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第140話 力
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「いやいや、待て待て」
春田はマレフィアの言葉に首を振る。
「魔王の力ったって……その現魔王はこの通りただの人間になってるんだぞ?その辺のチンピラすらまともに相手出来ない俺がどうやって……」
「あなたはただの人間ではありませーん。そのヒントはポイ子が提唱したある仮説によるものでーす」
「ポイ子が?」と当の本人を見る。ポイ子自身も何故名指しされたのか分からず首を傾げる。マレフィアは疑問符を頭に浮かべる二人に「時間がないので簡単に……」と前置きした後説明に入る。
「うちらがこの世界に来て間もなく聖ちゃんの気配が増したそうじゃない?ということは全人類が魔王ヴァルタゼアの事を認識すれば力が戻るのではないでしょーか?」
「んな馬鹿な。そんな事したって全人類が俺の存在を感じる様になるだけだろ。日本のどこそこにいるっつー感じで……」
知られることで力が戻るのであればとっくにほんの少量でも力が漲っているはずである。だがそうはならず気配だけが増大し、知り合いが春田を簡単に見つけ出せるセルフGPS機能が付いてしまった哀れな存在となってしまっている。もし全人類に知られたら心まで見透かされる"覚られ"状態に陥りかねない。
「……いえ、聖也様。マレフィア様の言う事を試す価値は大いにあると思います」
ポイ子は真剣な面持ちで春田を見据える。
「えぇ……マジで言ってんのか?」
「上空の戦いについていけるのはこの場ではマレフィア様だけです。しかし、あの大戦で傷一つ付かなかったマレフィア様も今の勇者には形無しです。この状態で勇者を野放しにすると確実に全滅するでしょう。仮に魔王様の力を取り戻せる確率が1%でもあるならやるべきではないでしょうか?」
確かにその通りだ。今の勇者に話し合いが通じない以上倒しきるしか道はない。
だが、それこそ無理である。ヤシャは接近戦で負け、マレフィアも為す術なく斬られた。ナルルの影縫いも一時しのぎでポイ子は話にならず。ニーナとアリシアはそもそも勇者の家族なので肝心なところでこちらを見限り、梯子を外すだろう。
以上を踏まえ導き出された答えは、この賭けをやらない理由はないという事だ。
「春田くん!」
その声にハッとして元来た道を見ると虎田が立っていた。上で行われている頂上の戦いを気にしながら春田に近寄るべきか逡巡している。
「虎田さん!ここにいたら危険だ!すぐ家に帰ってくれ!」
「で、でも……春田くんは?!一緒に逃げましょう!」
頭上と虎田の間を春田の視線が行き来する。
「駄目だ!俺にはやらなきゃいけない事がある!ここを離れるわけにはいかないんだ!だから……」
「そんな……!でも……!」
虎田はさらに困った顔を見せてオロオロしている。
(……俺が心配で離れられないってか?くそ!!)
こんなことなら関わるんじゃなかった。下手に同情を買って面倒な事になっている。もしここで虎田が巻き込まれても助ける事は不可能だ。これでは虎田と交わした約束はどうなる?その考えで腹が決まる。彼女の返答を待たずに春田はマレフィアをゆっくり起こして座らせると立ち上がった。
「……マレフィア、やれ」
「オッケー……あ、そだ。ポイ子ン、ちょっとこっち座って」
「はい、分かりました」
マレフィアはポイ子の頭に手を付けて魔力を高める。上空の拘束解除が時間の問題となる中、マレフィアの極大魔法が発動した。
「信号乗っ取り」
マレフィアの魔力が空気に溶ける。光の速さで地球の人たちに間接的に繋がる事の出来る強力な魔法。マレフィアの魔力が無尽蔵であれば、このまま洗脳まで持っていける超危険な魔法である。
マレフィアにその意思がないことと、その気持ちに至っても魔力が続かないから出来ないということで本来行使しないが、今回は魔王の為に命を懸ける覚悟で発動する。
「……じゃポイ子ン。力を、貸してね」
魔力をほとんど使用して意識も朦朧とする中、最後の魔法を仕掛ける。
「……記憶浸透」
それはポイ子の記憶のばら蒔き。人々に魔王の存在を知ってもらう為の瞬きの記憶。ヴァルタゼアの本来の姿、本来の性格、本来の資質をまるでサブリミナルの様に一瞬記憶に挟み込む。
「あっ……!?」
その時、近くで見ていた虎田が耳を押さえる。パルスジャック事態に影響はほとんどないが、記憶浸透は突然知らないものが雪崩れ込むので耳鳴りなどの拒絶反応が起こる場合がままある。きっと全世界でこうした光景を見ることが出来るだろう。つまり、形として目には見えなかった効果が、虎田のお陰で魔法は確実に成功したことを確認できた。
さらにここでポイ子を選んだのには理由がある。魔王を心から尊敬し、感謝し、心酔しているのが他ならぬポイ子だからだ。その気持ちを挟み込むということは、つまり魔王ヴァルタゼアは元の世界で言われた人類の存続を危うくさせる闇の帝王などではなく、一時ではあるものの人類を救う勇者の如き正義の使者となる。
そして知名度はこの一瞬神を超えた。
春田の体はメキメキと音を立てて膨らんでいく。服を破り、みるみる内に2mを超える。その様子を見ていた虎田の記憶に魚の小骨のような小さな断片が浮かび上がる。勇猛で凶悪で、何より強く何より頼れる無敵の柱。
変身していく春田の姿にその存在を見た。
「魔王……ヴァルタゼア……様?」
その言葉は無意識に出ていた。自分の知らない情報。見たことも聞いたこともない存在に恐怖はなく、むしろ妙な親近感と安心感を覚える。全く分からない今の状況を完璧なまでに解決してくれると心から思え、虎田は知らず知らず胸の前で両手を組んで祈りを捧げていた。
「正解だぜマレフィア、ポイ子……お前らのお陰で俺は還ってきた!虎田さんだけなんてケチくせぇ事言わねぇ、俺が全員守ってやるよ!!」
春田はマレフィアの言葉に首を振る。
「魔王の力ったって……その現魔王はこの通りただの人間になってるんだぞ?その辺のチンピラすらまともに相手出来ない俺がどうやって……」
「あなたはただの人間ではありませーん。そのヒントはポイ子が提唱したある仮説によるものでーす」
「ポイ子が?」と当の本人を見る。ポイ子自身も何故名指しされたのか分からず首を傾げる。マレフィアは疑問符を頭に浮かべる二人に「時間がないので簡単に……」と前置きした後説明に入る。
「うちらがこの世界に来て間もなく聖ちゃんの気配が増したそうじゃない?ということは全人類が魔王ヴァルタゼアの事を認識すれば力が戻るのではないでしょーか?」
「んな馬鹿な。そんな事したって全人類が俺の存在を感じる様になるだけだろ。日本のどこそこにいるっつー感じで……」
知られることで力が戻るのであればとっくにほんの少量でも力が漲っているはずである。だがそうはならず気配だけが増大し、知り合いが春田を簡単に見つけ出せるセルフGPS機能が付いてしまった哀れな存在となってしまっている。もし全人類に知られたら心まで見透かされる"覚られ"状態に陥りかねない。
「……いえ、聖也様。マレフィア様の言う事を試す価値は大いにあると思います」
ポイ子は真剣な面持ちで春田を見据える。
「えぇ……マジで言ってんのか?」
「上空の戦いについていけるのはこの場ではマレフィア様だけです。しかし、あの大戦で傷一つ付かなかったマレフィア様も今の勇者には形無しです。この状態で勇者を野放しにすると確実に全滅するでしょう。仮に魔王様の力を取り戻せる確率が1%でもあるならやるべきではないでしょうか?」
確かにその通りだ。今の勇者に話し合いが通じない以上倒しきるしか道はない。
だが、それこそ無理である。ヤシャは接近戦で負け、マレフィアも為す術なく斬られた。ナルルの影縫いも一時しのぎでポイ子は話にならず。ニーナとアリシアはそもそも勇者の家族なので肝心なところでこちらを見限り、梯子を外すだろう。
以上を踏まえ導き出された答えは、この賭けをやらない理由はないという事だ。
「春田くん!」
その声にハッとして元来た道を見ると虎田が立っていた。上で行われている頂上の戦いを気にしながら春田に近寄るべきか逡巡している。
「虎田さん!ここにいたら危険だ!すぐ家に帰ってくれ!」
「で、でも……春田くんは?!一緒に逃げましょう!」
頭上と虎田の間を春田の視線が行き来する。
「駄目だ!俺にはやらなきゃいけない事がある!ここを離れるわけにはいかないんだ!だから……」
「そんな……!でも……!」
虎田はさらに困った顔を見せてオロオロしている。
(……俺が心配で離れられないってか?くそ!!)
こんなことなら関わるんじゃなかった。下手に同情を買って面倒な事になっている。もしここで虎田が巻き込まれても助ける事は不可能だ。これでは虎田と交わした約束はどうなる?その考えで腹が決まる。彼女の返答を待たずに春田はマレフィアをゆっくり起こして座らせると立ち上がった。
「……マレフィア、やれ」
「オッケー……あ、そだ。ポイ子ン、ちょっとこっち座って」
「はい、分かりました」
マレフィアはポイ子の頭に手を付けて魔力を高める。上空の拘束解除が時間の問題となる中、マレフィアの極大魔法が発動した。
「信号乗っ取り」
マレフィアの魔力が空気に溶ける。光の速さで地球の人たちに間接的に繋がる事の出来る強力な魔法。マレフィアの魔力が無尽蔵であれば、このまま洗脳まで持っていける超危険な魔法である。
マレフィアにその意思がないことと、その気持ちに至っても魔力が続かないから出来ないということで本来行使しないが、今回は魔王の為に命を懸ける覚悟で発動する。
「……じゃポイ子ン。力を、貸してね」
魔力をほとんど使用して意識も朦朧とする中、最後の魔法を仕掛ける。
「……記憶浸透」
それはポイ子の記憶のばら蒔き。人々に魔王の存在を知ってもらう為の瞬きの記憶。ヴァルタゼアの本来の姿、本来の性格、本来の資質をまるでサブリミナルの様に一瞬記憶に挟み込む。
「あっ……!?」
その時、近くで見ていた虎田が耳を押さえる。パルスジャック事態に影響はほとんどないが、記憶浸透は突然知らないものが雪崩れ込むので耳鳴りなどの拒絶反応が起こる場合がままある。きっと全世界でこうした光景を見ることが出来るだろう。つまり、形として目には見えなかった効果が、虎田のお陰で魔法は確実に成功したことを確認できた。
さらにここでポイ子を選んだのには理由がある。魔王を心から尊敬し、感謝し、心酔しているのが他ならぬポイ子だからだ。その気持ちを挟み込むということは、つまり魔王ヴァルタゼアは元の世界で言われた人類の存続を危うくさせる闇の帝王などではなく、一時ではあるものの人類を救う勇者の如き正義の使者となる。
そして知名度はこの一瞬神を超えた。
春田の体はメキメキと音を立てて膨らんでいく。服を破り、みるみる内に2mを超える。その様子を見ていた虎田の記憶に魚の小骨のような小さな断片が浮かび上がる。勇猛で凶悪で、何より強く何より頼れる無敵の柱。
変身していく春田の姿にその存在を見た。
「魔王……ヴァルタゼア……様?」
その言葉は無意識に出ていた。自分の知らない情報。見たことも聞いたこともない存在に恐怖はなく、むしろ妙な親近感と安心感を覚える。全く分からない今の状況を完璧なまでに解決してくれると心から思え、虎田は知らず知らず胸の前で両手を組んで祈りを捧げていた。
「正解だぜマレフィア、ポイ子……お前らのお陰で俺は還ってきた!虎田さんだけなんてケチくせぇ事言わねぇ、俺が全員守ってやるよ!!」
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