魔王復活!

大好き丸

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第130話 会食

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「遠い地から?外国から入国したということかな?」

滝澤 剛蔵会長は3人に質問をしていた。

運ばれてきたステーキだったり七面鳥の丸焼きだったりを口に運び上機嫌になったヤシャ。同じく少しずつだが食べているポイ子と春田のことが気になるのか扉を見つめるナルル。

主に質問に答えるのはポイ子だ。

「ええ、世界をまたにかけてはるばるここまで来ました。みなさん聖也様に会いたい一心で……」

「君は何故聖也くんのことを様付けで呼ぶのかな?親戚なのだろう?」

「あっ」そう言われたらその通りだ。親戚なのに樣付けなのはおかしい。それにはナルルが口を挟んだ。

「何もおかしいことなどない。こやつは聖也に命を救われて以来心酔しとるからな」

「なんと!」

会長も驚く。何があったのかは知らないが、それほど感動することがあれば納得もいく。少々大袈裟だが彼女にとってはかけがえのない出来事だったのだろうと噛みしめた。

「みなさん……と言ったね?ではそれぞれ聖也くんには何かしら思い入れがあるのかね?」

「ま、そういうことじゃな」

ナルルは食べ物と一緒に持ってこられたワインを手に取ると一口含んだ。会長は新しいおもちゃを手に入れた子供のような純粋な目で3人を見渡す。

「ちなみにナルル殿はどのような……」

「野暮なことを……わらわは聖也の妻じゃ。それ以上でもそれ以下でもない」

その答えに眉をしかめて目を細める。

「それはつまり許嫁と言うことかね?」

「勝手に言ってるだけだ。鵜呑みにするなよ」

冷たい声が聞こえる。ヤシャはご飯を食べているときの幸せそうな顔が一瞬で険しくなっていた。ナルルも涼しい顔をしながらワイングラスの底に指を挟みカンッと机に叩き置いた。

「鬼の姫よ……何が言いたいのか?」

「そのままだろ。何か間違っているのか?」

ポイ子を挟んで二人でバチバチやり始めた。さっきまでバクバク食べていた手を完全に止めて手を自由に保つ。ナルルも手を下に降ろして隠しているであろう暗器に手を伸ばした。

「知っているか?鬼の姫よ……喧嘩は大きさじゃなく戦い方なのだと……」

「いや、常に私が勝つ」

ミギッと金属を丸めたような音がヤシャの手から鳴る。握った手を開くと机の上に手にあったものがゴトッと落ちる。手に握られていたフォークとナイフが握った指の形に変形して折れ曲がっていた。会長も頑張ればできるかもしれないが、こうまで簡単にへし曲げる様をまざまざと見せられると力量を見せつけられたようで恐怖を覚える。それはここにいる鈴木や菊池兄などの一般人も同様に感じていた。

この中でヤシャの態度に怯えないのはポイ子とナルルだ。ナルルに至っては反撃の為に黒い刃が光るナイフを取り出した。

「……やる気かい?」

すぐにもおっぱじめそうな空気感を出しているが、ポイ子は冷静に両側に手をかざして矛を収めるようにアピールする。

「お二人とも人の住宅ですよ?争い合うなら空き地とかでやっていただかないと……それからヤシャ様は興奮しすぎです。この食器……フォークとナイフはきちんと弁償してくださいよ」

「むぅ……」

ヤシャも苛立ちからしてしまった事に関して我に返り反省する。

「ナルル様も大人の余裕というものがないといけませんよ?あまり節操なしに触れて回るのは美しくないと思います」

「……一理ある」

黒い刃を袖に落とす様にスッと消した。

「申し訳ございません。聖也様の事となると頭に血が上ってしまうので……」

ヤシャは「チッ」と舌打ちすると目の前にあった七面鳥の腿肉を持って骨ごとボリンッと食べた。強靭な歯と顎で噛み砕かれそのまま飲み下す。

「あ、あの……鳥の骨は割ると先が尖ってしまって内臓に刺さる恐れが……」

鈴木はヤシャに指摘するが、ヤシャはギロッと睨みつけて口を閉じさせる。

「内臓も人知を超えていますので安心してください。樫の木だろうと消化しますよ」

ポイ子の頭をパンッと叩く。

「私を珍獣扱いするな」

顔が胸にまで付くほどの威力。結構勢いが良かっただけに人間一同はポイ子の身を一瞬案じたが、特に何ともない顔で叩いたヤシャを見ていた。

「それより部屋の準備はまだ出来ぬのか?わらわは聖也と同じ部屋で構わぬが……」

「あ、いやいや待たれよ。鈴木」

「は、はい。お食事中だったもので案内が遅れてしまい申し訳ございません。すぐにご案内します」

「こちらへ」と言って急いで扉を開けた。ナルルとポイ子はそれを見て立ち上がる。ヤシャも腿肉を一気に頬張り手を近くの布巾で拭くと立ち上がった。

「も、もう良いのかね?」

「興が削がれた。私も部屋に戻って寝る」

歩いて出て行くナルルとポイ子の後を追って部屋から出て行った。

「なんだか余計に分からなくなったぞ……」

会長は混乱しながら頭を抱えた。しばらくして手を外すと、菊池兄に視線を向ける。

「詩織の様子はどうだ?30分は間を持たせたが……雰囲気は良い感じか?」

「それが……妹からの様子だと詩織様とのお付き合いを断った様でして……」

携帯を取り出してこみゅのアプリを開く。妹は会長の意志に反して喜んでいる風の文字を送ってきているので、決して会長には見せられないが断られた事だけは確かだ。

「ふぅむ……ナルルという娘と恋仲という関係も捨てきれないか?しかし親戚同士というし、ヤシャ殿は勝手に言ってるだけというし……して、断った内容は?」

携帯を確認する。

「知り合って日が浅くお互いの事を知らないと言う事。さらに庶民である自分とお嬢様である詩織様とでは釣り合いが取れぬと言う事でして……」

「釣り合いが取れぬというならそれ相応の地位の確保くらい余裕だが、時間は不変ゆえにどうのしようもない。単なる断り文句というだけなら封殺するのに理詰めもしてやれるが相手が相手だからな……ここは少し見に回るのが正解か?」

立派な髭に手を当てて考える。

「……とりあえずは様子見とする。詩織の我儘で聖也くんが関わっている事であればすぐにワシに知らせろ。場合によってはワシが便宜を図る。あの若者は絶対に逃してはならん」

菊池は目を丸くしながらも頭を下げた。隠れた顔に困った様な悲しいような苦々しさを出しながらも会長には悟られない様に努力した。
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