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第145話 その後……
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ぼやーっと霞から意識が徐々に鮮明になっていき、ヴェインは見知った天井を見つめていた。
「ここは……家、か?」
どうして今ここにいるのか全く思い出せない。
遠くに出ていたはずだし、帰路についた覚えがないのだ。確か自分は妻と娘の帰りが遅いから探しに行って、紆余曲折あって魔王のところに……
「魔王っ!!」
ガバッと起き上がる。ゆったりとしたダブルベッドの上で五体が動くか確認しつつ辺りを見渡した。
すぐ側に疲れて眠るニーナ姿があり、ずっと看病していたのを想起させる。その姿を見て安心すると共に自分が魔王に負けたのだとも直感的に理解した。
脳震盪を起こすレベルのデコピン。手加減されたことに歯噛みするが、そうでなくては確実に死んでいた。
「ん……」
モソモソとニーナが動き出す。ヴェインの動きに気が付いて重い瞼をゆっくりと開けた。
「……あ、おはよぉ……」
寝起き特有のふにゃふにゃとした声を出す。
「ああ、おはよう」
ふっと優しい表情で返答する。いつものヴェインにほっとしたのかそのままうたた寝を始めた。
その表情を見て平和が戻った時の栄光の瞬間を思い出す。今回は敗けたというのに平和が訪れたちぐはぐな感じに心がついていかない。
その時、ふと不安が押し寄せる。
「……アリシア」
娘の言葉が頭に蘇る。魔王の居る異世界へ留まろうとする信じられない言葉。
それを思い出した途端、恐怖にかられる。今ここに居ない娘のことが何より心配になったからだ。
まだだるい体を引きずる形でニーナを起こさない様に部屋からそっと出た。アリシアの部屋を目指して進むと、かすかに気配がする。
「アリシア!」
バンッと景気良く扉を開けると驚いた顔でアリシアがヴェインを見ていた。
「……え?ちょ、は?なに?」
訝しい顔で座っているアリシア。手には小型のゲームが握られていた。
「入る時はノックくらいしてよ!常識でしょ!」
「……あ、す、すまない……もしかしてまだ異世界に行ってるのかと……ここにいないのかと心配して……」
焦った拍子の出来事だったと弁明する。アリシアも父が今起きたばかりなのだと心の内で察した。
「ま、今回はもう良いけど……てか、父さん体は大丈夫なの?」
「ん?ああ、まだ本調子じゃないが大丈夫だ。ありがとう」
ヴェインは首筋を撫でながら何かを言い辛そうにしている。それに気づいたアリシアが訝しげに尋ねる。
「……何?」
「いや、その……異世界に残ると言ってたから……その……」
「ああ、その事……」
携帯ゲームに一瞬目を落として少し操作した後、机に置いて椅子に座り直す。
「……えっと、正直いきなりすぎたかなって反省してさ。父さんとも良く話し合ってから行こうって思って……」
「つまりまたあっちの世界に行くつもりではあるのか?」
「うん、そのつもり。けどこっちのアカデミーもあるのにあっちで過ごすのは……なんていうか無責任かなって思って……」
殊勝な心がけではある。しかしヴェインにはどうしても理解できないことでもあった。
「何故……異世界に行こうと思っているんだ?お前の世界はここだ。ここが故郷で、居るべき場所だろ?」
ヴェインはとにかく行って欲しくない気持ちをアリシアに疑問としてぶつける。アリシアは困った顔を見せる。ヴェインの考えは分からないわけではない。自分の見える範囲から出ていくのは不安だし悲しいし何より心配だ。
「ごめん父さん。あたしはどうしてもあっちに行きたいの……この世界を捨てるつもりはないよ。何て言うの?ほら、留学って奴。あたしはあたしの見識を広げるためにあの世界に行くの」
ヴェインはアリシアを止めることが出来ないと悟る。言い出したら止まらないのは、やはり自分に似たのだろうと察する。自分の融通の利かなさをアリシアに見た。
「……母さんが手を焼くワケだ。やっぱどこまで行っても俺の子なんだな……」
しみじみとそう感じる。
「何それ……?あ、そうそう。魔王の件だけど、もう敵じゃないから安心して」
「……いや、それはないだろう。こうして生かされたが、やはり奴は敵だよ」
そこだけは変える気がないらしい。アリシアは懇切丁寧に話す。
「あたしたちがこっちに戻る前に魔王はあれだけの力を簡単に手放したわ。もうあいつは力だけの奴じゃない。あの世界で生きる為に逆に力を持たないようにしてるのよ。敵だと煽ったり、刺激しなきゃ攻撃してくることはないから……」
自分が春田の家に寝泊まりしていたことは言わないように話す。襲われなかった事実や現在の魔王の性格など、知れば知るほどに敵でないことは理解できるが、言ったら言ったで何となく変な誤解が生まれそうなので敢えて省いた。
「うーん……」
納得できない素振りで考え込む。
「もう時代は変わったのよ。魔王も変わった。だからもうあいつを許してあげて」
「……やけに魔王の肩を持つじゃないか……も、もしかしてあいつに惚れたなんて事……」
「は?無い無い。やめてよそういうの。付き合うならもっと格好良い人が良いもん。あんなの対象外だって」
すぐ恋愛に繋げようとするのは親の悪い癖だ。やはり寝泊まりの件は隠して正解だったといえる。
「そ、そうか……俺はてっきり……いや、でも俺は反対だ。かって知ったる世界を出ていくなんて……」
話が平行線に向かう一方だとアリシアが辟易した表情を見せる。アリシアもなにか言おうと考えるが、先にヴェインがそのまま続きを口にする。
「……でもお前の意思を挫けるほど俺も聖人じゃない。行きたいと言うならこれ以上は止めないさ」
アリシアを止めるのは不可能だと悟ったヴェインは、娘の身を案じながらも娘を応援する道を進んだのだ。
「それと行くときは一言断ってから行くんだぞ?突然出ていかれるとどこに行ったのか心配で夜も眠れないからな!……まぁ十分に気をつけてな……」
その言葉を受けてアリシアは大きく頷いた。
「うん!」
「ここは……家、か?」
どうして今ここにいるのか全く思い出せない。
遠くに出ていたはずだし、帰路についた覚えがないのだ。確か自分は妻と娘の帰りが遅いから探しに行って、紆余曲折あって魔王のところに……
「魔王っ!!」
ガバッと起き上がる。ゆったりとしたダブルベッドの上で五体が動くか確認しつつ辺りを見渡した。
すぐ側に疲れて眠るニーナ姿があり、ずっと看病していたのを想起させる。その姿を見て安心すると共に自分が魔王に負けたのだとも直感的に理解した。
脳震盪を起こすレベルのデコピン。手加減されたことに歯噛みするが、そうでなくては確実に死んでいた。
「ん……」
モソモソとニーナが動き出す。ヴェインの動きに気が付いて重い瞼をゆっくりと開けた。
「……あ、おはよぉ……」
寝起き特有のふにゃふにゃとした声を出す。
「ああ、おはよう」
ふっと優しい表情で返答する。いつものヴェインにほっとしたのかそのままうたた寝を始めた。
その表情を見て平和が戻った時の栄光の瞬間を思い出す。今回は敗けたというのに平和が訪れたちぐはぐな感じに心がついていかない。
その時、ふと不安が押し寄せる。
「……アリシア」
娘の言葉が頭に蘇る。魔王の居る異世界へ留まろうとする信じられない言葉。
それを思い出した途端、恐怖にかられる。今ここに居ない娘のことが何より心配になったからだ。
まだだるい体を引きずる形でニーナを起こさない様に部屋からそっと出た。アリシアの部屋を目指して進むと、かすかに気配がする。
「アリシア!」
バンッと景気良く扉を開けると驚いた顔でアリシアがヴェインを見ていた。
「……え?ちょ、は?なに?」
訝しい顔で座っているアリシア。手には小型のゲームが握られていた。
「入る時はノックくらいしてよ!常識でしょ!」
「……あ、す、すまない……もしかしてまだ異世界に行ってるのかと……ここにいないのかと心配して……」
焦った拍子の出来事だったと弁明する。アリシアも父が今起きたばかりなのだと心の内で察した。
「ま、今回はもう良いけど……てか、父さん体は大丈夫なの?」
「ん?ああ、まだ本調子じゃないが大丈夫だ。ありがとう」
ヴェインは首筋を撫でながら何かを言い辛そうにしている。それに気づいたアリシアが訝しげに尋ねる。
「……何?」
「いや、その……異世界に残ると言ってたから……その……」
「ああ、その事……」
携帯ゲームに一瞬目を落として少し操作した後、机に置いて椅子に座り直す。
「……えっと、正直いきなりすぎたかなって反省してさ。父さんとも良く話し合ってから行こうって思って……」
「つまりまたあっちの世界に行くつもりではあるのか?」
「うん、そのつもり。けどこっちのアカデミーもあるのにあっちで過ごすのは……なんていうか無責任かなって思って……」
殊勝な心がけではある。しかしヴェインにはどうしても理解できないことでもあった。
「何故……異世界に行こうと思っているんだ?お前の世界はここだ。ここが故郷で、居るべき場所だろ?」
ヴェインはとにかく行って欲しくない気持ちをアリシアに疑問としてぶつける。アリシアは困った顔を見せる。ヴェインの考えは分からないわけではない。自分の見える範囲から出ていくのは不安だし悲しいし何より心配だ。
「ごめん父さん。あたしはどうしてもあっちに行きたいの……この世界を捨てるつもりはないよ。何て言うの?ほら、留学って奴。あたしはあたしの見識を広げるためにあの世界に行くの」
ヴェインはアリシアを止めることが出来ないと悟る。言い出したら止まらないのは、やはり自分に似たのだろうと察する。自分の融通の利かなさをアリシアに見た。
「……母さんが手を焼くワケだ。やっぱどこまで行っても俺の子なんだな……」
しみじみとそう感じる。
「何それ……?あ、そうそう。魔王の件だけど、もう敵じゃないから安心して」
「……いや、それはないだろう。こうして生かされたが、やはり奴は敵だよ」
そこだけは変える気がないらしい。アリシアは懇切丁寧に話す。
「あたしたちがこっちに戻る前に魔王はあれだけの力を簡単に手放したわ。もうあいつは力だけの奴じゃない。あの世界で生きる為に逆に力を持たないようにしてるのよ。敵だと煽ったり、刺激しなきゃ攻撃してくることはないから……」
自分が春田の家に寝泊まりしていたことは言わないように話す。襲われなかった事実や現在の魔王の性格など、知れば知るほどに敵でないことは理解できるが、言ったら言ったで何となく変な誤解が生まれそうなので敢えて省いた。
「うーん……」
納得できない素振りで考え込む。
「もう時代は変わったのよ。魔王も変わった。だからもうあいつを許してあげて」
「……やけに魔王の肩を持つじゃないか……も、もしかしてあいつに惚れたなんて事……」
「は?無い無い。やめてよそういうの。付き合うならもっと格好良い人が良いもん。あんなの対象外だって」
すぐ恋愛に繋げようとするのは親の悪い癖だ。やはり寝泊まりの件は隠して正解だったといえる。
「そ、そうか……俺はてっきり……いや、でも俺は反対だ。かって知ったる世界を出ていくなんて……」
話が平行線に向かう一方だとアリシアが辟易した表情を見せる。アリシアもなにか言おうと考えるが、先にヴェインがそのまま続きを口にする。
「……でもお前の意思を挫けるほど俺も聖人じゃない。行きたいと言うならこれ以上は止めないさ」
アリシアを止めるのは不可能だと悟ったヴェインは、娘の身を案じながらも娘を応援する道を進んだのだ。
「それと行くときは一言断ってから行くんだぞ?突然出ていかれるとどこに行ったのか心配で夜も眠れないからな!……まぁ十分に気をつけてな……」
その言葉を受けてアリシアは大きく頷いた。
「うん!」
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