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第139話 対勇者
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ヤシャがヴェインとぶつかり合って間も無く春田たちが到着した。ニーナが懸命にマレフィアを治し、アリシアは呆然と立ち尽くすそんな状況が目に飛び込む。
ヤシャとヴェインは住宅と電柱が立ち並ぶ狭い道路から離れて小高い丘の上で死闘を繰り広げていた。
「どうなってる……なんでマレフィアが……!?」
一瞬頭が真っ白になったが、マレフィアの無事を確認するためすぐに駆け寄る。
「あ、聖ちゃ~ん……」
「マレフィアお前……大丈夫なのか?」
「えへへ~……油断しちゃったけど、ニーナのお陰で助かったよ~」
何とか血は止まって一命は取り止めたようだ。
「珍しい事もあるものじゃな。お前がここまでやられるとは……」
ナルルのその言葉に上を見上げるポイ子。ヤシャの赤い肌と勇者の青っぽい魔力が上空でぶつかり合って火花を散らす。一見ユニークな花火に見えなくもないが、その実死闘が蹴り広げられている。
「仕方ありません。相手はあの勇者ですよ?それにアリシアさんが説得してるから、攻撃されるなんてつゆ程も思ってなかったでしょうし……」
攻撃されたであろう情景を想像してポイ子は珍しく真剣な顔付きでナルルに答える。
「そう、アリシアじゃ。何故マレフィアを攻撃させた?近くに居ったであろうお前なら止める事は出来たはず……勝手に期待を掛けすぎたのぅ。所詮は子供か」
アリシアはその言葉に苛立ち、咄嗟に剣の柄に手が伸びる。鋼の切っ先が一瞬見えた時ニーナが声を張り上げる。
「やめなさい!!」
ビシッと声で叩くように喝を入れるとアリシアもナルルもその声にピタッと止まった。
「……今はそんなことをしている場合ではないでしょう?とにかくお父さんを止めてきて。お願い」
「おいおい、こ奴では余計拗れるのではないか?お前が行くべきじゃろう?」
回復魔法を使用しているニーナに対し、あれもこれも全部やれというのは酷というもの。「いや、あの……」と困った顔を見せるが、マレフィアがニーナの手をそっと持つ。
「うちはもう大丈夫だから、勇者を止めてきて。うちには回復魔法もあるし後は自分で出来るよん」
完全に治りきってないが、ここまで回復すれば自分で回復できるという。ニーナは逡巡するもその言葉を信じて立ち上がる。アリシアに目を向けると二人で頷きあった。
「中途半端で申し訳ございません。後はお願いします」
ニーナもアリシアもふわっと浮き上がると一気に小高い丘の頂上に飛んでいった。魔法とは便利なものだ。春田はマレフィアに寄り添うと心配そうに声をかける。
「本当に良かったのか?ニーナが治してからでも遅くなかったんじゃ……」
「いやぁ、遅いよ聖ちゃん。勇者はあの時に比べて数倍強くなってる。ヤシャっちが大変だし何より被害が出ない内に終わらないとね~」
マレフィアは精一杯の笑顔で答えた。それに「はは……」と苦笑いで返すと横からポイ子も語りかける。
「それじゃパパッと治してヤシャ様の加勢に行かなくてはいけませんね」
ナルルはフッと皮肉混じりに笑うとポツリと呟く。
「……鬼の姫がそう簡単にやられるとは思わんがの……」
それはヤシャの力を知るがゆえの信頼。魔王の部下の中で接近戦の能力だけなら1、2を争う最強の存在であるヤシャが負けるはずがない。
チュドッ
その小高い丘は空から落ちてきた何かによって吹き飛ぶ。
「おわっ!!」
凄まじい砂埃が春田達を襲う。ポイ子やナルルはその様子をつぶさに観察し、春田はマレフィアを庇うように覆い被さる。砂嵐が収まって土煙が晴れてくると、その落ちた物体に驚く。
「ヤシャ!?」「ヤシャ様!!」
そこにはボロボロに傷付いたヤシャが埋まっていた。
「うぐぐっ……こんなはずは……」
バッと上空に目を向けると、パッと見無傷のヴェインがヤシャを見下している。その近くにアリシアとニーナが何やら騒いでいるが、意に介していない。
「何て事だマジで強い……当時はヤシャと1対1じゃ戦えなかった筈なのに……」
春田は勇者の現在の姿に恐れ慄く。当時の年齢から17年の年月が流れて、彼の年齢ももう30歳くらい。もう立派に大人だ。その間怠ることなく鍛えてきたと思われる。きっとゲームで言えばステータスはカンストしていることだろう。
空中で制止していたヴェインはニーナとアリシアから説得を受けていた。
「もうやめて父さん!あいつらはもう敵じゃないの!!剣を仕舞って!」
「お父さん!アリシアの言う通り彼らは敵じゃないわ!それを証明するから話し合いましょう!」
右から左から戦いを辞めるように抗議の声が上がる。その声に苦々しい顔をしながら顔を背ける。
「くっ、何と言うことだ……ニーナまで操るとはな……大魔導師の力は当初から我らの手に負えるものではなかったと言うことか……あの時に殺せていれば……」
その台詞で話を聞かない理由が分かった。マレフィアに操られてこの世界に留まっていると思われたらしい。訂正しようとすればするほどに懐疑的になるのは目に見えた。しかしアリシアはその誤解を解くために大声で否定する
「そんな……あたしたちは洗脳なんかされてない!」
ヴェインはわなわなと肩を震わせ、アリシアの必死な叫びに痛々しさを感じた。怒りで我を忘れそうにすらなったが、次に顔を上げた時には無表情になっていた。感情を殺し、家族を救うため非情になったのだ。
「まずはマレフィアを殺して洗脳を解く」
両手に剣を構えるとすぐさまマレフィアに向かって突進の姿勢を見せたが、それにアリシアが立ち塞がる。アリシアも剣を構えてヴェインの剣を防いだ。
「アリシア……」
悲しみに満ちた顔で娘を見る。娘に邪魔されたということはやはり間違っていない。家族は操られている。
この勘違いこそ洗脳レベルだと言いたいところだが、ヴェインは昔から話を聞かずに「こうだ!」と思ったことに実直に押し進む気概があった。
その性格だけはいい歳になった今でも変わりなく、自分ではむしろそれを長所として捉えている。何せ自分を曲げなかったからこそ魔王を討伐出来たのだと信じているからだ。
ニーナもアリシアに手をかざして魔力を送る。そのお陰で能力の向上が見られる。
「ニーナまで……」
「仕方ないわ。あなたったら人の話し聞かないもの」
本気の親子喧嘩が始まろうとしたその時、ダンッと地上から音が聞こえる。ヴェインのすぐ後ろをヤシャが取った。ヴェインが振り向く間も無く羽交い締めにして動きを封じる。
「……ふんっこの程度で俺を捕らえた気になるなよ?」
ググッと力を入れるものの、腕がある一定の所から不思議と動かない。ヤシャの力ではなく何か別の力で動きを制限されてるような妙な感じだった。
「ぬっ!?これは……!」
暗殺者が得意とする"影縫い"。勇者の動きを阻害出来る程となると相当錬度が高い。
「逃がさんぞ勇者よ……ふっ、まさか鬼の姫と共闘する日が来るとは……」
ナルルは勇者の影に潜み、動けないようにスキルを使用した。ヤシャとのコラボレーションでヴェインは思うように動けない。
「貴様らぁ……!」
額に血管が浮き出ている。かなり苛立っているのが目に見えて分かる。アリシアは剣を構えるも、実の父を斬るような事が出来ずに牽制するくらいしか出来ない。ニーナはヴェインに更に拘束魔法をかけ、魔力による青白い鎖のような物でヤシャごと雁子搦めにしていく。
「取り敢えず動かないで、あなた」
「くっ……!」
4対1。内2人は親族というデバフ。ヴェインもこれにはたじたじである。
「……何とかなったか?」
春田は上を見上げながら若干安心する。一時はどうなることかと思ったが、これなら説得に応じざるを得まい。ホッと一息つく。しかしポイ子の見解は違う。
「いえ、あれでは一時しのぎです。まず間違いなくあの4人は負けると思います」
「……マジ?どうすんだよ……あいつらで止められなきゃ誰が止められるってんだよ……」
一応魔王の部下で最強なのはマレフィアなので回復して4人に加勢すれば行けそうではあるが、斬られた後のマレフィアに「さぁいけ!」というのは酷がある。マレフィアは春田の手をそっと掴む。
「止められますよー。魔王様ならね」
ヤシャとヴェインは住宅と電柱が立ち並ぶ狭い道路から離れて小高い丘の上で死闘を繰り広げていた。
「どうなってる……なんでマレフィアが……!?」
一瞬頭が真っ白になったが、マレフィアの無事を確認するためすぐに駆け寄る。
「あ、聖ちゃ~ん……」
「マレフィアお前……大丈夫なのか?」
「えへへ~……油断しちゃったけど、ニーナのお陰で助かったよ~」
何とか血は止まって一命は取り止めたようだ。
「珍しい事もあるものじゃな。お前がここまでやられるとは……」
ナルルのその言葉に上を見上げるポイ子。ヤシャの赤い肌と勇者の青っぽい魔力が上空でぶつかり合って火花を散らす。一見ユニークな花火に見えなくもないが、その実死闘が蹴り広げられている。
「仕方ありません。相手はあの勇者ですよ?それにアリシアさんが説得してるから、攻撃されるなんてつゆ程も思ってなかったでしょうし……」
攻撃されたであろう情景を想像してポイ子は珍しく真剣な顔付きでナルルに答える。
「そう、アリシアじゃ。何故マレフィアを攻撃させた?近くに居ったであろうお前なら止める事は出来たはず……勝手に期待を掛けすぎたのぅ。所詮は子供か」
アリシアはその言葉に苛立ち、咄嗟に剣の柄に手が伸びる。鋼の切っ先が一瞬見えた時ニーナが声を張り上げる。
「やめなさい!!」
ビシッと声で叩くように喝を入れるとアリシアもナルルもその声にピタッと止まった。
「……今はそんなことをしている場合ではないでしょう?とにかくお父さんを止めてきて。お願い」
「おいおい、こ奴では余計拗れるのではないか?お前が行くべきじゃろう?」
回復魔法を使用しているニーナに対し、あれもこれも全部やれというのは酷というもの。「いや、あの……」と困った顔を見せるが、マレフィアがニーナの手をそっと持つ。
「うちはもう大丈夫だから、勇者を止めてきて。うちには回復魔法もあるし後は自分で出来るよん」
完全に治りきってないが、ここまで回復すれば自分で回復できるという。ニーナは逡巡するもその言葉を信じて立ち上がる。アリシアに目を向けると二人で頷きあった。
「中途半端で申し訳ございません。後はお願いします」
ニーナもアリシアもふわっと浮き上がると一気に小高い丘の頂上に飛んでいった。魔法とは便利なものだ。春田はマレフィアに寄り添うと心配そうに声をかける。
「本当に良かったのか?ニーナが治してからでも遅くなかったんじゃ……」
「いやぁ、遅いよ聖ちゃん。勇者はあの時に比べて数倍強くなってる。ヤシャっちが大変だし何より被害が出ない内に終わらないとね~」
マレフィアは精一杯の笑顔で答えた。それに「はは……」と苦笑いで返すと横からポイ子も語りかける。
「それじゃパパッと治してヤシャ様の加勢に行かなくてはいけませんね」
ナルルはフッと皮肉混じりに笑うとポツリと呟く。
「……鬼の姫がそう簡単にやられるとは思わんがの……」
それはヤシャの力を知るがゆえの信頼。魔王の部下の中で接近戦の能力だけなら1、2を争う最強の存在であるヤシャが負けるはずがない。
チュドッ
その小高い丘は空から落ちてきた何かによって吹き飛ぶ。
「おわっ!!」
凄まじい砂埃が春田達を襲う。ポイ子やナルルはその様子をつぶさに観察し、春田はマレフィアを庇うように覆い被さる。砂嵐が収まって土煙が晴れてくると、その落ちた物体に驚く。
「ヤシャ!?」「ヤシャ様!!」
そこにはボロボロに傷付いたヤシャが埋まっていた。
「うぐぐっ……こんなはずは……」
バッと上空に目を向けると、パッと見無傷のヴェインがヤシャを見下している。その近くにアリシアとニーナが何やら騒いでいるが、意に介していない。
「何て事だマジで強い……当時はヤシャと1対1じゃ戦えなかった筈なのに……」
春田は勇者の現在の姿に恐れ慄く。当時の年齢から17年の年月が流れて、彼の年齢ももう30歳くらい。もう立派に大人だ。その間怠ることなく鍛えてきたと思われる。きっとゲームで言えばステータスはカンストしていることだろう。
空中で制止していたヴェインはニーナとアリシアから説得を受けていた。
「もうやめて父さん!あいつらはもう敵じゃないの!!剣を仕舞って!」
「お父さん!アリシアの言う通り彼らは敵じゃないわ!それを証明するから話し合いましょう!」
右から左から戦いを辞めるように抗議の声が上がる。その声に苦々しい顔をしながら顔を背ける。
「くっ、何と言うことだ……ニーナまで操るとはな……大魔導師の力は当初から我らの手に負えるものではなかったと言うことか……あの時に殺せていれば……」
その台詞で話を聞かない理由が分かった。マレフィアに操られてこの世界に留まっていると思われたらしい。訂正しようとすればするほどに懐疑的になるのは目に見えた。しかしアリシアはその誤解を解くために大声で否定する
「そんな……あたしたちは洗脳なんかされてない!」
ヴェインはわなわなと肩を震わせ、アリシアの必死な叫びに痛々しさを感じた。怒りで我を忘れそうにすらなったが、次に顔を上げた時には無表情になっていた。感情を殺し、家族を救うため非情になったのだ。
「まずはマレフィアを殺して洗脳を解く」
両手に剣を構えるとすぐさまマレフィアに向かって突進の姿勢を見せたが、それにアリシアが立ち塞がる。アリシアも剣を構えてヴェインの剣を防いだ。
「アリシア……」
悲しみに満ちた顔で娘を見る。娘に邪魔されたということはやはり間違っていない。家族は操られている。
この勘違いこそ洗脳レベルだと言いたいところだが、ヴェインは昔から話を聞かずに「こうだ!」と思ったことに実直に押し進む気概があった。
その性格だけはいい歳になった今でも変わりなく、自分ではむしろそれを長所として捉えている。何せ自分を曲げなかったからこそ魔王を討伐出来たのだと信じているからだ。
ニーナもアリシアに手をかざして魔力を送る。そのお陰で能力の向上が見られる。
「ニーナまで……」
「仕方ないわ。あなたったら人の話し聞かないもの」
本気の親子喧嘩が始まろうとしたその時、ダンッと地上から音が聞こえる。ヴェインのすぐ後ろをヤシャが取った。ヴェインが振り向く間も無く羽交い締めにして動きを封じる。
「……ふんっこの程度で俺を捕らえた気になるなよ?」
ググッと力を入れるものの、腕がある一定の所から不思議と動かない。ヤシャの力ではなく何か別の力で動きを制限されてるような妙な感じだった。
「ぬっ!?これは……!」
暗殺者が得意とする"影縫い"。勇者の動きを阻害出来る程となると相当錬度が高い。
「逃がさんぞ勇者よ……ふっ、まさか鬼の姫と共闘する日が来るとは……」
ナルルは勇者の影に潜み、動けないようにスキルを使用した。ヤシャとのコラボレーションでヴェインは思うように動けない。
「貴様らぁ……!」
額に血管が浮き出ている。かなり苛立っているのが目に見えて分かる。アリシアは剣を構えるも、実の父を斬るような事が出来ずに牽制するくらいしか出来ない。ニーナはヴェインに更に拘束魔法をかけ、魔力による青白い鎖のような物でヤシャごと雁子搦めにしていく。
「取り敢えず動かないで、あなた」
「くっ……!」
4対1。内2人は親族というデバフ。ヴェインもこれにはたじたじである。
「……何とかなったか?」
春田は上を見上げながら若干安心する。一時はどうなることかと思ったが、これなら説得に応じざるを得まい。ホッと一息つく。しかしポイ子の見解は違う。
「いえ、あれでは一時しのぎです。まず間違いなくあの4人は負けると思います」
「……マジ?どうすんだよ……あいつらで止められなきゃ誰が止められるってんだよ……」
一応魔王の部下で最強なのはマレフィアなので回復して4人に加勢すれば行けそうではあるが、斬られた後のマレフィアに「さぁいけ!」というのは酷がある。マレフィアは春田の手をそっと掴む。
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