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第143話 火蓋
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「はああぁぁっ!!」
周りを全て吹き飛ばすほどの魔力が収束していく。
やはりヴェインが懸念した通りに魔王の復活が成り、世界は混沌の渦に飲まれようとしている。
(そんな事させない!必ず阻止してみせる!!)
世界の希望を一身に背負ったつもりのヴェインは光の剣を携えて魔王を討ち滅ぼさんと力を込める。刀身を指で挟み込んだヴァルタゼアは魔力を放出し、ヴェインが及ぼす二次被害を押さえ込んだ。
「……ここはお前の知る世界ではないぞ?もう少し加減を覚えろ」
魔王はヤシャをその手で抱え込みながらも余裕の表情を見せる。ヴェインは次第に焦り始めた。
(馬鹿な……!どういう事だ?!この光の剣は魔王を一刀両断するほど強い筈なのに!!)
神が造りし剣、アルティメット・ウルトラスーパーゴッデスキング・バーニングサンダーソードの力を持ってして魔王の指の間に挟み止められる。魔王の見た目こそ変わらないが当時と強さは段違いの可能性もある。
「だからなんだ!俺だってあの頃の数倍強くなった!!お前になんかに絶対に負けない!!」
剣の柄を握る手に力を込めた。
「いや、お前さ。会話を……はぁ、もういい。ポイ子!ヤシャを頼む!」
魔王もこのヴェインの言動に我慢の限界だった。ヤシャを離して手首を掴む。更に力を込めて対抗する気だ。地面に落ち行くヤシャをポイ子が受け止めるとそそくさと戦線を離脱する。
それを見送った魔王はニヤリと笑うと地面を蹴って空に舞い上がる。六枚の羽を羽ばたかせて大空に君臨するその姿は神話から伝え聞く悪魔の様で、見る者によっては発狂ものの光景だ。それ故に神々しいと評価する者が居てもなんら不思議ではない。
虎田はこの場合後者だ。ポイ子の忠誠心に感化され、この禍々しい姿を救世主の様に心に刻んでいた。
いや、虎田だけではない。その姿を目にしたこの周辺の住民達は、皆一様に神に祈りを捧げる信者の如く手を目の前に組んでいた。
崇拝。その力は凄まじく、魔王の力は生前とは比べ物にならない。
空中で体を反転させて勇者を投げる。
「……ぐっ!!」
ぐるぐる回って吹き飛ぶ体を魔力で固定して体制を整えた。剣を握り直して魔王との距離を測る。魔王は手を目の前に出してニギニギと左右の握力を確かめる様に握っては開いてを繰り返す。
「くくく……力が漲る……これが復活。久々に感動するほどの力をこの手に宿したな……」
魔王もまた空中で辺りを見渡す。
そこにいるのは勇者ヴェイン、その妻ニーナとその娘のアリシア。
ヴェインは当然として、ニーナもまた敵意を向ける。力が無かったからこそ手を貸していたというのがありありと見えた。それ自体はすぐにも理解したが、アリシアが笑っているのは納得がいかなかった。
「なんだ?嬉しそうだなアリシア。何か良いことでもあったか?」
その言葉にニーナとヴェインがチラリとアリシアを確認する。
「当然!あたしがここに来たのは、その状態のあんたと戦って打ちのめす為よ!!」
アリシアの全身に漲る魔力の解放は煌々と輝いて、二つ目の太陽の様に地面を照らす。
「ダメだアリシア!!危険すぎる!下がって様子を見ていろ!!」
「嫌よ!あたしは戦う!」
「アーちゃん!お父さんの言う事聞きなさい!」
アリシアは剣を構える。
「絶対嫌!」
魔力で光の玉になったアリシアは一気に魔王に向かって飛んでいく。
「不味い……!アリシア!!」
ヴェインは手を伸ばすがその手も声も届かない。
「今の俺と戦うか!流石は勇者の娘よ!」
人間時とは比較にならない無敵の存在になっても変わらず戦いを挑む。蛮勇だがこれこそアリシアだと言えた。
バキィンッ
硬質な音が響き渡る。それはアリシアの剣と魔王の羽がかち合った音だ。剣を二、三度振り下ろすも結果は同じで、全て羽に軽く弾かれてしまう。魔王は腕を組み、余裕綽々でアリシアに対して笑顔を見せる。
(その余裕……いつまで続けられる?!)
アリシアは剣を振り下ろす瞬間、横に倒して突きを放つ。
完璧なタイミングで放った剣はその腕に向かって切っ先を伸ばすが、それを読んでいた様に下から羽が迫り、剣をかち上げた。
「甘い!」
アリシアは袈裟斬りの軌道を描いて魔王の首を狙うが
「喝っ!!」
その叫びと共に突如放たれた衝撃波がアリシアを吹き飛ばした。
「アリシア!」
ヴェインはすぐ後ろに回り込んでアリシアを受け止める。アリシアは魔王の声量で三半規管を狂わされて目を回していた。
「言わんことではない……ニーナ!アリシアを頼む!」
「……あ、あたしはまだ戦える……!」
頭を抱えながらヴェインの手を払い除けようとするが、混乱が解けてないのでモゾモゾ芋虫のように動く。ニーナは急いで近寄るとアリシアを受けとる。
「ダメだってアーちゃん!ゆっくりして……」
アリシアに肩を貸してゆっくり下に降りていく。
戦線離脱。それは勇者と魔王との一騎討ちを意味していた。
「貴様……魔力を混ぜたな?魔方陣が一瞬口の回りに見えたぞ……アリシアの回復が遅いのはそのせいだ!」
「ほぅ?あれが見えたのか?お前とはあの時こういう戦いをしたかったのに軽く瞬殺しやがって……娘の方がまだ戦いのなんたるかを理解している」
組んだ腕を解いて自由にすると拳を作る。ギシッと革の手袋でもしているような軋む音が鳴った。同時に手の甲に複雑怪奇な魔方陣が浮き上がった。
「複合強化か……筋力、速度、防御と……魔術無効だと?それを起動すれば貴様も魔術が使えない。まさかこの俺に近接戦を挑むつもりか?この剣が見えないのか。貴様を屠った最強の剣だぞ!」
バッと剣を掲げる。意に介す事なく魔王は構えた。
「好き勝手周辺を壊すわけにはいかんのでな。ハンデをくれてやる」
「嘗めるなぁ!!」
ドンッ
剣を上段に掲げて空気を蹴る。その衝撃はソニックブームを巻き起こす。さらに剣を振り下ろせば凄まじい衝撃波が魔王を襲った。
「噴っ!!」
ドバァンッ
その衝撃波を真っ向から拳で打ち破る。勇者は衝撃波に続いて剣を振り回し、魔王と接敵した。
バギンッガキンッと硬質な音でアリシアの時以上の戦いが繰り広げられる。
「うおぉぉぉっ!!」
「はははっ!遅い遅いっ!!」
剣の切っ先の峰に拳を当てることで剣を弾く魔王。弾けば火花が散り、太陽の下にいるというのに周りからは直視できないほど眩しい。
「だぁっ!!」
ブンッ
真っ向から受け続けていた魔王はスッとその図体を反らして剣を避けた。突然の事にバランスを崩し、一瞬隙が生まれる。魔王は見逃す事なく右拳を振り上げた。
「くっ……!!」
何とか体を捻って剣を翳すと魔王の拳が切っ先を捉えた。
ギィィンッ
剣をへし折れるような勢いの拳だったが、何とか折れる事なくヴェインは吹き飛ばされた。グッと全身に力を入れて体勢を立て直す。バッと構えるが、魔王の追撃はない。
「き、貴様っ!何のつもりだ!?何故攻撃を止める!俺は好きだらけだったはずだ!」
「つまらんことを……やはりお前はアリシアとは違うな」
「娘の名を軽々しく呼ぶなぁ!!」
さらに力を引き出す。その影響は凄まじく、空気が震える。
「くくっ……もっと俺を楽しませろ。勇者ヴェイン!」
周りを全て吹き飛ばすほどの魔力が収束していく。
やはりヴェインが懸念した通りに魔王の復活が成り、世界は混沌の渦に飲まれようとしている。
(そんな事させない!必ず阻止してみせる!!)
世界の希望を一身に背負ったつもりのヴェインは光の剣を携えて魔王を討ち滅ぼさんと力を込める。刀身を指で挟み込んだヴァルタゼアは魔力を放出し、ヴェインが及ぼす二次被害を押さえ込んだ。
「……ここはお前の知る世界ではないぞ?もう少し加減を覚えろ」
魔王はヤシャをその手で抱え込みながらも余裕の表情を見せる。ヴェインは次第に焦り始めた。
(馬鹿な……!どういう事だ?!この光の剣は魔王を一刀両断するほど強い筈なのに!!)
神が造りし剣、アルティメット・ウルトラスーパーゴッデスキング・バーニングサンダーソードの力を持ってして魔王の指の間に挟み止められる。魔王の見た目こそ変わらないが当時と強さは段違いの可能性もある。
「だからなんだ!俺だってあの頃の数倍強くなった!!お前になんかに絶対に負けない!!」
剣の柄を握る手に力を込めた。
「いや、お前さ。会話を……はぁ、もういい。ポイ子!ヤシャを頼む!」
魔王もこのヴェインの言動に我慢の限界だった。ヤシャを離して手首を掴む。更に力を込めて対抗する気だ。地面に落ち行くヤシャをポイ子が受け止めるとそそくさと戦線を離脱する。
それを見送った魔王はニヤリと笑うと地面を蹴って空に舞い上がる。六枚の羽を羽ばたかせて大空に君臨するその姿は神話から伝え聞く悪魔の様で、見る者によっては発狂ものの光景だ。それ故に神々しいと評価する者が居てもなんら不思議ではない。
虎田はこの場合後者だ。ポイ子の忠誠心に感化され、この禍々しい姿を救世主の様に心に刻んでいた。
いや、虎田だけではない。その姿を目にしたこの周辺の住民達は、皆一様に神に祈りを捧げる信者の如く手を目の前に組んでいた。
崇拝。その力は凄まじく、魔王の力は生前とは比べ物にならない。
空中で体を反転させて勇者を投げる。
「……ぐっ!!」
ぐるぐる回って吹き飛ぶ体を魔力で固定して体制を整えた。剣を握り直して魔王との距離を測る。魔王は手を目の前に出してニギニギと左右の握力を確かめる様に握っては開いてを繰り返す。
「くくく……力が漲る……これが復活。久々に感動するほどの力をこの手に宿したな……」
魔王もまた空中で辺りを見渡す。
そこにいるのは勇者ヴェイン、その妻ニーナとその娘のアリシア。
ヴェインは当然として、ニーナもまた敵意を向ける。力が無かったからこそ手を貸していたというのがありありと見えた。それ自体はすぐにも理解したが、アリシアが笑っているのは納得がいかなかった。
「なんだ?嬉しそうだなアリシア。何か良いことでもあったか?」
その言葉にニーナとヴェインがチラリとアリシアを確認する。
「当然!あたしがここに来たのは、その状態のあんたと戦って打ちのめす為よ!!」
アリシアの全身に漲る魔力の解放は煌々と輝いて、二つ目の太陽の様に地面を照らす。
「ダメだアリシア!!危険すぎる!下がって様子を見ていろ!!」
「嫌よ!あたしは戦う!」
「アーちゃん!お父さんの言う事聞きなさい!」
アリシアは剣を構える。
「絶対嫌!」
魔力で光の玉になったアリシアは一気に魔王に向かって飛んでいく。
「不味い……!アリシア!!」
ヴェインは手を伸ばすがその手も声も届かない。
「今の俺と戦うか!流石は勇者の娘よ!」
人間時とは比較にならない無敵の存在になっても変わらず戦いを挑む。蛮勇だがこれこそアリシアだと言えた。
バキィンッ
硬質な音が響き渡る。それはアリシアの剣と魔王の羽がかち合った音だ。剣を二、三度振り下ろすも結果は同じで、全て羽に軽く弾かれてしまう。魔王は腕を組み、余裕綽々でアリシアに対して笑顔を見せる。
(その余裕……いつまで続けられる?!)
アリシアは剣を振り下ろす瞬間、横に倒して突きを放つ。
完璧なタイミングで放った剣はその腕に向かって切っ先を伸ばすが、それを読んでいた様に下から羽が迫り、剣をかち上げた。
「甘い!」
アリシアは袈裟斬りの軌道を描いて魔王の首を狙うが
「喝っ!!」
その叫びと共に突如放たれた衝撃波がアリシアを吹き飛ばした。
「アリシア!」
ヴェインはすぐ後ろに回り込んでアリシアを受け止める。アリシアは魔王の声量で三半規管を狂わされて目を回していた。
「言わんことではない……ニーナ!アリシアを頼む!」
「……あ、あたしはまだ戦える……!」
頭を抱えながらヴェインの手を払い除けようとするが、混乱が解けてないのでモゾモゾ芋虫のように動く。ニーナは急いで近寄るとアリシアを受けとる。
「ダメだってアーちゃん!ゆっくりして……」
アリシアに肩を貸してゆっくり下に降りていく。
戦線離脱。それは勇者と魔王との一騎討ちを意味していた。
「貴様……魔力を混ぜたな?魔方陣が一瞬口の回りに見えたぞ……アリシアの回復が遅いのはそのせいだ!」
「ほぅ?あれが見えたのか?お前とはあの時こういう戦いをしたかったのに軽く瞬殺しやがって……娘の方がまだ戦いのなんたるかを理解している」
組んだ腕を解いて自由にすると拳を作る。ギシッと革の手袋でもしているような軋む音が鳴った。同時に手の甲に複雑怪奇な魔方陣が浮き上がった。
「複合強化か……筋力、速度、防御と……魔術無効だと?それを起動すれば貴様も魔術が使えない。まさかこの俺に近接戦を挑むつもりか?この剣が見えないのか。貴様を屠った最強の剣だぞ!」
バッと剣を掲げる。意に介す事なく魔王は構えた。
「好き勝手周辺を壊すわけにはいかんのでな。ハンデをくれてやる」
「嘗めるなぁ!!」
ドンッ
剣を上段に掲げて空気を蹴る。その衝撃はソニックブームを巻き起こす。さらに剣を振り下ろせば凄まじい衝撃波が魔王を襲った。
「噴っ!!」
ドバァンッ
その衝撃波を真っ向から拳で打ち破る。勇者は衝撃波に続いて剣を振り回し、魔王と接敵した。
バギンッガキンッと硬質な音でアリシアの時以上の戦いが繰り広げられる。
「うおぉぉぉっ!!」
「はははっ!遅い遅いっ!!」
剣の切っ先の峰に拳を当てることで剣を弾く魔王。弾けば火花が散り、太陽の下にいるというのに周りからは直視できないほど眩しい。
「だぁっ!!」
ブンッ
真っ向から受け続けていた魔王はスッとその図体を反らして剣を避けた。突然の事にバランスを崩し、一瞬隙が生まれる。魔王は見逃す事なく右拳を振り上げた。
「くっ……!!」
何とか体を捻って剣を翳すと魔王の拳が切っ先を捉えた。
ギィィンッ
剣をへし折れるような勢いの拳だったが、何とか折れる事なくヴェインは吹き飛ばされた。グッと全身に力を入れて体勢を立て直す。バッと構えるが、魔王の追撃はない。
「き、貴様っ!何のつもりだ!?何故攻撃を止める!俺は好きだらけだったはずだ!」
「つまらんことを……やはりお前はアリシアとは違うな」
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