さんってば春田くんの話以外興味なさそうなんだも~ん」

「……そんな事ない。……他のこと喋らないからこういう話になってるんでしょ」

口を尖らせながら文句を言う。それをフフンッと余裕の表情で受け止める。

「本当に~?それじゃどんな話で盛り上がれるのかな~?」

竹内は腕を組んで考え始める。考えてみれば相手のことをよく知らない。

「……あんたは何か好きなのとかないの?」

会話を弾ませようにも話し出しが不明なので、まずは相手の事を知る事から始める。

「私は~……遊ぶのが好きかな~。カラオケとか~ボーリングとか~、ゲーセンもいいよね~。UFOキャッチャーでぬいぐるみとか取りたいなぁ~……」

それを聞くなりため息が出る。

「……それ多分今したいことじゃない?」

「あれ?んふふ、バレちゃった?」

会話を弾ませようってのに今やりたいことが出る辺り、館川という人物の性格が窺える。海か山かでいえば海を選択して、日焼け止め片手にイケメンを釣るくらいアグレッシブなタイプだろう。

「……ふーん……それじゃ今から町にでも繰り出す?」

「え?あっ……いいの?」

館川は竹内を覗き込むように見る。

「……なに?……どうせ暇でしょ?」

ここで竹内は全くの無関心を装って逃げると思っていたのに意外にもノッてきた。もしここでノッてこなかったら強引に誘うつもりだったからまさかの事態だと言える。

「OK!行こう行こう~!ちょっと待ってね~……」

館川は携帯を取り出して”こみゅ”を起動する。みらいのアイコンを呼び出して、『補習終わったからカラオケ行こ』と送信した。

「……木島?」

「そうだよ~。せっかくだから大人数で行こうかなって思って~」

「……じゃあアタシもめぐ呼ぶ」

竹内は携帯を操作して高橋を呼び出す。

「めぐって誰?」

「……後輩」

「へ~」

そんなやり取りをしていると、携帯が二人同時に鳴る。木島はNO。高橋はYES。とりあえず一人は確保した。

「もう一人欲しいよね~……」

と言って、また携帯を操作する。呼び出すのは木島グループで一番サバサバしているボーイッシュな陸上女子。今日は一応部活で学校に来ているはずだ。そして時間的にもう終わっているはず。そう思い連絡を入れると、その瞬間にガラッと教室の扉が開く。

「ひなー、補習終わったー?」

そこに立っていたのは短髪のボーイッシュで日に焼けた女子。彼女の名前は篠崎 葵(しのざき あおい)。160cm前後で細身。胸はあまり大きくないものの足腰が太い。釣り目の三白眼がまるで猫のような雰囲気を醸し出す。糖分を摂取する為か、棒付きキャンディを咥えていた。肩にかけたエナメルのスポーツバックが部活帰りを思わせる。

「あおいちゃ~ん。今携帯に連絡したとこだよ~」

「なに?竹内さんと話してたの?」

「……ああ、例のもう一人……しのざき……だっけ?」

それを聞いて日焼け女子は訝しそうに「あん?」と疑問形で返す。

「そうそう~……って私の名前間違えたのにあおいちゃんは覚えてるのね……」

ちょっとショックを受ける館川。

「ちょっとなに?何の話よ」

篠崎の疑問に笑顔を見せる。

「これから~、町に繰り出して~、遊ぼ?」

「ああ、そりゃ別にいいけど……みらいは?」

「今日はダメだって~」

「あっそ。それじゃウチらと竹内さんの3人ってこと?」

その言葉に違和感を覚える。

「……虎田を誘わないの?」

篠崎が竹内を見て説明する。

「みゆきとみらいはセットだから。みらい連れて行けば大抵来るんだよ。みゆき下校の時はノリいいけど、休日に遊ぶ時は2、3日前から行っとかないと確実に来ないし……」

「みらいちゃん誘っとけば来るから~、セットってわけ。というわけで4人ね~」

それを聞いて疑問符を浮かべる。

「は?だってみゆき呼んでないんでしょ?じゃ誰が……」

「……アタシの後輩を入れて4人……」

その時、今度は扉が強く開かれる。

「竹さーん!遊ぶんっすかー?」

そこに小柄な金髪がいつもの恰好で現れた。

「……あんた学校にいたの?」

「基本暇してるんでー。今日も知らん人たちと一緒っすねー」

と先輩の教室に知らない連中がいてもお構いなしにズカズカ入ってくる。

「……たてかわと篠崎な……」

それぞれに指さして紹介する。

「ども!高橋っす!竹さんの後輩やってます!」

「あ~ん可愛い後輩!こんな子がいたのね!私も~めぐって呼んでいい?」

館川が立ち上がって高橋を嘗めるように眺める。

「お好きにどぞ!」

館川は「や~ん」とかいう猫なで声を出しつつ高橋を抱きしめる。特に抵抗することなく好きなままにいじられる高橋。

「よろしく高橋後輩。面子はこれでそろったわけだ。それで?どこ行くの?」

館川は高橋を堪能しながら顔だけを篠崎に向ける。

「う~ん。とりまカラオケでどう?」

「……その前に飯食お。飯。お腹空いた……」

12時を回った時計を眺めながらお腹を擦る。

「竹内さんに賛成ー」

篠崎も竹内に賛同する。

「じゃナックいきません?めぐクーポン持ってるっすよ?」

「ええ~めぐちゃん自分の事”めぐ”って言うの~?可愛すぎ~!ナック行こナック!お姉さんが奢っちゃうから~」

ウザイ程に高橋に絡むが、奢られるとあっては嫌な気はしない。

「マジっすか?イエーイ!」

4人は教室を後にした。町にある”ナックナルドバーガー”を目指して。
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