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第111話 罪悪感
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春田たちはポイ子とナルルを連れ立って家路に着いた。
相変わらず加古はお姉ちゃんより春田にご執心で、手をつなぎ、ルンルン気分で歩く。先頭が春田と加古、すぐ後ろにナルルがついて、その後ろに虎田と木島、最後尾に竹内とポイ子の順だ。
ナルルとヤシャは特別嫉妬深く、ちょっとしたことで勘違いを起こす。加古は小学生でおまけに低学年のお子様なのでそんな目で見てないと思いたいが、すぐ後ろにつかれると何かありそうで怖い。かといってナルルを最後尾に据えようものなら、それこそ勘違いの種だ。疑惑の芽を出さないよう細心の注意を払って接する必要がある。
というか正直な所、話を振らなければ大丈夫だろう。向こうから話しかけられたら返すが、それ以外は黙って放置すれば良い。後ろを気にしないよう加古に注意を払う。
それを不満げに見ているのは何もナルルだけではない。虎田と木島も不満を感じていた。虎田は加古のせいで埋まった春田の隣に執着し、木島は加古と馴れ馴れしく手を繋ぐ春田を訝しんでいた。
「今度はお兄ちゃんのお歌が聴きたいな」
ルンルン気分で話す加古。
「そうか?加古ちゃんほど曲知らないし、全然上手くないよ?」
それもそのはず、カラオケなんて小学生の頃に行ったっきりだ。家族に連れられて行ったが、歌とかあんまり分かっていなかったので聞く側に回っていた。無理やり歌わされた時は大声を出せて気持ちよかったが、お世辞にも上手だとは言えないレベルだったのを思い出す。直接感想を聞いたわけではなかったが、妹の顔が物語っていた。
「じゃあ一緒に歌えば良いんだよ。一緒に歌えば上手じゃなくても楽しいもん」
「え?マジ?俺と一緒に歌ってくれるの?」
その問いに元気よく「うん!」と大きく頷いた。ただただ微笑ましい。心が洗われる様だ。「どうもありがとう」とお礼を言うと「えへへ~」と二ヘラと笑った。ナルルはスッと顔を近づける。
「よう喋る子じゃ。お前は聖也が好きかえ?」
「うん!大好き!」
「……聖也とおるのは楽しいかえ?」
「楽しい!」
「……そうかそうか」とうんうん頷いて元の姿勢に戻った。突如喋りかけてきたと思ったらテストみたいなこと言って勝手に満足した女。正直怖い。
「何なの?あいつ……」
そのすぐ後ろには不満だらけの木島が呪詛の様に苦々しく呟いた。
「加古ちゃんって普段から人懐っこいけど、あんなに楽しそうにしてるのは見た事ないかも……」
虎田は一緒に住んでいないから、出会った時の基準しかないが木島は違う。姉妹という一つ屋根の下に済む関係ですら今日出会ったばかりの奴に妹がこれほど打ち解ける姿を見たことがなかった。それがクールなイケメンとか熱血お茶目イケメンとかの……とにかくアイドルみたいなイケメンなら文句ないが、まさか春田の様に何の魅力もないような、男なんかに惚れこむなんてありえない。
そんな愛憎渦巻く前方を尻目に最後尾は長閑なものだった。ポイ子は鼻歌すら歌いそうなほど軽やかに進み、竹内は面倒臭そうに歩いている。ふと竹内から声をかけた。
「……ポイ子……さん?」
「ん?何ですか?」
声を落として前に聞かれないよう注意しつつ質問する。
「……春田……くんの右手の袖に付いた血は、もしかして暴行犯の……」
「あちゃー、血がついてましたか?後で洗っとかないと」
何事もないように語る。その反応は不気味だった。それでもあくまで冷静に質問する。
「……殺したんですか?」
「いえいえ。だって処理が面倒なんですよねー。5人もいるとねー」
感情が全くブレないポイ子に静かな狂気を感じつつ掘り下げる。
「……血が出るほど殴ってはいるけど、殺してはいない……。変な話、報復は……?」
「来ても関係ないですよ。100人でも1億人でもかかって来いって感じです。まぁあれだけやって報復は無いとは思いますけどね」
にししっと笑って頭に両手を組む。悪ガキの様な態度に可愛さが溢れるが、狂気を見た後では可愛くは見えない。
「……流石に億は言い過ぎじゃ……」
「何の話?」
後ろで楽しそうに喋る二人が気になって虎田が話しかけた。「んー……」とどう説明するか頭をひねる。ポイ子は口に人差し指を当てる。過激すぎる内容は前の二人に不適切だと思ったのだろう。それを横目で確認した竹内は一つ頷くと「内緒」と一言呟いて黙った。虎田はポイ子に視線を向けるが、ニコッと笑ってそのまま。喋るつもりはないようだ。
しばらく歩くと春田のマンションが見えてきた。そのマンションを通り過ぎてどんどん歩いていく。
「あ、ここ曲がって」
それは木島から発せられた。
「ん?こっちの道か?」
まずは木島が帰るのだと思ったが、
「みーちゃん。私は最後で良いよ」
と虎田が反応した。木島は虎田の為に声をあげたようだ。春田のマンションに一番近いのが虎田だと今日分かった。
「いやいや、まずは近い奴から順に帰ろう」
春田は構わず路地に入る。虎田は少し寂しそうな顔をしたが、すぐに思い直して路地に入った。少し歩くと二階建ての洒落た家が姿を現す。
「ここが私の家。送ってくれてありがとう」
「今日は災難だったね。ゆっくり休んで」
「ありがとうみーちゃん」
「またあそぼーね」
「うん、加古ちゃん。気を付けて帰ってね」
虎田は門扉を開けて玄関に行こうとする。その時に少しだけ寂しそうな顔で入っていくのが見えた春田は「虎田さん」と引き留めた。加古の手を離して虎田に近寄る。加古は「あっ」という顔で袖を持とうとしたが空を切る。ナルルが肩を軽く押さえて動かないように引き留めた。
「今日は本当にごめん。側に居れば傷付くことなんて無かったのに……」
「ううん。仕方ないよ。気にしないで」
前髪を耳にかける。その頬には赤い痕がついている。痛々しいその傷を見て心が痛む。それを見て思わず春田は虎田の手を取った。
「俺約束するよ。今度は何があっても離れない。絶対俺が守るって……」
それは心からの春田の気持ちだった。側に居れば無様でも助けられた。近くに居れば頬を赤く腫らす必要なんてなかったんだと。クサくて安っぽい言葉。しかし虎田の胸をこれ以上無いほど撃ち抜いた。
「あ……あり……ありが……とう」
唇が震えて言葉が出にくい。顔を頬より真っ赤に染めて湯気すら立ちそうなほど上気する。春田は「はっ」として離れる。ちょっと勢いに任せすぎた。絶対気持ち悪がられたと思って恥ずかしさから顔を赤く染める。
「わ、悪い。キモかったな」
ははっと笑って誤魔化す。後ろでは殺意にも似た刺すような気を感じるが、それも笑って誤魔化した。
「ううん。嬉しい」
その笑顔で春田のクサい言葉は浮かばれた。ふっと笑うと春田は門扉を閉める。
「じゃ、また」
「うん、送ってくれてありがとう」
また加古の手を取って歩き出す。春田たちがいなくなるまでその姿を見送り、虎田は家に入った。
「お兄ちゃん」
「ん?」
竹内と木島姉妹の家路についた時、加古がおもむろに声をかける。
「かこも……守ってくれる?」
「うん、守るよ。加古ちゃんも守る」
加古は尖らせた口を笑顔に変えて春田に寄り添った。春田は少し歩きづらそうだったが、文句を言うこともなく加古に合わせて歩く。それを見ていた木島以外の面々はほっこりした顔でその様子を眺める。では当の木島はというと
「何?この茶番……」
木島は一人呆れと苛立ちを春田に向けていた。
相変わらず加古はお姉ちゃんより春田にご執心で、手をつなぎ、ルンルン気分で歩く。先頭が春田と加古、すぐ後ろにナルルがついて、その後ろに虎田と木島、最後尾に竹内とポイ子の順だ。
ナルルとヤシャは特別嫉妬深く、ちょっとしたことで勘違いを起こす。加古は小学生でおまけに低学年のお子様なのでそんな目で見てないと思いたいが、すぐ後ろにつかれると何かありそうで怖い。かといってナルルを最後尾に据えようものなら、それこそ勘違いの種だ。疑惑の芽を出さないよう細心の注意を払って接する必要がある。
というか正直な所、話を振らなければ大丈夫だろう。向こうから話しかけられたら返すが、それ以外は黙って放置すれば良い。後ろを気にしないよう加古に注意を払う。
それを不満げに見ているのは何もナルルだけではない。虎田と木島も不満を感じていた。虎田は加古のせいで埋まった春田の隣に執着し、木島は加古と馴れ馴れしく手を繋ぐ春田を訝しんでいた。
「今度はお兄ちゃんのお歌が聴きたいな」
ルンルン気分で話す加古。
「そうか?加古ちゃんほど曲知らないし、全然上手くないよ?」
それもそのはず、カラオケなんて小学生の頃に行ったっきりだ。家族に連れられて行ったが、歌とかあんまり分かっていなかったので聞く側に回っていた。無理やり歌わされた時は大声を出せて気持ちよかったが、お世辞にも上手だとは言えないレベルだったのを思い出す。直接感想を聞いたわけではなかったが、妹の顔が物語っていた。
「じゃあ一緒に歌えば良いんだよ。一緒に歌えば上手じゃなくても楽しいもん」
「え?マジ?俺と一緒に歌ってくれるの?」
その問いに元気よく「うん!」と大きく頷いた。ただただ微笑ましい。心が洗われる様だ。「どうもありがとう」とお礼を言うと「えへへ~」と二ヘラと笑った。ナルルはスッと顔を近づける。
「よう喋る子じゃ。お前は聖也が好きかえ?」
「うん!大好き!」
「……聖也とおるのは楽しいかえ?」
「楽しい!」
「……そうかそうか」とうんうん頷いて元の姿勢に戻った。突如喋りかけてきたと思ったらテストみたいなこと言って勝手に満足した女。正直怖い。
「何なの?あいつ……」
そのすぐ後ろには不満だらけの木島が呪詛の様に苦々しく呟いた。
「加古ちゃんって普段から人懐っこいけど、あんなに楽しそうにしてるのは見た事ないかも……」
虎田は一緒に住んでいないから、出会った時の基準しかないが木島は違う。姉妹という一つ屋根の下に済む関係ですら今日出会ったばかりの奴に妹がこれほど打ち解ける姿を見たことがなかった。それがクールなイケメンとか熱血お茶目イケメンとかの……とにかくアイドルみたいなイケメンなら文句ないが、まさか春田の様に何の魅力もないような、男なんかに惚れこむなんてありえない。
そんな愛憎渦巻く前方を尻目に最後尾は長閑なものだった。ポイ子は鼻歌すら歌いそうなほど軽やかに進み、竹内は面倒臭そうに歩いている。ふと竹内から声をかけた。
「……ポイ子……さん?」
「ん?何ですか?」
声を落として前に聞かれないよう注意しつつ質問する。
「……春田……くんの右手の袖に付いた血は、もしかして暴行犯の……」
「あちゃー、血がついてましたか?後で洗っとかないと」
何事もないように語る。その反応は不気味だった。それでもあくまで冷静に質問する。
「……殺したんですか?」
「いえいえ。だって処理が面倒なんですよねー。5人もいるとねー」
感情が全くブレないポイ子に静かな狂気を感じつつ掘り下げる。
「……血が出るほど殴ってはいるけど、殺してはいない……。変な話、報復は……?」
「来ても関係ないですよ。100人でも1億人でもかかって来いって感じです。まぁあれだけやって報復は無いとは思いますけどね」
にししっと笑って頭に両手を組む。悪ガキの様な態度に可愛さが溢れるが、狂気を見た後では可愛くは見えない。
「……流石に億は言い過ぎじゃ……」
「何の話?」
後ろで楽しそうに喋る二人が気になって虎田が話しかけた。「んー……」とどう説明するか頭をひねる。ポイ子は口に人差し指を当てる。過激すぎる内容は前の二人に不適切だと思ったのだろう。それを横目で確認した竹内は一つ頷くと「内緒」と一言呟いて黙った。虎田はポイ子に視線を向けるが、ニコッと笑ってそのまま。喋るつもりはないようだ。
しばらく歩くと春田のマンションが見えてきた。そのマンションを通り過ぎてどんどん歩いていく。
「あ、ここ曲がって」
それは木島から発せられた。
「ん?こっちの道か?」
まずは木島が帰るのだと思ったが、
「みーちゃん。私は最後で良いよ」
と虎田が反応した。木島は虎田の為に声をあげたようだ。春田のマンションに一番近いのが虎田だと今日分かった。
「いやいや、まずは近い奴から順に帰ろう」
春田は構わず路地に入る。虎田は少し寂しそうな顔をしたが、すぐに思い直して路地に入った。少し歩くと二階建ての洒落た家が姿を現す。
「ここが私の家。送ってくれてありがとう」
「今日は災難だったね。ゆっくり休んで」
「ありがとうみーちゃん」
「またあそぼーね」
「うん、加古ちゃん。気を付けて帰ってね」
虎田は門扉を開けて玄関に行こうとする。その時に少しだけ寂しそうな顔で入っていくのが見えた春田は「虎田さん」と引き留めた。加古の手を離して虎田に近寄る。加古は「あっ」という顔で袖を持とうとしたが空を切る。ナルルが肩を軽く押さえて動かないように引き留めた。
「今日は本当にごめん。側に居れば傷付くことなんて無かったのに……」
「ううん。仕方ないよ。気にしないで」
前髪を耳にかける。その頬には赤い痕がついている。痛々しいその傷を見て心が痛む。それを見て思わず春田は虎田の手を取った。
「俺約束するよ。今度は何があっても離れない。絶対俺が守るって……」
それは心からの春田の気持ちだった。側に居れば無様でも助けられた。近くに居れば頬を赤く腫らす必要なんてなかったんだと。クサくて安っぽい言葉。しかし虎田の胸をこれ以上無いほど撃ち抜いた。
「あ……あり……ありが……とう」
唇が震えて言葉が出にくい。顔を頬より真っ赤に染めて湯気すら立ちそうなほど上気する。春田は「はっ」として離れる。ちょっと勢いに任せすぎた。絶対気持ち悪がられたと思って恥ずかしさから顔を赤く染める。
「わ、悪い。キモかったな」
ははっと笑って誤魔化す。後ろでは殺意にも似た刺すような気を感じるが、それも笑って誤魔化した。
「ううん。嬉しい」
その笑顔で春田のクサい言葉は浮かばれた。ふっと笑うと春田は門扉を閉める。
「じゃ、また」
「うん、送ってくれてありがとう」
また加古の手を取って歩き出す。春田たちがいなくなるまでその姿を見送り、虎田は家に入った。
「お兄ちゃん」
「ん?」
竹内と木島姉妹の家路についた時、加古がおもむろに声をかける。
「かこも……守ってくれる?」
「うん、守るよ。加古ちゃんも守る」
加古は尖らせた口を笑顔に変えて春田に寄り添った。春田は少し歩きづらそうだったが、文句を言うこともなく加古に合わせて歩く。それを見ていた木島以外の面々はほっこりした顔でその様子を眺める。では当の木島はというと
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