魔王復活!

大好き丸

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第126話 想定外の遭遇

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春田は時間が出来たのを良いことに邸内をぶらぶら歩いていた。

廊下は埃一つ無いほど綺麗に掃除されている。自分が歩く事で余計な埃が立って怒られるのではないかと思い始めた頃、前方に歩くメイドさんを見つけた。丁度いいから邸内の見所を聞こうと近くに寄る。

「すいま……」

その時「ハッ」とする。どこかで見た顔なのだ。それもここ最近学校で。それに気づいた時、声をかけた事に後悔した。

メイドも春田の顔を見てピタリと固まった。ここで会うはずのない人物だからだ。メイドは前方を見たり春田の後ろを見たりしながら信じられないといった顔で春田に近付く。

「ここで何してるの……!?」

ウィスパーボイスだが語気強めに語り掛ける。メイド長と同じ衣装で頭にプリムを乗せている菊池妹だ。兄が付き人なら妹は使用人と言う事だろう。実際学校では忠犬のようについて回っている。アルバイトをしている苦学生のように休みなく働いているようなものだ。

「えっと……なんだ?俺が来ているの知らなかったのか?」

「知ってるわよ……!だから聞いてんでしょ?ここで何してんのかって……!!」

飽くまで静かに、でも攻めるように聞いてくる。

(なるほど、部屋で大人しくしてるだろうから出歩く事は無いと踏んでいたのか……)

菊池の思考を読んだ春田はどう言うか考える。

「……いや、だって暇だったし……」

思考停止して素直に答えた。菊池は「はぁ……」と呆れた顔でため息を吐くと、一転してキッと睨みつける。

「詩織様ももうすぐ到着されるんだから大人しく部屋で待ってなさいよ……たく……」

いつものように腰に手を当て、偉そうに仁王立ちしているが恥ずかしそうにそっぽを向いた。メイド姿を見られたのが恥ずかしかったのか、今になって顔が紅潮し始める。心なしかそわそわしているように見えた。

「何て言うか……悪かったよ、そう怒らないでくれ。急いでるみたいだし俺の事は放っておいて構わないよ」

春田は菊池に仕事を促す。一瞬「へっ?」ときょとんとした後、俯き加減に少し考え、何かに納得したように「うん」と一つ頷いた。

「……ダメだ。貴様を部屋まで送る」

菊池はスッと通り過ぎて顎をしゃくる。言葉にしないが「ついて来い」と無言の圧がかかる。まだしばらく見て回りたかったが渋々後ろについていく。

小ぢんまりした背中だ。学校ではもう少し大きく見えたが、手を前に重ねて優雅に、でも目立たないよう静かに歩いているのを見ると普段の体の大きさが浮き彫りになる。

空手部の主将で部長だし、滝澤の付き人であるからには小さいと嘗められる。自分を大きく見せるために大袈裟な態度をとっているのだろうと察する。努力の方向が自分の為ではなく、主人である滝澤の為というのが何ともいじらしい。だからこういう自分は他人に見せたくないという感じなのだろうか?恥ずかしがらなくても立派なことだと春田は思った。

というのもナルルと少し被るところがある。ポイ子の忠誠心にナルルを足して2で割ったようなものだ。何となく親近感が湧いてくる。さっき恥ずかしがっていたことを思い出して、少し元気付けてやれればと思った。

「あのさ、全然恥ずかしがることはないと思うよ。その衣装似合ってるし……その、何だ……可愛いし」

ピタッと足を止める。何かあったのか不思議に見ていると菊池の体が心なしかプルプルと小刻みに震えている。バッと振り向くと真っ赤な顔で人一人分開いていた距離をグッと鼻をぶつけそうな勢いで詰め寄ってきた。

「~~~……!!」

甲高い音が喉奥から噴き出ている。何か言いたいことがあるのだろうが出て来ないのかはたまた出さないのか、唸ってばかりで声にならない。目には涙が溜まり何かを凄い我慢しているようにも見える。さらに右の拳を握り締めて目の前でかざしていて、何かの拍子に飛んできそうだ。

(しまった……)菊池の地雷を踏んだ可能性が高い。怒らせたり喜ばせたりといった相手の琴線に触れない様にしないと心に決めて今までやって来たのに、最近は昔の記憶が混在してきてその場にはふさわしくない事や要らん事を言っちゃう傾向にある。

自制出来ていない証拠だ。とりあえずここは素直に殴られて自戒する事が大事であると判断し、拳が飛んできても良いように覚悟を決める。

しかし菊池は殴るような真似はしない。拳を自身の胸にもっていって抱え込む。苦しそうにギュッと目を瞑って痛みを堪えるような仕草を取ると「ハァーハァー……」と肩で息をして何とか平常を保つ。

「え?大丈夫?」と春田がのぞき込むが、それにビクッとして人二人分の距離を開けた。顔を見られない様に春田から目を逸らしてポツリと呟いた。

「か、かわいいとか……二度と言うな……」

その時春田はハッとする。(そっか~……)と納得する事もあった。菊池妹は空手を学び、兄は会長を尊敬している。兄妹の感性が同じだと仮定すれば可愛いは侮辱に値する。菊池はかっこいいとか勇ましいとか戦士を讃えるような言葉が好きなのではないだろうか?別に菊池に気に入られたいとは思っていないが、喜ばれるのかキレられるかなら前者の方が争いなく済む。一応心のノートにメモしておくことにした。

「ご、ごめん。気を付ける……」

菊池の心臓は信じられない程高鳴っていた。春田の事は詩織様に寄って来る害虫程度に思っていたはずだし、正直嫌悪していた。

他生徒と比べてもひょろくて身長だけが多少高いだけの男。筋肉だって標準並みだし、男のくせにヘタレで腕を握られたらすぐに根を上げる程度の惰弱。

個人的に好きになる要素なんてないはずなのに目が離せない。さっきのセリフも本来何気ない一言だし、一蹴する程度で軽く流せるはずなのに、春田に言われると心の隙間をそっと埋めて掴んで離さない求心力を感じてしまった。

自分はもしかしてこんなダメ人間を好きになってしまう様なダメ女なのか?

(ダメダメ!!この考えは不敬すぎる!!)

頭を振ってその考えを追い払う。この男を現在進行形で気に掛ける滝澤 詩織はダメ女と言ってることと同じだ。もしかしたら利用価値があったり、上流階級特有の趣味、俗にいう愉悦なるものがそうさせている可能性も否めないが、憶測の域を出ないので当面この考えは禁止だと心に誓う。

少し時間がかかったが菊池も我を取り戻す。顔はまだ少々赤いが、気持ちの上では落ち着いた。部屋への案内が再開と言ってところで呼び止められた。

「菊池さん?何をしているのです?」

ハッと見るとメイド長が音もなくスススッとやって来た。

「鈴木さん。すいません春田……くんが廊下に出ていたもので部屋にお連れしていたのです」

「そうでしたか。お嬢様が到着されたので、急ぎお食事のテーブルにお連れするよう仰せつかっております。菊池さんもこのまま一緒に行きましょう」

(え……もう?)とガッカリする春田。もう少し時間があると踏んでいたのだが存外なかったようだ。「はい」と返事する菊池の後を追いながら一階の食堂に向かった。
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