魔王復活!

大好き丸

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第134話 あの頃は……

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アリシアとニーナは春田の部屋で子犬と戯れながらくつろいでいた。

「てかさ、素朴な疑問なんだけど。魔王って本当に強かったの?」

アリシアは唐突に質問する。

「な~に突然」

「だって父さんから聞かされた魔王像と今の魔王の乖離が激しくて分かんないんだもん。弱いけど気配だけは一人前で他は見る影もないなんておかしいじゃない?」

復活した際に力を失ったという話は本人から聞いたわけだが、どこまで本当なのかなんて分かるわけがない。部屋に泊まっている時に襲ってくるのではないかと気を張っていたのに全くそんな事も無く朝を迎えた。夜中に起き出してきたことを感知していつでも迎撃の準備をしていたのに蓋を開ければゲームしていたという間抜けな事態。
こうして油断させるのも何らかの作戦なのかと思ったが、どれだけ魔王を観察してもまず敵意というものがない。面倒臭いという感じしか伝わってこなかった。

「……アーちゃんが生まれたのは全部終わった後だもんね。それじゃ教えてあげる」

オホンッと咳払いをひとつしてニーナは話し始める。

「魔王ヴァルタゼア。最強にして無敵の魔王。天に拳を掲げれば雲が晴れ、地に拳を下ろせば地面が割れる。人類の救世主たる私たちのお父さんと比較しても力関係は頭三つ以上の開きがあったわ」

「そうなの?あたしは父さんから”魔王の力は確かに凄かったが俺には遠く及ばない”って……」

「お父さん見栄っ張りだからねぇ……」とため息混じりに呟くと一拍置いて続きを話す。

「確かに魔王の手下には常勝無敗の強さを誇っていたけど。でもそんなのより厄介なのは結局魔王だったの。私は一度魔王と相対したことあるけどその時には完全に圧倒されちゃって今までの敵が何だったのかって疑問を覚えたわ。正直な話、勝ち筋が見えなかったの……」

当時のことを思い出して震えが来る。魔王は勝手気ままに外に出ては人間の村や街にやって来て自分で作った銅像を置いて帰ったり、落書きしたり、演説してみたり、はたまたモンスターとの境界線である壁を壊してみたり、モンスターたちに餌付けして人間の里の近くで住まわせてみたりと様々な迷惑行為を働いていた。

そんな折、たまたま勇者一行は魔王と居合わせたのだ。当然攻撃を仕掛けたが魔王は無傷。魔王の遊びのデコピンを受けた仲間の戦士は一撃で失神して二週間昏倒。初めての敗走を余儀なくされた。

常勝無敗と謳われた人類の希望が実は負けていたなど恥でしか無い。その為、文献には敗走に関する記録はおろか、出会っていたという記録も一切残っていない。

「……単純に強いのって厄介なものなのよねぇ……」

「それでも魔王は倒せた。あの伝説の剣で倒したんでしょ?」

神が自ら魔王を倒す武器になり、神々の力を凝縮してその神器を鍛え上げた無敵の剣。

「アルティメット・ウルトラスーパーゴッデスキング・バーニングサンダーソードね」

アルティメット・ウルトラスーパーゴッデスキング・バーニングサンダーソード。神が名付けた魔王すら滅ぼす剣。創造した当初、神が口々に「いや、もうこれスゴすぎない?」「究極だよ究極!」と興奮して、その興奮を言葉にしたのがこの長ったらしい名前だった。
勇者ヴェインは名前が長すぎる事から通称"光の剣"と呼んでいた。

「そのアルティメットなんとかの力で確か二撃で倒せたとか聞いたけどそれは事実なの?」

「単騎で潰しに行ったから何とも……素直に信じるなら二撃で倒したんでしょうね。まぁ魔王は今でこそあんなだけど当初は世界最強でお父さんの持つアルティ……光の剣でないと倒せないほど強かったって事」

そこで一瞬間が開く。いつの間にかひざ元で子犬が寝ていた。つまらない話に飽きて寝てしまった子供のように暖かい部屋でぐっすり寝てしまった。

「……マレフィアさんも寝ちゃったし、私たちも寝る?」

「あたしはまだいい」

「そう」というとニーナは子犬を連れてベッドに向かい「おやすみ~」と扉を閉めた。アリシアは自分の側で寝ているもう一匹の子犬の頭を撫でるとポツリと呟く。

「……つまらない世の中になっちゃってたんだなぁ……」

平和とは力あるものにとっては退屈でつまらない世界となる。力がある事は良い事だが、強すぎる力は心の安寧を乱す。アリシアがこの世界にやって来たのも同様の理由だ。元の世界でほめたたえられ、羨望の眼差しで見られていても退屈が満ちる事は無い。もっと刺激的な事がしたかった。
ゲームに没頭したのは結局退屈しのぎだ。元の世界では出来ない事などない。どこにだって行けて空も飛べる。世界はアリシアにとって狭すぎたのだ。
異世界への転移はアリシアの退屈な人生に新たな可能性を示した。

「……ゲームしよ」
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