魔王復活!

大好き丸

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第137話 急げ

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昼時ーー。

春田を抜いた6人は「ん?」と首を傾げた。この動きに覚えのあった春田は頭を抱える。

「マジか……今度は何が来たんだよ……」

アリシアたちが来た時に、ポイ子たちが突如虚空を見つめ出したのと同じ動きだ。異世界からの転移者がまた空気も読まずにやって来たのだろう。勘弁してくれと言わんばかりの春田を尻目に声をあげたたのはアリシアだった。

「お母さん。これって……」

「うん……そうね。間違いないわ」

ニーナまで意味深に呟く。

「勇者ですか?」

ポイ子が何気なく口を挟んだ。ここで迷わず「勇者」だと言えるのは、魔王最期の時に一緒にいたポイ子だけだろう。ヤシャ達三人も「あっ」と今気付いたように納得している。

「ええ?勇者本人が来ちゃったのか……もー、だから早く帰れって言ったのにー……」

大体、勇者の妻と一人娘が別の世界で安否の連絡を取る事も無く魔王の転生先にいるのだ。「その日の内に帰ってくるだろう」→「まぁ一日くらい……」→「流石に遅いのでは?」こうなる流れはすぐに予測できる。春田は自分の後頭部を撫で上げた後、顔を隠した。その様子を見てニーナは苦笑する。

「おい、何が可笑しい。勇者なんて来たらそれこそ大問題だろう。お前らが来る事よりヤバい事が起こっているのが分からないのか?」

ヤシャは腕を組んで吐き捨てるように睨みつける。

「まぁまぁ、そう怒らないでヤシャっち~。こうなる事は目に見えてたんだし、来ちゃったものはしょうがないでしょ?」

マレフィアは片手をプラプラさせながら軽く話す。それにナルルも続いた。

「その通りよな。それに狙いがアリシアとニーナなら勇者と共に今度こそ帰ってもらえば良い。もちろん誤解を解いてからのぅ」

「取り敢えずとっとと合流して被害がでないようにするぞ!ポイ子は蛇口を閉めたか確認!ヤシャはテレビを消して!アリシアは鎧を装着しろ!終わったら玄関に集合!!」

ビシッと指示を出す春田。支配者だった頃の名残か堂に入ってる。ポイ子は「はい!」という元気な声でキッチンから洗面所にかけて蛇口を閉めたか一つ一つ確認している。ヤシャはリモコンでピッとテレビを消した。

「うっさいわね~。あんたに言われずとも用意するわよ!ったく!」

アリシアは文句を垂れながら春田の部屋にのっしのっしと歩いていく。子犬達を連れて行くべきか迷ったが、勇者に殺されてはせっかく拾ってきたのに意味がない。仕方ないので適当な段ボールを身繕い、犬ように味の薄いご飯と捨てても良いタオルを入れて二匹を入れる。

「今日にでもケージを買うか……トイレ用の砂とか買うもの多そうだな……」

飼うと決めた以上致し方ない事ではあるが、色々揃えて準備が出来次第でも良かったのではなかったろうかと詮無い事を考える。だが多分先に相談されていたら考えることもなく駄目だとキッパリ断っただろうから、その考え事態を捨てることにした。

用意出来た面々は点呼を取り合うこともなく玄関先で一つ頷くと春田を先頭にゾロゾロと階段を降りていく。

行くべき場所はいつもの廃寺。元々神聖だった神社や寺は潰れてしまった後にも何かしらの力が自然に蓄えられており、外の世界との出入り口となってしまっているらしい。その為マレフィアは、魔王が死ぬ以前からちょくちょくこの世界に足を運んで楽しんでいたそうだ。
元の世界では戦争していたのに良い気なものだと思っていたが、そのおかげで今があるのだと思えば考え深い。

一行がせかせか世話しなく移動しているとポイ子が春田に耳打ちする。

「聖也様、どうやら勇者が動き出したようです」

「何っ!?不味いな……ニーナかアリシア!勇者の野郎を引き留めに走れ!」

「はぁ?イヤよ」

急に命令口調で言ったのでアリシアからの反発を受ける。イラっとしたが、自分も唐突すぎたと頭を切り替える。

「……野郎が動き出した。この世界を知らないのに急に移動すると色々被害が出る」

「うん、それは分かるわよ。でも何であたしらが……」

「俺らが真っ先に行くと戦闘になるだろ?話がややこしくなる前に対処してくれってこと。頼むから早くしてくれ」

「ああ、そういう……てか、最初からそう言って頼みなさいよ。突然命令するとか生意気な事しないで」

「くっ!!」春田はイライラで物に当たりたくなったが我慢して気を落ち着ける。これでお別れなのだから一旦ストレスを貯めて後で解消するのを選んだ。

「……悪かった。頼む」

頭を下げる春田。四天王の面々はアリシアの一連の行動から春田のお願いまでを見て一瞬手が出そうになるも、春田の選択で矛を納めた。主人が我慢してでも頭を下げたならそれを尊重するのが部下の勤め。
アリシアは意気揚々とふんぞり返りながら前に出て、春田を見下した後「仕方ないなぁ」と走っていった。

「……ニーナよ。やはり育て方を間違えとるのではないか?」

ナルルは四天王の怒りを親にぶつける。

「あはは……娘が失礼しました。一応学校では人当たりが良いらしいから、味方、つまり人に対しては礼を尽くすと思うの……まだ敵だと思ってるからあんな感じなんじゃないかなぁと……」

ニーナは反応を窺うように返答する。本音と建前の差が激しいと言うことだろう。それに関して何か言うつもりはないが、時と場合を考えて欲しいものだ。
こちらの都合なので真摯に伝えても反論されるのは目に見えているが……。

「よし、俺たちも急ごう」

アリシアの後を追って歩き出すが、すぐに呼び止められる。

「春田くん」

その声に覚えのあった春田はビクッと反応する。虎田だ。

「……ポイ子を残して他は先に行け。俺たちもすぐに追い付く」

ヤシャとマレフィアとニーナはそれに従って先を急ぐが、ナルルは立ち止まる。

「何故ポイ子なんじゃ?わらわで良かろう?」

こちら側にも命令を聞かないのが一人。ヤシャが一瞬凄い顔で振り向いたが、春田が小さい声で「行け行け!」と急かした為、渋々進んでいった。
それを尻目にポイ子が手を振って虎田を出迎える。

「虎田さんこんにちわ」

「こんにちわー……。なんかタイミング悪かったかな?」

「うん!」と言えたらどれだけ楽か。

「そんなこと無いよ。なんか用か?」

「いえ別に。ちょこっと外出たら出会えたから偶然だなーって」

(単なる挨拶程度か……)と胸を撫で下ろす。

「そっか……でも一人で出歩くのは危ないぜ?昨日の今日だし、今日は控えた方が良いと俺は思うけど?」

「今日は町に出る用事もないし、すぐに帰るよ。ありがとう心配してくれて」

他愛ない会話。正直勘弁してほしい。流行る気持ちを抑えて一生懸命笑顔を見せる。

ドパァンッ

その時凄まじい音が空に木霊した。爆竹程度の音なら誤魔化しも聞くが、花火のもう一つ上くらいの心胆を震わせる音が空気を震わせる。目を瞑って少し丸まった虎田は恐る恐る目を開ける。

「何……今の……?」

「どうなってる?アリシアが先行しただろ?なんで戦闘が始まるんだよ……」

春田は虎田を尻目に青ざめている。

「春田くん何か知ってるの?」

「おい、もう良いか?聖也。すぐに行くぞ」

ナルルがそれを遮る。春田も虎田に構っている暇がなくなった。

「悪い虎田さん!もう少し話したかったけど無理っぽい!気を付けて帰って!!」

ポイ子もナルルも走って春田に続く。あっという間走っていったのを見て虎田はポカンと呆けていた。

「えぇ?……何なの?本当に……」
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