魔王復活!

大好き丸

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第121話 決勝戦

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『会場の皆様。お待たせいたしました……地下闘技場コロセウムも決勝戦を残すのみ。今宵、新しい王者が誕生するのか?はたまた防衛か?正直全く読めません!』

司会者はマイク片手に会場に熱意を届ける。だがそんな熱意が観客に届くはずがない。ここに集まる観客の多くは賭けに負けて大体がお通夜モードに突入している。賭けた対象が瞬殺されればそうなるだろう。

だからといって選手を攻めることが出来ない。何故なら勝ち上がったとて二つの規格外にどのみち阻まれることは目に見えていたからだ。

この大会の参加者は皆その道を究めた連中である事に代わりがなく、どの選手が勝ち上がってもおかしくなかった。しかし、勝ち上がったのは参加者の紅一点と、齢80を迎えた大会最高齢のお爺さん。

ヤシャという無名に賭けるような無謀な奴はいないし、会長は前大会優勝者とあってオッズが低い。優勝候補とまで言われた男は控室で怪我して、参加資金すら支払われないペナルティを負う始末。今回の番狂わせはハッキリ言ってあり得ない。

気が悪くなった大富豪の何人かは早々に会場から出て行き、席にチラホラ空きがある。

「だから言ったんだ。こうなるってな……」

春田は選手入場口の丁度影になる場所に立って観客席を眺めた。

「別に見たくない奴は帰ればいいだろう?強要する事は無い」

ヤシャは腕を組んで目だけで春田を見ている。その視線に目を合わせると、春田は神妙な面持ちでヤシャに尋ねる。

「滝澤会長の事をどう見ている?」

「強いな。聞いてたこの世界では考えられない猛者だ。勇者一行の格闘家がいただろう?あれに近いと思う」

「それは相当じゃないか?もしかして何かの拍子にここに来た異世界人の可能性も考えられるとか?」

ここにはマレフィアがいない。精査できる奴がいない以上全て仮説にすぎないが、もしかすれば異世界人説もあるのかもしれない。

「飽くまで近いというだけで一緒とは言わんがな。だからこそ楽しめそうだ」

右拳と左拳を合わせるとゴンッと重い音が鳴った。

「……ここまでお前の戦いを見てきたが、ちゃんと対戦相手に加減が出来てて良かったよ。あとは会長を殺さないように頼むぞ?」

「相手のレベルによるが、まぁ多分大丈夫だろう」

『……Aグループから勝ち上がったのは、今大会も優勝なるか?鋼の肉体、滝澤 剛蔵会長!』

お通夜ムードの中、それでも一応歓声が上がる。ここからでも分かる肉体美がスポットライトに照らされる。決勝戦は演出がかった形でスポットライト以外電気が切られた。

ドォンッとリングに飛び上がると腕を振り上げて歓声を一身に受ける。

『そして、Bグループは大会の紅一点。圧倒的な強さで参加者を一蹴した最強の女性格闘家、ヤシャ!』

「さ、出番だ。かませ」

春田はヤシャの背中に触れる。ヤシャはニヤリと笑うと春田の頭を撫でた。

「かましてくる。目を離すなよ、聖也」

逞しく大きな背中を見送る。ヤシャはスポットライトの光に眩しさを覚えながら、のっしのっしとリングに近付く。会長の時と比べ、歓声は無い。どちらかと言えばヒソヒソと話す様な嫌な感じだ。

金網が開けられ入り口を潜る。会長と同じくリングに飛び上がる。

ズゥンッ

地鳴りのような音にヒソヒソ話しもフッと途切れる。静かになった場内。一拍の時を置いて、司会者が声を上げる。

『……さ、さぁ!龍虎並び立つ!いや、鬼対鬼か?兎に角最強同士の戦いだ!私も興奮が止まりません!!』

観客席を暖めるために焚き付けるが、二人の圧倒的な気に圧されて、自分が戦うわけでもないのに恐怖で戦慄している。声を出すこともままならず、司会者のスピーカーから出る声だけが空しく響く。

『えー……最早言葉は不要ですね!早速決勝戦を開始いたしましょう!!』

それに合わせて会長は首をゴキリッと景気良く鳴らす。ヤシャは鋭い目でジッと様子を窺うだけだ。これから死闘が始まろうと言うのに二人とも冷静そのもの。

『それでは決勝戦ファイナルバトル!レディー……ファイ!!』

カァンッ

ゴングが鳴り響いた。その音に敏感に反応し、観客は「わああっ!」と歓声を上げた。だが、すぐに動こうとはしない。会長はおもむろに口を開いた。

「ヤシャ殿。そなた程の強者に出会えた幸運を、まずここで喜び、感謝したい」

グッと腰を落として拳を作る。力を入れて気合いを溜める。ゴゴゴッとリングが揺れるのを感じて筋肉が隆起する様を見ることができた。

「滝澤、会長……だったか?私はお前に期待している。本気で掛かって来い」

下手にプライドのある強者ならここでプッツン来てるかもしれないが会長は違う。ニヤリと笑い、ヤシャの傲慢さを受け入れる。「強いとは傲慢なもの」というのを知る会長は飽くまでも冷静にヤシャに対応する。

ヤシャも少し筋肉を固めた。体が戦いを意識し、ぶつかる瞬間を楽しみにしている。傲慢と言える余裕の持ちようだが、ヤシャとこの世界の強者と呼ばれる連中とは、本来これ以上の力量差がある。いうなればヤシャに認められている会長がおかしいと言えるのだ。

両者にらみ合い、しばらくその状態が続いた。緊張と緊迫感が押し寄せる場内をぶち壊したのは肉がぶつかり合う音だった。
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