魔王復活!

大好き丸

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第127話 テーブル

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テーブルに案内された春田は、上座の右隣にある椅子を引かれてそこに座らされた。

十中八九上座に座るのは会長だろう。隣にヤシャが座り、その隣にはポイ子とナルルが座っていた。

緊張から「はぁ……」とため息をついて一度視線を前に向けると「ん?」という声と共に疑問が沸き上がった。

(……今何かいなかったか?)

すぐ隣を見る。ヤシャは腕を組んで瞑想しているように微動だにしない。問題はここからだ。そっとヤシャの隣を覗く。しかしその隣には誰もいなかった。

「あれ?今……」

「ん?」

キョロキョロするがヤシャは不思議な顔をするばかりで特に気にも留めていない。(気のせいか……)いもしない存在がいるように感じるとは疲れているのだろうか?戦ってもいない自分の方が参るとは思いも寄らなかった。

目の前を見るとお皿を中心にフォークやナイフやスプーンが並んでいる。テーブルクロスは染み一つない真っ白なものだった。この配置や見た目は貴族の食卓を思わせる。

「……これ汚したら後が怖そうだな……」

「何言ってる?机を汚さない為の物だし、見栄えが良いようにする為の物なんだから汚してなんぼだろうに」

ヤシャは呆れ気味に春田を見ている。

「何だ春田、緊張しているのか?こんなの普通だろ?」

「……魔王時代は、な」

あまり主張するのも面倒なのでポツリと呟いてそっと肩越しに後ろを見る。視線の先にはメイド長と菊池妹がいる。すぐ後ろに控えて微動だにしない。

ここに連れて来られたということは、会長と滝澤さんはすぐにも来るということ。お腹も空いたし出来れば早く来てもらって美味しいディナーと洒落込みたいところだ。

それと同時に一泊なんて考えても見なかったから凄く緊張しているので、もうディナーはどうでも良いから帰らせて欲しいという気持ちも混在する。

心の整理がつかないままソワソワしていると、扉をノックする音が聞こえた。

(ついに来たか……)

ガチャリと大きな両開きの扉が開く。開けたのは菊池兄。後ろのメイドたちは頭を下げて入ってくる主人たちを迎え入れた。

入ってきたのはヤシャを見下ろせる高さを持つ筋骨隆々の偉丈夫。怖すぎる顔に着物を着こんだヤクザ系の映画で出てきそうな見た目だ。その後ろから静々と入ってきたのは真っ赤なドレスに軽く化粧をして紅まで差したお嬢様。

偉丈夫は滝澤 剛蔵会長、お嬢様は滝澤 詩織。

後ろにいたメイドたちが音もわずかにスッと動き出す。メイド長は会長の椅子を、菊池妹は詩織の椅子を引いて座るのを待つ。慣れたもので、当然のように席に着いた。

「お待たせしました。少々ドレスアップに手間取って……」

ゴホンッと会長が咳払いをした。

「良い良い、遅れたのはワシのせいだ。脳天の一撃にしばらく夢の中に居ってな」

「はっはっは」と朗らかに笑う。笑いが収まった頃、メイド長がタイミングを見計らって声を出した。

「それではお食事をお持ちいたします」

メイド長が歩き出そうと扉に目を向けた時に会長がスッと手を上げた。それに気付いて動くのをやめる。

「……その前に、少しよろしいかな?」

ヤシャと春田を交互に見た後、最後に誰もいるはずのないヤシャの隣を見た。

「この場に呼んでないはずの曲者がおるのぅ……そこの、姿を現せい!」

ヤシャ以外の目がその場所に集中する。(いやまさか……)さっき見たのは疲れからくる幻影だったはず。電話した時ちゃんと部屋にいたはずだし、ヤシャがいるから安心するように伝えていた。他に何かを考える前にスーッとまるで幽霊のように薄っすら現れた。

その様子にメイド長も菊池兄妹も身構える。

段々形がハッキリしてきて、女性がまるで初めからそこにいたようににっこりと、そしてちょこんと椅子に座る。

「やー、バレましたか」

「おい……ポイ子……お前何でここに?」

カモフラージュを解いたポイ子は口をとがらせながら春田に抗議する。

「だって暇だったんですもん……」

その言い合いに春田の知り合いだったことを知り、椅子に背を預けた。

「なるほど、君たちは知り合いだったか。失敬。ワシには敵が多くてな……はっはっは」

「お祖父様ったらご冗談を。彼女はヤシャ様同様、春田さんの従姉妹だそうです。折角いらしたんですし一緒にお食事をどうですか?」

それを聞いて目を見開いて喜ぶ。

「良いんですか?やったー!叩き出されるかと心配してたんですよー!」

この場の空気が一気に弛緩した。ポイ子は明るく元気な子なのですぐに友達ができる。敵視されていても無害な女の子を演じればこの通りだ。春田の敵でない以上傷付ける気もないので実質無害だ。

「すまない、止めてしまったな。鈴木。すぐに食事の用意を……」

「……はい、それでは……」

「あ、ちょっと待ってください」

今度は春田が手を上げた。

「んん?まだ何か?」

会長は訝しげに春田を見る。

「俺の目が正しければもう一人……」

「……そんなはずはない、この場の気配は8つ。屋敷内はコックと警備を含めて18人。それで全部だが……」

会長は困惑気味に周りを見渡す。会長程でないにしろ菊池兄妹も気を探れる。この場には会長の意見と同じく8人で相違ない。「吹かしているのでは?」と春田に疑いの目を向け始めた頃、春田がおもむろに声を出す。

「出てこいナルル。いるのは分かってるぞ」

その言葉に呼応するように春田の影からぬぅっと姿を現した。それを見た時の会長の行動は顕著だった。ガタンッと席を立ってナルルを頭から足先までつぶさに見る。美しい容姿をしているが姿を現すまでまるで気配を感じなかった。

アサシンのスキルを有するナルルは影に潜る事を可能とする。気配を消すなどそれこそ息をするくらい簡単にこなす。その気になれば目の前にいてもまるで存在しないかのようにかく乱することだって可能だ。

春田には当然気など察知する事が出来ない。すぐ後ろに立たれていても気づかないくらい鈍いのだ。しかし、後頭部にナルルの巨乳が当たっているので確認する必要もない。

「流石聖也。わらわが惚れた男よ」

(いや、最初にポイ子と一緒にそこに座ってただろ……)そう思いつつため息を吐く。

「ふざけんな。部屋にいるように言ってたのに勝手についてきて……ポイ子、お前もだぞ。許しを得たからいいものの本来なら俺も含めて出禁だぜ?……ほんとすいませんウチの奴が……」

春田は会長に頭を下げて詫びる。

「いや……もういないか?」

自分の気配察知能力に疑問を投げかける質問。もう何が信じられるのか会長自身分からなくなってきていた。

「あ、はい。これで全員です。ほらナルル、お前も座れ」

会長周りを見下す様に見渡した後優雅に席に着いた。初めて見る顔に詩織も困惑気味に春田を見る。こんな表情も出来るんだと呑気に考えながら答える。

「又従姉妹(はとこ)です」

無理筋な言い訳だが、諦め気味に納得してくれた。
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