魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
147 / 151

第146話 次の日

しおりを挟む
朝、ベッドの上で目を覚ます。
明るくなった室内は春田の目覚めを歓迎しているようだ。目覚ましが鳴る前に目が覚めることはしょっちゅうあるが、今日はそんな日と違ってすこぶる調子が良い。

「あー……なんだろ……。久しぶりに体……動かしたからかな……?」

起きたばかりのぼんやりとした口調で、後5分で鳴るはずだった目覚ましのスイッチを押す。今日は学校だし早めに着替えて学校に行こうと決めた。
昨日晩に用意しておいた鞄の中身をチラッとチェックして鞄を玄関に運んだ。

「お?起きたかい。おはよう聖也」

キッチンから顔をひょこっと覗かせて挨拶をするナルル。少し前はヤシャの持ち場みたいだったのに、新しい住人が増えると得意分野に合わせて持ち場が変わるのだなぁとしみじみ思う。

「おう、おはよ。早いなナルル」

洗面所に向かうと景気良くシャカシャカと歯を磨く音が聞こえる。確認するとヤシャが居た。そんなに大きくない洗面所いっぱいにヤシャの筋肉が入っている。
鏡越しに春田を見たヤシャは口に泡を溜めながら口を開く。

「ん、おふぁお(おはよ)。へいあ(聖也)」

「……ヤシャおはよ。ちょっとごめんよー」

春田は合間を縫って歯ブラシと歯みがき粉を取ると歯を磨き始める。ヤシャの横に立つことは出来ないので廊下に立って磨く。

顔も洗ってスッキリした春田はヤシャの座るダイニングテーブルの定位置に着く。特に催促もしてないが、すぐさま目の前に朝食が出された。
美味しそうなハムエッグにシャキシャキのレタスを添えたプレート。焼き目の付いたトーストにお好みでバターを塗れと言いたげな一切れのバターとナイフ。
コーンスープも湯気が立っている。店で出てきそうな朝食プレートだ。反射的に「おいくら?」と言ってしまいそうなほど洗練されている。

「おはよーございまーす!」

陽気な声で現れたポイ子と「おはよ~……」と力なく追従するマレフィア。その後ろからも誰かついてきそうな感じがしたが、そういうことはなくナルルも含めて全員がミチミチとダイニングテーブルの椅子に着席した。

(なんか……狭いな……)

四人掛けのテーブルに五人座る為、椅子が足りないからとマレフィアが魔法で出現させたのだ。狭いと感じて当然だろう。
朝食プレートを胃に放り込み、食器を持って台所に向かう。

「そこに置いとき、後でまとめて洗うからのぅ」

「マジ?頼むわ」

食器をシンクに置いて水に浸けた後、部屋に戻って学校に行く支度を始めた。
制服に着替えて教科書等の用意をしている最中ふと考える。

(昨日の件、大丈夫……だよな……)

勇者と一緒になって暴れてしまった。一応色々気を使ったつもりだが、被害はかなり出ている。
力を失う前に直せるところは魔法で直した。見逃しているところがあればそこは何とか自力でお願いしたい。

(あとあれだ……番号知ってる奴らから無茶苦茶連絡入ってた奴……みんなちゃんと忘れたよな?)

魔王の力は知名度に左右される。となると考えるまでもない、魔王ヴァルタゼアから春田聖也に戻ったということは皆ちゃんと忘れてくれたということ。
マレフィアのパルスジャックと記憶浸透メモリーペネトレーションの効果は一定時間だけのものなので、きちんと効果が切れた結果だ。
春田の気にしていることは杞憂だといえる。

「聖也ー、何してる?学校に遅れるぞ?」

「……っと!やべっ!」

深く考え込んでしまった。頭を振って悪い気を散らすと、鞄を提げて玄関にいく。するとポイ子が東高校の制服に着替えて待っていた。

「ちょっ……お前結局ついてくんのかよ」

「え?はい」

まるで当たり前のように肯定する。

「ついてきても困惑されるだけだぞ?もし行き掛けに虎田さんとかにバッタリあったらどう言い訳する気だよ……」

「大丈夫ですよー。正式に編入すれば事は解決ですから」

「はぁ?……えっ!もしかしてマレフィアが?!」

ニコニコと笑うポイ子。皆が見送りの挨拶にやって来たところでマレフィアを問い質す。

「だって~、最近変なのに絡まれて物騒だったもん。学校にはもう話つけてるから~」

「話って……単に魔法でそういうことにしたんだろ?いつの間にそんなことを……」

「昨日聖ちゃんが疲れてうつらうつらしてた時に皆で話し合ってちょちょ~っとね」

魔法とはかくも便利である。

「必要ならわらわもついていくが?」

「これ以上ややこしいのはちょっと……影に入られるとプライベートが無いしな。トイレとか体育の着替えとか……とにかくポイ子が来るなら後は待機しといてくれ」

「うむ、いた仕方なし。ポイ子、何かあればすぐに教えろ。ひとっ飛びで駆け付けるからな」

比喩表現なのだろうが、本当にひとっ飛びで来るから説得力が違う。ポイ子は呑気に「はーい」と返事するが、出来れば遠慮したい。
というよりヤシャを派遣しなければならない状況といえば国と喧嘩する時くらいではないだろうか?

「抜け駆けは許さぬ。わらわも必ず馳せ参じよう」

出来ればヤシャと張り合うくせを治してほしいが、殴り合いに発展しないなら微笑ましいと笑って見過ごそう。

「ほ~ら、皆が主張するからもうこんな時間だよ~。聖ちゃんが学校に遅れたら大変だから静かに見送りましょうね~」

いつまでも話してしまいそうだったから助かる発言だ。

「それじゃ、いってきます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...