魔王復活!

大好き丸

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第103話 ライバル

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春田が戻ったのはそれからすぐ後だった。

その後ろには出ていった時にいなかったポイ子を引き連れている。

初めてポイ子を見る面々は、面食らった顔で疑問符を浮かべる。

「いやぁ悪い悪い。おまたせ」

と言って戻ってきて席に座り直す。気になる女性は机の横に立ったまま。春田に質問を投げ掛けたのは木島だった。

「……いや誰?」

竹内と高橋はポイ子に向き直ると会釈する。

「あーどもどもっす。あの人は先輩の親戚っすよ」

「……確か今、春田ん家に一緒に住んでるんだっけ……?」

ポイ子はペコリと頭を下げると、満面の笑みで挨拶する。

「初めましての方は初めまして。ポイ子と申します。聖也様の親戚をやらせていただいてます。どうぞ、お見知りおきを」

一同ポカーン。ポイ子?聖也様?いったいどこの国の人間なのか。見た目は日本人だが、鼻筋が通った美人と可愛いのちょうど中間の顔。いや、わずかに可愛いが勝っている。ムフーッと誇らしげだ。

「こいつの言ってることは真に受けないでくれ。冗談だから」

加古が春田に隠れるようにポイ子を見る。

「じゃあ本当は何てお名前なの?」

「私はポイ子ですよ?貴女は?」

ポイ子は覗き込むように加古を見る。春田の袖にしがみついて安心感を得ると、顔を覗かせて挨拶する。

「私は加古っていいます。は、初めましてポイ子?お姉さん。宜しくお願いします」

その横顔をじっくり見た館川は昨日春田を教室まで迎えに来た女性を思い出した。

「あ~、あの時の~」

「ひな知ってんの?」

篠崎が即座に反応する。館川はうんうん頷いてそのまま続ける。

「昨日学校で見たよ~。春ちん迎えに来てた~。東高うちんとこの生徒なんだよね?」

「あ、そうなん?見た事ないけど?」

篠崎はジロジロ顔を見るが記憶の中を辿ってみてもやっぱり見たことがない。

「それはそうでしょう。私はつい先日こちらに来たばかりなので」

間違ってない。本当に先日来たばかりだ。ただし東高の生徒ではない。その辺のぼかし方は見事である。

「転校生?でもそんな話聞いてないけど…」

「だよね」

虎田も木島も懐疑的だ。

「大丈夫ですよ。その辺りはマレフィア様が何とかしますんで……」

「……あーっと!!」

その通りだ。結局魔法で何でも出来てしまうわけだが、今言うことではない。それを遮るように口を出す春田。

「俺やることあってさ!ちょっと帰ることになった!こいつが呼びに来たから俺はこれでおいとまさせてもらうよ」

リュックを背負い込み、帰る準備を始める。

「え?で、でも昼までに終わったんじゃ……」

虎田と合う前に用事を済ませると言ってお昼集合になったはずなのに、ポイ子が来た途端帰るという。

「ああ、それの用事とは別件ね。虎田には悪いけど、また今度埋め合わせはするから今回は勘弁してくれ」

「……用事なら仕方ないか……ごめんね引き留めて」

虎田は「用事なら仕方ない」と悲しいが諦める。親族がここまで探しに来たのだ。きっと重要なことなのだろう。

木島にとっては願ったり叶ったりだ。虎田の貞操を守るためやって来た甲斐があるというもの。

そんな様子を見て加古が寂しそうに眉を八の字にしている。もう帰るのかと言いたげだが我慢している。春田は加古に目線を合わせるために屈む。

「加古ちゃんもまた機会があったら一緒に遊ぼう。今日はダメだけどまた今度だ」

「……今度っていつ?」

すっかり懐かれてしまった。次の予定まで聞かれるのは考えていなかった。

「あー……んー……」

いつと言われると困る。そこで携帯を取り出した。

「……良かったら連絡先を交換する?」

「本当!」

加古はパァッと明るくなった。

「ちょっと……!」

木島は逆に凄く嫌そうな顔をする。春田が妹をたぶらかそうとするのに眉をしかめる。しかし、当の妹には関係がない。すぐさま携帯を出して”こみゅ”を起動した。ニコニコ笑いながら連絡先の交換を見ているとそれ以上は何も言えなかった。

「これでいつでもお喋りができるな」

加古は嬉しそうに携帯を胸に抱く。その様は恋する女の子だ。

「お兄ちゃん大好き!」

ガバッと抱き着かれる。「おおっふ」とバランスが崩れかけるが何とか踏みとどまり支える。

「こうしてみるとホントにゾッとするっすね…何でそんなポンポン落とせるんすか?先輩は催眠術でも持ってるんすか?」

高橋はその様子を見て背筋が凍るのを感じる。その言葉に同じく戦慄が走ったのは木島と竹内と館川の3人。ここで篠崎だけが何を言っているのか分からず疑問符を浮かべている。すかさず肘鉄砲で横っ腹を軽く打つ竹内。

「……ざけんな。誰が術にはまってるっての……?」

「うぅ……そりゃ加古ちゃんですって~やだな~……」

高橋は小突かれた部分を擦りながら座り直す。見た目は軽そうだが、思ったより重い一撃だったようだ。顔が少し引きつっている。加古も十分抱きしめたのか、スッと抵抗もなく離れた。

「またね。お兄ちゃん」

加古はちょっと恥ずかしそうに小さく手を振った。小学校低学年のまだまだ子供だというのに、一端の女性の様に艶やかな微笑みを見せる。その微笑みに一番反応したのはやはり木島だ。その顔は完全に惚れた女の顔だった。また春田から守るものが増えてしまった。

その衝撃から虎田に目をやると、虎田も驚愕していた。さっきまでの生暖かい目はどこへやら、虎田の中では加古はライバルとなった。

「ああ、うん。じゃあまたね」

春田は持ち帰りように購入していたコーヒーを持ち、ポイ子を引き連れてスタポを後にした。

「……あいつって子供に好かれるのかな?」

篠崎はあっけらかんと呟く。

「ザキパイセンはまだ大丈夫なんすね」

高橋は篠崎の様子を見て安心する。関わった瞬間から堕ちるパターンもあるので、そうでない人を見るとこれが普通と再認識できる。

「は?なにそれ?」

篠崎はカフェモカを飲んで一笑にす。高橋はその余裕に一抹の不安を感じながら「ま、いっか」と他人事。

高橋以外もそれぞれが考えることがあり、気持ちを落ち着けるため目の前の飲み物を飲む。一息ついたところで竹内が席から立った。

「……やっぱカラオケ行くわ……」

春田に続いて帰るのかと思ったら突然の同行宣言。

「やったぁ!マジっすか竹さん!」

虎田の中では(もういいかな……)とも思っていたが、この発言で火が付いた。

「じゃあ移動しましょうか!」

男を抜いた女だけの姦しい遊びが、今幕を開ける。
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