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第九十七話 モール
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虎田の胸は高鳴っていた。
初めてのデート。男性と二人きりで遊ぶなんて今までの人生で初ではないだろうか?思い返してみてもそんなことなかったと思う。
「……落ち着け……落ち着け……」
ゆっくり深呼吸して春田を待つ。虎田はちょっと背伸びして大人コーデを意識した服装を心がけた。ニュアンスカラーのキャップと同色のミレモ丈のワンピースにデニムジャケット、最近購入したばかりの「アルファ」というブランドの白スニーカーを合わせてカジュアルにまとめた。
肩掛けのバックからファンデーションを取り出して鏡で今の顔を確認する。木島と一緒に練習したお化粧が今効力を発揮していると思いたい。
普段からもナチュラルメイクで練習を欠かさなかったが、今日に限って失敗している可能性も否めない。家で何度も確認したから、ここでは不自然にならないよう軽く確認しておく。
ちょっと前髪を整えてファンデを仕舞うと腕時計で時間を確認する。もうすぐ12時。こみゅでは『お昼も一緒に……』とのことだった。
忠犬をモチーフにした銅像よろしく、猫をモチーフにした「福猫ニャン公」の像の前で待ち合わせ。他にも何人かこのあたりで待ち合わせをしているようで手持ち無沙汰の人たちを見かける。気配を消すようにゆっくり目を閉じてニャン公像にもたれかかると、今更ながら(少し早く着きすぎたかも知れない)とか(引かれたらどうしよう…)とか考え始めた。初めては何に対しても不安になるものだ。
「キミ、一人?」
ハッと目を開けると、そこには明るい金髪に染め上げたチャラい男が立っていた。虎田の方を見ているが、実は他の人に声をかけた可能性もある。黙ってキョロキョロしていると、
「いやいや、キミキミ!目合ったじゃん。シカトこいてんの?」
半笑いで威圧するように距離も詰めてくる。虎田もようやく自分に言われたことだと理解して手を振る。
「い、いえいえ。一人ではないです。待ち合わせをしていますので別の方に声をかけて……」
その時、チャラ男はサッと銅像に手を置く。半身に逃げた虎田を逃さないようにした。「ひっ」と小さく縮こまる。チャラ男はそこで思った通りと舌で唇を湿らす。強引に行けばイケると思って声をかけたようだ。
「待ち合わせって誰と?男?女?女友達なら仲間集めるから一緒に遊ぼうよ。ね?」
早く来たことに後悔した。変なのに絡まれることがわかっているなら、こんなところに来なかったのに…。
(春田くん……!!)
その時、春田の気配を感じた。いつも以上の強烈な気配。
「やーお待たせ。ちょっと待ったかな?」
そこに期待通り春田はやってきた。
「……春田くん!」
春田はグレーのパーカーにデニムパンツのシンプルな格好で駆け足で二人の元にやってきた。中に何も入ってなさそうなリュックを担ぎ直して、キョトンとするチャラ男に「……誰?」の一言。チャラ男はバツが悪そうな顔で虎田に聞く。
「……彼氏?」
彼氏ではない。しかし、ここで否定すると変な絡まれ方をするかもしれない。この質問は虎田にとっても春田にとっても面倒な質問である。だがここで春田は間髪入れずに答えた。
「何か文句でもあんの?」
発声自体は平坦で冷静だが、言い方は喧嘩腰だ。その言葉に虎田は顔が火照るのを感じた。
彼氏であるかどうかは明言を避ける。彼氏であると言った場合、虎田から後で猛抗議があるかもしれない。ちょっと威圧して勘違いを誘うくらいで丁度いい。
チャラ男は一瞬イラっとした顔を見せるが、ここで喧嘩をするのは時間の無駄だと捉えたのか、しばらく睨みつけた後、舌打ちをして唾を吐きながら離れていった。
チャラ男の影が完全に消えたところで虎田の肩から力が抜ける。それと同時にため息が漏れた。
「遅くなってごめん。怖かった?」
「ううん。私こそごめん。ボーッとしてたら絡まれちゃった。助けてくれてありがとう」
春田はパーカーのポケットに手を突っ込んで苦笑する。
「……なんか、調子に乗ったかな?」
「そんな全然だよ!助かったから全然いいよ!」
(むしろ嬉しかった)言葉こそ出ないが、左側の髪を持ち上げて左耳にかける。
その焦った言葉に無理にテンションを上げている様な雰囲気と、気持ちを外に出さない様にする必死さが感じ取れた。よほど怖くって嫌だったのだろうと虎田の感情を位置付ける。春田は自分が先に来なかったことを悔いた。
「……今度は待たせないようにしないと……」
それは独り言に近い呟きだったが、虎田は聞き逃さなかった。春田は確かに次のデートを予感させることを言った。思わず本心か探りを入れるように、そのまま表情を窺う。
それとは別に春田は虎田のコーデに目が行っていた。自分のと比べるとかなり気合いの入った格好だ。私服はお洒落なんだろうと感心する。女性の町に繰り出す際の隙の無さは見習うべきところだろう。
(実践するかどうかは別にして……)
そんな詮無い事を思いながら見ていると、虎田が恥ずかしそうに俯いた。少々無遠慮が過ぎたと視線を外し、春田が先に声をかけた。
「……と、とりあえずお昼だし、なんか食べようか?」
「そ、そうだね。何食べよっか?」
「なんか食べたいのとかある?」
唸りながら考える二人。ここで時間をかけると別の変な奴に声をかけられそうだ。
「……移動するか?」
「あ、じゃあモールとかどうかな?食べ物も色々あるし、暇つぶしも充実してるよ」
(モールか……)確かに虎田の言う通り、無理に1店舗に決めず、沢山の店から好きな食べ物屋を選んでフードコートで食すのは有りだと思った。それに目的地が決まっていると移動もしやすい。一も二もなく同意すると二人で移動を開始した。
肩を並べて歩いていると、虎田のキャップに目がいく。
(そういえばポイ子もキャップ被ってたな……流行りなのかもしれない……)
ポイ子は変身能力を有している。自由自在に形を変えることができるから誰かの真似をして自分なりの形を見出した可能性が大いにある。あまりに普通に馴染んでいたので気に留めていなかったが、変身能力の便利さに改めて気付かされる。
その視線に気づきながら春田の顔を恥ずかしくて見ることができない。
(ダメよ、みゆき……!今のままじゃ春田くんに失礼よ!)
でもだからと言って経験のない虎田に現在の状況を打開する手立てはない。ドキドキしすぎて喋る事もできずに店に着く。中に入ってマップを確認するとその横の広告に戦隊モノとキュートキュートショーが行われるのが見えた。
「えーっと?現在地がここだから、2階のフードコートかな?」
「丼モノ、パスタ、ドーナツ店にナック、鉄板ものもあるから、おおよそ何でも選び放題だね」
顔を見合わせて二人頷きあう。「何食べるかな~」と会話しつつ、エスカレーターに乗ると虎田は妙な感覚に襲われた。
(誰かに見られている気がする……)
頭を振ってその考えを散らす。自意識過剰だ。普段慣れないことをするから変に見られているような感覚がするだけであって、実のところそんなことはない。今ようやく春田との距離を測れてき出したのに、こんなことに意識を費やすべきではない。
楽しさのおかげかそれとも妙な感覚のせいか、2階までが長く感じたエスカレーターを超えて、席が沢山準備されたフードコートにたどり着いた。さぁどこに座ろうかと思案していると、真後ろから声をかけられた。
「みゆきお姉ちゃん!」
そこに見知った顔が現れた。振り帰り際に腰のあたりに飛び込んでくる。
「え?加古ちゃん?」
春田的には「誰だ?」と言いたくなったが、続けてやってきた奴に見覚えがあったせいで理解した。
「……木島か」
木島は黒いキャップを被り、白のワンピースシャツに白のカットソー。ホットパンツに赤を基調とした「アルファ」スニーカーを履いた涼しげなコーデだ。加古は白のロングTシャツにミニ丈で紺色のジャンパースカートを身につけて「マウントベリー」と呼ばれるブランドのスニーカーを履いて可愛らしく仕上げている。
「あれぇ?二人して何やってんの?」
虎田的にそれはこちらのセリフだと思ったし、わざとらしい物言いから、出会うことを想定しているのは明らかだった。そんな事情を知らない春田はそれこそバツが悪そうな顔をする。この虎田との密会は木島のことやその他についての相談だと思っていたからだ。
それを見てキッと睨み付ける木島。「お前のふしだらな考えはお見通しだ!」と言わんばかりの目で。
「みーちゃん……奇遇だね……今日はひなちゃんとボストじゃなかった?」
「そのつもりだったけど、ひなに連絡する前に加古がキュートキュートのショーが見たいって言ってさ。親が忙しいから私が面倒見てんの」
加古はニコニコ嬉しそうにしている。これを見るに、嘘ではないだろう。加古は嘘がつけないタイプだし、店内マップを見たとき広告でキュートキュートショーがあることは事前に知っている。つまり単純に運が悪かったのだろう。
「俺らは飯でも食おうかなって……」
「あっそ。お昼なら私たちも今からだし一緒に食べようよ。ねー加古」
「みゆきお姉ちゃんも一緒にご飯食べてくれるの?」
その目は純真で、一点の曇りもない期待の眼差しだった。これで断るのは赤の他人でも難しいだろう。
「……は、春田くんもいいかな?」
一応伺いをたてる。その無垢な目は春田をも刺す。
「いいよ」
考えるまでもない。虎田が木島姉妹と一緒に食べるのに自分だけどっか別に行くなんて、空気を読まないなんてレベルじゃない。即答すると木島は舌打ちして顔を逸らしたが、すぐに表情を変えて向き直る。
「じゃ、ナックでも食べよ」
いつの間にか木島に指揮権が移っていた。逆らう気などない。虎田は木島妹の加古に腕をホールドされ、嬉しそうに連れて行かれるし、春田は後ろからついていく。一瞬この不自由な状態に異議を唱えようと必死に頭を回転させ、抗議の声を上げようとしたが、すぐさま諦めた。「あっそ」から加古の件で自分に発言権がないことを悟ったからだ。
今日はストレスを溜めない全てを受け流す凪の精神でいる様、心がけることにした。
初めてのデート。男性と二人きりで遊ぶなんて今までの人生で初ではないだろうか?思い返してみてもそんなことなかったと思う。
「……落ち着け……落ち着け……」
ゆっくり深呼吸して春田を待つ。虎田はちょっと背伸びして大人コーデを意識した服装を心がけた。ニュアンスカラーのキャップと同色のミレモ丈のワンピースにデニムジャケット、最近購入したばかりの「アルファ」というブランドの白スニーカーを合わせてカジュアルにまとめた。
肩掛けのバックからファンデーションを取り出して鏡で今の顔を確認する。木島と一緒に練習したお化粧が今効力を発揮していると思いたい。
普段からもナチュラルメイクで練習を欠かさなかったが、今日に限って失敗している可能性も否めない。家で何度も確認したから、ここでは不自然にならないよう軽く確認しておく。
ちょっと前髪を整えてファンデを仕舞うと腕時計で時間を確認する。もうすぐ12時。こみゅでは『お昼も一緒に……』とのことだった。
忠犬をモチーフにした銅像よろしく、猫をモチーフにした「福猫ニャン公」の像の前で待ち合わせ。他にも何人かこのあたりで待ち合わせをしているようで手持ち無沙汰の人たちを見かける。気配を消すようにゆっくり目を閉じてニャン公像にもたれかかると、今更ながら(少し早く着きすぎたかも知れない)とか(引かれたらどうしよう…)とか考え始めた。初めては何に対しても不安になるものだ。
「キミ、一人?」
ハッと目を開けると、そこには明るい金髪に染め上げたチャラい男が立っていた。虎田の方を見ているが、実は他の人に声をかけた可能性もある。黙ってキョロキョロしていると、
「いやいや、キミキミ!目合ったじゃん。シカトこいてんの?」
半笑いで威圧するように距離も詰めてくる。虎田もようやく自分に言われたことだと理解して手を振る。
「い、いえいえ。一人ではないです。待ち合わせをしていますので別の方に声をかけて……」
その時、チャラ男はサッと銅像に手を置く。半身に逃げた虎田を逃さないようにした。「ひっ」と小さく縮こまる。チャラ男はそこで思った通りと舌で唇を湿らす。強引に行けばイケると思って声をかけたようだ。
「待ち合わせって誰と?男?女?女友達なら仲間集めるから一緒に遊ぼうよ。ね?」
早く来たことに後悔した。変なのに絡まれることがわかっているなら、こんなところに来なかったのに…。
(春田くん……!!)
その時、春田の気配を感じた。いつも以上の強烈な気配。
「やーお待たせ。ちょっと待ったかな?」
そこに期待通り春田はやってきた。
「……春田くん!」
春田はグレーのパーカーにデニムパンツのシンプルな格好で駆け足で二人の元にやってきた。中に何も入ってなさそうなリュックを担ぎ直して、キョトンとするチャラ男に「……誰?」の一言。チャラ男はバツが悪そうな顔で虎田に聞く。
「……彼氏?」
彼氏ではない。しかし、ここで否定すると変な絡まれ方をするかもしれない。この質問は虎田にとっても春田にとっても面倒な質問である。だがここで春田は間髪入れずに答えた。
「何か文句でもあんの?」
発声自体は平坦で冷静だが、言い方は喧嘩腰だ。その言葉に虎田は顔が火照るのを感じた。
彼氏であるかどうかは明言を避ける。彼氏であると言った場合、虎田から後で猛抗議があるかもしれない。ちょっと威圧して勘違いを誘うくらいで丁度いい。
チャラ男は一瞬イラっとした顔を見せるが、ここで喧嘩をするのは時間の無駄だと捉えたのか、しばらく睨みつけた後、舌打ちをして唾を吐きながら離れていった。
チャラ男の影が完全に消えたところで虎田の肩から力が抜ける。それと同時にため息が漏れた。
「遅くなってごめん。怖かった?」
「ううん。私こそごめん。ボーッとしてたら絡まれちゃった。助けてくれてありがとう」
春田はパーカーのポケットに手を突っ込んで苦笑する。
「……なんか、調子に乗ったかな?」
「そんな全然だよ!助かったから全然いいよ!」
(むしろ嬉しかった)言葉こそ出ないが、左側の髪を持ち上げて左耳にかける。
その焦った言葉に無理にテンションを上げている様な雰囲気と、気持ちを外に出さない様にする必死さが感じ取れた。よほど怖くって嫌だったのだろうと虎田の感情を位置付ける。春田は自分が先に来なかったことを悔いた。
「……今度は待たせないようにしないと……」
それは独り言に近い呟きだったが、虎田は聞き逃さなかった。春田は確かに次のデートを予感させることを言った。思わず本心か探りを入れるように、そのまま表情を窺う。
それとは別に春田は虎田のコーデに目が行っていた。自分のと比べるとかなり気合いの入った格好だ。私服はお洒落なんだろうと感心する。女性の町に繰り出す際の隙の無さは見習うべきところだろう。
(実践するかどうかは別にして……)
そんな詮無い事を思いながら見ていると、虎田が恥ずかしそうに俯いた。少々無遠慮が過ぎたと視線を外し、春田が先に声をかけた。
「……と、とりあえずお昼だし、なんか食べようか?」
「そ、そうだね。何食べよっか?」
「なんか食べたいのとかある?」
唸りながら考える二人。ここで時間をかけると別の変な奴に声をかけられそうだ。
「……移動するか?」
「あ、じゃあモールとかどうかな?食べ物も色々あるし、暇つぶしも充実してるよ」
(モールか……)確かに虎田の言う通り、無理に1店舗に決めず、沢山の店から好きな食べ物屋を選んでフードコートで食すのは有りだと思った。それに目的地が決まっていると移動もしやすい。一も二もなく同意すると二人で移動を開始した。
肩を並べて歩いていると、虎田のキャップに目がいく。
(そういえばポイ子もキャップ被ってたな……流行りなのかもしれない……)
ポイ子は変身能力を有している。自由自在に形を変えることができるから誰かの真似をして自分なりの形を見出した可能性が大いにある。あまりに普通に馴染んでいたので気に留めていなかったが、変身能力の便利さに改めて気付かされる。
その視線に気づきながら春田の顔を恥ずかしくて見ることができない。
(ダメよ、みゆき……!今のままじゃ春田くんに失礼よ!)
でもだからと言って経験のない虎田に現在の状況を打開する手立てはない。ドキドキしすぎて喋る事もできずに店に着く。中に入ってマップを確認するとその横の広告に戦隊モノとキュートキュートショーが行われるのが見えた。
「えーっと?現在地がここだから、2階のフードコートかな?」
「丼モノ、パスタ、ドーナツ店にナック、鉄板ものもあるから、おおよそ何でも選び放題だね」
顔を見合わせて二人頷きあう。「何食べるかな~」と会話しつつ、エスカレーターに乗ると虎田は妙な感覚に襲われた。
(誰かに見られている気がする……)
頭を振ってその考えを散らす。自意識過剰だ。普段慣れないことをするから変に見られているような感覚がするだけであって、実のところそんなことはない。今ようやく春田との距離を測れてき出したのに、こんなことに意識を費やすべきではない。
楽しさのおかげかそれとも妙な感覚のせいか、2階までが長く感じたエスカレーターを超えて、席が沢山準備されたフードコートにたどり着いた。さぁどこに座ろうかと思案していると、真後ろから声をかけられた。
「みゆきお姉ちゃん!」
そこに見知った顔が現れた。振り帰り際に腰のあたりに飛び込んでくる。
「え?加古ちゃん?」
春田的には「誰だ?」と言いたくなったが、続けてやってきた奴に見覚えがあったせいで理解した。
「……木島か」
木島は黒いキャップを被り、白のワンピースシャツに白のカットソー。ホットパンツに赤を基調とした「アルファ」スニーカーを履いた涼しげなコーデだ。加古は白のロングTシャツにミニ丈で紺色のジャンパースカートを身につけて「マウントベリー」と呼ばれるブランドのスニーカーを履いて可愛らしく仕上げている。
「あれぇ?二人して何やってんの?」
虎田的にそれはこちらのセリフだと思ったし、わざとらしい物言いから、出会うことを想定しているのは明らかだった。そんな事情を知らない春田はそれこそバツが悪そうな顔をする。この虎田との密会は木島のことやその他についての相談だと思っていたからだ。
それを見てキッと睨み付ける木島。「お前のふしだらな考えはお見通しだ!」と言わんばかりの目で。
「みーちゃん……奇遇だね……今日はひなちゃんとボストじゃなかった?」
「そのつもりだったけど、ひなに連絡する前に加古がキュートキュートのショーが見たいって言ってさ。親が忙しいから私が面倒見てんの」
加古はニコニコ嬉しそうにしている。これを見るに、嘘ではないだろう。加古は嘘がつけないタイプだし、店内マップを見たとき広告でキュートキュートショーがあることは事前に知っている。つまり単純に運が悪かったのだろう。
「俺らは飯でも食おうかなって……」
「あっそ。お昼なら私たちも今からだし一緒に食べようよ。ねー加古」
「みゆきお姉ちゃんも一緒にご飯食べてくれるの?」
その目は純真で、一点の曇りもない期待の眼差しだった。これで断るのは赤の他人でも難しいだろう。
「……は、春田くんもいいかな?」
一応伺いをたてる。その無垢な目は春田をも刺す。
「いいよ」
考えるまでもない。虎田が木島姉妹と一緒に食べるのに自分だけどっか別に行くなんて、空気を読まないなんてレベルじゃない。即答すると木島は舌打ちして顔を逸らしたが、すぐに表情を変えて向き直る。
「じゃ、ナックでも食べよ」
いつの間にか木島に指揮権が移っていた。逆らう気などない。虎田は木島妹の加古に腕をホールドされ、嬉しそうに連れて行かれるし、春田は後ろからついていく。一瞬この不自由な状態に異議を唱えようと必死に頭を回転させ、抗議の声を上げようとしたが、すぐさま諦めた。「あっそ」から加古の件で自分に発言権がないことを悟ったからだ。
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